Re: 新世界への神話 ( No.20 )
日時: 2009/10/25 18:12
名前: RIDE

更新します。
ジェットvsジンジャー後半戦です


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 遠くから戦闘を眺めていたハヤテとヒナギクは、ジェットの闘う様に歓声を上げていた。

「ジェットさんって、あんなに強かったのね」
「このままいけば、ジェットさんの勝利ですね」
「このままいけば、な」

 確かにダイは、ジンジャーよりもジェットの方が実力は勝っていると思っている。だから、この戦闘はジェットが勝つと信じて疑わないでいた。

 しかし、ジンジャーははじめ自分を狙っていた。自分と彼との実力差は十分理解しているはずであろう者が、だ。そこまでするからには、何らかの隠し球を用意しているのではないかと疑っている。

「何を隠しているのか・・・・」

 勝てる相手とはいえ、ジェットには油断無く闘ってほしいとねがうダイであった。



 油断していた、とジンジャーは反省していた。

 ダイ・タカスギの部下だと侮っていたが、相手の剣における技量は、ダイの実力よりも上だと実感できる。

 ならばダイよりもこの男を優先して倒さなければならない。ダイならばいろいろと策を尽くせるが、ジェットのように純粋に力だけで闘わなければならないような相手は、ジンジャ
ーにとって厄介だからである。

「さっそくこいつを使うことになるとはな」

 ケイオスのコクピットの中で、ジンジャーはつぶやいた。

 ジェットへの攻撃を再開するジンジャー。ジェットに向けて、ケイオスの拳を飛ばした。先ほどのように超高速移動でかわしたジェットは、そのままケイオスの近くまで行き、跳び上がった。

 そのまま鋼割りを決めようとしたが、背後で青白い光が発したかと思うと、突然後ろから衝撃を受けた。ジェットはよろめき、技を決められなかったが、何とか着地だけは成功する。

 衝撃は、ケイオスが飛ばした拳によるものであった。飛ばした拳を操れるということは、コントロール装置が設けられているのであろう。しかしそれでも、こんなに早く戻ってくるはずがない。

 そこでジェットは、衝撃を受ける前に青白い光が発したことを思い出し、そこからあることに行き着いた。

「まさか、ボソンジャンプか?」

 余裕なのか、ジンジャーから答えが返ってきた。

[異空間を漂流していたからな。私自身は跳べなくても、爆弾などを送り込めるようにはなったさ]

 ボソンジャンプとは、ダイたちの世界で使われている時空間移動だが、コントロールできない部分が多く、実用に関してはいろいろと条件が必要なのである。

 おそらくジンジャーは異空間での漂流体験を元に独自に研究し、その技術の一部を手にしたのだろう。

 再び拳を飛ばすケイオス。ジェットはまたもかわし、相手が拳をボソンジャンプさせる前に攻撃しようとするがやはり遅く、ジェットの頭上で青白い光が発生する。今度は上から襲ってくる拳をジェットは燕返しで払い除けるが、そこにケイオスの背部キャノン砲が火を吹き、砲弾が無防備なジェットへと吸い込まれていった。当たり所が悪かったのか、受身も取らずそのまま墜落しかけているジェットに、追い討ちをかけるように高周波ナックルを叩きつけた。

[フフフッ私の勝ちだな]

 ジンジャーは、勝利を確信した。

[多少手間を掛けてしまったが、それについては称えよう。それでも、私が負けることはないのだ]

 ケイオス両手を組み、振り上げた。

[ダイ・タカスギを倒すための準備運動になったよ]

 それをそのままとどめの一撃として振り下ろした。

 だが、ジェットの身体を叩きつけると思われた拳は、寸前のところで止まった。

 ジェットが剣で攻撃を防いでいたのだ。

 ジェットは拳を払い除け、後退する。

[む・・・・!]

 そこでジンジャーは思わず唸った。ジェットから覇気が放たれているのに気付き、その凄まじさに一瞬身がすくんでしまったからである。

「そういえば、まだ名乗っていなかったな」

 ジェットは、ケイオスに向き直った。

「俺は勇者ダイ・タカスギを守る三機衆の一人、音速の剣士ブルー・ジェット」

 ジェットは、剣を鞘に収める。

「おまえを倒す者の名だ。覚えておけ」

 その言葉を聞いてジンジャーは気に食わない気持ちになった。

[この私を倒す、だと]

 ケイオスは右の拳をジェットに向ける。

[この期に及んでそんなことを言うか!]

 その拳を飛ばすケイオス。対するジェットは、居合抜きの構えのまま先程と同様の超高速移動をもってかわす。

「見せてやろう。このブルー・ジェット最大の技を!」

 そう叫んで跳び上がったジェットの死角からボソンジャンプされた拳が飛んでくる。攻撃態勢を取っているため、剣は抜けない。無防備のまま高周波ナックルを受けるしかないとジンジャーは確信していた。

 だが驚いたことに、ジェットは二段目の跳躍でケイオスの拳をかわし、その拳を踏み台にしてケイオスに向かってさらに加速した。

「天空真剣奥義、鎌鼬!!」

 ケイオスとすれ違うジェット。ケイオスの左腕が地に落ちた。

 放ったのは超高速の居合抜きだった。剣を抜く際、早い抜刀スピードのため真空波が生じ、それからおこるかまいたち現象と相まって高い攻撃力を生み出す、剣の達人であるジェットだからこそできる技であった。

[くっ、まだだ!]

 片腕を切り落とされた状態のケイオスでも、なおもジンジャーは戦おうとしていた。

 その時、戦いを静止する声が。

「そこまでよ」

 この緊迫した場にはそぐわない、明るい女の声であった。

[え、艶麗様・・・・!]

 ジンジャーの言葉に、ジェットだけでなく後ろで戦いを見守っていたダイたちも目を見開いた。

 ジェットとケイオスの間に、絶世の美貌と抜群に均整のとれた身体の持ち主である、ジンジャーの親玉が現れた。

「お終いよ。これ以上はやっても意味がないわ」
[しかし・・・・]
「私の言うことが聞けないのかしら」

 口調こそ甘美に聞こえるが、その端には脅迫めいたものがあり、それを感じたジンジャーは彼女に従った。

 艶麗はダイたちを見つけると、そちらに近づいていく。

「あなたが噂の勇者様ね」

 ダイは、艶麗を睨みつけている。

「会えて嬉しいわ」
「こっちもだ。敵の顔を知らないままじゃ気分が悪いからな」
「ふふっ。今日は忠告に来たのよ」

 表情こそ誰もが振り向くような笑顔だが、そこから並々ならぬ迫力を感じる。

「今すぐ私の邪魔は止めなさい。さもなければ、痛い目を見るわよ」

 それをダイは一笑して却下した。

「いやだね」
「そう。それじゃあまた会うことになるわね。その時は泣かしちゃうから」

 艶麗もその答えを予測していたのだろう。笑顔のまま別れを告げた。

「またね、勇者様」

 艶麗はこの場から消えていった。彼女に続いてジンジャーも去っていく。

[止むを得ん、決着はいずれダイ・タカスギ共々つけてやる。覚えておけ、ブルー・ジェット]

 残された者たちは負け犬公園に戻っていた。ジェットやダイの姿もこの世界にあわせたものに変わっていた。

 翼の元に駆け寄った時、ハヤテとヒナギクは思わず立ちすくんだ。

 翼の身体から、大量の血が流れていた。

「あの男、中々やるな。少し油断した結果がこうなったか・・・・」

 苦しそうに息をつきながら、翼は強がって微笑んだ。

「もちろん、次はこうはいかないさ・・・・」
「何かっこつけてんだ」

 そんな翼の肩を、ダイが担いだ。

「こいつのことはまかせろ」

 ダイは、ハヤテとヒナギクの方を向いて告げる。

「おれたちはこのまま帰る。おまえたちも気をつけて帰れよ」

 そして、そのまま二人と別れていった。



「艶麗自ら姿を現したということは、敵も本気になったということか」

 帰り道、ダイと翼は艶麗について話し合っていた。

「ああ。アイツ自身、かなりできるヤツだと思う」

 その強さは、おそらくあのジンジャー以上ではないかと予測してしまう。

「それに・・・・」
「それに?」

 思わず口にしかけたダイは、なんでもないと言って噤んだ。

 彼女が人間でも精霊でもないものに感じた、なんてことは、言っても信じられないだろうと思ったからだ。