Re: 新世界への神話 ( No.24 )
日時: 2009/11/06 21:28
名前: RIDE

更新します。
今回から第10話です。


  第10話 木のフォレシオン

 1
 あの後、ダイ、ジェット、ドリル、ジム、ハヤテ、ヒナギクの6人は霊神宮へと訪れていた。

「賢明大聖!」
「なんだ・・・・うぉっ!?」

 大聖殿に入り込むなり、ダイは賢明大聖を足蹴にした。

「どういうことだ!?艶麗以外にも敵がいるじゃねぇか!」
「ダイ様、落ち着いて!」

 賢明大聖に乱暴するダイを、ジムは必死で止めた。

「いたたた・・・・。一体何があったんだね?」

 ダイは雷矢とライオーガのことについて説明した。

「そんなことが起こったとは。思ってもみなかったな」
「本当にそう思ってんのか?」

 賢明大聖に懐疑的な目を向けるダイ。

「全くの予想外だ」
「ふうん。で、このことはどうすんだ?」

 雷矢は、おそらく艶麗に関わるような事はしないだろう。だが本来霊神宮が対処すべきことを自分がやるのだとしたら、はっきり言って面倒くさい。

「それはこちらで考えておくが、とりあえずは保留だな。君たちは今までどうり艶麗を追ってくれ」
「へいへい」

 それはつまり、自分の手を煩わせることになるかもしれないということで、ダイは気のない返事をした。できれば、自分に関わらないでくれと雷矢に祈らずにはいられない。

 賢明大聖への不信と不満を抱いたまま、ダイは大聖殿を出ようとして、入ってきた人とぶつかってしまう。

「うおっと」

 とりあえず何か言おうと相手の顔を見ると、その顔は仮面によって覆われていた。

「明智天師、どうした?」
「賢明大聖、お話が・・・・」

 仮面の男はダイを無視して通り過ぎ、賢明大聖と事務的なことを話し始めた。なんとなく不愉快なダイは、その陰でこっそりと白子を捕まえる。

「なあ、あの仮面の男は誰だ?」
「あのお方は、明智天師といいまして、賢明大聖の弟であり大聖の補佐をお仕事とされてお
ります」

 説明を受けたダイは、訝しげに明智天師を見る。ただしそれは、賢明大聖に対するそれとは違っていた。何かこう、まとまっていないような。

 自分でも自負するほどのカンの鋭さを持つダイだが、はっきりとしたことはわからなかった。

「やっかいなことになりましたね」

 帰途の中で、ジムたちは雷矢のことで話し合っていた。しかしハヤテだけは暗く俯いている。

「どうしたの?ハヤテ君」
「え?」

 そんなハヤテの沈んだ表情に気付き、ヒナギクが気遣うように訊ねる。慌てて取り繕うとするハヤテだが、その前にヒナギクが核心をついた。

「お兄さんのこと?」
「・・・・はい」

 ハヤテはぽつりぽつりと話し始めた。

「兄さんは昔から僕が危ない目にあいそうになるといつも助けてくれたんです。僕が泣く時には黙って胸を貸してくれて、そんな兄さんを僕は尊敬していました。僕が両親に外国の開発区に飛ばされそうになった時も、兄さんは自ら進んで代わりになってくれた。それが最後に見た兄さんの姿でした・・・・」

 懐かしむような笑顔を見せたハヤテだったが、すぐにまた萎んだ。

「開発は中止となってスラムになったと聞きましたから、あの後兄さんが死ぬほど苦労したことはわかります。でも、僕に男らしくあれと言っていた兄さんが、ああいう風になるなんて、僕には信じられない・・・・」

 誰も、どんな言葉をかけていいかわからなかった。

「絶望するには、まだ早いんじゃねぇか?」

 そんな中で、ダイは口を開いた。

「弟のもとを訪れて、一緒に来いって言ったんだ。わかれる時もおまえを気にしてたんだ。それはまだ、兄貴としての情が残っているんじゃねえか?」

 今までのダイなら、下手な慰めだと感じただろうが、先ほどのあの強さを見てダイに威厳というものを感じ取ったため、ハヤテはダイの言葉を信じることができた。そうでなくても、ダイの言葉は何故かそうさせてしまう力がある。

「そうよハヤテ君。兄弟の絆がそう簡単に切れるわけないわ」

 ダイの一言が空気を穏やかにしたのか、ヒナギクも明るい声で励ました。

「・・・・そうですね。僕は、僕の兄さんを信じます」

 元気を取り戻したハヤテは、その後は落ち込んだ様子は見られなかった。

 しかし、ダイは雷矢から感じた憎しみとは違うものに、少し頭を捻らせるのであった。



 翌日。

「さて、帰ってお屋敷の仕事をしなくちゃ」

 一日の授業が終わり、ハヤテが帰宅しようとしたその時、ハヤテの携帯電話が鳴り出した。

「マリアさんからだ」

 急な用事でもできたのかと思いながら、電話を繋ぐハヤテ。

「もしもし、ハヤテですけど?」
[ハ、ハヤテ君!大変です!]

 よほど興奮しているのか、マリアは突っかえながら言葉を続けた。

[ナギが、ナギが見つかりました!]
「・・・・え?」

 一瞬、その言葉が信じられなかった。自分の主であるナギは艶麗に捕まっているはずであった。

[三千院家のレーダーに反応がありました。伊澄さんと共に今、白皇学院にいます!]

 しかし、自分の主が敵の手から逃れ、身近にいるかもしれないとなると、駆けつけたくなるのが執事というものだ。

「ダイさん!」

 マリアから詳しい場所を聞き出したハヤテは、ダイを引っ張ってナギと伊澄のいる場へと向かった。

 そこは校庭で、ナギと伊澄はオロオロしていた。

「お嬢様!」

 そんな時現れたハヤテに、ナギは顔を輝かせた。

「ハヤテ!」

 そのままハヤテに抱きつくナギ。心細かったのか、嗚咽をこぼしている。

 そんなナギを、ハヤテは優しく抱き締める。しかしダイはナギを疑っていた。艶麗が仕掛けた罠という可能性が否定できなかったので、試してみた。

「おいチビ女、おまえ本当に引きこもりの三千院ナギか?」
「だ、誰がチビで引きこもりだ!」
「その反応、正しく本物のお嬢様ですね」

 とりあえず二人は安心した。

「でもアイツは・・・・」

 ダイは不審の目を伊澄に向けると、ナギは怒って親友をかばった。

「伊澄を疑うな!私たちがここにいるのは、伊澄のおかげなんだぞ!」
「そうなんですか?」

 ハヤテも一見して頼りなさそうな少女を見る。

「はい。さらわれた皆さんは催眠術みたいなものをかけられていましたが、私には効きませんでした」
「どういうことだ?」
「伊澄さんには不思議な力があるんです」

 ナギに聞こえないほどの小声でダイに補足するハヤテ。伊澄はゆっくりとした口調で事情の説明を続けた。

「私はナギを術から解かせて、隙を見て脱出しました。こちらの世界へは何とかたどり着けましたが、そこからは、どちらへ行けばよいのか、オロオロと・・・・」

 要するに迷子である。ナギはやはり引きこもりのため外の空気には慣れておらず、伊澄は重度の方向音痴であるため、当然の結果であろう。

「全く、信じられないほど遠いところにまで行ってしまってたぞ」

 そう言ってナギが取り出したのは、名産品やら観光土産やらの品々。中には外国の物まで混ざっている。

「そうですか・・・・」

 それらを見て冷や汗をたらしていたハヤテは、ある根本的なことに気付いた。

「あれ?お嬢様たちは携帯をお持ちのはずですよね?それを使えば迎えをよこせたのですが・・・・」

 今まで気付かなかったことをハヤテに指摘され、ナギは悔しそうに唇を噛み、伊澄は愕然としながらつぶやいた。

「逆転の発送・・・・」
「いやいや、違いますから」
「ええいうるさいぞ!ハヤテのバカ!」

 ナギに逆ギレされてしまい、ハヤテは苦笑するしかなかった。

「あ、あの、ハヤテ様・・・・」

 伊澄がオズオズとハヤテに訊ねてきた。彼を駄々っ子のように殴っていたナギも注目する。

「ハヤテ様は、こういうものとご一緒ではありませんか?」

 そう言った後、伊澄の近くに梅の花を模した精霊が姿を現した。

「それは?」
「木のフォレシオンと言うみたいで、艶麗のところから連れてきました。これが見えるということは、やはりハヤテ様も同じようなものとご一緒なんですね」

 答えとして、ハヤテはシルフィードを出現させる。彼の傍にいたナギもおおっと驚きの声をあげた。連れさらわれたとはいえ彼女も精霊界の地を踏んだ為、精霊を目にすることができるのだ。

「それで、ハヤテ様にお願いがあります」

 伊澄の目は、妖怪退治を請け負った時のような真剣なものであった。

「ハヤテ様のそれと、このフォレシオンを闘い合わせたいのです」
「え?」

 一泊置いてから、ハヤテは反対した。

「ダ、ダメです!危険ですよ!」

 そんなことはないのだが、本当は伊澄だけ洗脳されているんじゃないかと思いたくなってしまう。しかしそんな彼の気持ちをよそに伊澄は断固として闘う気でいた。

「私は修行も兼ねて、このフォレシオンに使者と認められたいのです。どうか、お願い致します」

 ハヤテは内心ため息をつきたい気分であった。おしとやかで頼りなさそうに見える伊澄だが、変なところで頑固であり、こうなってしまうと彼女の意志は変えることはできないのだ。

「わかりました」

 仕方なく、ハヤテは戦うことに決めた。その際、ダイにアイコンタクトを送る。

「チビ女、俺たちはさがるぞ」
「えっ?こ、こら!引っ張るな!」

 ハヤテの意志を汲み取ったダイは、ナギを連れてこの場を去っていく。そんなダイにハヤテは感謝した。伊澄はこの戦いで霊力を使うかもしれず、彼女がそれを持っていることはナギには隠しているのだ。

「ハヤテ!伊澄を傷つけるようなことはするなよ!」
「わかっています、お嬢様」

 去り際のナギの言葉に、ハヤテは笑顔で答えるのだった。

「本気でお願いしますね」

 フォレシオンが人型へと変わっていく。

「ええ」

 シルフィードもそれに合わせて人型に変わる。戦うことに消極的なハヤテだったが、心の隅では再び兄と対面する時のために強くならなくてはならないとも思っていたのだ。

 二体の精霊は、それぞれ一定の距離を保った後、同時に仕掛け始めた。