Re: 新世界への神話 ( No.25 )
日時: 2009/11/10 21:28
名前: RIDE

更新します。
この話は自分であまりよい出来ではないと思ったので今回で終わらせます。



 2
同じ頃、異変を感じた少女がとある教室に一人いた。

「ん、これは・・・・?」

 少女は一瞬、無視しようかとも思ったが、ある噂を耳にしていた彼女は、興味が沸いたのでそちらに向かおうとした。

「おや?どこに行くのです?」

 教室を出ようとする彼女を、クラスメートの日々野文が捕まえる。

「いけません!私たちは掃除当番!ちゃんと教室を綺麗にしなくては・・・・」
「うっさい!私のこと注意する暇あったら、さっさと掃除しなさい!」

 怒鳴られた文は、思わずすくんでしまう。

「はは、はいですーっ!」

 そのまま文が離れていった隙に、少女はあっという間に行ってしまった。

「おお、すごい足の速さです!韋駄天です!驚きました!ビックリしましたよね、シャルナちゃん!」

 文は、同じ掃除当番であるインドからの留学生、シャルナ・アーラムギルに声をかけた。シャルナは表情を変えずに淡白に言った。

「別にそれほどの速さではなかったわよ、文ちゃん」
「そ、そうでしたか!?」

 冷静なシャルナの突っ込みに、文は冷や汗をたらしながらドキドキしていたのだった。



 シルフィードとフォレシオンは、互いに殴り合って牽制していたが、遂にフォレシオンが
必殺技を放った。

「花唇封殺陣!」

 すると、シルフィードを中心に古代文字のようなものが地に浮かび出て、続いて巨大な一
輪の花が出現した。その花はシルフィードを飲み込むように閉じていった。このまま中に閉
じ込めた敵を圧迫して苦しめるという技だが、ハヤテが強い想いを念じ、それを受けたシルフィードはつむじ風を起こしながら、力ずくで封殺陣から逃れていく。

「あら、逃れましたのね」

 声だけ聞けばおっとりした感じだが、伊澄の内心は穏やかではない。シルフィードの力がこれほど大きいとは思わなかった。既に数回の戦闘を経験した差がここに現れているのだ。

「もっと力を与えなくては」

 伊澄は懐から梵字が刻まれた呪符を取り出す。呪符から強力な力が放たれ、フォレシオンに注がれていく。途端に、フォレシオンの姿はそれまでの華奢そうな外見から筋骨隆起したものに変わり、目の色も攻撃性がはっきりと出ている。

 フォレシオンはそのままシルフィードに殴りかかった。牽制の時とは違う大振りな動作であるため避けるのは容易であったが、段々とフォレシオンの様子が危険なように思えてきたので、防御の空いている箇所へ一発入れるが、大して効いている様子は見られず、逆に強力な一撃を喰らってシルフィードは倒れてしまう。さらにフォレシオンは右手を植物の根のようなものに変化させてシルフィードに襲い掛かった。シルフィードは咄嗟に身を引き、地についたフォレシオンの右手が吸い上げるようにうごめく。

「ウオオオオオオォォォッ!」

 そのままフォレシオンは天に向かって雄叫びをあげる。

「な、なにが起きているんですか・・・・?」

 フォレシオンの様子を見てハヤテは軽く恐怖を覚える。

「わ、私にも・・・・」

 伊澄はオロオロとしている。まさかこんなことになるなんて思いもしなかったようだ。

 フォレシオンは周囲に生えている樹木に当り散らすなど暴れており、ハヤテはどうしたらいいのかとただ見つめているだけしかできない。

「い、一体・・・・?」
「不純物でドーピングしたからよ」

 後ろから声をかけられ、振り向くハヤテ。そこには、白皇の制服を身に着けた女子生徒がいた。見慣れない顔なので、新入生なのだろう。

「誰ですか、あなたは?」

 するとその新入生は、良くぞ聞いてくれましたとばかりに胸を張った。

「私は八闘士の一人、美野花南よ」
「え?じゃあ、風間先生の仲間なんですか?」

 自分の近くに二人も使者がいたことに驚き、それを口に出したのだが、自ら八闘士と名乗った少女はそれを聞いて、不快な表情でハヤテに迫った。

「言っとくけど、伝と同格にしないで!実力じゃ私が上なんだから」
「は、はぁ・・・・」

 年上を敬うとはほぼ遠い美野花南の無遠慮さに、ハヤテはたじたじとなる。

「それよりも、あれね」

 花南は、暴れているフォレシオンを指した。

「精霊の力もそれを引き出すのも全て、使者の心によるものだわ。だけど、それ以外の霊力のあるもので強制的に力を引き出したりした場合、ああいう風に拒絶反応を起こして凶暴化してしまうことがあるのよ。宝玉とか例外はあるけど、あれは精霊のためにと念じられて作ったものだから別に問題はないわ」

 そこまで言って花南は、伊澄をじろっと見る。

「何も知らないトーシロのくせに、変なマネをするからよ」

 花南の強い視線を受けて、伊澄は少々引き気味となった。

「それで、どうすればいいんですか?」
「そりゃあ、使者の心で暴走を押さえ込むのが理想的だけど」

 花南は伊澄を横目で見てから、あっさりと切り捨てる。

「無理そうね。イメージが貧困そうだもの」

 伊澄は軽くショックを受けたが、花南は気にしない。

「となれば、そこの貧相な執事が頑張るしかないわね」
「ぼ、僕が?」
「あんたたちが起こしたことでしょ?」

 当たり前のことだと言わんばかりの態度に、ハヤテは何も言えなくなる。だが確かに、ここまでの騒ぎになってしまったのは自分たちが原因である。

「わかりました。あれを倒せばいいんですね?」
「そうよ」

 ハヤテは緊張し、それがシルフィードに伝わりピリピリとしていく。それを見た花南は、彼女なりにフォローする。

「大丈夫よ、あんたは負けないわ」

 その花南にフォレシオンが襲い掛かるが、その拳は彼女の傍らに現れた精霊が人型形態に変化して止める。

「この私と、木のフラリーファが援護するからよ」

 木のフラリーファは一気に押し返して、攻勢に出た。

「スタークロッド!」

 フラリーファは植物の茎のような長い棒で打撃を与えていく。間を入れずに打ち続けられ、フォレシオンは手も足も出ない。

 そしてフラリーファのスタークロッドがフォレシオンの胴に強烈な一撃を入れたため、フォレシオンに隙が生じた。

「今よ!」

 すかさず攻撃に移ろうとするシルフィード。しかしそこでハヤテは思い出してしまう。昨日、雷矢とライオーガに技を容易に破られてしまったことを。この砕かれた自信は、すぐには回復できるものではなかった。

 しかしそれ以上に、主のために、自分がすべきことをやるためにという思いが、ハヤテの心の中では大きかった。

「僕はやるんだ!」

 その時、ハヤテの脳にイメージが浮かび出てきた。シルフィードの新しい必殺技が。

 それを念じながら、シルフィードに攻撃を命じた。

「疾風怒濤!」

 そのままシルフィードはフォレシオンに向かって飛んでいく。技自体はこれまでの高速移動と変わらないが、シルフィードの身体には風を纏っており、威力も速度も上がっていた。

 シルフィードが放った必殺技、疾風怒濤の直撃を喰らったフォレシオンは、そのまま光となって封印された。

「や、やった・・・・」
「当然よ。この私がいるんですから」

 花南は、高飛車に笑ってみせた後、打って変わって真面目な顔つきとなる。

「いい?精霊と使者は人の心のため、そして人を守ろうとするスセリヒメのためにその力を使うのよ。今度またこんな私闘まがいなことをやったらただじゃおかないわ。わかった?」
「はい・・・・」

 ものすごいプレッシャーに押されて、ハヤテは慄きながら答えた。

「あの、スセリヒメっていうのは・・・・?」
「ああ。人の心に潜む闇、世界の混乱を払うといわれている救世主のことよ」

 花南は簡単に言うと、この場を去ろうとする。

「タカスギとかいう人にも伝えといて。この私の手を煩わせることのないようにってね」

 それだけ残した花南であった。

「はぁ・・・・」

 今日も大変な目にあったハヤテ。しかし心は軽かった。大切な主が戻ってきたのだから。

「帰りましょう伊澄さん。お嬢様のもとへ」
「そうですね。ナギが待ちくたびれているでしょう」

 大切な方の友人とともに、ナギのところへ戻っていった。