Re: 新世界への神話 ( No.23 ) |
- 日時: 2009/11/04 17:26
- 名前: RIDE
- 更新します。
第9話ラストです。
3 男は、ゆっくりとこちらに歩み寄ってきた。
だんだんと男のシルエットがわかってくる。身長はハヤテよりも大きく、顔は大きなバイザーで隠している。
「バイザーを取ってください!」
震える声でハヤテは命じた。
男はゆっくりとバイザーを外した。そこから覗く顔。大きく目立つのは左目に走る一本の傷だ。
「雷矢兄さん・・・・!」
自分の兄の顔を見て、ハヤテの目に涙が溢れてくる。
「生きていたんですね・・・・!」 「久しぶりだな、ハヤテ」
ハヤテの兄、雷矢は弟に優しく微笑んだ。
「でも兄さん、何故こんな事を?」
雷矢はその疑問に答えず、別の話を切り出す。
「ハヤテ、俺と一緒に来ないか?」 「え?」
「俺たちは共に世の中の身勝手や不合理を押し付けられた。そんな世界に復習しようとは思わないか?」 「それは・・・・」
確かに両親に一億五千万で売られた時、自暴自棄にその場にいたナギの誘拐を企てた。あれほど人生に絶望したことはなかった。
「数ヶ月前の僕なら、兄さんに賛成していたでしょう」
だが、それがきっかけでハヤテはナギに救われることになった。未遂とはいえ罪を犯した自分を執事として雇ってくれたその恩は、今でも心に染み渡っている。
「でも僕には、そんな世の中に守りたい人たちがいるんです」
ナギをはじめとしてマリア、そして隣にいるヒナギクなど、いろいろな人たちがハヤテの脳裏に浮かんだのだった。
「そうか」
あきらめたように目を伏せた雷矢は、次の瞬間には先ほどの憎悪をたぎらせた。
「ならば、ココで死ね!」 「兄さん!?」
雷矢の憎しみを受けて、ライオーガはハヤテに向けて攻撃した。その前にシルフィードが割り込んで、間一髪でハヤテを守る。
「兄さん、何故!?」 「これ以上の問答は無用!」
雷矢は再びライオーガに攻撃を命じようとする。
「待ちなさい!」
それをヒナギクが止めた。彼女は怒りの形相で雷矢を睨む。
「あなた、ハヤテ君のお兄さんなんでしょ?何で弟のハヤテ君を殺そうとするの!私にもダメなお姉ちゃんがいるけど、私を傷つけるような事はしないわ!」
雷矢はそれを一笑に付した。
「甘いな」 「なんですって!」
家族思いのヒナギクは、そんな雷矢の態度が許せなくなった。
「その曲った根性叩きなおしてやるわ!」
それに呼応するように、ヴァルキリオンが現れ、ライオーガめがけて氷の剣を振るう。そこから凍気が発し、ライオーガに襲い掛かる。
ライオーガは凍気を翼部で払い除ける。その瞬間にヴァルキリオンは一気に人型へと変わり、跳び上がって氷の剣を上段に構える。そのままライオーガに振り下ろすが、もう片方の 翼部でこれも払い除けられ、そのまま振り飛ばされてしまう。
「邪魔をするなら、おまえも殺す」
ライオーガの口内に電撃が溜まり、ヴァルキリオンとヒナギクに向けて放射した。
「危ない!」
咄嗟にシルフィードが風によるバリアを展開しながら前に出て、二人の盾となる。
「兄さん」
ハヤテの表情には迷いはなく、真っ直ぐに雷矢を見る。
「いくら兄さんでも、ヒナギクさんに手を出す事は許しません!兄さんがこれ以上暴力をふるうなら、ぼくは兄さんを止めます!」
そのためには、ライオーガに自分が持てる最大の力をぶつけなければならない。
ヒナギクとアイコンタクトを交わすハヤテ。彼の意図を汲んだようで、ヒナギクは了承の意を示した。
ヴァルキリオンが核である勾玉に戻り、ハヤテのシルフィリングに収まった。シルフィードに冷気の力が宿る。
「いっけぇぇ!」
シルフィードが凍気を纏いながら、疾風の如くスピードでライオーガに突進する。
しかし、ライオーガはそれを真正面から受け止め、そのまま難なく押し返した。
「そんな・・・・」
押し出され、倒れたシルフィードを見てハヤテは絶望する。
「シルフィードの必殺技が、こうも簡単に破られるなんて・・・・」 「ほう、これが必殺技だというのか。俺も同じ事ができるぞ。」
ライオーガ全体が雷に包まれる。
「電光石火!!」
そのままライオーガはシルフィードに突進する。まともに喰らったシルフィードは、大きなダメージにより通常形態にまで戻ってしまう。
ライオーガの電光石火は、シルフィードの突進よりも速く、威力も大きかった。
「必殺技とは、こういうもののことを言うのだ。おまえたちのは、ただの体当たりだ」
非常にも雷矢はハヤテに言い放つ。
「加えて訂正する。俺はただ暴れるのではない。この汚れきった世界を滅ぼす。そのために俺はこの力を使う」
雷矢の言葉に含まれている憎しみの大きさに、ハヤテとヒナギクは絶句してしまう。
今の雷矢は、憎しみの塊にも思えた。
「兄さん、一体何があったんですか・・・・?」 「言ったはずだ、これ以上の問答は無用だと」
ライオーガがハヤテに攻撃を仕掛けようとする。
「待て」
それまで静観していたダイが一歩前に出る。
「何だ貴様は」 「部外者だ」
ダイの答えに、ふざけていると感じた雷矢は顔をしかめる。
「だがこいつらは俺のためにも生かしてもらいたいんだ。だから命を奪うのはやめてくれ」 「・・・・断る!」
腹をたてた雷矢は、迷うことなくライオーガに電撃をダイに向けて放射させる。
雷撃は、真っ直ぐダイへと伸びていく。
「でしゃばったのが貴様の罪だ」
黒焦げの焼死体が出来上がっている。そう確信していた。
だがそこに、雷矢の思い描いたものはできなかった。
電撃はダイの横に大きな穴を穿していた。ダイは無傷である。
雷矢は信じられなかった。照準は、確かにダイに合わせていた。
「外れた・・・・?いや・・・・」
もう一度電撃を放つライオーガ。それを雷矢はじっくりと見る。
電撃は、ダイの手前で不自然に反れた。先ほどと同じようにダイの横に落ちる。
偶然とは考えにくい。おそらく、何らかの力でダイは電撃の軌道を変えているのだろう。とても人間技とは思えない。
「貴様は危険な存在だ。この電光石火で葬らなければならん!」
再び雷に包まれるライオーガ。対するダイももう黙ってはいられない。
「このままやられるわけにはいかねえな」
そう言ったダイは、どこからか槍を出した。二本の剣が柄同士で結合したようなそれを、強く握る。
一瞬、ダイの両拳が光ったように見えたかと思うと、彼は持っている槍を横薙ぎする。
「!ライオーガ!!」
ダイが槍を振るう寸前に、ライオーガは翼で身を守り、雷矢もライオーガの陰に隠れる。
強い突風が生じ、止んでしばらくたった後、雷矢の後ろで重量のあるものが次々と落下す る音が聞こえた。
振り返った雷矢は、そこにある光景に息を呑む。たくましそうな多数の樹木たちが、切り落とされていた。
「電光石火のパワーを急速に防御に回していなかったら、俺もライオーガも斬られていたな・・・・」
そして、ダイは本気ではない。彼の余裕ある表情がその証拠だ。
雷矢は、底知れぬダイの力に恐怖を感じた。今ここで彼と敵対したら、命の保証はないとまで思ってしまう。
「仕方ない。ここは引くとするか」
雷矢は去り際にハヤテに告げる。
「ハヤテ。もし命が惜しかったら、三千院家から身を引くんだな」 「え?それはどういう・・・・」
しかしそれにも答えず雷矢とライオーガは完全にこの場から姿を消した。
「兄さん・・・・」
雷矢が去った跡を、ハヤテはしばらく切なそうに見ていたのであった。
兄弟の再会は、憂鬱なものとなった。
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