Re: Hello boy (一話完結、他2本) ( No.2 ) |
- 日時: 2013/06/02 11:16
- 名前: S●NY
想いを告げるその前に、この世には本当に憎いものが在るのだと、そう気付いたのはいつの事だっただろう。 きっと君と出会ってからだと僕は思う。 君と出会って、僕は初めて心から憎んだものがある。 それは僕の心を乗せるモノ。 僕の思いを乗せるモノ。 どれだけ憎んでも、消し去りたくても、決して消えてはならなくて、僕が最も依存しているモノでもあって。 僕と君とを繋ぎ止めているモノだ。 憎いけれど、愛しい。 人はこの二律背反の中でどんな答えを出すのだろう。 折り合いを着ける人。 完全に其を支配する人。 逆に其に喰われる人。 諦めて目を背ける人。 答えは色々有るけれど、『本当』はどれだろう? 僕は『正解』を求めてる。 正しい答えを探してる。 決して失敗はしたくない。 ただこの気持ちを、想いを、僕は君に伝えたい。 僕のこの薄弱で脆い気持ちをセメントの様にガチガチに固めて。 口に出すのも恐ろしい、コレをどうすれば良いだろう? ───僕はどうすればいいのだろう
「どうして何時もそうなのっ!?ハヤテくんのバカァっ!!!」
そう”いつも通り”に目尻に涙を浮かべて叫ばれた時、僕は 『またやってしまった』 と思う気持ちの他にもう一つ、心の底からモヤモヤと黒いモノが湧き上がるのを感じた。 それは自分でも信じられないほどに、憎くて憎くて、壊してしまいたくて、どうしようもない感情だった。 君は酷く怒った顔で…でも悲しそうな顔で僕を睨み付ける。 とても辛そうな顔が、僕の目の前にある。 喧嘩の原因は、ホントにちょっとした事だった。 僕は君に、そんな思いをさせる積もりなんて全く無かったのに。 だって、さっきまではとても楽しかったじゃないか。 久しぶりにとれた休日。 君と一緒に映画を見て、買い物して、食事をして。 とても楽しかった。 わざわざ、この幸せを壊すつもりなんてあるわけ無いだろう? 今さっき僕が言った”一言”に君が怒っているのは分かってる。 情緒の無いことを言った僕に君が怒るのは当たり前だし、それも分かる。 だけどさ。
だけど君だって分かって無い。 僕の今言った言葉にどんな”想い”があったか、君は全く分かって無い。 君は僕の”想い”には気づかず、君が感じた”想い”だけを僕にぶつけてくる。 そんなの不公平だろう? 僕だって不満を君にぶつけるさ。 僕の君から感じた”想い”だけをエゴの塊にして、君に向かって剛速球を投げつけるさ。 こうしてまた言葉のドッヂボールが始まるんだ。 だから君だって悪いんだ。
すいません。 本当は知っているんです。 これは『僕が伝えられていないんだ』と。 僕は自分の気持ちをうまく伝えられてないんだと。 いつも、いつも言葉足らずで、君に誤解を与えてる。 君は僕のわけの分からない”コトバ”に惑わされて、踊らされて…。 僕自身も、僕自身の”コトバ”に狂わされる。 ・・・そう思うと、僕はホントに”コレ”が憎い奴だと気づくんだ。 ひどくひどく憎いんだ。消し去りたいんだ。壊したいんだ。 いつも僕らを惑わして、いつも僕らを弄ぶ。 …でも、いつの時代にも僕らは”コレ”を必要としてる。 分かり合うために。 僕らは”コレ”に依存してる。 それを思うと、もっともっと憎くなって。 自分が惨めになって。 だけれど。 いい加減。 いい加減。”コトバ”って奴をホントに殺してやりたいと思うんだ。
「もうハヤテくんなんか知らないっ!」
そう言って踵を返す君の腕を、僕の右手が強く掴む。 こっちを無理やり振り向かす。
「なによっ!離してっ!!」
意固地になって振りほどこうとする君の肩を、両手でしっかり固定して、僕は君の目を見つめる。 君は驚いた顔で僕を見つめる。黙り込む。 僕はきっと今、物凄く険しい顔をしているから。 だけど怖がらないで。 そっと笑顔を作ってから。 僕はスっと息を吸い込んで。
「前々からずっと思っていたんですが……」
突然、笑顔に変わった僕の顔に、君は驚いてポッカリ口を開けている。 眉尻を下げて、その顔はとても無邪気であどけなくて。 そんな君の口に僕は”ソレ”を放り込んだ。
「あなたは天使みたいに可愛いですね」
僕の”想い”を”コトバ”にして、放り込んだ。 そしてすぐに。 僕の口でフタをした。 しっかりと、その口に蓋をした。 ざまぁ見ろ。 きっと言葉は君の中で、暴れ廻って居るに違いない。 君の体の隅々まで駆け巡って、出口を探して這いずり廻っているに違いない。 そうして言葉が走るたび、君の唇が熱を帯びる。 君の体温があがってゆく。 言葉はきっと、この熱に殺られて死ぬのだろう。 言葉は動かず、消えるのだろう。 ざまぁ見ろ。 そうして言葉が消えたその後に。 君と僕はもっと固い”絆”で結ばれているだろう。 その証拠にほら、僕が唇を離したとき、君の唇が追ってきた。 僕らは再び重なって。 僕はコトバを話せない。 君もコトバを話せない。 二人は一緒にコトバを殺した。
『言葉を番う、その前に』
コトバが死んだその後は、愛だけが残る。
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