Re:第一三話『新雪フィーリング』 ( No.49 )
日時: 2013/02/22 20:26
名前: 迅風

えー、では第一三話です。

若干色々突飛な事が起きたがまー気にしないで於きましょう読者皆様。

単純に好きなキャラだったからと言う理由だがね!!←

では第一三話をどうぞですっ♪


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 第一三話『新雪フィーリング』


        1


 フェリス=グナティルム。

 帽子を押えてそう名乗った少女は五十嵐の目から見て実に美少女であると言えた。屋敷で見た土御門睡蓮、天王州アテネも相当だが彼女もまたかなりの美少女である。

 帽子の下にある面貌は非常に整っており、ぱっちりとした目には黄金色の瞳が太陽の様に輝いており、セミロングの紫の髪は所々銀色に輝いている。顔立ちでも相当目を見張るが体躯も驚きだった。小柄でありながらも非常に女性的な体型をしている。

 五十嵐も流石に男の子な為に何とも気恥ずかしい気持ちになったりしてしまう。

「グナティルムか。俺は五十嵐。五十嵐雷だ」

「そっ。初めましてね、五十嵐君♪」

 ニカッと可愛らしい笑みを浮かべてグナティルムはちらりとディーヴァの姿を視認した後に、

「えーっと……。この子はパラさんの知り合いか何かだったりする?」

「いんや。今日が初対面さね。とはいえバトラーんとこが預かってるみたいな感じだし知り合いになったっちゃなったのかね、がっはっは!!」

「バトラーさん……ね」

 ディーヴァの発言を聴いてるフェリスは老執事に視線を向けていた。ただ五十嵐はここで何か違和感を覚えた。

(何か聞く前にすでに視線移ってた様な……ま、気のせいか)

「パラさんよ。バトラーと言うのが、こちらの老人なのは何となくわかるが、わっち達は生憎どんな人物か知らぬぞ」

「ああ、それもそうだったねえ。この店から少し離れた場所にデッカイお屋敷があってねえ。そこの執事をしているのが、このバトラーって奴なのさね」

 そうディーヴァに紹介をされるとバトラーは綺麗なお辞儀を魅せる。

「お初の御目にかかります、お嬢様方。バーガンディ=バトラーと言うしがない執事でございます」

 そして頭を上げた後ににこやかな笑みをたたえながら、

「しかし、いやはや驚きましたな。グナティルム様を含めて、御三方とも大変にお美しい方方で驚きましたぞ」

「だろう? ウチにも何度か寄ってくれてるけど、かなりのべっぴんさんだからねえ、この子達は!!」

 何かべっぴんさんって言葉訊くのも珍しいな……と思いながらも五十嵐も実際見惚れるくらいに美人美少女の三人だと思える。

 先に挙げたフェリス=グナティルムも相当の美少女だが他二名もかなりの美少女と美人である為だ。その片方美少女と言うニュアンスが近しいだろうか。

「フハハーッ!! わっちの美貌に気付くとは中々に目が高い。褒めてやろう、バトラーとやら!!」

 小麦色に焼けた肌に大きくくりっとした目元にはマカライトグリーンの瞳が輝く。桃色がかった金髪はツインテールにしているが長さは膝元に届く程の質量だ。幼く見える顔立ちだが故に可愛さも発揮している。服装は中々扇情的で背中が大きく露出している等目を逸らしたくなる部分もあるが。

 ぺたーん、と言う音が響きそうな程に水平線が眩しくスレンダーだ。

 ロリ体型と呼ばれるものではない。しっかり成長しているが見事に曲線は無かった。

「…………」

「……おい、何が言いたい五十嵐。わっちの何をそんなに哀れんでみているか怒らぬ故に正直に申してみろ、きさんがぁああああああああああああああああああああああ!!!」

「あ!? ちょ、テメ、怒らないと言っておきながら数秒後に怒ってるじゃねぇか、その上理解してんじゃねぇかゴホっ!?」

 バキンボギン、と言う音が体から響きだす。関節を決められて五十嵐の若干負傷気味の身体が今にも重傷に戻っていきそうだ。

「くっそ、こんだけ密着してんのに、全く感触が……!!」

「ほっほーうっ!! わっちに対してスパーンと言うではないか、気に入ったあ!! 正直者は好きだぞ、故に更に手を掛けて可愛がってやろうぞーっ!!」

「ぐっ、げぼへっ!? 無駄にキツイのをテメ……!!?」

「フハハハハーッ!! このまま性根から重心含めてへし折ってやろうぞ!!」

「ちょぉ!? マジで背骨伸ばして……本気で死ぬかもだから止めろコノヤロウ!?」

 ビシビキと音を奏でる光景を見ながら三名目の美女と形容するに相応しい容姿の女性が困った様にあはは、と笑いながら、

「えーっと……エヴァ? 流石にその辺にして置いてあげてね? 本当に重傷になっちゃいそうですから……」

「む。まぁ、わっちもここで警察に厄介になるも忍びないか。しょうのない」

 ほれ、と呟きながら拘束を解く。女のくせにとんだ馬鹿力を持っているなと感心するほどだ。関節技の上手さといい。何か体術をやっていそうな感じがするなと五十嵐は思った。

「全く。本来であれば極刑物ぞ、五十嵐。わっちの寛容さに感謝せえ!!」

「お前の何処に寛容さ抱けばいいんだよコノヤロウ……!?」

 そして呆れた様に溜息を吐いた後に、でお前何て名前だっけと疲れた様子で尋ねた。

「おお!! そうであったぞ、忘れるとこぞ」

 ポン、と弾みのいい音を手で鳴らして、

「わっちはエヴァンジェリン=エテルと言う名ぞ!! 深く記憶に残すが良策!!」

 むんっと無い胸を張ってエテルは自信に満ちた表情で踏ん反り返った。

 五十嵐はその光景を見ながら、

「何を思うた五十嵐ぃぁあああああああああああああああああああああああああ!!!」

「だから速攻過ぎんだろ、オベベベベベベベベベベベベベベベベベベベ!?」

 何故か次の瞬間にはガクンガクンと首が前後に揺れ動いていた。襟元にエテルの両手が掴みとっているのが見てとれた。何と言う反応の速さと感心しつつ人の話を訊けと思う。

(……まあ、想像通りだから否定出来ないんだが)

 失礼な理由を頭に浮かべながら若干、あっちの世界が何度か意識に霞めてゆく。グナティルムが「ちょ、それ以上やると流石に……!!」と止めに入るが止まる気配が無い。そんな様子にちょいと先程の美人がエテルの首の後ろを触れると、

「うひゃうっ!?」

 と、甲高い可愛らしい声でぶるぶるっと跳ね上がった。

 すぐさまバッと涙目で美人の方へ振り向くと、

「ええい、何をする驚くぞリアフ!!」

「何をって……、このままだと五十嵐君がお空のお星さまになりそうだから、止めただけですからね、エヴァ?」

 ふぅ、と困った様に微笑みを浮かべながら女性はむぅ、と膨れるエテルを見て「程々にしてあげませんと参ってしまいますっ」と指を絡めながらふわっと微笑んで告げた。

 そうして軽く頭がぐらんぐらんする五十嵐にふぃっと顔を近づけると、

「それで。五十嵐君の方は大丈夫ですか?」

 心配げに小首を傾げながら問い掛ける。

 距離にして近づき過ぎた程ではない。だが眼前に見える真っ白な美女の容姿に五十嵐は流石にぽけっと見惚れる。影が青みがかった真っ白なロングヘアーは毛先でひらりと翻している特徴的な髪の毛で瞳の色は雪色。何故か異国情緒溢れるロシアの衣装で、白いコートを着込んでいるが、エテルとは対照的に素晴らしいスタイルの女性であった。

 少しの間、美貌に見惚れていたが、

「……顔、赤いですけど本当大丈夫?」

 と言う彼女の声と「出たよ、天然……」「流石よね本当……」と言うじとーっとした呆れた眼差しにハッと気づいて、

「だ、大丈夫に決まってますよ、ええ!! ピンッピンしてますから俺!!」

 高笑いしながら体操を初めて何事もないとアピールをする。

「それなら安心しましたっ♪」

 ふわっと花咲きそうな笑顔を見せる。何と言うか素直だと思った。そして本当に天然っぽい女性だと五十嵐は理解する。

 と、言うのは基本理屈的な考え方であり笑顔を見た五十嵐はすでに赤くなっていた。

「……え、えと……本当に何もないんですよね、五十嵐君……?」

 硬直している五十嵐に対して女性が再度不安げな表情を見せて近寄るが、グナティルムがスタスタと近寄り女性を制止する。

「とりあえずリアフは黙ってよっか。天然の被害者続出しそうだし」

「む、むー……っ。フェリス? だから私は天然じゃないですから……」

「すでに被害者一〇〇〇人以上を出したリアフに否定要素は無いわよ……」

「何の事?」

「……うん、わかってない時点で否定要素はないわね」

「ど、どうして!? 何故です!?」

 グナティルムが何やら明後日を見る様な目でじとーっと女性を見ている間、五十嵐の方でも同時進行で事態は進展していた。グナティルムがリアフを制止したと同時に動いたエテルはぺっしーんっと軽快な音を打ち鳴らす。

「いや、痛いからな!?」

「おお、一撃で復活ぞ。これは軽症で済んで良かった話だ、フハハハ!!」

「いや、軽症って……確かに軽症だが……」

 体感した五十嵐にはわかる。彼女の天然は中々危険な領域にあると。

「しっかし美人だわなー……名前何だっけ?」

「リアフだ。リアフ=マウナ=ケアと言ってな。まぁ、感じた通りに天然で男殺しな節のある女と言う奴か。本人、恋愛経験ほぼゼロだがな」

「へぇ……」

「ただし、狙うのは止しておけ。倍率が高い上に、アレで一応気になる相手くらいはいる身の上になるからな」

「そうなのか?」

「まあな」

 と、頷いて、

「なあ、リアフよ」

 軽く振り向いて現在フェリスと天然じゃないですと断固抗議しているケアに対して呼びかけるとケアは不満そうに少しむすっとした表情のままこちらへ振り向いて「……なにかしらエヴァ? 私は今、大事な話してるんだけど……」と呟いた。

「少し尋ねるが、お前が現在逃亡中のお相手とは何か進展は起きたのか?」

 そう訊いて言葉を吟味する様に隙間を置いた後に、

「……ッ!?」

 しゅぼんっと真っ赤に染まった。そしてカーッと真っ赤になったまま、

「みゃ、ちょ、何で、急にッ、そんな事っ……!?」

 意味も無く左右を交互に振り向いて慌てだす。

 何か尋ね方にツッコミを入れたいが確かに意中の相手はいるようだ。

 まぁそうか、と納得もする。あれだけの美人にもなると周囲がどうしたって放っておきはしないだろう。それを言えばグナティルムもエテルも相当の美少女故に三名全員に言える事なのだろうが。

 五十嵐がそんな事を考えている間にも「リアフ、初心よね本当にさー……」「まぁ落とし切られていないがなリアフは……むしろ初めて意識して戸惑ってると言うべきか」「わ、私は別にね!?」と三名で口論を繰り広げていた。

 そんな光景を見てふと思い出す。美人三名に圧巻しててすっかり頭から抜け落ちていた。

「なぁ、エテル達さ」

「む? なんぞ、わっちらに何か質疑か?」

「まぁな。って言うか一応、訊いておきたいって言うか……何で初め騒いでたんだ? そんんでグナティルム逃げてたしさ」

 そう問い掛けるとああ……、と納得した様な表情を見せた。

 そうだなー、と答えたのはエテルだ。

「まあ、事の発端は洋服選びになるな」

「ほう」

「今はわからぬだろうが、フェリスの奴は基本同じ服装が大半でな。まー、少し事情があるが割愛しよう。ただ新しい服が必要でフェリスの用事と合わせて出向いたここで買い物と言う流れになる」

「それで何が騒がしくなったのですかな?」

 ここで今まで口を挟まず傍観していたバトラーが声を発した。

 問題の人物であるグナティルムはげんなりとした表情で、

「サイズの合わない服装ばっかり持ってこられて色々ね……」

「何を言う。体躯に合わせたサイズはバッチリぞ。なのにお前はわっちを蹴落とす様に実ったそれの所為で……!!」

「うっさいバカ!! 悪かったわね、ちっこい癖にアレで!!」

 その発言で五十嵐とバトラーは理解して五十嵐は少し気恥ずかしくなり、バトラーはただただいつも通りに何も訊かなかった風を装っている。確かに衣類は合わなそうだ。グナティルムは身長が恐らく一四〇程度に対して胸が自己主張激しい。明らかに胸が原因となり衣服が合わないのだろう。

 実際今きている服は小さ過ぎて盛り上がった部分も俗に言う下乳も見えている始末だ。

「くぅ……背さえあれば……」

 何か悲しみの色濃いセリフがどよんとした彼女の元から聞こえてきた。

 しかし、ともすればそれが原因で。

(つまり持ってこられる衣服だと露出が激しいから遂に恥ずかしくなって逃亡した先に俺がいたって流れになるのかね……)

 そう考えると恨めしそうにグナティルムの二つの果実を憎々しげに肉を睨むエテルに対してお前少しは真面目にチョイスしとけよコノヤロウと言いたくもなる。

「でもケアさんの方は何か服選ばなかったんですか?」

「あー、ケアはかなり悩んでたわねー……」

「ええ、まあ。フェリスの体格的に合うものが見つからなくって、長時間悩んでいたんですよね……でも、結局打開策はこの大きめの服装くらいしか……」

 そう呟きながら取り出したのは確かに大きめの衣服だった。少なくともフェリスの背丈には少し大きい衣服。だが小さい衣服ではどうやっても露出過多になる上に着れない以上はそれが最善策なのだろう。

 グナティルムも自分で理解している様で、その服を手で掴んで、

「……ま、わかってたけどね。あの子と同じ結果が大半なんだって事くらい……」

 と少し悲しげな気配を背中で物語ながら試着室の方へ消えてゆく。五十嵐としては同じ様な悩みを抱える者が他にもいるのに驚きだが。

 絶対、すぐに着替えたかったんだろうな、と思わざるを得ない。

「とりあえずフェリスの服は今ので一区切りしておきましょう、エヴァ?」

「ま。仕方なきか。品揃えは文句いいようない店だが、何分元がちっこいからな……」

「ごめんねえ。しかし悔しいねえ、サイズがあんなに合わない子がいるとは……!!」

 ディーヴァが悔しそうに唸りながら試着室を凝視しながらはぁと溜息を吐き出す。

 その様子に申し訳ないようにケアは苦笑を零して、

「いいえ、お気になさらないでくださいパラさんは。だからこそ似合う服が見つかった時、彼女人一倍喜んだりするのも可愛いですし……。何はともあれ、衣服の代金の方を払わせて頂きますね♪」

 そう綺麗な声で紡ぎ、ケアは財布を取り出してグナティルムの分を含めておそらくはエテルと自分の分であろう籠の中身の代金をレジで支払ってゆく。

 そうして支払いが終わる頃にエテルが不思議そうに言った。

「ところでリアフよ」

「ん? 何かしら、エヴァ?」

「なに、少し気になった事なだけぞ」

 そう言いながら袋に入れられた品数を見定めながら、

「露出が少なすぎると言う事ぞ」

「けほっ!?」

 ケアが勢いよく咳込んだ。

「な、なっ、何を言って……!?」

「いやな。お前、狙われ逃げる様になってから基本露出が少なめになったろ? 前は胸の谷間は見えていたのに……今では露出が太もも程度だ」

「いや、普通でしょう!?」

「あの少年相手にキッチリガードで良いのか? 狙われてる身の上なのだから逃げ場無しの際を考えて予め勝負下着くらい熟考してみては……」

「何の話?」

 知識が精通していれば赤面する場面だが、ケアはまるで異世界の話の様にきょとんとした表情を浮かべて問い返してきた。

「……いや、そうか。そうであったぞ。天然で初心であったな……」

 故にニタァ、と笑みを浮かべてケアの耳元でこしょこしょと呟く。

 すると大半は分かっていない様子で頭に疑問符を並び立てるだけだったが、やがて傍目でもわかるほどにボフンッと真っ赤になると、口元を押えて、

「う、あう……ふぁ……!?」

「まぁ、あの少年ならそれくらいは……な」

「で、ですが彼に対して私は釣り合いが取れていないと言いますか何と言いますか……」と真っ赤な顔で呟いた後に「〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!」声も出ぬ叫びを上げながら洋服専門店【フレア】を飛び出して何処かへ走り去って行った。

「……何、言ったのよお前?」

 五十嵐がぴゅーと吹き抜ける扉の前まで歩いて行って小さく問い掛けた。

「……いや、なに。キスをしてくるかもだぞ、とな」

「めっさ初心だな、おい!?」

 あれだけの美人なのに本当に恋愛経験はゼロだった事に感心すら覚えてしまう程だ。

 そう五十嵐が感想を抱くタイミングで《シャー》とカーテンが引かれる音がした。

「ゴメン、待たせたわねリアフ、エヴァ。ちょいスカートで悩んじゃって……」

 そう呟くグナティルムは手に着衣中の衣服とは別の衣服を入れてあるであろう袋を手に餅ながら新しい服が似合ってるかどうかを見定めている様だ。

 ぶかぶかとしたグレーのセーターの様な衣服とピンクに青のチェックが入ったスカートを着ている。ぶかぶかなセーターは指先がちょこんと出る程度だが故に可愛らしさを発揮していた。しかし帽子はお気に入りの様でそのままだ。

 ただし表情はきょとんと呆けていた。

 小さく呟く。

「……リアフは?」

 その言葉にふふんっと胸を張りながら、

「わっちが恋愛アドバイスをしたら逃亡しおったな。フッハッハッハ、初心ぞ実に!!」

「はぁ!? ……ああ、いや、何となく想像つく」

 だから説明はいいわ、と頭を抱えながら呟くと、

「っていうか、じゃあ探しに行かないとマズイじゃない!? 早く行くわよ、エヴァンジェリン!!」

「仕方ない奴ぞ」

「仕方ないのはからかってるアンタの方なんだけどね!?」

 そう言いながらやる気の無さそうなエテルを扉の外へ押し出すと、グナティルムも後へ続く形でタンッと軽快なステップで走り去ろうとする。だが不意に五十嵐とバトラーの方へ視線を移すと、

「あー、それと五十嵐君、今日はほんっとゴメンねっ!!」

 パシンっと両手を合わせて謝罪をし、

「今日のお詫びは明日にでも必ずするからさっ♪」

 ニコッと快活な笑みを浮かべて少女は駆ける。

「バトラーさんもねー♪ じゃ、二人とも、今日が幸多からん事を祈ってるわよー♪」

 じゃ、と軽快な足取りで少女は帽子を押えながら音楽でも鳴らす様なステップで軽やかにその場を去って行った。

 後に残されたバトラーと五十嵐はしばし静かに立っていただけの後に、

「……何とも清々しいお嬢さん方であったな」

 微笑ましいものでも見たように優しい笑みを浮かべる。

「そっすね……」

 まぁ約一名は清々しいと言うより馬鹿馬鹿しい奴だったけどと内心思いながらも。

 三人の残した風香は実に清々しく感じる空間だった。


        2


 洋服店を出て、三名と別れた後。五十嵐はバトラーと共にこの場所へと足を赴かせた。

 沿岸沿い。即ち昨晩、自分が意識を覚醒させた場所である。混乱していた為に風景はうろ覚えの部分もあるが建物の形などからどうにかこの場所へと辿り着く事に成功した。

「ここで多分間違いない……」

 小さく声に出して確認する。

 沿岸故に潮の香りに交じって匂いの判別は出来ない。だがこの場所には僅かだが残されている痕跡があった。血、と言う名の赤々しい痕跡が。

「……これが」

 そっと道に染まっている赤い痕を触れながら呟いた。

「……あいつの最後なんだろうな」

 顔も覚えてない。名前を思い出せない戦友の姿が出来の悪いホログラムの様に、ザザザと不快な音を立てて脳裏に映る。同時にこの何とも物悲しい感覚から五十嵐は不安に胸を掻き毟られるようだった。

「なあ……、お前は生きているのか。それとも死んでるのか」

 どっちだよコノヤロウ、と毒を吐く様に呟く。

 そんな光景を見ながら老執事、バトラーは彼から少し離れた場所で、

「……君の言う少女とやらもいない様子だな」

 重々しい声で呟いた。

 そっすね、と乾いた声で返答を返す。双子の少女が何処へ行ってしまったのか。それすらも五十嵐にはわからなかった。流石に同じ場所で延々と寝ているとも限らないのだが空気を読まない彼女らならもしかして寝てるんじゃないかと思って来てみたが影は見えない。

 心配で、たまらなく不安でならなかった。

 もしかしたら船員達に見つかって連れ戻された可能性が高い。後から別のグループが応援の為追い掛けてきた過程で発見された可能性が極めて高かった。

(昨日のうちに……)

 もっとちゃんと対処しておくべきだった、と歯軋りと共に胸中にぶちまけた。時間なんて無かった。対処の時間何か実際無かった。

 洋服店で時間をロスしたとは思わない。実際、洋服店でのロスが響いたところで結果は変わってないと考える。昼間まで自分は寝ていたのだ。その間に事態が動いた可能性の方が遥かに高いだろう。

 結局は重責が自分の背中に圧し掛かって行く様な感覚だった。

 戦友も双子の少女も自分の前からいなくなった。

(あの双子が何処にいったのかは到底、俺にゃわからない……)

 やり場のない怒りしか湧き上がらない。間欠泉の様に噴出したとして行方知れずにはらわた煮え滾る熱湯は自分に落ちてくるだけだ。

 だからこそ今向けるべき矛先は一つしかない。

 戦友がどうなったかは不明だ。だがこの血の量を見る限り死亡、はたまた重傷の傷を負ったのは目に見えて明らかだ。船の上でも自分達は散々敗北していたのだから。

「シープ=c…!!」

 ギリリ、と歯を食い縛って奴の名前を呼んだ。自分の戦友を食い殺した可能性のある化け物の存在を深く憎む。やはり昨晩返すべきではなかったとすら思えてくる。

 あそこでトドメを刺しておけば、と言う怒りが奥底からぞわっと湧き上がった。

「落ち着きたまえ」

「ぴごろぺっ!?」

 怒りが急速に真下へと叩き落された。頭がジンジン痛くなってゆく。同時に頭蓋の形にそった様に滑らかなカーブを描く巨大な瓦が頭の上に乗っていた。これで叩かれたのはまず間違いない。

 だから何で瓦何だとツッコミ入れたい気持ちがあるがバトラーは言葉を続けてきた。

「怖い顔をしているな五十嵐君。こんな真昼間にそんな顔をしているな」

 ふぅ、と息を吐いて首を小さく左右に振る。

「でも……俺の戦友はシープ≠フ奴に……!!」

「それとて確定ではないだろう? 証拠なき怒りを相手へ向けてはならない」

 気持ちは汲み取るがね、と告げながらバトラーは瓦を服の中へ収納する。

「だけど……!!」

 それでも尚、静まらない感情。確実にシープ≠目の仇として見ている。戦友の仇として見定めている。その目を見ながらバトラーは思った。

(どうにも……シープ♂zしに何か別の憎しみが漂う様に思えるが)

 憎しみを足し算している。別の何かへの憎しみを。これではいかんな、とバトラーは嘆息交じりに内心呟いた。自分がそんなデリケートな面に踏み込むわけにもいかないのもまた頭を悩ませる話だ。

 そこまで考えた所でバトラーはピ、と人差し指を掲げて提案した。

「よし、一先ず君はここでしばらく水面を見ながら散歩に興じていたまえ」

「へ?」

 突然の提案に五十嵐はポカンと間抜けな声を洩らす。

「……え、いやいや、散歩って……? バトラーさん、何を言って……?」

「五十嵐君。今の君はどうにも熱くなり過ぎていけない。頭を涼ませたまえ。友人の一件、少女らの一件に関して動揺し自責しているのもわかる。だが人探しになった以上は熱くならず冷静に対処しなければならぬだろう」

 ただし熱い志を否定はしていないがね、と付け加えて。

「合縁奇縁ながらもギリシャ、カリテアのビーチだ。眺めは絶景だよ、まさしく。これでも飲みながら海辺を散歩してると落ち着くものだよ」

 そう告げてひゅっと五十嵐の方へ何かを放り投げた。

 五十嵐は反射的に手を出すとパシッと小気味よい音を鳴らしてひんやりとした固い感触が手の平に伝わった。缶コーヒーの様だ。何時の間に買っていたのか、どこに持っていたのか相変わらずわからないのに執事だしなで納得出来る自分が少しアレに思えた。

「『keyコーヒー』だ。私も長らく愛飲している味の良いものでね」

 にこりと笑みを浮かべてバトラーは背を向け背中越しに手を軽く振って歩き出す。

「え、いやいや、でも探さないと……!?」

「なぁに、一〇分もしない内に再開しようじゃないか。今は小休止と行こう。それじゃあ私は近くで何か無かったか地元民に尋ねてくるから休んでいたまえ」

 それバトラーさん休んでないよな、と内心叫ぶもバトラーは背中を向けて去っていき、人混みに紛れて見えなくなってしまう。

 残された五十嵐はぽりぽりと頭を掻きながら、

「しくった……、気ィ遣わせちまったなあ……」

 確かに自分でも怒りに呑まれかけていたと今になって思う。だからこそバトラーに気を遣わせて、その上単独で探しに行かせた事を申し訳なく思った。

 ただこのままじゃ冷静さは欠ける気がして、好意に甘えようと苦笑交じりに結論付ける。

 プルタブを指でひっかけて快活な音を鳴らし缶を開ける。

「……うめぇ」

 程好い苦みとキンキンに冷えた冷たさが五臓六腑を沁み渡り、脳内を清涼にさせるかの様だ。飲んだことのない銘柄だったが、これは好きになれる味だと得心が行く。

 片手に缶コーヒーを持ちながら神妙な表情で五十嵐は歩き出す。

「夕方はこんな綺麗な海なんだな……」

 夜中とは気色が変わって大違いだと思った。

 全部呑み込む悪魔の様に真っ黒な世界とは反対の様に上質なアクアマリンの輝きを照らす陽光で七変化させて煌びやかに輝いている。自分達が恐れた海とは何もかも違う。

「顔色変え過ぎだっての。コノヤロウ」

 愚痴を零した。理由何て随分理不尽な理由だが何ともなく愚痴を吐く。

 海岸越しの固められたアスファルトの道路を右手に広がる海に愚痴を吐きながらただただ淡々と歩いてゆく。静けさにとても自分の知る昨晩の海とは思えず、また戦場なんて嘘だったかの様な光景だ。

 左手には何名もの地元民や観光客と思しき人々が何気なしに行き交っているけれど海の効果なのだろうか、自分一人だけの世界にも思えてくる。静かな空間が感じられていた。

「オララララ……。黄昏てるじゃあねえか、五十嵐雷よぉ……」

 本当に素敵な海辺だった。ただただ見ているだけで満足したかった。

 この海であんな醜態晒す事無く旅行気分、観光気分でこの地を訪れられたらどれ程幸福だったのだろうか。

「……ま。金無しの俺にゃ関係ねえけどさ」

 だよなー、と独り言を愚痴てみたりして足を進めてゆく。遠くに見える大きな観光船等が実に外国っぽさを醸し出して少しの間だけ五十嵐は何もかも忘れる心地になった。

「……オーイ、小僧よぉーっ!? 素通りはねぇんじゃああるめぇか!? こっちだぞ、こっち。オーイ!!」

 歩きながら喉の奥にコーヒーを流し込む。苦い。

 だが丁度いい。今、湧き上がった。観光気分に浸っている場合なんかじゃないだろう、と言う熱い感情をしばし落ち着けるにはコーヒーの味は最適だった。

 言われた通り、一〇分くらいこうしていたい。

 コーヒーを飲みながら海辺を散歩する生温い時間を過ごしていたいと思う。

「そうすりゃあ人探しも落ち着いてやれるだろ」

 そして今度こそ見つけ出す。戦友は難しいとしても双子の少女だけは見つけ出さなくてはならない。それが五十嵐の今の目標だった。

「いや、だから待てってのに……!! ああ、どんどん離れて行きやがる……!! オメェらあ、追い掛けるぞ!!」「今、僕らは水に何度石を跳ねさせられるかで忙しいです。僕らには遊ぶ権利がある」「むー、深長町の奴上手いですみん。ミーも負けられないのですみんっ!!」「お前ら何でそんな懐かしい遊びに興じてやがんだ、オラァッ!!」

 そして一〇分後にはまた頑張ろうと固まっている意思を更に練り固めた。

 探し出せるのかって、脳内に声が聴こえた。

 その声に『探し出してみせるさ』と強い語気で内心に吐き出す。

 何も手掛かりはないけれど、一生懸命駆け回ってやると胸の中で誓いを立てる。そしてその感情は胸の中で清々しく躍動して走り出しそうだった。こうしてはいられない。頑張らなくちゃ、と駆けだしそうな感情を。

 抑える事も無く五十嵐はコーヒーを一気に飲み干して、

「待ってろよ……、必ず見つけ出してみせる」

 そう、呟いて一気に駆けだした。意味も無くただ走りたかったから駆けだした。

「駆けだすんじゃねェよ、そしてこっちが待ってろよと言いたいわド阿呆ッ!!」

「もろばべんっ!?」

 だがスッテーンと空中で一度回転して転びかける。何かが足に引っ掛かった感覚に驚きを覚えながらも五十嵐は「と、とっとっ……!?」とどうにかバランスを取りながら、その場に転ぶ事を押し止めてバッと背後を振り向いた。

「誰だ!!」

 大声で叫びながら背後を振り向くとそこには意外にも大人数がいた。

 見覚えのある姿が並んでいる。銃器を持った青年、ディエチ=トッレ=デル=グレーコ。衝撃波を起こす美女グリード=アルタムーラ。その他に覚えある姿だ。五十嵐は戦闘していない為に印象に残っていないが他に深長町追懐、オスクーロ=コモの姿も見受けられた。

 それだけで理解した。追ってきた船員達である、と。

「お前ら……!!」

 何を持ってきたのか簡単にわかる。商品である自分達を追い掛けてきたのだ。

 道具として売り捌く為に。

 故に瞬間的に五十嵐は身構えた。

(備蓄電気は大丈夫……、屋敷を出る前に充電しといたしな……)

 逃げる手法程度には使えるはず、と動揺を落ち着ける形で心中吐露する。

 そしてその五十嵐の行動を見て勇ましいな、と感じた一人の男が愉快そうに笑った。

「オッラッラッラッラ!! 昨晩、散々ボコられたと訊いたが……オラララァ……、存外全くへこたれていねーと見える。ララ、いいぞ、そう言うのは好きだぜ俺ァ」

 そう渋い声音で喋る男性に対して五十嵐は目を向けた。

 一番奥に立つ大柄で長身の男だった。

 その男がこちらへ向けて歩き始める。男性に道を開ける船員達は口を揃えてこう言った。

 ――艦首

 その言葉の意味を理解した瞬間に五十嵐雷は全身に緊張感を走り巡らせた。

 まるで全身麻痺する様に痺れる感覚を走らせた。

 圧倒的覇気を有するこの男を見据えながら


【続】

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分かる人にはわかるキャラ、フェリス=グナティルム。

オリキャラの中では作者的に気に入ってるキャラなのだ……色々爽やかでね!!

そして新キャラのリアフ=マウナ=ケア。並びにエヴァンジェリン=エテルになりますね!!

リアフな恋模様に関しては……ま、追々ね。

そして最後に艦首さんです……!! 次回は艦首と五十嵐の対決になりますね……!!

では次回もお楽しみに!!

と言う体の第一四話をよろしくなのですー♪