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対象スレッド 件名: 【最終話】どんぐりで見た夢 〜 鬼か人か
名前: どうふん
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【最終話】どんぐりで見た夢 〜 鬼か人か
日時: 2020/05/16 09:33
名前: どうふん


この作品は冒頭でも申し上げた通り、拙作「鬼か人か」の続編です。とはいえ、ヒナギクさんの相手が誰かという問題はさておき、各キャラにとっての原作未来の一形態になれば、と思っています。
あとは、鬼太郎系のキャラやヒスイ、理沙あたりも描いてみたかったのですが、本作は以上をもって完結といたします。
短編三作だけでしたが、お付き合いいただいた方々に心より御礼申し上げます。

                                       どうふん




第3話:夢のまた夢


「うおーっす。やっぱりきていたか、ちっこいの」
「あら、ナギさん、その様子では締め切りには間に合ったようですわね」
今、綾崎ナギ(旧姓 三千院)はハヤテが瀬川虎徹とともに立ち上げたベンチャー会社の広報・美術を担当するだけでなく、自作の漫画を少年誌に連載している。
「よくわかったな」
「それはわかりますわよ」アリスが目を遣った先には、ラノベ作家である春風千桜がパソコンを前に取りつかれたように呟いていた。「締め切りが・・・。しめきりが・・・」

「ここ、座るぞ」遠慮なくアリスの向かいの席にどっかと腰を下ろしたナギはいつものコーヒーとケーキを注文した。
そして二代目という表現が適切かどうか、アテネの瓜二つの娘であるアリスは今日も特等席で優雅に紅茶を啜っていたが、椅子から飛び降りてナギの元にコーヒーとケーキを運んできた。実のところ、これを楽しみにやってくる客は多いのだが、このきまぐれなお姫様はいつもご期待に応えるとは限らない。もっとも「そこがまたいい」と言い出す客もいるくらいで、そのアイドルぶりは手に負えない。
待ちかねたようにケーキをフォークで掬ったナギは、頬張るか、と思いきやアリスの鼻先に運んできた。「ほい、お疲れ様。あーんして」
「赤ちゃんではありませんわよ」ちょっとむくれて見せたアリスだが、それでもぱくん、とフォークの先に食いついた。
その様子を目を細めて眺めていたナギが二口めを差し出したが、軽く睨まれた。「いい加減にしなさい」

「ところでさ」口をもぐもぐさせながらナギが、向かいに座っているアリスに尋ねた。「ヒナギクはどうした」
「また世界の平和を守りにいっているみたいですわね」
「相変わらず忙しい奴だな。できればお前とヒナギクの掛け合い漫才を聞きたかったんだが」
「失礼ですわね。漫才なんかしておりません」
そうは言っても・・・、ナギが顔を横に向けると千桜と目が合った。やつれた表情と目のクマは明らかに徹夜明けのものだった。大方、千桜もネタを探しにここにやってきたが、ヒナギクがいないので当てが外れたに違いない。代わりにナギとアリスの掛け合いに聞き耳を立てていた。
千桜やナギばかりではない。ヒナギクとアリスをお目当てに、元ゆかりちゃんハウスの住民や元生徒会三人娘たちの他、犬山まな、ネコ娘の姉妹、(ただし今ではまなの方が姉に見える)、アニエス・・・。縁ある仲間たちが入れ替わり立ち替わりどんぐりを訪れている。
誰もがどんぐりのマスターとマスコットガールを愛していた。


「あれ、ヒナギクちゃんはいないの」
新たに入ってきたのはどんぐりのかつてオーナーであった加賀北斗だった。手にはA4サイズの封筒を抱えていた。分厚く膨らんでいるところを見ると、何かの資料が入っているらしい。
加賀はかつて高校生のヒナギクをアルバイトとして雇っていた。二年に亘り行方知れずとなっていたヒナギクが戻ってきた時に涙を流して喜んだ加賀は、ヒナギクにここに就職しないか、と誘った。
「もう高校もやめたんでしょ。これからはずっとここで一緒に働いてくれない?」
「ええ、喜んで」飛び上がりかけた加賀であるが、次のセリフに意表を突かれた。「この店の経営を私に任せてもらえませんか」え、それは・・・。
「今まで雇ってもらいながら、アルバイトの立場に甘えてこのお店に大した貢献はしていなかったと思うんです。お詫びを兼ねて、この店を繁盛させる取り組みをさせてもらえませんか」
実のところ、加賀のいう就職とは永久就職のことであり、言葉以上に目に熱い想いを込めて伝えたつもりりだったのだが、この鈍い少女には伝わらなかった。
(ちょっと、遠回し過ぎたか・・・)そればかりでなく、いきなり過ぎたのも確かであった。

結局、加賀はヒナギクの提案をとりあえず了解して受け入れた。そして幸か不幸か、下心に気づかれる前に鬼太郎という彼氏の存在が明らかになった。
かくして加賀は涙を呑んだ。もっとも気づかれていれば、ヒナギクは決して店長を引き受けなかっただろうから、ある意味、それほど悪い結果ではなかったともいえる。
その後、加賀は新店長のサポートに徹し、三年後、予想以上に業績を上げたヒナギクにこの店を正式に譲った。

「いい場所は見つかったんですの」アリスが靴をポイポイと脱ぎ、椅子の上に立ち上がって加賀の手にした封筒を覗き込むそぶりを見せた。
今、ヒナギクは2号店を開いて牧瀬恋葉を正式に店長にする計画を立てており、加賀は場所探しに協力していた。何だかんだと言っても潰れそうな喫茶店をほとんど道楽で経営していた加賀である。地元ではそれなりの名士で、人脈もあった。
「3つほど見つかったよ。まあ、お薦めはこれだけどなかなか面白かったな。すぐ近くに『妖怪アパート』とかいうところがあってね。妖怪の目撃情報も・・・」
「お、おい。その話、もっと詳しく」目を光らせて食いついてきたのは千桜だった。
隣でナギが何とも渋い顔をして口元を歪めていた。
妖怪アパートって・・・。そこは多分、お前の知らないところじゃないぞ。何回か来たこともあるじゃないか・・・。
「まあ、ただの噂かもしれないかもね。そのアパートの本当の名前は『爽快アパート』といって・・・」
千桜がテーブルの上に崩れ落ちるのが見えた。



どんぐりで見た夢【完】