Re:第四話『後悔ナビゲート』 ( No.7 )
日時: 2012/10/26 23:18
名前: 迅風

アニメ版ハヤテのごとく。

ナギの妹と言う立ち位置(仮)の少女、鶫瑠璃。果たして漢字はこれで正解か否か。

だけど、どちらにせよ妹なのかどうかは不明なれど、髪の色と髪型的に可能性がなくはないというのが私の見解。父親の髪の色が藍色か否かが観点だよね。

しかし続きが気になる……!!

そして冒頭には何時繋がる……!!

と言う期待を抱きつつ、第四話を公開してみようかっ!!


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 第四話『後悔ナビゲート』



        1



 諸君は人身売買についてどのような感想を抱くだろうか。

 怒りを感じるだろうか、嘆きを感じるだろうか、はたまた金商売になると言う不敬な事を考えたりもするのだろうか。とはいえ最後の事情が無ければ――金銭目的または性的奴隷でも欲しがるか臓器提供でも求るかが無ければこの問題はそもそも生まれなかった話だ。

 日本最古の記録たる人身売買とは『日本書紀』六七六年の売買許可願いであるとされる。下野の国司から凶作のため百姓の子どもの売買の申請が出され、不許可となっている。

 しかし、この許可願いの存在から、それ以前の売買の存在が推測し認定する。

 大宝律令または養老律令でも禁止はなされていたが、密売が行われていう話。労働力を欲しがるのはどこの世界でも同じ事で――下々を虐げるのもまた同じことだろう。

 人身売買と些か違うが奴隷に於いても古代ローマといった国々では散々な結果を遅らせ娯楽半分に命を散らせたものも多数。現代に於いてはその様な人身売買、どこまでも疎まれるのが実体ゆえに各国の憤怒こそ大きいが。けれどもどれほど禁止を求めてもどこからともなく見知らぬ場所で今も人身売買は行われている事は可能性として十分有り得すぎる話だ。

 とどのつまりは、この現状の様な話。

「よいせっと」

 そんな荷物を軽く扱う様な声で綾崎の体躯はお荷物よろしく船体に担ぎ込まれる。

 クリスマスイブに相応しく白い袋にプレゼントのごとく詰め込まれた綾崎は「誰かヘルプ!! ヘルプミー!! たっすっけって――――っ!!」と言う雑音を奏でるが、所詮は雑音、受け渡しを完了する手続き実行中の戸原の耳には入らない。

「これはまた今回は大量ですね、トバルサン!!」

「まぁな。同時に意気が良過ぎて困っちまうがな、ジョン」

 外国人とわかりやすい容姿をした頭に水色の布を巻き付けた白黒Tシャツの男性、名前はジョンと言うのだろう。全体的にお気楽な空気が感じられる。常に横隣りに『HAHAHA☆』という言葉が見える程に。

「んじゃ、そっちで売り捌いた分は換金してしっかり払えよ?」

「当然だね、ビジネス!! ウチらのやる事はあくまで奴――労働力として売っ払うだけだから臓器の部分はしっかりお支払してやるよワークっ!!」

「そう言ってこの前踏み倒しただろ、テメェ」

「ゴメンよ、今日は耳の調子ちょっと良くないんだよワーク、ゴメンねーっ!!」

「さっきまで普通に話していた奴はどこのどいつだぁっ!!」

 胸倉を掴んで怒鳴る戸原に睨まれるジョンはこともなげに「HAHAHAーっ☆」と受け流している光景を見守りながら綾崎はミノムシのごとき様子からガタガタと震えを感じていた。

 このままでは殺される、と。

(ヤバイ、ヤバイよ……!! これは本気で臓器売られる……!!)

 会話内容からそう考えざるを得られない。

(肉体労働ならまだしも人身売買――内包、臓器売買とか諸に犯罪じゃないですか……!!)

 あの親も然る事ながら、事情も腐る話である。

 そんな腐った現実と折り合いつける義理は尽くありはしない。話し合いがやがて取っ組み合いの口論になる事を願いながら綾崎はミノムシのごとくこっそりと逃亡を開始する。

 とはいえ生憎そんな行動を見逃すわけもない。

「まぁまぁ、待てよ、綾崎」

「もぎゅっ」

 ミノムシ大行進の様に漁船の床を這って動く綾崎のちょうど背中辺りにストンと軽く腰掛けるのは柏木。彼は綾崎の行動防止の意味を込めた体重かけを行いながら「いい加減、もう諦めろって♪」と朗らかな笑顔で語りかけた。

 そんな柏木の目を見据えながら『絶対に逃げてやる……!!』と言う意思を込め送ると「諦めの悪い奴だな」と何処か楽しそうに返してくる。

 一概に悪い人とも言えないんだがなぁ……と無性に残念に思いながら。

「……一応、訊いていいですか?」

「何をだ?」

「…………」ゴクっとつばを飲み込み「……僕を何処へ連れて行く気ですか……?」

「何処だろうな」ふっと微笑みながら「……だが、きっと天国みてぇな場所じゃねぇかな」

「それは単純に『多分、死ぬんじゃね?』って言ってくれた方が早いわぁっ!!」

「無慈悲な現実だな」

「本当にねっ!!!」

 親に売られて人身売買って何時の時代ですか、と叫びたい衝動を喉の奥へ押し込む綾崎に対して柏木と同じく舎弟の一人、五城目が「そんなに騒ぐなや」と語りかけ、

「でぇじょうぶだ。肺も肝臓も心臓も二つずつあるからよっ」

「僕の心臓は一つっきゃありませんよ!!」

「ちなみに売る場所海外な」

「日本国内ですら無いんですか!?」

「海外へ旅行出来ると思って楽しんでこい」と柏木が簡素に呟く。

「旅行気分になれるかぁっ!! 三途の川渡航気分にしかなれませんよっ!!」

「まぁ個人的には……」柏木は少し申し訳なさそうに「……お前みたいなやつは嫌いじゃあない。助けてやりたいとも思うんだがな……これも仕事だ。悪いな」

「…………」

 つまり助けてはくれない。柏木が言うのはそう言う事だ。

 少しだけ、確かに申し訳なさそうに告げてくれた事に感謝の気持ちが少しだけ湧く。だからと言って逃げずに終わるわけにもいくまいが。

 そんな綾崎の心情を察したのだろう、五城目はドスの効いた声で「逃げようと思うなよ。逃げたらつぶらな瞳だが、狂気に蝕まれたとしか思えないうちのチワワ『殺戮丸』がお前を攻撃するからな?」

「つぶらな瞳のチワワに何てネーミングつけてるんですかねぇ!?」

「くくく……。かつて借金滞納し続けた奴らを尽く血塗れにしてきた我らが愛玩にしてボスの様なお方だぜ……!!」

「ちわっ、ちわわんっ!!」

「チワワの鳴き声そんなものでしたっけ!?」

 そう口論している間に「あ、俺少し外しますね」と告げて柏木は漁船の中へ何故だか入って行ってしまい綾崎の心をくみ取りそうな人物は消えてしまう。

 彼がいてだから何かが変わると言う事でもありはしないが。

 ペロペロと殺戮丸に舌で舐められながら綾崎は、

(考えろ……)

 熟考を費やす。

(考えろ。考えろ。考えろ)

 考えるのだ。如何にこの事態を好転させるか。如何に現状を打破するか。如何に現実を破壊するかを綾崎ハヤテは脳髄の奥から掻き出す様に黙考に伏した。

 考える事は全てを改革すると言う事だ。

(知恵を振り絞れ)

 叡智などとは言い難い極々平凡な頭脳だが考えるのだ。

 どうすればいい? 自問自答を繰り返し解決策を導き出す。



 ――こんな所で終わるわけにはいかないのだ



 綾崎には諦められない理由が確かに存在するのだから。

 悔恨の念や、再会の想い、過去への情念。今一度だけでも――。そんな過去の記憶が脳裏を駆け巡り続ける。諦められない。もう一度だけやらなければならない事があるのだ。確かにこの胸の奥に存在し続けるものが。

 けれど、綾崎は忘れていた。

 過去の現象を一辺に思い出す現象――通名『走馬灯』だと。



「あ。出航だ」



 機械的な音を鳴らして《ゴゥンゴゥン》と言う起動音。煙をふかす様なエンジン音を響かせて漁船が出航の気配を見せる。

「速いよぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!?」

 考えるのは実にすばらしい事である。

 けれど熟考のし過ぎで事態が先へ進み手遅れへなる事もしばしば。綾崎はそんな教訓を抱きながらも外国人の屈強な男に肩に担がれ船内へ連れてゆかれた。

 小さな小さな『助けてーっ』と言う声を最後に扉が閉まる音が響く。

 その声を無視しながら船は出航を行い始める。

 そしてそんな船を見守りながら、戸原は小さく呟いた。

「……行ったな」

 との声に何処かへふらっと消えていた柏木も同意する様に「行きましたね」と呟くと、そんな柏木に対して五城目が「何処行ってたんだ、柏木?」と問いかけるも「うんにゃ、ちょっとな」と適当な言葉を返す。

「まぁしかし……。世の中にはひでぇ親がいたもんだな。借金のカタにテメーの息子を売り飛ばすとは……」

「全くですね。……で、あの船が向かう先ってのは……あそこで間違いないっすよね?」

「ああ、柏木。間違いない」

 戸原はそう告げた後に小さく何かを呟いた後、そぅっと目を伏せながら言った。

「お前ら……、毎度のことだが良く覚えておけよ。俺らの行動で死地へ追いやるんだ。死に場所が何処かってのを一生忘れるな」

 人としての心忘れねぇようにな、と小さいがハッキリした声で。

「……ハードボイルドですね」と言う柏木の声に「茶化すな」と戸原が少し頬を掻きながら答える。そんな戸原に五城目は「肝に銘じておきます」としっかりと頷く。

「何にせよ、綾崎の死に場所がせめて有名な土地である事を祝福すべきか何だか……」

「日本で骨埋められねぇって時点で不幸だと思うがな」

「あっちだと……土葬っすかね?」と五城目が問いかける。

「土葬は嫌ですね。虫が湧く」と柏木が嫌そうに呟く。

「ま。何にせよ」

 ドンドンと遠のいてゆく漁船の夜の闇で黒いシルエットにしか捉えられなくなった姿を見守りながら軽く手で会釈した後に呟いた。

「達者でな、綾崎」

 ――アテネの地でな。

 戸原の別れを告げる声はただしんみりと静寂の夜に残響した。



        2



 そして現在に至る――。

 綾崎ハヤテの四肢を雁字搦めと行かずとも、胴体と船体は意地でも離れませんよ交際をいたしたく頑張る所存の様子なので意地でも引き裂きたい考えを抱きながら綾崎は穏やかな波風とは程遠い荒れ狂う波風を身に浴びていた。

 そんな綾崎の一八〇℃向こう側にいる少年、五十嵐も似たり寄ったりだろう。

 真逆の位置関係に入る為に首を傾げても、ちらほらと風に吹かれてなびく緑髪が微かに見えるだけで彼の身体の全体図はとてもではないが物理的に識別出来ない。

「綾崎ー……」

 しかし声は激しい波風の中でも聞き取ることは出来た。

 とりあえず生きている様だ。

「ロープ解いて〜……」

 そして無理な事を言ってくる余裕もそこそこある様だ。弱弱しくも内心無理なお願いという事を自覚した上での発言に感じ取れる事から綾崎は簡素に「無理です」と答える。

「なんだよ、いいじゃんかよ解けよコノヤロウー……」

「無理ですよ、無駄にしっかり縛ってありますもん。手も足も文字通り手出し足出し出来ませんよ僕だって……」

 そうなんだよなー……と悲しげに零す五十嵐。

 現在彼らを縛るロープは随分としっかりした代物である。全体的に太く硬い。巻き方も相当手馴れている様でどこまでもガッチリと縛られており脱出は困難極まれりであった。

「何でだよ、出来るだろ綾崎ならさーっ!!」

「初対面でそこまで株上げされてる事に違和感抱きますけど一言言いましょう。無理です」

「体全身を振動させて縄を引き千切るとかっ!!」

「どこの超人ですか、出来ませんよ、そんな事!! 何処の世界に振動で縄引き千切る人がいますかぁっ!!」

「じゃあせめて縄抜けとか出来ないのかよ!!」

「今回相手がすっごい手馴れてる所為で隙を見計らえなかったんですよ!!」

「確かにものの数秒でさささ、だったもんな〜」

「驚きの手際の良さで僕も縄抜けの仕掛け仕掛けられませんでした……どうしよう」

「話訊いてたんだけどさ。何か夜に縄でお楽しみしたい為に年中無休で頑張ってるらしいぜ、緊縛のみを。あのマイクって外国人」

「何を頑張ってるんですか!?」と真っ赤になって叫ぶ綾崎。

「真っ赤だぜ綾崎?」

「赤くもなりますよ!!」

「綾崎は純情だなー」

「悪かったですね!! と言うかそもそも顔見えてないはずですよねぇ!?」

「いんや、声で十分わかる」

「確かに思わず裏返りましたけどね!!」

「それにしてもさ、綾崎。こういうロープで体縛られるって現代では珍しいよな」

「本当ですよね……。今の世の中、こういうピンチに陥って束縛されてるって相当珍しい現象に見舞われてますよね僕ら……」

「何時からロープで縛るなんて事が確立されたかねぇ……」

「そんなの作った人が何かコンパクトに利便良く済ませたい一念でもあったんでしょうが……。まぁそもそもロープで罪人を縛るって言うのは江戸時代には確実に成立していたんでしょうね。当時は手錠の発達が乏しかったそうで、江戸時代にはもっぱらお縄につけ、よろしくロープが手錠でしたから」

「へぇ、綾崎もそこらへん知ってるのか」

「知識程度は。加えて言ってしまえば当時は罪人が如何に死なず、暴れず、目論見道理に縛れるか研究に研究が重ねられたそうですよ。当時は刑罰に市中引き回しって言う公開処刑に当たる晒し刑がありましたから。逃亡させない様に刑罰を下す為に確立したんでしょう」

「嫌な事を熱意もって研究するな江戸の人は。相当ドSだったんだな」

「その判断もどうでしょうかね!? ただ、そうなってくると何でしょうかね、スキルの上達を示すかの様に細分化された様です。身分、性別、年齢の違いによって結び目の結び方が異なる、縄の通し方が異なる等と細かいルールが生まれたそうです」

「律義だな日本人もさ……」

「実際、そう言った考えらしいですよ? 何事も洗練してゆき妥協を許さないのは日本人独特の感性らしく、より美しい――て言えば変な気もしますがしっかりした縛り術を作り上げたかった人たちがいるんでしょうね。加えて当時の身分選別された時代背景も影響していたと考えられてるそうです」

「だよな。亀甲縛りとか文化だわ」

「変なものを日本文化に取り入れないでください五十嵐君!!」

「でもよ〜……」と五十嵐は呟きながら「綾崎は知ってるかよ? 昔はずっと、今もそっと厄介者を締め上げるロープの旦那が新しい趣味に目覚めたのは明治維新後の錦絵だって言う話をさ」

「錦絵に何があったんですか……」

「何でも緊縛された女性の絵がさ……つまり女囚か。縛り上げられた姿に性的興奮を抱く結果となってロープには新たな可能性が詰まっているって事を時の責め絵画家、伊藤晴雨(イトウ セイウ)は開発してしまったので、ある」

「そう言うジャンルって錦絵が発端だったんですか……」

「発端は果たして今の時代の俺らじゃわからんし、はたまた外国にもあったかも知れないねーとか思う所はあるけど日本はそんな具合らしいぜ? ひょっとして一年前、テレビで見た駅付近で刺殺されたって言う伊藤何たらさんと関係性を勘繰るぜ」

「いや、明らかに関係性特にないと思いますけどね!? って言うか何で苗字が同じだけで関係性勘繰るの!? 伊藤なんて苗字ざらにいますよ!?」

「いや、警察の調べで女性関係がすっげぇヤバイって噂になっててさ。なんと首から上まで切断されて無くなってるらしく現在も一年近く経ってるのに捜索中らしいし」

「女性関係どうしたらそこまでの惨事に!?」

「いやぁ……当時は何をやったらこうなうのって俺も叫んだよ、うん」けどまぁ、と呟き「今にも臓器を失いそうな俺達が言っても悲しくなるだけだけどな……」

「だったら初めから言わないでくれますかねぇ!?」

「それでさ、綾崎……」

「……何ですか?」

 五十嵐のふっと零す微笑みを訊きながら「……マジでロープどうにかなんね?」と緊迫感ある声を零した。

「緊縛だけに緊迫感湧いてきましたね、五十嵐君も」

「誰が面白いこと言えと!?」

「ふざけた事でも言ってないと僕だってどうにかなりそうですよ……。何ですかこの現状、全く打破出来る気がしないんですけど……」

「よし、綾崎。関節外せ!!」

「外せませんよ!! より正確には縛られ方が凄まじくて腕が全然動きませんし!!」

「まぁ確かに俺も手首から先が動かせる程度だけどさ……!! 袖にナイフとかもってねぇのかよオイ!!」

「持ってませんよ!! 刃物なんてもてるわけないでしょうがっ!!」

「コノヤロウ。西には『剣聖』の二つ名持つ国家公認の剣士がいるって訊くのに!!」

「マジですか!? って、違う!! 僕をそんな剣士の達人みたいな人と比べられても勝ち目なしですよ、ちょっと!?」

「何か隠し持ってねぇのかよ!!」

「隠し持てる様な武器をまず入手出来ませんし、そもそも金がありませんよ!! そう言う五十嵐君こそなにか持ってないんですか!?」

「銃弾なしの機関銃しかねぇよ、コノヤロウ!!」

「むしろ何でそう言うのを持ってんですかねぇ、玉無しがっ!!」

「ちょ、機関銃の事を言ってるんだよな!? 何か機関銃の事を言われている割に俺の心にダメージ結構あんだけど!?」

「ともかく機関銃何で持ってるんですか!!」

「悪かったな、諸事情だよ、突っ込むな!!」と叫び声を上げた後に「そして本当に脱出方法がねぇえええええええええええええええええええええええええええええええ!!!」

「だから初めから諦観してんですよ、僕は!! 縄舐めてましたすいません!!」

「コノヤロぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!! 何か打開策ねぇのかよぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

 叫ぶ五十嵐の唸り。

 綾崎と五十嵐、この二人は実際問題本当に打開策が無かった。胴体を縛る、たったこれだけの事に関わらず有効活用ほどほどにと言いたくなる程に二人は手も足も出せずにいる状況なのだった。このままでは本当に反抗的態度を取る事もままならず死亡必死である。

「死んでたまるかぁあああああああああああああああああああああああああ!!!」

「ガチで何もせず死ねるかコノヤロぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

 だからこそ二人の声に緊迫感、切迫感と言うものが籠るわけで。

 先程まで気を紛らわす様に駄弁っていた発言も彼方へ蹴り飛ばし本質的に窮地へと至る勢いの現状に綾崎も――また五十嵐も同様に動揺する他なかったと言えよう。

『捨てる神あれば拾う神』。

 諺の中にはそんな有名なものがある。けれど問題なのは捨てられた後に拾われるタイミングをミスったらどうなるのかと言う話で。加えて臓器を搾り取られた自分達を拾うのは大地の神様こと墓場様ではないだろうかと憂鬱にもなる。

「あーもう、神様でも仏様でも挙句自然災害でもいいから助けろコノヤロウッ!!」

 だから最後は『神頼み』。

 格好悪くとも他人に寄り掛る形となろうとも本当に二人の選択肢はそれしか無かった。

 そして当然ながらそんな淡い期待は淡く崩れ去るもので。

 綾崎達は強さを格段に増した暴風雨にまず晒される事となった。

「「ぎゃぁああああああああああああああああ!!!?」」

 メキメキと今にも折れそうなマスト。そのマストに括り付けられる二人にしてみれば海に投げ出されるのではないかと言う恐怖心の恐ろしさ足るや。一二月の極寒の海に投げ出された上に夜中とくれば楽に死ねる。

「どうすんですか五十嵐君、本当に起きましたよ、自然災害!?」

「知るかよ、って言うか俺の所為かよ!?」

「どちらかと言えば五十嵐君の所為ではないですが成果ですね!!」

「理不尽だぁっ!!」

 加えて吹き荒れる暴風雨が織りなす津波。

「「どっぺぇいっ!!?」」

 ざぶーんという在り来たりな音では済まず《ドザバァアアアアン!!!》と形容した方が遥かに似合う津波の音を耳に感じ、強さを肌で感じ、絶望を心で感じる二人。

「波まで酷くなってきたぁっ!!」

「そりゃ暴風吹き荒れてっからな!! 波が強くなるのは御約束だっての!!」

「僕ら、いくら波に攫ってもらったとしても、縛られたままだったら楽に死にますよ!?」

「確かになっ!!」

 次いでホオジロザメが顔をのぞかせた。

「来るなぁっ!! こっちに来るなぁっ!!」

『(´・ω・`)』

「何かしょぼん君みたいな顔してますけど絶対にこっちは招きませんからね!? ヒレで口元に当てて物欲しそうな目つきしてても絶対に許しませんからね!?」

 風に吹かれ、雨に晒され、津波に呑まれ、ホオジロザメに涎垂らされ。

 綾崎と五十嵐に迫るのは端的に窮地と言って過言ではない程に切迫しているのが現実。すでに手は全て詰まりきってしまった現実にホオジロザメと足で格闘しながら絶望はすぐそこまで近寄っていた。

『捨てる神あれば拾う神あり』と言う諺は嘘じゃないかと叫びたい。

 世界に無用な自分を捨てた神こそいるやもしれぬが、拾ってくれる神など現れない。そもそもこの海上でそんな相手に出会える気配もなく。

 神は現れる気配微塵も見せずにいた。

 二人が絶望に至りサメの餌食に今まさになろうとしている最中。

 ――現れた。

 拾う神が。



 より正確には飛来、雷がであるが。



「ぴぎゃぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!???」

 雷。あるいは神鳴。自然現象の一角として名高い青白く刹那の閃光を放った一閃は暴風と大雨と共に『やっほー♪』と言わんばかりに軽快に現れた。

 この海上に於いて最も高い場所――。

 ――即ちマストに。

 当然ながらマストに轟いた閃光が甘々な結果を打ち出すわけもなく、光り輝き轟き靡く激光は夜の闇を打ち払うかの様に鳴り響き世界に確かな蹂躙を繰り広げた。

 具体的にはマストに縛られている二人の身体を伝来よろしく雷来して。

 先に聞こえた綾崎ハヤテの無様な断末魔を真夜中の海に雑音よろしく響かせた後に《バリバリバリ……!!》とけたたましい音を上げて、マストにめらめらと炎の蕾を産み上げて雷が姿を消して数分。それと同時に二人を拘束していたさしものロープも強烈な一撃を前に成す術なく崩れ落ちてゆく。

 それにふわりという浮遊感と共にふっと下へ下へと落ちる人の身体。

 ほぼ同時に船内から直撃を感じたであろう外国人船員たちが今まさに扉を開けて船体の様子を見るべく現れる。現れた二人の船員たちが現状を見た時にはっと目を見開いた。

 眼前には一人の少年が《バヂバヂ》と言う小さいがハッキリとした音を奏でながら悠然と佇んでいた。黄緑色の逆立った髪型。髪の色と同色の黄緑色の瞳。はっきりとした少年らしい顔立ち。こげっこげの衣服。

「神頼みってのもしてみるもんだな」

 と、少年はぽそっと呟いた。

「雨風は厄介なだけだったけどさ……雷降らしてくれるとは気が利いてるぜコノヤロウ」

 体の所々を走る電光に感謝を述べながら、

「さぁて、おかげで自由だ」

 眼前に見える二人の外国人に対してぐっと拳を構えながら少年――五十嵐雷は叫んだ。

「こっからは――反撃だぜコノヤロウ!!」

『……ッ!!』

 煌めく眼光に射抜かれた二人が思わず後ずさりする――日本の一高校生として中々の覇気を持つ五十嵐の声に気圧される。

 しかし子供相手に何を、とプライドを誇示して相見える。

 海の上――漁船の上で戦闘は今まさに始まろうとしていた。

「…………」

 雷に打たれて心肺停止状態となった真っ黒焦げな綾崎ハヤテを彼方に差し置いて。



【続】


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綾崎の後悔を無視し船は航海する内容を公開した私。

さぁ中々長いね肝心の場所までさっ!! リメイク大変だわ、うん!!

さぃて次回は五十嵐君の活躍オア、紹介等を含めての次回になるだろうね、多分!!

……という事はバトル書かないとなのか……!?

しかし今回は無念にゃ☆ 一〇〇〇字足りず九〇〇〇字なんだよね☆

すまぬ……!!!

まぁ、ともかく次回も頑張りますので閲読していただけたら嬉しいにゃー、嬉しいねーなんですよね☆

それでは、また☆


……綾崎、不幸やな、しかし……。