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対象スレッド 件名: Re: 憧憬は遠く近く 第2章〜 紫色の風が
名前: どうふん
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Re: 憧憬は遠く近く 第2章〜 紫色の風が
日時: 2015/09/02 21:49
名前: どうふん

前回はヒナギクさんの視点でしたが、今回はハヤテ側から始まります。
本当のところ、ハヤテは今ヒナギクさんをどう思い、何を考えているのか、というところです。
そして本章のサブタイトルが意味を持ち始めます。



【第2話:ムラサキのたまり場】


ヒナギクの視線はハヤテの顔を捉えていた。
「ハヤテ君、一体何を言っているの?『迷惑』って何よ。『無理』って何のことよ。私に対して何かやましいことがあるわけ?」
「・・・(やましいことなんて幾らでもありますよ・・・。それに言える訳ないじゃないですか。ヒナギクさんを好きだなんて)」

ヒナギクを好きだと自覚して以来、どれだけ自分を叱咤しても想いは募る一方だった。
夢に見てうなされ、目を合わせると苦しくて・・・という有様で、一緒に過ごすのが苦痛になり、次第にヒナギクを避ける様になっていた。
だが、それはヒナギクにしてみれば嫌われ避けられているとしか思えない。
目を逸らしたまま黙りこくっているハヤテを前に、ヒナギクの感情は爆発寸前となっていた。
「ねえ、答えてよ。私はハヤテ君に迷惑なんか掛けられてないし、無理をしているつもりもないのよ」
ヒナギクは涙を一杯に溜めてハヤテににじり寄っていた。
その苦しくて悲しそうな表情に、引き込まれたハヤテは目を逸らせない。

ハヤテはヒナギクを抱き締めたい衝動に駆られた。
胸をかきむしられるような苦しさに自分がどうにかなってしまいそうだった。
(ヒナギクさん・・・。僕のために大変な思いをして、僕を嫌っているはずなのに、何でこの人はこんなにも優しくて、僕なんかのことを心配しているんだろう)
ハヤテは理性を必死に働かせようとした。しかし、懸命に絞り出した言葉はかすれていて、およそ理性とはかけ離れていた。
「どうして・・・。どうして・・・そんなに残酷・・・なんですか。そんなことを僕に言わせようとするんですか」

もう自分を押さえることができなかった。
凍り付いたヒナギクを突き飛ばすような勢いで、ハヤテは部屋を飛び出していった。


*************************************************************


一人残されたヒナギクは、もう部屋に戻ってアリスと顔を合わせる気にもならなかった。
ムラサキノヤカタを出て、ふらふらと歩いていた。
当てもなかったが、足は次第に喫茶店「どんぐり」に向かっていた。


どんぐりには西沢歩がアルバイトをしていた。
「おや、珍しいお客さんだね。ヒナさん、ようこそいらっしゃいませえ。どうぞお好きな席にぃ」やたらとハイテンションなのは、ヒナギクの雰囲気にただならぬものを感じたからだろう。

相変わらずガラガラの喫茶店で、ヒナギクは一番奥まで歩いて隅のテーブルに座った。
「ヒナさん、何があったの」
歩はヒナギクの向かいに腰掛け、頬杖をついて微笑んでいた。
何でわかったの、なんて聞くだけ野暮というものである。自分が今どんな風に見えているかは見当がつく。
「歩・・・、やっぱり私はもうあきらめた方がいいのかな・・・。もうすっかりハヤテ君には嫌われちゃったみたいだし」
「な、何を言ってるのかな?嫌われてはいないと思うけど・・・。また例の勘違いなのかな?」
ヒナギクは俯いたまま動かない。歩はそんなヒナギクに優しく向き合っていた。


ヒナギクがようやく口を開いた。
「アリスに頼まれて・・・ハヤテ君と三人で明日外出しようと誘ったんだけど・・・」
「ああ、例の家族行事ですね。いいなあ、私もハヤテ君やアリスちゃんと家族デートしたいなあ」
「最後まで聞きなさいよ。ハヤテ君からは・・・断られたわよ」
「断られた・・・の?行きたくないって?」
「正確には嫌がっていた・・・ということ・・・かしら。アリスは問題ないけど、『私も一緒で良い?』って聞いたら、そっぽを向いたまま返事をくれなくて・・・。」
「そ、それはあんまりじゃないかな。幾らなんでも」
「あんまり悲しかったから、何でって聞いたのよ・・・。そしたら『そんな残酷なことを僕に言わせるんですか』って」
経緯を考えると無理からぬところではあるが、ヒナギクは勘違いにさらに大きな聞き違いを重ねていた。それは誤解の連鎖を生んだ。

「お、女の子に向かって、心優しいヒナさんを捕まえて『残酷』だって?いくらハヤテ君でもそれは許せん!ヒナさん、お店は任せた」
「え、あの、歩?」
止める暇もあらばこそ。歩はどんぐりを飛び出して、ムラサキノヤカタに向かって自転車を漕いでいだ。
ヒナギクは慌ててポケットをまさぐったが、携帯電話も財布も何もなく、全くの手ぶらであることに気付いた。歩が一人で店番していたどんぐりの電話は慢性的に故障中で、歩にもムラサキノヤカタにも連絡する方法がない。


*************************************************************:


「何だ、ハムスター。血相を変えて」
歩はムラサキノヤカタの食堂に飛び込んだ。そこにはナギ、千桜、ルカ、カユラと、ほとんどの住人がいた。
「ハヤテ君、ハヤテ君はいずこ。乙女心を踏みにじる悪は許さじ。西沢歩、ここに見参!」
「・・・時代劇の見すぎだ、お前は。しかしハヤテが悪とは聞き捨てならんな。どういうことだ」
「ハヤテ君が私の大事な大事なヒナさんをずったずたに傷つけたのよ」
ナギとルカの眉がピクリと動いた。
「どういうことだ(なの)?」


歩の説明を一通り聞いて、ナギは首を傾げた。
自分はむしろ、全く正反対の疑いを抱いて悶々としていた。今の話とはかけ離れている。
ルカも明らかに違和感を感じていた。
「ちょっとそれ・・・おかしくない?ハヤテ君のセリフじゃないと思うけど」
千桜とカユラもうなずいた。
そう言われると、歩は自信が半分ほどなくなった。
「と、とにかくハヤテ君を呼べばはっきりするのかな」
「あの・・・。ハヤテ君なら大分前に外に飛び出して行って帰っていませんけど・・・。
はっきりとはわかりませんでしたけど、泣いていたみたいで」食堂に入ってきたのはマリアとアリスだった。