Re: 第五話『風雷コンビネイション』 ( No.8 ) |
- 日時: 2012/10/28 19:40
- 名前: 迅風
- ふと見たサンデー。
ルカとハヤテの絡みで「さぁどうなる次回」と期待にわくわくしながら次週を待つ。
しかしよくよく見れば「次号は休載」の御言葉現る。
けれどくよくよせずに楽しみは取って置こうの理念で待ち焦がれつつ。
と言う具合に第五話よろしくにゃ!!←
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第五話『風雷コンビネイション』
1
夢を見ていた。
比較的、最近の話。何の慈悲も無くゆっくりと閉じられる扉。その彼方に居る黒服の人々へ必死の救援を求める叫び声を上げるが届かない。
ばたん、と閉じられた扉の奥。
彼はそこで出会ったのだ。
黄緑の髪と瞳を持った少年らしい風貌の少年。
――初めての邂逅は顔面に痛烈な一撃を喰らって始まった。
「ちょいやぁっ!!」
「みぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!??」
背中にくの字となった形で曲がりながらの絶叫と共に綾崎は目を覚ました。
同時に体中に感じる痛烈にほとばしる電流の突き刺す様な痛みに目を覚ませば、感覚も全て醒める様なものだった。一瞬のうちには何が起きたかわからないままに、某アニメに於いて黄色いネズミに当初は嫌われて散々電撃を喰らっていたなんとかマスターを目指してもう一五年の研鑽を積む少年の共感を覚える。
夢尽く現実に帰した後に綾崎は叫んだ。
「何すんですかぁああああああああああああああああああああああああああああ!!!」
「お。何だよ、折角起こしてやったのによー」
「起こし方が痛いんですよ、もっとこう揺さぶる程度でいいじゃないですか!? って言うか今のそもそも何をやったんですか、スタンガンですか!!」
「だって起こすのに手っ取り早かったしさっ」
悪びれる様子もなく五十嵐はへらっと殴りたくなる表情を浮かべて笑っていた。
目が覚めた先で視る光景は相も変わらずの波風気任せな漁船の上。先程と打って変わった部分と言えば外国人の男二人が小さな呻き声を上げながら突っ伏しているという事か。
目覚めた先ではいつもと変わらぬ風景。
親に売られた等夢物語に至って欲しかった淡い期待を夢の様に遠くに感じながら(しょうがないか)と諦め抱きながらゆっくりと立ち上がる。
「で。僕が気絶している間に、もう倒したんですか五十嵐君?」
「おうよ。すげぇだろ。一人で二人完封だぜコノヤロウ!!」
「まぁ凄いですけど……。この光景を見ていると、つい数時間前の光景を思い出しますねー」
「ああ、そう言えば……そんな事もあったっけ、な……」
「気まずそうに目を逸らさないでくれますか、五十嵐君」
「さて、綾崎。俺らはここでぐずぐずと無駄話している暇はねぇぞ。なんたって敵の陣地の上、いつ傾いたっておかしくない船の上なんだからな」
「話題逸らさないでくれますか?」
「あーもう!! わかったよ!! つーか、何度も謝ってるじゃねぇか!! 出会いがしらに六発、拳を叩き込んだのは悪かったですよー、ヘイヘーイッ!!」
自棄になった様に叫ぶ五十嵐の言葉に綾崎は「はぁ」と嘆息を洩らす。
そう、初対面は色々肝心と言うが綾崎と五十嵐の初対面の印象は色々悪かった。船員に担がれる形で運ばれていった綾崎は扉を開けて放り込まれるが同時に、中ではロープを解いて次に扉が開いた瞬間に殴り掛かって突破口を開こうとしていた五十嵐によりまず、顔面に強烈な一撃を見舞われた。
次いで『うおりゃああああ!!』と獣が吠える様な声で殴り掛かる五発の拳撃。
更には綾崎を武器代わりに船員を攻撃。
そして最終的にはすぐに複数の船員により取り押さえられて御用。ふんじばられて再び檻の中へ押し込まれた後に綾崎が自分と同じ人身売買の立場だと認識したと同時に五十嵐は体中からどっと汗が噴き出したという。
「おかげでまだ体中痛いし……」
「軟弱者だな、綾崎は☆」
「『☆』をつけて誤魔化そうとしないでください、まったく……」その上を付け加えて「僕らがああやってマストの場所に縛られたのもそれが原因ですし……」
「扉開けた瞬間に殴り掛かる奴なんざ危ないからな」
「自分で言うなっ!! ……何で僕まで巻き添え……五十嵐君だけでいいじゃないですか」
「おいおい、連れない事を言うなよ、綾崎」
「暴風雨に晒される様な場所に連れられるくらいなら、徒然なるままに檻の中が嬉しいですよ、ホント」
「ちっちっちっ。わかってねーなー綾崎は」ぐっと拳を握って「こういうシチュエーションでは大概、俺達みたいに別の場所へ幽閉的にされた者たちが大脱出しての大逆転って相場が決まってるんだぜ!!」
「ドラマの見過ぎです」けれど、と呟いて「……今はその漫画だかドラマだがの場面を再現でも何でもしないと脱出なんて出来ませんよね……」
「そう言うこった。んじゃま……」
物静かに漁船の扉を開け放って五十嵐は中へと続く道を見ながら呟いた。
行くぞ、と。
比較的大型の部類である黒塗りの漁船の中は一応手入がされている様子。
健康的には少し汚らしい具合もするが、そこまで被害が目立つわけでもない。船体の中は外目でもわかる様に広々としているもので隠れる場所も多数存在した。長年、海の上を走るものだけに潮の香りがまざまざと鼻に付くのはご愛嬌。
船に潜り込んだ二人は気付かれない様に物音を立てずにこそこそと動く。
何故にあのまま海へ飛び込むなりなんなりして逃走を試みなかったかと言うと理由は二つ程存在する。一つ目はまず海の天候から推察するに飛び込んだら死ぬ、という事。もう一つは五十嵐と綾崎が押し込められた部屋には同様に捕まっていた双子の少女がいたからだ。
親に売られたのか、何なのか見当は付かないが見殺しにするのは後味に悪い。
幼い少女二人残して男二人は逃走とか格好がつかないにも程がある。
と言う事で少女救出、その後脱走を考える二人は慎重に行動を起こした。まずは武器の調達が先決だ。相手は銃器や刀剣類を所持しているのは明白故に素手では分が悪い。
「しかし武器は何処に保管してあんのかね」と五十嵐が小声で呟く。
「こればかりは探さないとわかりませんよね……けど、燃料やエンジンからは遠くではないでしょうか?」
「間違って暴発とかした際に被害が大きいかんな」
「となればおそらくは……右方向へ向かいますか」
「だな」
静かに小さな声で会話を行いながらこそこそと二人は移動する。
火薬が誤って爆発した際に燃料やエンジンに近くては被害が拡大する事から周囲に被害を拡大させる要素のない様な場所にある事だろう。何の重要性も薄いだろう部屋が並ぶ方向へと足を進めながら、五十嵐が問い掛ける様に綾崎へ呟いた。
「なぁ、綾崎」
「何ですか?」
「お前さ。……親に売られたってマジか」
「マジですよ」
「……そっか」
そう呟く五十嵐の声は何とも言えない絶望に呑まれていた。
なお五十嵐は綾崎の事情を知っている。と言うのはまぁ檻からマストへ運ばれる際に船員が小馬鹿にした様に綾崎に語りかけた彼の事情を聴いての事で理解しているのだろう。
「……聞いた時びびったわ。親って普通そんな事すんのかよって……」
「安心してください。普通ではないですから」
「お前、良く落ち着いてられんな。親に売られるとか普通ありえねぇわ……」
「あはは……」
思わず苦笑を零す。とはいえ綾崎は当初の戸惑いと困惑と絶望はすでに薄まっていた。
何故ならばあの両親なのだ。ことさら驚く事でも無かったのかもしれない。世間一般で視れば相当な事だが耐性の出来た綾崎にとっては特段、怯える事でもなくなってきた。
それに諦めも付いたと言う事だ。
(……そんな事はもうあの日からついていたという話だが)
正しかったのは彼女で――。
(――間違っていたのは――)
「それ考えるとさ……。あの双子も親に売られて――とかだったりしねぇよな……?」
「え?」
思考は途中でぷっつりと途切れた。
五十嵐の言葉に綾崎は思わずきょとんとした反応を返す。そんな彼に「いや、さ」と言葉を濁す様に呟き「……あんな小さな女の子達が売られてるって相当の事情じゃね?」
「それは……」
確かに、と呟く。
まぁ彼女らにどういった事情があるかは存じない。けれども綾崎は『親に売られて海外へ売られる』という事情を抱える身の上。こんな場所まで至ってしまった者たちとしては事情はそれ相応なのではないだろうか。
その考えから綾崎は恐る恐る尋ねてみた。
「……そう言う五十嵐君はどうなんですか?」
「俺か?」
五十嵐は簡素に反応を示した後に「そだな〜」と少し考える様に呟いた後に。
「俺はまぁ綾崎程ってわけじゃねーんだけどよ……。って言うか記憶が孤児院からなんだよな」
「孤児院?」
「ああ。両親……知らねぇんだ」
両親を知らない。
これはまた中々重い事情が出てきてしまったかもしれない、と綾崎は思わず身構えた。両親を知らないと言う事は親に売られる売られないはない。しかし相応の悲しさ切なさが付いて回る出来事だった。
「まぁ親がいないって事で孤児として孤児院に連れてこられたんだろうな、赤ん坊のころだったから覚えてねぇけどさ」
「そうなんですか……」
「で。ある時期に孤児院は何か気に食わなくなってさ」
「何でですか?」
「俺は思ったんだ。『悪いな真田(サナダ)さん……。これ以上迷惑掛けるわけにもいかねぇよ……。これ以上、俺の左腕の疼きを抑えられそうにねぇ……。皆に迷惑かける前に俺は此処を出て行くよ。今までありがとう。平和な日々を……ありがとう』と告げて俺は孤児院を去ったんだ……」
「そんな中二病なノリで孤児院去らないでくれます!?」
「さて、孤児院を出たはいいが家がない」
「家出少年ですからね」
「困った俺は近所の『挫折公園』で何年も時を過ごしたんだ」
「早々にホームレス化してますね……」
「まぁそんな俺が今日まで生きてこられたのは周囲の人がすっげぇ親切でさ。こんな浮浪者みたいな俺を散々面倒みてくれたんだよな。ご飯くれたりとかしてさ」
「そりゃ公園に子供一人なら周囲も気を配ってくれますよね」
「まぁ時々公園内でイジメ問題も良くあったけどな。『返してよジャイアン!!』『のび太の癖に生意気だぞ!!』ってさっ」
「待って!? どんな公園で生活してたの!? そこ、どんな公園なの!?」
「時々、上でリサイタルがあってすっげぇ雑音が流れて何度か気絶したし」
「聴いたの!? 件の歌をリアルで聴けたの!!?」
「良い想いでもあるんだぞ? ツインテールの女の子に告白された事がある。バイオリンがお世辞にも上手なんて言えなかったけどいい子でさ……」
「振って!! その子の、引いては全体的な未来の為に振って!?」
「まぁそこらへん作り話だけどさ」
「わかってましたよぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
「あっはっは。けど、周囲の人が親切だったってのは本当だぞ。おかげで学校とかにも通えるようになったしさ……」
けど……、とそこで五十嵐の言葉が止まった。
まるで誰かを心配する様な――そんな目の優しさと不安を抱いている。そんな瞳。強い印象の瞳が今は動揺した様な寂しさでゆらゆらと揺れていた。
「……ちょっと、ある一件で……金、借りてさ」
「……そうですか」
それが限界だろうと綾崎は感じた。小さく「そこまでで充分ですよ」と呟くと五十嵐は小さな声で「……ありがとな」と返答した。意思をくみ取ってくれた綾崎への感謝をこめて。
これ以上は訊けないだろうと言うのが綾崎の見解である。
あの双子の少女の事情が『親に売られて』ではなく『仕方なく借りるしかなかった』の部類である事を願い以外に他は無い。そう考える綾崎だったがそこで思考を止める。同時に耳から入ってきた情報――複数人の会話に意識を傾けると同時に、
「五十嵐君。隠れてっ」
即座に切迫した雰囲気の言葉を吐いた。
相手が武器を持っているかどうかは不明だが、どちらにせよ敵である。どう事態が転ぶかわからないのだから今は身を潜めるのが得策だ。その考えから後ろを振り向くと。
ぴらりっ (←『何か会話してる奴ら見かけたから諜報してくるなっ!!』)
……と、書かれた一枚の紙。
(アンニュイだからって置手紙だけ残して去るなっ!!)
と叫びつつ壁に貼られたもふもふとした子犬のイラスト用紙を剥ぎ取って即座にズボンのポケットに押し込んだ後に綾崎は近くの扉の影に滑り込む様に隠れると徐々に声が鮮明になって聞こえてくる。
外国人よろしく言葉は英語だが、稚拙ながらもある程度は聞き取れた。
とはいえほとんどの内容は聞き取れない。
外国人の英語と言うのはアクセント、速さが日本人の稚拙な英語と違く全体的に速いながらもしっかりとしたものだ。日本の高校生――それも一般的な学力少し上程度の綾崎では聞き分けるのは苦難であった。
しかし聞き取れた言葉があった。
それはこの船の行き先。確かに告げた言葉が確と物語っていたのだ。
――「Athens」、と。
ドクン、と心臓が一瞬早く鐘を鳴らした。
その単語を訊いた瞬間に体全身が戸惑いを覚えたかの様に強張ってゆく。なんだそれは、冗談じゃない、と心が早口に言葉を紡ぎだす。どうしてアテネなのだ、と。
全ての道はローマに通ず、よろしく綾崎の道はアテネに通ずとでも言うのかと愚痴を言いたくもなった。現実には当然、そんな実態は在りはしない話だが。
アテネ。
それは綾崎にとってとても重要な人を示す単語であった。一〇年前――古き記憶の中にひっそりと存在し続ける黄金色の輝かしい思い出の景色。色褪せる事は無い――けれど色焦た記憶でもある。
自分の最後は其処で終わるのか?
だとしたら何と言う皮肉なんだろうか、と綾崎は心の中で呟きながら、体を流れ落ちる汗に異様な不快感を覚える様であった。実際に心はとても動揺している。
ダメだ、と思っても動揺を抑え込めない。
こんな事では脱出に支障を来すと言うのに。動揺すれば隙を生む事は理解していてもアテネと言う場所で最後を迎える事に綾崎はどうしようもなく悲壮感を抱いた。
いや――何と言う複雑な気持ちだろうか、と。
そんな綾崎の肩をぽんと叩く手があった。
「!?」
思わず勢いよく《バッ!!》と振り返る。見つかった!? と思い込んだ頭がより素早い行動を求めて動きを発した。
「お、おぉおう……。どうしたよ、そんなに反応示してよ……?」
そこにいたのは五十嵐であった。成る程、見てみれば会話をしていた船員の影は無い。
動揺している間に彼らはとっくに通り過ぎてしまっていたのだろう。そう考えると緊張と動揺と驚きは身を潜めて僅かな安堵が到来する。
「なんだ五十嵐君ですか……」
「なんだじゃねぇよ。どうしたよお前」と不思議そうに声を洩らす。
「いえ、別に何でも……」
「そうか? それにしてはやけに驚いた反応だったけどな……」
ま、いいか。と話題を切ると五十嵐は「さっきお前が隠れている所を船員が通り過ぎて行ったみてぇだけど……行き先はギリシャかよ、おい……」とげんなりした様子で呟く。
「みたいですね……」
「日本から離れ過ぎだっつの、まったくよーコノヤロウ……」
「五十嵐君は? 何かいい情報仕入れましたか?」
自ら向かって行ったのだから少しくらいいい情報を仕入れて来てると信じたい。
対して五十嵐はその問い掛けにニッと笑みを零すと。
「ビンゴだぜ。武器庫の場所がわかったぜ」
「ほんとですかっ!?」
「声がでけーよ、小さくな?」と五十嵐が告げた後に「場所は分かった。けどそれ以上に一応の収穫もあったぜ。と言うか予想以上にすげぇかも……」
そう告げる五十嵐の説明に理由はあった。
何でもこの船内にある武器庫には相当数の武器が存在しているとの事だ。しかしそれだけならば金さえあればいくらでも積ませられる様なもの。
問題はその先と彼は言った。
積んでいる武器の質が問題なのだそうだ。良質な武器の数々が揃っていると言う内容はまだしも知られてはマズイ様な類の武器も揃っており、果ては大富豪秘蔵の品まで盗み取っているという。ただの漁船の――否、ただの漁船ではないにしても運んでいるものの性質から考えるとただでは済まない。予想以上に厄介な船の中にいるのではないだろうかと言う危惧は払拭出来る気配も抱かせなかった。そもそも警備も相当だろう大富豪の邸宅から盗むと言う時点で相当だ。五十嵐曰く「怪盗とか雇ってるらしいしな」との事だ。
いったいどんな影響力を持っているのだ、と問い掛けたくもなる。
しかし今はそこに焦点を当てている場合でもなく、綾崎は必至懸命に人の目を掻い潜り影の道を突き進み、ようやくに至って武器庫の中へと足を進めた。
その光景を見て思わず絶句する。
「……これだけの量をよくもまぁ……」
「……だな。そしてドンピシャだなコノヤロウ。しっかし本当にたくさん積んでやがる……一マフィアにしても一個の漁船にこんだけ乗せるかよ、おい……」
一部屋丸々使っての倉庫としてもまさしく《ぎっしり》と言う具合に積まれていた。
刀剣類、銃器、斧にハンマー……スラッシュアックスにガンソード……果てはトランプにブーメランと来たものだ。これだけ積んで何がしたいのだろうかと問い掛けたい。
「……裏にどんな大富豪がいるんだよ……」
「大物マフィアのファーザーとかですかね……?」
「どっちにせよ、こんだけあるんだ。一個拝借させてもらうとしようぜ」
そう呟くと五十嵐は適当にそこらへんを物色開始する。
本来ならば犯罪でしかないが状況が状況咎められる事情も無いので綾崎も同様に物色しようとした折に五十嵐が声を上げた。
「あっ、綾崎っ!!」
「何ですか、五十嵐君?」
「見てみろコレ!! 石器時代の斧まであんぞ!!」
「もっと実用的な武器を探してください!! 石器時代の武器ってまんま石器じゃないですか!? 近代銃器に石器で勝てるんですか、ねぇ?!」
「あっ、綾崎っ!!」
「何ですか、五十嵐君?」
「見てみろコレ!! とん○りコーンが手の彫像の指五本に収まってるぞ!!」
「おかしいよね!? お菓子が武器倉庫にあるっておかしいよね!? って言うか何となく爪の武装っぽくなってるけど戦闘能力ないよね、それ!?」
「あっ、綾崎っ!!」
「何ですか、五十嵐君?」
「見てみろコレ!! 団子の串があるぞ!!」
「団子の串でどないしろと!? 刺せと!? 団子の串で刺せと!? それとも玄人の様に団子の串で相手を切り裂けと!? 何処の達人なんでしょうかねぇ!?」
「あっ、綾崎っ!!」
「何ですか、五十嵐君?」
「見てみろコレ!! 不気味な絵画があるぞ!!」
「最早武器ですらないですよね、それ!? 不気味と武器を掛けた洒落にしかすぎませんよね、それ!? 何ですか額縁で戦えって話ですか!? って言うかそれ『ムンクの叫び』じゃないっすかぁああああああああああああああああああああ!!!!?」
「あっ、綾崎っ!!」
「何ですか、五十嵐君?」
「見てみろコレ!! ペンがあるぞ!!」
「ペンは剣より強しとでも言いたいんでしょうかね!? 実戦に於いてそれで戦う技量は僕にはとんと無いんですけど!? って言うか何でペンまであるの!?」
「あっ、綾崎っ!!」
「何ですか、五十嵐君?」
「見てみろコレ!! 著書『本当の武器とは、心の勇気である』、著者『鍵森櫻朧斎』ってのまであるぞ!!」
「だからその類武器じゃないですし!! 今に於いて本に頼っても遅いですし!! 今更読んでも何も出来ませんしねっ!!」
「うるさいぞ静かにしろっ!!!」
「「げ」」
突然にバン!! と言う大きな音が響いたと同時に背後の扉が開け放たれる。
そこに立つのはシャツにジーパンと言う簡易な服装をした外国人一名。紛れもなく船員の一人であるのは事実。男性は日本人二名の存在を視認したと同時に表情を驚きに変えたと同時に、手近な刀を握りしめる。
ぎょっとして動きが停止した綾崎とは対照的に即座に動きを見せた五十嵐は手に持つ石斧で男の振う刀の一振りを《ガギン!!》と受け止めた。
「綾崎っ!! すぐに何か武器取れ!!」
「!!」はっとした様子で「わかってますよ!!」と言う声と共に近場に転がる銃器を掴もうとした瞬間に《チュイン!!》と言う光を煌めかせる一発の弾丸が手元で爆ぜた。
「大丈夫か、アレサンドロ!!」
「こいつら武器庫の場所をどうやって……!!」
と言う声が二つ。刀を握りしめ五十嵐と交戦を行う男性は「マリオ、バルダ。来てくれた様だな。逃亡者の様だぞ!!」と勇ましい声で告げた。
その光景を見ながらマズイ、と認識する。
このまま芋づる式に増援が増えて行くとなったら事態は切迫してゆく事となるのは必須。
「五十嵐君!!」
「わかってる!! 悪いが……、ここで止められる気はねぇぞ!! お前らをぶっ倒して突破してやんよぉ!! この石斧でな!!」
「だから石斧でどこまで戦う気!?」
「甘いわ!!」
「ああっ!? 俺の石斧が一刀のもとにチョンパされたっ!?」
「石製の武器を剣で斬るってさりげ凄い!!?」
「ふっ。生憎だったな……私の皿と刀の合同戦闘術『プレート・ブレード』の力をとくと思い知らせてくれるわぁっ!!!」
「皿ねぇじゃねぇか!!」
「アレサンドロ。此処は俺に任せておけ」
「「バルダ!!」」
男の名はバルダッサーレ=レヴァンツォ。
長きにわたり鍛え続けてきた巨躯。一撃必殺を得意とする攻撃力を兼ねたパワータイプの男性である。レヴァンツォはニヤリ、と不敵な笑みを浮かべると叫びを放つ。
「見せてやろぉっ!! にっぽじぃん!! 俺の最強戦闘術!! このムキムキの筋肉が繰り出す無敵のちからぁっ!!!」
ザ、と床を強く踏みしめてバルダッサーレはグン!! っとミサイルの如く。
――駆けた!!
「これが最強の一撃。撥頭身(ノーヘル・ヘル・クラッシャー)≠セっ!!」
迫る巨体。地獄の破壊者と告げた男の勇ましい一撃が轟々と走る。
その姿を見据えながら五十嵐は、
「唯の頭突きじゃねぇかっ!!」
「ごぼへぇっ!!?」
怒った表情で振り下ろした石斧を無惨にも頭部に炸裂させた。
ザクロの様に飛び散る血飛沫。
アレ死んだんじゃないかな……、という綾崎の不安を余所のどこまでも悲惨に頭に石斧を減り込ませた男は「おふぅっ」と声を零して地面に倒れた。
「「バルダぁああああああああああああああああああああああ!!!」」
男達のつんざく悲鳴が木霊する。だがすぐに「おのれ、バルダの仇ッ!!」
「来るか。来るならきやがれ!!」
五十嵐が即座に身近にあった武器を手につかむ。
武器の名は『鉢植え』。
「どないせいと!?」
「自分で取ったんですよね!?」
「何であるの!? 武器庫なんだよね!? なぁ、綾崎これ武器のジャンルなんだよな!?」
「鉢植えにあるのがちょうど木が新芽を出した頃なので多分『芽吹き』じゃないかと!!」
「だから何でこんなに洒落要素ばっかなんだよ、ここ!?」
「ツベコベ言っている暇があるのか!! むぅんっ!!」
そんなじゃれ合いを待つ暇もなく男、マリオ=タヴォラーラは自慢の一品、ヌンチャクをびゅんびゅんと風切音と共に振り抜いた。瞬間に摘まれる芽吹き。鉢植えに生えた樹木がぶちぃっと一撃を受けて千切れ飛ぶ。
「てめぇ、折角の命に何てことしてやがんだ!!」と叫びながら五十嵐は鉢植えを投げつける。
「クカカ、やけっぱちだな」と余裕の声を上げてヌンチャクの一振りで鉢植えを破壊す。
そしてどばっと降り掛かる鉢植えの中身。
「もぼぉ!?」と言う声と共にタヴォラーラは土まみれとなった。
「へっ。ばーかっ!!」
五十嵐はそう嘲笑すると同時にガシッと掴んだ武器を力任せに振り抜いた。武器は『青竜刀』である。「本当に色々あるんですね……」と言う綾崎の声と同時に青竜刀の一撃がタヴォラーラの右わきへと直撃した。
短い呻き声を上げて悶える様に突っ伏す。
「何てことねぇな。さぁ後はテメェだけだっ!!」
ドゴン!! とトドメの足蹴りをタヴォラーラの腹部に叩き込んだ後にびしっと声をアレサンドロ=ガルガーノへと示すと同時にぐらりと前のめりに倒れる男の背中を踏み台にしガルガーノへと青竜刀を縦一閃に振り下ろす――!!
「無意味ナリ!!」
その一撃が金属音を激しく打ち上げて青竜刀が防がれた。
防ぐのは――皿。ごく一般のありふれた普通な、ただただ単品の皿である。
「『プレート・ブレード』」と呟き「我が皿と刀の組み合わせ――皿で防ぎ」
そしてと呟いて。
「皿に更に刀が切り裂く八閃の剣撃を喰らうがいいっ!!!」
ギラリと危うい輝きを帯びた眼光が放たれたと同時にガルガーノの左手に握られた刀が八回の閃きを魅せた。まるで乱流のごとき翻しを見せた斬撃が次々に五十嵐を襲う。
「がっ、ちょっ、ぐぁっ……!!?」
コイツマジで強い……!! 五十嵐は斬撃を身に受け、それを紙一重に回避を試みながらそんな事を考えた。そして《ズザザ……!!》と体の数か所から血を流しながらも五十嵐はどうにか堪えた様子で後ずさる。
「やるねアンタ……!!」と強がりを見せて。
「はっはっは」と笑いながら「強がりは止せ。私の斬撃を今ので自覚しただろう。――次はマトモに喰らう事になる上になぁっ!!」
その叫びと同時にビュォ!! と風を突っ切ってガルガーノの姿が五十嵐の後方へ瞬時に現れた。五十嵐が言うのは強がりだ。刀で八回切り裂かれて『はい、そうですか』と言う程に五十嵐は非日常を生きてきたわけではない。
痛みで動けない体で他人事の様に(ああ、まずいなぁー……)と思う。
そんな彼のピンチを打破するのはやはりと言うか当然な話――綾崎の蹴りであった。
「誰がさせますかっ!!!」
鍛え上げた脚力と敏捷性が放つ高速の蹴りがガルガーノへと直撃――否。
「……惜しいな」
と呟きながら皿の向こうから顔を覗かせる。
「ほんっと……!!」ギリ、と歯軋りし「……シュールですね」と皿で防ぐ光景に苦言を呈す。
「その嘲りはそこらの海にでもさらりと流そう。何故ならば――」ひゅんっと鋭い白刃の煌めきが走った「これから何も言えなくなる相手に異を唱えてもさらさら無駄な労苦だからな」
「――ッ!!」
迫る白刃。「綾崎ッ!!!」と言う声と共に綾崎の眼前にひゅっと何かが横切ろうとしたと同時にガルガーノの斬撃が見舞われた。そして勢いそのままに押し倒される様に吹き飛んでゆく綾崎の身体。
備蓄された数多の武器の密林へけたたましい音と共に倒れ伏す。
一瞬、薄れかけた意識の果てに「させるか!!」と言う声と共にまたも響く金属音。おそらくは追撃を行おうとしたガルガーノの攻撃を五十嵐が防いでくれているのだろう、と漠然と考えながら、そっと視線を落とす。
盾。恐らくは寸前に五十嵐が投げ込んだのだろう。
助けられてばっかりだな、と考えながらも。殴られてもばかりだな、とも思い至る。
けれど救われてるのも事実。
早く一緒に戦わないと……!! と強い意志を抱きながら綾崎はぐぐっと立ち上がろうと上体を起こそうとする。
その最中だ。
綾崎の視界にキラリと映るものがあった。白い白い――刀剣。
それを視界に収めたと同時に綾崎は目を見開いた。
驚愕だ。剣の形自体はありふれた形の刀身。けれど鍔と柄のデザインは違う。丸くリング状のデザインだった。それは彼がかつて大いなる城の中で見た。白い鳳凰像の眉間に突き立っていた神々しい剣――。
「何でこれが……此処に……?」
信じられない想いで震える手でそぅっと手を伸ばす先。
鼓動を打つ様にその剣は存在した。
剣の銘は――『白桜(しろざくら)』と称された。
【続】
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ねー。第五話戦闘だねー。
……昔はすっごい簡素に済ませた部分がいざ本気で書き記せばなんだろうかこの分量。いったいいつに終わるのさ。
しかしよくよく考えると私は五十嵐の過去しっかり明記した事あったっけな……?
そしてガルガーノの戦闘方法残したいにゃあ……。
と思いつつそれでは次回。第六話。タイトル未定。
でもきっと『空○デイズ』とかそんなのだよ。←
冗談はともかく兎にも角にも次回!! さいではーっ!!
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