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対象スレッド 件名: Re: 憧憬は遠く近く 第四章 〜 本当の君と
名前: どうふん
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Re: 憧憬は遠く近く 第四章 〜 本当の君と
日時: 2016/01/12 21:58
名前: どうふん


前回投稿にて、この物語、というか当方の設定における不透明な部分は全部ばらしたかな、と思っておりますが、見落とし、矛盾点等あればツッコミ歓迎します。
ただし、不思議の姫の能力については、当方にも全くわかりませんのでお含みおきを。

後は、タネも仕掛けもないぞ、ハヤテ君。



【第5話 シナリオの誤算】


ヒナギクにしてみれば。
いっそ、このままでも良いんじゃないか・・・そんなことを考えたことさえある。
ハヤテは自分にはっきりと愛情を示してくれる。
そして今、自分が好きなのは間違いなくハヤテなのだ。ハヤテと恋人同士のような時間を過ごすことは楽しかった。
好きな人から大切にされる心地良さに身を委ねていたこともあった。

だが、その一方でヒナギクの心に確実に大きくなっているもの。ハヤテの気持ちに応えられない辛さであった。
そして、それ以上に、自分のどっちつかずの態度がハヤテを苦しめていることにも気が付いた。
(私は何てことをしているの・・・)また自己嫌悪に苛まれた。

(やっぱり、ダメなんだ、今のままじゃ・・・。ショウタ君・・・、思い出したい)
毎日幾度となくヒナギクは呟いている。
だが、ヒナギクはまだ気づいていない。それがハヤテのために、でもあることに。

懸念はもう一つあった。
ハヤテの気持ちを受け入れようとしたら、あの時と同じことが起こるのではないか。
また意識を失うほどの発作が押し寄せてくるのでは・・・それは確かに現実の恐怖だった。


そしてヒナギクの記憶や思いに関係なく、時間は過ぎていく。
既に一年半が過ぎ、高校卒業、大学入試の結果発表が近い。
同じ大学に行けるかどうかもわからない。それぞれの進路も具体化していく。

どうあっても今まで通りの時間をハヤテと一緒に過ごすことはないだろう。
不安定な気持ちだけでつながっている関係がこの後続くのか。
今、はっきりと決着をつけないと、自然消滅していくのではないか。
それでいいのか・・・何度となく悩んだことを今ヒナギクは改めて思い返していた。


真後ろにいるハヤテの顔と体がそっと近づいてくるのに気付いた。
「ヒナギクさん・・・」
「あら、何かしら」


************************************************************::::::


(この体勢は・・・マズイ)ハヤテは焦っていた。
ヒナギクをテラスに連れ出し、背中から耳元で愛の言葉を囁き、はっきりと拒絶されなければ強引にでも抱き締める。そのまま一気に既成事実(キス)まで持ち込む。
これがハヤテの考えに考えた実に単純なシナリオだった。
セリフも必死で考え、何回もリハーサルした。

今までは概ねシナリオ通り進んでいたが、一つ計算違いがあった。
ヒナギクの耳元に口を寄せるより先に、ヒップに密着してしまった。
(これじゃまるで痴漢の手口じゃないか・・・)
高所恐怖症のヒナギクは、いかにハヤテに支えられていても若干腰は引けている。さらに女性の体形を考えずに無造作にぎりぎりまで接近すれば当然の成り行きだった。

ここで飛び退くのは簡単だ。しかし、その後立て直すのは難しい。
それに、しっかり支えていますと言った手前、もし手を離してしまったらヒナギクがどれほど怒り狂う、いや取り乱すことか。

アリスの顔が目の前に浮かんだ。

一瞬の混乱と逡巡の後、ハヤテは攻めに出た。
ヒナギクの肩に後ろから腕を回し、背面全体に覆いかぶさった。


「ハヤテ君?」困惑したような声がヒナギクの口から洩れた。
だが、ハヤテに退く気はない。後戻りはできない。

「ヒナギクさん、聞いて下さい」
「・・・はい」ヒナギクの喉がごくっと動いたのがわかった。
だが、シナリオが狂ったハヤテの頭からは、用意していたセリフが全て抜け落ちていた。
次の言葉が出てこない。
ヒナギクも動かない。ハヤテに背を委ねたままじっと待っている。

額を汗が流れるのを感じ、ハヤテは決意を固めた。
(迷うことはない。今僕が言うことなんか一つしかないんだ)


「ヒナギクさん、告白して一年半経ちました。
まだ返事はもらえてないけど・・・今でも僕はあなたが好きです。
改めてお願いします。僕と付き合って下さい」
「ハヤテ君・・・。本当に嬉しいけど・・・、私は・・・」色んな感情が押し寄せてきた。鉛のような塊が胸の辺りでつかえていた。
「ショウタ君のことですか? でも・・・。だったら・・・。ヒナギクさんはもう・・・。もう十分に・・・」
「ごめん、ハヤテ君。それは・・・」
今度も最後までは言えなかった。
その辛そうで苦しそうで、そして申し訳なさに満ちた声に、ハヤテの胸は締め付けられた。腕に力が籠った。


「ヒナギクさん、もうこれ以上無理しないで下さい。僕は・・・僕はもう・・・。もうこんなヒナギクさんを見てられません」
出てきたのはシナリオとはかけ離れたセリフだった。

「無理、ですって?そんなつもりはないわ。私は・・・」
「そうじゃない。わかるんですよ、僕には」
「何が・・・、何がわかるの。私の気持ちが本当にわかるの?」

ハヤテは首を振った。
「僕にわかるのは今のヒナギクさんが本当のヒナギクさんじゃないってことです。
ヒナギクさんは常に自分が立派でありたい、そう思ってる。それだけでも凄いことです。
だけど、それだけでなく、実行しようとしている。どんなに苦しくても、それができなければダメだ、と思ってる・・・違いますか」
「・・・それのどこが悪いのよ」
「ショウタ君はヒナギクさんにそんなことを望んだんですか。ヒナギクさんが苦しむことを願ってるんですか」
ヒナギクの背中が怒りかショックか、ぶるぶると震えた。