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対象スレッド 件名: Re: 憧憬は遠く近く 第2章〜 紫色の風が
名前: どうふん
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Re: 憧憬は遠く近く 第2章〜 紫色の風が
日時: 2015/09/15 20:55
名前: どうふん

さて、ムラサキノヤカタが揺れ動く中、渦中のハヤテは何をしているのでしょうか。
いつもの、あの場所で・・・


【第5話:告白と白状】


夕日が沈み、星が瞬いていた。


負け犬公園のベンチに一人、ハヤテは腰かけていた。
くじけそうになった時、いつもここに居た。ここに逃げ込んでいた。いや、辿り着いたというべきか。
(これで三度目かな・・・)
一度目はナギに、二度目はヒナギクに助けられた。
(さすがに三度目はないだろうな)

しかし、今は借金取りのヤクザに追われているわけでも、家を追い出されて所持金を持たないわけでもない。帰ろうと思えばいつでも帰れる。
だが、立ち上がることができない。つい先ほどのヒナギクの涙を溜めた顔が今も胸を締め付ける。とてつもない罪悪を犯したような気がしてならない。

このまま眠ろうか。過去二回と違い、凍え死ぬ心配はない。
(いや、そんなことをしたらあの苦しそうなヒナギクさんをほったらかすことになる。家事を任せっきりにしてマリアさんにも迷惑が掛かる。

帰らなきゃ。
ヒナギクさんに会ったら謝ろう。でも何て謝ればいいんだ・・・?)
ハヤテは上げかけた腰をまた下ろした。頭を抱えて考え込んだ。


上から声が降ってきた。
「そこにいたのか、綾崎君」「探したぞ、執事」
「千桜さん・・・、カユラさんも」


***********************************************************::::


千桜もカユラもうんざりした顔をしていた。延々と堂々巡りが続いている。

「そんなわけ、ないじゃないですか」
「なんで、そう思うの」
「そりゃあ、僕はヒナギクさんにずっと迷惑の掛け通しで、困らせて・・・」
「だからな、綾崎君。まあ、君が確かにヒナに『面倒』を掛けているのは間違いない。だが、それを『迷惑』と思うかどうかはまた別だ。
大体だ、君が本当に迷惑を掛けているのは、その恐ろしくめんどくさい考え方だ。
ヒナは君のことを考え、君のことを想って頑張っているんだ。いい加減わかってやれよ」
「それはヒナギクさんが本当に優しくて、正義感に満ちていて、ってことじゃないですか」
「あのなあ、ハヤテ君。優しいとか正義とか、それだけで人間は動かないぞ。君みたいな人間は例外に近いけど、それでも嫌いな男には容赦がないじゃないか」
「まあ、それはそうですが。でも僕と比べられたらヒナギクさんが気の毒です。天女みたいな人じゃないですか」
「天女か・・・、うまい表現だな・・・。
じゃなくて、それが違うと言っているんだ。ヒナだって人間だ。自分の想いもあれば欲求だってある。そしてそれをうまく表現できないでいるだけなんだ」

ここでカユラが初めて口を開いた。
「ハヤテ君。さっきから聞いていると、『ヒナギクさんが』『ヒナギクさんに』とばかりだが、君の気持ちはどうなんだ。
君が無敵センパイを嫌いというなら、我々にできることなんか何もないし、口出しすることもない。
ただ、君たちが好き合っているのに、気持ちを通じ合わせることができないでいるようなので、友人として協力したいと言っているんだ」

ハヤテは顔を歪めた。
「・・・それは・・・僕の口からは言えません。ちょっと残酷ですよ、カユラさんまで」
(やっぱりな。歩が言っていた『残酷』とはそのことか)
千桜は改めて思い返していた。
いずれにせよこのままでは進展がない。
千桜は作戦を変えた。

「では、ハヤテ君。それについては機会を改めよう。
だがな、ヒナの方からその気持ちを打ち明けられたら、その時はきちんと応えてやれるんだな」
「・・・無理ですね。僕は、借金持ちですよ。しかもナギお嬢様の執事で、女の子を養う甲斐性もないし・・・」
「いい加減にしろ。君の借金や仕事なんて誰もが知っていることだ。それを承知で付き合いたいと、君の好きな子から言われたら、その時は応えられるんだろう、と言ってるんだ」
「・・・・・そんなことはあり得ません」
(よし、ヒナギクを好きだと白状したな、鈍感執事)
「だから、もしあればだ。その時はきちんと応えてあげるんだな?それだけは約束しろ」
「・・・・は、はあ・・・」
「はっきりと、だ」
「や・・・約束します」
(よし、それで十分だ。できればコイツの方からヒナに告白させたかったが、今のヒナなら告白くらいできるだろう)
千桜とカユラは内心でガッツポーズをした。
(ところで・・・歩とルカはうまくやっているのかな)


****************************************************************::


一方の喫茶店どんぐり・・・
歩は当てが外れた、という顔をしていた。ルカもサングラスにマスクの下では同様だろう。

どういうわけか、数時間前と打って変わってどんぐりは大盛況で、ヒナギクと話し込むどころか、歩にルカも手伝いにかかりっきりとなっている。
マスターまで駆けつけてきていた。

「な、なんでこんなことになっているのかな、マスター」
「それはあんまり言いたくないけど。
今日の店番は歩ちゃんになっていたから油断してたんだよね。ヒナちゃんが店番やると時々こういうことになるんだよ」
「うう、原因はそこか・・・って、そりゃあんまりでしょおがー!」