Re: 第一二話『免罪スパイラル』 ( No.48 )
日時: 2013/02/22 20:25
名前: 迅風

にゃー、更新そこそこ手間かかってしまったです……!!

ちょい文章の流れに納得出来なくてね……!!

ですが遂に書きあがったぜ、イェー!!←

まぁ、相変わらずツッコミどころ多い文面だけどそこが私の文章なのだと納得しつつ。

本編をどぞです♪ ごゆるりとだにゃ♪


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 第一二話『免罪スパイラル』


        1


 サロニカ湾近隣の海港を足を上下に動かしながら水中を泳ぐ姿があった。

 もふもふとしたクリーム色の体毛に紫色の怨念が見える様な不気味な面貌をした化け物としか思えない生命体が活動をしていた。一言で言うなら羊の姿をした化物。そして当然の事ながら安栖里の定式を喰らわされた羊であった。

 水中で一層ふわふわ感すら増した様に思う手足を懸命に動かして移動する。

(うー……。ありませんねー……)

 羊はあるものを探していた。

 先程まで夜中の一件でショックを受けて塞ぎ込んでいた羊であったが彼にとって『不幸』とは慣れてしまった手馴れたものであり、そんな事実は同時に諦めの成れの果てだ。何時までも塞ぎ込んでいたとしても事態は何ら変わり映えのしない景色に過ぎない。

 ならば水面の映る自分に嫌気の一つでも差して行動を移した事は当然の結論だった。

 だが海に沈んだとして何が彼を変えるのか。

 何が事態を換えてくれると言うのだろかと言う話だろう。昨晩の密輸船である船の船員であるバンボラ=サッサリの定式等、羊は全く知らぬ存ぜぬ話でしかない故に人形を手に入れる事が一つの解決である事も、はたまた安栖里仮の定式を壊そうにも本人が現在行方不明である事も羊は知らない。

 解決策等何一つありはしないのに何故、彼は海を目指したか。

 別に投身自殺で嫌気の差した人生にトドメを刺すでもない。

 彼は水面に沈んでいるであろう一つの希望を探している他にならなかった。こんな状況を打破出来る。否、快刀乱麻のごとく解決出来るかもしれぬ存在を探していた。

 白桜。

 昨晩、五十嵐雷の化け物ことイガラシとの戦闘の際に海に紛れて消えた名剣である。あれさえあれば衣服と仮面を切断出来るのではないか。それが羊の考えた解決策だった。あれだけの切れ味だ。可能性はある。

 しかし探し出すのは困難な話だった。

 砂漠で米粒を探す程に苦労を強いられる話だ。世界の七割を占める海の広大さを考えれば海流に流れて消えた刀剣一刀を如何にして探し出せると言うのか。可能性としては二つの希望、即ち時間にしてそこまで経っていない事と白桜が金属製な以上は重みで海底に沈み、流されにくいと言う事を考えたりもする。

 けれど現実問題、見通しのいい今の海でも影も形も羊は見出す事は出来ずにいた。

 当然だ。人の腕一本分の存在、目に眩い白色の剣としても海の中で一人の力で探し物が出来る様な甘い世界ではない。この海と言う存在は。どこを泳げども姿は見えない。

(やっぱり……何処かへ流されてしまったんでしょうか……?)

 時間にして丸一日経っているわけではないが。

 金属の重さがあったとしても質量は海から見てみれば軽い存在だ。流されてとうに何処かへ行ってしまった説は濃厚だった。だが諦められるはずがない。今の自分にとって唯一の希望があの存在なのだ。あの船へ戻って定式持ちの連中と戦い仮面をどうにかするも考えはしたが目に見えるのは敗北の姿だけ。

 敗北必至な羊は情けないと思いながらも奇跡の刀剣に縋るしか無かった。

(何処かにありませんかねー……)

 五分五分の期待と諦めを胸に抱きながら羊は足を上下にばたつかせて海中を進む。何名かのダイバーが自分の姿を見て混乱し水死体になりそうなところを仕方なく救助しながらの行動の為に手間暇かかる何とも言えぬ探索活動だ。

(でも探し出すしか僕に道はないし……!!)

 何もせず空虚に時間を費やすわけには決してゆくまい。

 羊は海中を泳ぎながらふと岩場の向こうに目を配った。何かが光った様に見えたためだ。金属光沢の様にギラッと輝いた光の反射のような輝き。もしかしたら、という淡い期待を胸に羊は泳ぎ、そちらへと進んでいった。

 そして羊は見た。

「…………」

「…………」

 鮫の群れをを。

(……うっおぁああ……)

 喉の奥から何とも言えぬ呻き声が口内に反響した。額から頬を伝って冷や汗が垂れ流れる嫌な感覚を感じる。昨晩に続いて二度目の感覚だ。

 化け物三頭と比べたらマシだと言う意識は湧かなかった。

 何故なら鮫の数が合計一二頭泳いでいるためだ。昨晩の四倍、その上皆デカい。中央にどっしり腰を据える額と右目に大きな傷跡を持つ親玉オーラ満々な鮫に至っては巨躯でゆうに一〇メートルはあった。他は大概五メートル程か。

 何にせよ羊の感想は一つだ。

(ノぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!?)

 何で、と内心で何度も大声で叫んでは消えてゆく。胸中も脳内も混乱に満ちていた。何で連日海でこんな怪物に遭遇するのか自分に嫌気すらさしてくる。

 そんな羊の混乱等知る由もない鮫の親玉は右のヒレでふむと考える素振りを見せた後に、

「…………」

 とりあえず右ヒレでひらひらと挨拶してきた。

「……♪」

 出来るだけ笑顔を取り繕って羊も左腕を振ってにこやかに挨拶する。

 互いににっこりと穏やかな笑顔を浮かべた。

「クァロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロ!!!!」

(仮面だから笑顔の意味なかったぁあああああああああああああああ!!)

 どちらにしても効果は期待できなかったが。

 仮面装着中の羊にとっていくら笑顔を浮かべていたところで陰に隠れる話。仮面の奥で笑顔は消え去るだけの無為な笑みに過ぎない。そもそも、どちらにせよ鮫側としては見た目こそ化け物だが全体的に羊と言うだけでエサのカテゴリーには収まっていた話だろう。

「クァロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロ!!!」

(ちょっ!? 鮫、鮫怖いですって!? って言うか泣き声こういうのでしたっけ!?)

 動揺する羊であったが長年の経験から逃げのスキルは随分と磨かれてきた。それを活用して叫び声が聞こえたと同時にすでに彼は海中をミサイルの様に逃げている。

 だが単純な話、水中で人間と鮫が戦った場合軍配はどちらに上がるか。

 一般的基準で指した場合、答えは鮫だ。

 ただしこの海中鬼ごっこをしている羊は長年の不幸により身体能力は高い身の上。故に鮫から逃げ切れる可能性は十分にあった。戦うには数が多すぎる上に重傷の身の上故に勝ち目はないが本気で逃げようと動けば彼は、

(囲まれたぁああああああああああああああああああああああああああああああ!!!)

 見事、総勢一二匹の鮫に囲まれる形になった。

 ゆらゆらと円を描く形で泳ぎ回る鮫たちは目を爛々と輝かせて獲物を狙う。

「クァロロロロロロロ……」

 威嚇する様な鳴き声が聴こえる。まるで『坊主、安らかに死にてぇなら大人しく食われるこった』とでも言っているかの様だ。

(そんなわけにはいきません……!! 僕はもう一度出会いたい人達が……!!)

 無意識に自分の中から零れる心の声にしがみ付き生への執着を示す。

「クァロロロロロロロ!!」

「ロロロ!!」「ロッロッロッ!!」「スクァアアアアア……!!」

 そんな羊の意思を嘲笑う様に鮫たちが牙を剥き鳴き声を発する。

 まるで『はっはっは、無茶言う小僧だぜ。テメェの命運はもう尽く尽きてるってのによ』『全くだぜ頭ぁっ!!』『本当に笑い話だヒャハハハ!!』『ダメだ腹いてぇ……!!』とでも言っているかの様だった。

(哂いたければ哂うがいいですよ……、だが僕は負けません!! 必ず、貴方たちを蹴り飛ばしてでも生き延びてやる!!)

 そう内心で叫び、裂帛の気合を羊は放出した。生きる、という執着に特化した気迫は鮫たちを襲い彼らのサメ肌に鳥肌が立つ様でもあった。

 そしてその気迫を感じて鮫の親玉が前へ躍り出る。

「クァロロロロロロロロロロロロ……(こいつぁ面白ェ……、冗談でも言っているかと思ったら中々腰の据わった野郎だぜ……)」

 ここいらの海域にて鮫のボスとして知られる大鮫、鱶神のフェローチェは肝っ玉の据わった野郎と羊を判断した。故に手を抜く気配を見せぬ獰猛な覇気を放出しながら鳴き声を零しつつ羊へと単身ゆったりと向かってくる。

「ロロロロロ!!」「スクァアアアア……!!」

「クァロロロォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」

 途中、自分達も御伴しますとばかり後方をついてきた鮫二頭に対してフェローチェは大声で唸りながら戒めた。自分の戦いに邪魔だしするんじゃないぞとばかりに皆を威嚇する。

 羊は感じた。

 この鮫只者ではない、と。

「クァロロロロロロロロロロッ!!」

 さぁ手出しする奴はいないぜ、と。盛大に見せてもらおうじゃねぇかお前の生きる意志って奴をよお、と。鮫の鳴き声と瞳の輝きはそれを羊に伝達していた。

 羊はぐっと身構え、

「■■■■――!!」

 仮面の奥から放たれる凶悪で不気味で不愉快な声を発しながら鮫へ向けて突進する。

「クァロロロロロロ!!!」

 そしてその姿を満足そうにフェローチェもまた水を切り裂き駆け巡るのだった。


        2


 ギリシャ共和国アテネ市、市街を歩く一組の姿があった。緑色の頭髪を風に揺らす年齢の割にしっかりとした体躯の少年が旅は道連れとばかりに壮年の男性と共に歩いていた。

 五十嵐雷、そして老執事バーガンディ=バトラーだ。

 バトラー執事長はすっと伸ばした背筋で気品溢れる立ち振る舞いに対して五十嵐は若干ガサツな雰囲気を放っている為にある種不調和でもあり調和的でもあった。それを上昇させるのがまた五十嵐の食べ歩きでもある。

「味はどうかね、五十嵐君?」

「肉はやっぱ美味いってのが感想ですかね」

「それは吉報」

 口いっぱいに羊肉を頬張りながら五十嵐は何とも言えぬ感激に打ち震えていた。随分と久々の肉料理の味わいに感動しているのだ。売られる前に日本にいた頃も肉は重宝していたが基本薄肉だった為にこういったガッツリとした肉は実にありがたい。

 羊肉を焼いて串に刺しただけの食物だが本当に美味かった。

「個人的には……はぐっ……もう一味欲しあぐっ……感じだけど……ウメェや……!!」

「わっはっはっ。日本人だと少しばかり、このスブラキには物足りなさを感じてしまう節があるからな」

 日本の焼き鳥に近いこの料理はスブラキと言うギリシャ料理であり、主に羊肉を一口サイズに切ったものを串にさし炭火焼した単純な料理である。ただし単純に焼いただけである為に香ばしさはあるが、味に変化は無い。

 その為にバトラーは「少し貸したまえ」と告げて五十嵐のスブラキを手に取ると、ポケットから醤油一瓶を取り出し適量をかけた。

「うっわ……!! すっげぇ美味くなった……!!」

 日本人好みの味わいに感動する。醤油は偉大だなあ、と破顔しながら羊肉を食べ進めた。バトラーが瓶一つポケットに入れたのにちっとも膨らみが出来ない事が不思議だったが執事だしな、と納得して自己完結する。

「しかし、本当ありがとうございます、バトラーさん。俺、金無かったから……」

「子供が大人に気負う事はあるまいよ。スブラキ一串程度、気兼ねする必要はない」

 朗らかに笑いながらバトラーは「腹を空かさせるわけにいかんからな」と楽しそうに笑って返してくれる。その笑顔と、屋敷を出た後の行動を思い返して五十嵐は彼がどういう人物なのか大体わかった。

 見る限り、この老人は子供好きなのだろう。

 今向かっている場所へ赴くまでも近所の子供に屋台で食べ物を買い与えたり、頭を撫でたり、楽しく談笑したり、そして自分を気に掛けてくれたりと子供に優しい。

 当然五十嵐は甘えすぎる何て事はしないが。

 それでもこの老執事は優しい老人だった。

「さて」

 五十嵐がそんな事を考えている最中にバトラーは少し真剣さを加えた声で問い掛けた。

「あそこで合っている……かね?」

 そう言いながら指さす先にあるのは一つの店だった。

 五十嵐は「ええ」と申し訳なさそうに頷く。バトラーは小さな声で「……やれやれ、顔見知りの店で助かったと言うべきか……だが謝罪はしなければな」ふぅ、と息を吐きながら歩を進めた。

 五十嵐も彼の後へ続く形でその店へ向かう。

 一言で言えばその店はオシャレな店だった。ショーケース内の商品の配置とライトの当て方、店の雰囲気、店のカラーリング。基調を赤で象った店内には常連客やら旅行客が足を通わせているのが見てわかる。

 しかしよくよく見ると一カ所目立つ場所があった。

 窓ガラスに見事な穴が開いている。丁度人一人分入れる様な穴だ。

 何故そんなものが空いているのか。

 その理由を五十嵐はわかっているからこそ、先にこの場所へ出向く必要があったのだ。

「【洋服専門店フレア】」

 バトラーが小さな声でギリシア語で書かれた看板を読み取った。

「日本でも見覚えあった場所でしたから……」

「だろうね。洋服専門店として中々有名な店だからな、ここは。フランスの名家の一つに数えられるピュセル家の長女が一代で創立させ瞬く間に事業拡大に成功した……、と言う経緯で有名な店だからな」

「ひょっとして天王州家ってその、ピュセル……? 家とも親交あるんすか?」

「いいや。無いなほとんど。パーティーで顔合わせ程度はあるだろうが、親交はそれほどある家柄ではないね」

 まぁ別の家とは少しあるが、と付け加えて、

「親交があるのは家ではなく人だよ。アテネ様のドレスがあるだろう?」

「ああ、あの黒いドレスですよね?」

「そう。あのドレスを特注で作って頂いたのが、この店だ。以来、洋服は大抵ここで揃えているのだよ、ギリシャではね」

 なるほど、と五十嵐は納得した。

「だからまあ……。顔馴染で顔が効く、初対面ではない間柄と言うわけだ」

 弁解くらいは出来ると思うよ、とバトラーは顔を軽く五十嵐に向けながら入店した。

 どうして五十嵐雷は洋服店に用があったのか。

 戦友や双子少女の事を後に回す形になっても、ここへ先に出向いた理由。それは一つに行動を制限されるわけにはいかぬ事と、もう一つ。良心の問題で先に訪れておきたかったのである。何故ならば、五十嵐雷はこの店である問題を昨晩起こしてしまってい為だ。

「はぁ……」

 申し訳なさそうに頭を軽くかいた。

(……致し方ないっちゃ言え……)

 服盗んじまったからな、と小さな声を内心で吐露した。

 窃盗。それが五十嵐の昨晩やってしまった事だ。昨晩に屋敷へシープ≠追い掛けて走る過程で五十嵐は全裸であった。風邪を引くとかの心配よりも全裸で走る事はさしもに恥ずかしく同時に嫌気がさしてならず。

 五十嵐は逃走中にふと見覚えのある外観の、日本でも有名なこの店の前で一度申し訳ないと手を合わせた後に近場にあった金属の破片や手近なものを使ってガラスに穴を刳り抜いて侵入し男物の服を拝借した、と言うのが大まかな流れである。

 実際、今彼が着用している衣服がまさしくそれだ。

(バトラーさんが事情も事情だから立て替えてくれるっつーけど……ホント申し訳ねーっていうか俺情けねー……)

 頼ってばっかじゃんか、と愚痴を零す様に呟いた。

 だがだからこそ、自分はしっかりと謝罪しなければならない。ガラス代と衣服を合わせたぶんと誠意を込めて謝罪しなければならない。そう考えながら五十嵐はバトラーの後に続く形で店内へ入った。

(事情があろうが無かろうが泥棒は泥棒。心から頭下げるぞ、俺!!)

 許してもらえるかどうかはわからない。

 相手は商業のプロであり大人。故にふざけた態度で謝るなんて事は許されない。だから、

「……と言う経緯なのだが」

「そうかい!! じゃあ洋服代とガラスの代金払ってくれりゃあ、それで手打ちだね!」

 解決していた。

 五十嵐はズコーっと前のめりに突っ伏しながら「解決早ッ!?」と信じられない様な声で倒れこけている。そんな五十嵐に向けてバトラーは、

「ああ、彼だパラさんや。今の話の少年は」

「ほう、この子かいバトラー!! がっはっは、健康優良児みたいだね!!」

 泥棒扱いであろうはずの五十嵐に対して実に豪快で大らかな声音が響く。そして声量が中々に大きい。五十嵐が視線を向けると、そこにはふくよかな体型の四〇代はいっているであろう女性の姿があった。服装はカジュアルなものなのだが、インパクトは強い。メガネをかけているのだが青を基調としたグレーの縁の派手なメガネ。短髪の金髪。指には無駄に宝石の指輪は一〇個はめられていた。

 何か無駄にインパクト強いなこの人……!! と五十嵐は冷や汗交じりに思う。

 だがインパクトに少し驚きはしたが自分は責められる身の上故に緊張感をしっかりと持った後に五十嵐は静かに立ち上がり名前を名乗った。

「えっと、あの……。俺、五十嵐雷って言いまして……その」

「がっはっは、かしこまんなくて平気さね、雷君!! アタシはパラス=ディーヴァって言ってね!! 地元の奴らは大概パラさんって呼ぶから、雷君もそう呼んでくんな!! それで、アレなんだって? 全裸で夜道を走ったんだってねー!! 寒かったろ?」

「え、あ、はい……。ま、まぁそうなんすが……」

「いやぁその癖風邪もひかずに今日やってくるたぁアタシも中々驚いたさね!! あ、そこはウチの洋服のおかげかね? そうそう着心地どうだった? ウチの商品は質がいいだろう? 身内贔屓じゃないけど、社長の仕立て上げる服は皆、大人気さね!!」

「あ、ええ、そうっすね……。日本でもそりゃ大人気なんで……」

「だろう、だろう? そうだとアタシはわかってるさ!! ピュセル社長のデザインする衣服は大概大当たりするからねぇ!! おかげで就職したこっちとしちゃあ大助かりだよ、人気があって!! 女一代で……大したもんさね、ウチの社長は若いってのに!!」

「そうっすねー……。雑誌でも特集組まれてたりしますし……」

 五十嵐は相槌を打ちながら、

「って、いやいや、そうじゃないっすよコノヤロウ!?」

 頭を抱えて話題をぶった切った。

「あの、俺ここに自首する気持ちで来たんですけど!?」

「がっはっは、嫌だよー自首なんてこの子は。ウチはただの洋服店だってのに逮捕なんか出来るわけじゃないっての」

 手をひらひらと振って豪快に笑うディーヴァに対して五十嵐は何だ自分の感覚が間違ってるのかと自問自答を繰り返した後に、五十嵐は深呼吸してバッと頭を下げた。

「昨晩は本当申し訳ありません「頭上げな雷君」へぶらっぽ!?」

 五十嵐は真後ろへ一度バク転し床に後頭部を打ち付けた。原因は頭を下げた先に待っていたディーヴァのでこぴんである。

「わっつぁ……!?」

「がっはっは、勢い強すぎたかね、アタシとした事が」

 ぺちんと額を平手で叩きながら痛快そうに笑う。

「力強ェ……!!」

 異国の人は皆、こんな感じに強いのだろうかと定式持ちな船員達を思い出しながら五十嵐は目尻に僅かばかり涙を蓄えながら呟いた。

 そんな五十嵐に対してディーヴァはぽんっと頭の上に手を置いて、

「そんな気負うんじゃないよ、その歳で。大変な事があって、服が無くなってて困ってたんだろう? だったらウチの出番じゃあないかい!! 子供に風邪なんてひかせるわけにゃいかないからねえ!!」

「でも、俺……ガラスだってああしちまったし……」

「がっはっはっ、アタシとしちゃあガラスをああ出来たアンタを評価したいくらいさね!! それにアタシとしては嬉しい話さね。困ってる時に頼りにしてくれたみたいな話なんだろう?」

「それは……確かにそうっすけど」

 だったらいいじゃないか、と腰に手を添えてそれで話は解決だよとばかりに笑みを浮かべるディーヴァを見ながら五十嵐は深く感謝した。バトラーの説明によりフォローを入れてもらった部分も作用しただろうが、彼女の出来の悪い息子を叱る様な暖かさにも感謝を抱く。

「謝って手打ちってことさね。アタシもこれくらいで一々怒る気はなかったからねえ。盗まれたのも男一人分の衣服だったし困ってたのかねえと思って心配だったさね」

「何ていうか……本当ありがとうございます……!!」

「異国の地で一人ぼっちじゃ不安だろうねえ……大変だろうねえ……。バトラー、この子の面倒しばらくでいいから、しっかり見てやるんだよ!!」

「元よりそのつもりですがな」

 それ初耳なんすけど、と言う五十嵐のツッコミを背にバトラーはスタスタと五十嵐が空けた穴の方へ足を運ぶ。面倒見てもらうのは流石に、と言い掛けた五十嵐だったが、バトラーが穴の開いたガラスに近づいてサーッとカーテンを閉めて、サーッとカーテンを開け放った後には新品同然のガラスがキラキラ輝いていた。

「だから執事ってなに!!?」

 穴ってかガラス何処いったの!? と叫ぶもバトラーは「わっはっは」と痛快そうに笑うばかりで、ディーヴァに関しても「流石の手腕だねえ」と感心しているばかりだ。

「では、これは服の代金になるパラさん」

「あいよ。お買い上げありがとうね」

「まあ、近いうちにまた買い物に来るだろうがね。彼の服の予備もいるだろうし」

「がっはっは、サービスしてあげるから多めに勝ってっておくれよ!!」

 バトラーはその事をディーヴァに話してから五十嵐に向けて「さて、五十嵐君。一応この件はこれで一段落となるが、何か急を要すものはあるかな? 着たい服とか」

「いや、流石にそこまで迷惑かけるわけには……」

 と、言い掛けた五十嵐であったが一つあった事に気付いた。

「あ……」

「あるのかね?」

「う……いや、そのTシャツ一つ……。この服の下、すぐ裸なんで……そんないくつも盗むのは罪悪感あったって言うか……」

「そう言えば服をたたんだ際にTシャツは無かったな……。しかし、それなら昨晩のうちに着せておいたシャツを着ておけばいいものを……何故脱いで屋敷に置いてきたのかね?」

「いやあ、借り物なんで……」

「律義だな、まったく」

 苦笑を零した後に、

「ならばシャツを一つ買ってゆこう。品を見てくるとしようか五十嵐君」

「何から何までお世話になります本当」

 頭がさっきから下げっぱなしだな、と苦笑いする気分で五十嵐は感謝を述べた。

「シャツは確かこちらだったな。ついてきたまえ」

「了解っす!!」

 洋服専門店【フレア】に於ける衣服の品揃えは他の洋服店と比べても遜色なく多い。有名な店とライバルとして競り合う店なのだから当然であり、同時にこの店が繁盛するのはやはりデザイン性の良さが大きい。シャツ一つに関してもネタから真剣なものまで数多くそろえられている。

 シンプルなデザインが並べばとても勇気のいりそうなデザインまで多い。その中でもこの店の特徴は火をイメージの模様の衣服が多い事でも有名だ。

 さて、そんな数多い衣服の中でシャツを選ぶ五十嵐は、

(なるべく安値がいいよなー……。迷惑かけるのもアレだし……)

 適当に手頃な値段の品を探していた。その最中声が聴こえる。

「しかし何か騒がしいな……」

 近場。店内に聞こえる女性と思しき口論にスルーの気持ちを膨らませる。何が理由かはわれ関せずだし関係ないのだが少し気にかかる気持ちはあった。ただまあデリカシーには欠ける為にシャツ選びに専念する形で五十嵐は歩を進める。

 そんな時であった。

「逃げるなフェリス――――――――――――――――――――――――ッ!!」

「脱兎の如く逃げるわよ、バカっ!? って、きゃっ!?」

「どわぁっ?」

 ビターンと音を立てて五十嵐は腹部に平手打ちされる様な衝撃を受けた。そしてほぼ同時に背中に随分と軽く柔らかな重みが圧し掛かる。

 何だ? と、疑問を呈す間もなく背中の上に座る少女は憤慨する様に叫んで告げた。

「だからこんなの着れるわけないでしょう!?」

「えー、いいではないか。安心せよ、フェリスならば似合うとわっちが断言しよう!!」

「いやいや、服小さ過ぎ!! 絶対サイズ合わないから!!」

「主に胸の所為でな。わっちへの嫌味かフェリス!!」

「嫌味じゃなくて素直な感想だから!! リアフからも何か言ってくれない!?」

「そうねぇ……。ねぇエヴァ? この服だと流石に襲われるか、逮捕されるかだから流石に止めてあげてね?」

「うん、牽制ありがとう。でもその説得は嫌だな……!!」

「そこは、その……ゴメンね?」

「……ええ……。まぁ否定要素がないのは自分が一番わかってるからいいんだけどさ……」

「ところでフェリス。一つ言っておきたいのだけれど」

「? なーに?」

 きょとんと頭に疑問符を浮かべる少女に対して大人びた容姿の女性はコホンと一つ咳払いした後にちょいちょいと右手の人差し指で下を示す。

「降りてあげた方がいいと思うわよ、うん」

「ふぇ?」

 そう告げられて少女はすーっと視線を下へ下へと下げてゆく。そして視線が一人の少年と交差した。黄緑の髪の少年、五十嵐と視線を合わせて少女はしばしの隙間を言葉に空けた後につ、と冷や汗を垂らしたと同時にしゅばっと立ち上がった。

 そしてぺこりとお辞儀をして、

「ご、ごめんなさい!!」

 謝罪の気持ちを込めた発言を五十嵐へと送り届ける。

 自分も罪を許されている上にそんな大した事をされたわけではない五十嵐にとって目の前に映る少女にどことなく親近感を覚えた。だから五十嵐は平然とした様子で。

「ああ、平気平気。結構鍛えてるし痛くもかゆくもねーって」

 だから気にすんな、と目の前の少女へ言葉を贈る。

 そう返されると少女はほぅっと一安心した様子でぽふっと頭の帽子を手で押さえながら「ありがとう」と嬉しげに呟いた。

「五十嵐君。何かあったのかね?」

 そのタイミングで更に一名が加わる。騒ぎを訊きつけた様でバトラーが相変わらず規則正しい足音を刻みながらやってきた。その後ろにはパラさんも一緒に様子を見に来た様だ。

「ああ、そんな大した事はないっすよ?」

「まぁ、それは雰囲気的にわかるが」

 何か喧騒の様な空気は感じられない事からバトラーも差して動じた様子は見られない。

「ああ、フェリスたちかい」

 フェリス、と言う名の少女を見ながらディーヴァは「相変わらず元気でいいねえ」とにこにこ笑顔で接している。先の謝罪からとっても五十嵐には迷惑な輩には見えなかった。

 そして少女はディーヴァの反応を見て知り合いなんだと察したのだろう。

「五十嵐君……だっけ? さっきはゴメンねー重かったでしょ?」

 気まずそうに後頭部に手を回してあはは、と申し訳なさそうに彼女は告げると、手をそっと腰に添えてぽんっと帽子を左手で抑えながら見る者を惹きつける様な黄金色の瞳を瞬かせて、

「私はフェリス。フェリス=グナティルム」

 よろしくね、と明るい笑顔と共に彼女はその名前を紡ぎだした。


【続】

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はい、第一二話でした!!

鮫に襲われるハヤテ君です!!

文章通りにハヤテ君は白桜で仮面と着ぐるみを壊そうと考えて探索してたんですよねー。残念ながら見つかりませんでしたが……!! そして鮫は近海の王者フェローチェです!!←

そして洋服専門店【フレア】。ここに関しては前作の名称変更ですねー……!!

ピュセル家と言う家柄なんですが、まあ、そこは後々に。

そして出てきた新キャラ三名……最後の少女はわかりやすいな前回を読んでた人には……。

さて、それでは次回!!

と言う名の連続更新二話目なのですがね。よろしくです!!