文章チェックフォーム 前画面に戻る

対象スレッド 件名: Re: 憧憬は遠く近く 〜 不思議の姫のアリス
名前: どうふん
誤字を見つけたら
教えてください

悪戯を防ぐため
管理人の承認後に
作者に伝えます
誤った文字・語句 
          ↓
正しい文字・語句 
【参考】対象となる原文

Re: 憧憬は遠く近く 〜 不思議の姫のアリス
日時: 2015/07/05 22:24
名前: どうふん


今までは原作をなぞった話でしたが、ここから先は原作から逸脱していきます。
不思議の姫が、いよいよ活躍を始めます。

まあもちろん全くの独創というほどのことはなく、先達の皆さまの作品を大いに参考にしたものだということはお断りしておきます。



【第4話: 家族の休日】


奇妙な家族生活が始まった。
「家族」とは言ってもハヤテとヒナギクが一つ部屋というわけにはいかず、ヒナギクとアリスの二人で同じ部屋に住んでいる。

毎朝早く、ヒナギクはランニングに出掛ける。ハヤテはそれより早く起きていて、庭を掃除しながらヒナギクを見送る。帰って来たヒナギクはハヤテが「ヒナギクのために」漬けておいた蜂蜜レモンを味わっている。

そして、アリスも交えて食事を、といきたいところだが、アリスは朝が弱くて起きられない。ヒナギクも学校があるため、その後はマリアがアリスを世話することがずっと多い。
「まあ、マリアさんは住人みんなのお母さんみたいな存在ですから」笑顔を崩さないマリアの背後からどす黒いものが発散されていたが、ハヤテは全然気づいていなかった。

ちなみに、その日の夕食はマリア手製の餃子だったが、ハヤテの皿には一つだけ、唐辛子と胡椒とタバスコが一杯詰まった特製餃子が入っていた。
「あら、単なるロシアンルーレットですわよ。当たったのはハヤテ君でしたか」マリアは相変わらずの優しい笑顔を浮かべたままだった。
「ぼ・・・僕だから良いですけど、これをあーたんが食べたら大変なことになっていましたよ」ハヤテは喉を押さえながら、水の一気飲みを繰り返していた。
「そんなヘマはしませんわ」
(うう・・・やっぱり確信犯か)

**********************************************************************:

それでも初めての休日となる土曜日。ハヤテとヒナギクは、アリスのたっての希望でとあるテーマパークに来ていた。
ここはヒナギクにとって、そしておそらくはハヤテにとっても思い出の場所だった。
(ここは、私とハヤテ君が初めて二人でお出かけした場所なのよね・・・。あの時はホントにイイ感じだったのになあ・・・。そもそもハヤテ君はそんなこと覚えていないかしらね)

パーク内に入り、ヒナギクはハヤテをちらりと見たが、ハヤテは嫌がるアリスに無理やり「たかいたかい」をして笑っていた。
(やっぱりハヤテ君は私より天王州さんなのかしら)ヒナギクがそう思ったとき、ハヤテが振り向いてヒナギクに話し掛けた。
「ヒナギクさん、もう一度乗ってみたいアトラクションはありますか?」
「え、もう一度?」
「一度、二人で来たじゃないですか。え、もしかして忘れちゃったんですか?」
「い、いや、そんなことないわよ。そ、そうねえ、どれも楽しかったけど今度はアリスも一緒だし、アリスの希望に合わせた方がいいんじゃないかしら」
「良かったです。ちゃんと覚えていてくれたんですね」
「あ、当たり前じゃないの」
「ホントですか、嬉しいです」

(ハヤテ君もそんなことを考えているんだ・・・)ちょっと意外な気がして、何となく胸の奥が温かくなった。



「ヒナ、助けて。ハヤテがしつこいんですわ」アリスがヒナギクに駆け寄ってしがみついてきた。
「はい、はい」ヒナギクはアテネを抱き上げた。
ちなみに、このお人形みたいな美少女を抱っこしたいとは、男女を問わず周囲の誰もが思うのだが、アリスの許可が下りることはない。
世話をする機会が一番多いマリアでさえ、「そんな恥ずかしいことはできませんわ」と、断られている。
しかし今、ヒナギクがごく自然にアリスを抱き上げたところをみると、ヒナギクは例外なのだろう。考えてみれば、アリスがベッドに使っている押し入れには、ヒナギクが抱き上げないと入れない。


「次は僕ですよ、ヒナギクさん」羨ましそうな顔をしてハヤテがアリスの顔を覗き込む。
「んー、アリス、どうする?」
「私はヒナがいいですわ」
「えー、そんなあ」


「そうしていると、本物の家族だな、ヒナ」
「やあ、偶然だな、ハヤ太君」
「アリスちゃん、久しぶりだねー」
生徒会三人娘がそこにいた。
「何、カメラを回しているのよ」
「こんな面白いもの、撮らないでどうする」最初からこれが目当てで遊園地に来たことは間違いない。
「家族水入らずを邪魔する気はないんだからね、ご自由に」
「そんなわけにいかないでしょ、『やっぱりその子は』なんて言われたくないわよ」

「まあ、いいじゃないですか、ヒナギクさん。僕たちは僕たちで勝手にするということで」
「私は構わないですわよ。折角の遊園地だから楽しまないと損ですわよ」
(え、いいの・・・?)

ヒナギクはハヤテの気持ちが相変わらずわからなかった。
しかし、その一方で(こんな生活も悪くないわね)そんなこともヒナギクは思い始めていた。童心に返って(というのも変な話だが)はしゃぎ回るアリスに振り回されながら、ヒナギクだけでなく、ハヤテも自然と笑顔になっている。
ヒナギクはキラースマイルとは違う笑顔のハヤテを久々に見た。
実際にアリスと遊ぶのは楽しかったし、何よりハヤテが楽しそうにしているのは嬉しかった。

その日、三人で時間の許す限り、比較的空いているアトラクションを目指して駆け回った。



日も暮れて、三人が最後に乗ったのは観覧車だった。
最初は尻込みしていたヒナギクだったが、ハヤテやアリスと手をつないでいると平気でいれた。
二人の手の温もりが、ヒナギクの冷めかけた気持ちをちょっと暖めてくれた。久しぶりにハヤテとの距離が近づいたような気がした。
(アリス・・・ありがとう)ヒナギクはそっとアリスの顔を撫でた。アリスも嬉しそうに顔をヒナギクに寄せてくる。その頬は赤ちゃんのように柔らかくて温かかった。


その一方で、本物の親子みたいな二人を見ているハヤテは、いつか見た「本当のヒナギクさん」を改めて思い出していた。