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対象スレッド 件名: Re: 憧憬は遠く近く 〜 不思議の姫のアリス
名前: どうふん
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Re: 憧憬は遠く近く 〜 不思議の姫のアリス
日時: 2015/07/30 22:30
名前: どうふん

ハヤテの惨憺たる心境とは別に、ハヤテ以上に傷ついているのがヒナギクさんです。
そして周囲の仲間たちの反応やいかに。



第9話:かすがいの威力と限界


ヒナギクは扉の前で佇んでいた。
さっきのハヤテのセリフは、ちょっと温まっていた心に何度目かの冷や水を浴びせた。
アリスのお蔭で想い人との距離が縮まったと思ったらこれだ。
(結局は、こうなるのか・・・)
ハヤテが自分に心を開いて素顔を見せてくれるようになった、なんて思ったけど結局アリスの前だけの話なのか。

中からは時折ナギの怒声を交えながら、皆の笑い声が響いてくる。
怒声、とは言いながら楽しそうな雰囲気が伝わってきた。あっという間にアリスがナギとも
打ち解けたことがわかる。
ムラサキノヤカタの中心にいるのはナギでもハヤテでもなくアリスなのかな・・・、などとヒナギクはぼんやり考えていた。


扉が中から開いた。マリアだった。
「何をしているんです、ヒナギクさん。早く中にお入りなさい」
「あら、ヒナ。どうしたんですの?」
「何でもないわ・・・。ハヤテ君はちょっと疲れたみたいで寝ていたわ」
アリス、千桜、ナギ、マリアの視線がヒナギクに集中した。
只事ではない雰囲気を四者四様に感じていた。
しかし、どう対応していいか誰もわからない中、アリスが部屋を飛び出した。
今のヒナギクにそれを追いかける気力はない。


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「何があったんですの、ハヤテ?」
「ご、ごめん。あーたん」アリスの顔を見れないハヤテは壁を向いてアリスに背を向けたまま動かない。
「ごめん、って。それはヒナに言うことではありませんの?ヒナは泣いてましたわよ」
「そうだよね・・・。だけど・・・僕は・・・ダメな奴なんだ。弱くて汚い奴なんだ・・・。迷惑の掛けっぱなしでヒナギクさんには嫌われちゃってるし・・・」
「何があったのか知りませんが・・・。だったらどうだと言うんです。このマンションからヒナを追い出すつもりですの?私にはお二人が必要なのよ。知ってるでしょう」
「ごめん・・・。しばらく時間が欲しいんだ。ちゃんとヒナギクさんには謝るから・・・。追い出すなんてそんなことは全然考えてないよ。落ち着くまで一人にしてほしいんだ」
「愛娘に対するセリフですか、それが」
「・・・でも本当に今はだめなんだ。ヒナギクさんのことを考えると胸が苦しすぎて。申し訳なくて・・・どんな顔をして会ったらいいのか・・・」


背を向けたまま頭を抱え込むハヤテをじっと見ていたアリスの口調が変わった。
「パパ、お願いがあるんですけど」


********************************************************::


誰もがヒナギクの周囲で沈黙していた。
「や、やあねえ。何をそんなにしんみりしているのよ。私は平気だから」
「語るに落ちたな、ヒナギク。ハヤテと何があった」ナギの目はじっとヒナギクを見据えている。その目には怯えたような疑念が含まれていた。
千桜が中に入った。
「ちょ、ちょっと待て、ナギ。その問題は後だ。それよりも・・・」千桜が言いかけた時、ハヤテを連れてアリスが戻ってきた。

外面的には、ハヤテがアリスを抱っこして連れて来たのだが、その主導権がアリスにあることは誰もが気付いていた。
大体、アリスが抱っこされる姿なんて誰も見たことがない。
「あら、ハヤテ君。羨ましいですね。アリスちゃん、次は私が抱っこしていい?」
「まあ、マリアさんにはお世話になっていますからね。良いですわよ」
「あ、次は私も・・・」
「まあ、折角だから私も抱っこしてやってもいいぞ」
「仕方ないですね。順番ですわよ。皆が喧嘩しないように時間制にしましょうか」
「何をこいつは。どっかのアイドルか天才子役か」
「ナギ、ご存じ?子供って結構重いんですのよ。落とさないで下さいね」
「何だとお・・・。まるで私が非力みたいではないか」
「どうしてそれを否定できるんだよ。まあ、確かに破壊力は凄いがな」


多分に取り繕いの部分はあるが、また賑やかになって笑い声が飛び交い、ハヤテとヒナギクも釣り込まれて笑っている。苦い笑いではあるが。
ちらり、と目が合った。気まずい気持ちのまま俯いた二人だったが、ハヤテの口からポツリと漏れた。
「ヒナギクさん、済みません・・・」
「あ、いえ、こちらこそ・・・」
何に謝っているのか、自分たちにもわからないが、とりあえずの形式的な仲直りはできた格好だった。
だが、お互い相手の気持ちを全くわかっていない。それどころか誤解は深まっている。
少し近づきかけた二人の距離は変わらないが、その間に深い溝が生じたような奇妙な雰囲気だった。



そしてもう一人・・・。
二人の様子をナギはちらちらと見ていた。
ナギもまた、二人の心情を理解できず、否、したくないという思いがあった。
今、自分が考えていることを信じたくなかった。