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対象スレッド 件名: Re: 解のでない方程式
名前: タッキー
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Re: 解のでない方程式
日時: 2016/03/16 16:40
名前: タッキー

どうも、タッキーです
『解のでない方程式』も、今回でやっと終わりです。
それでは、アフター更新です
















































































振り返ればそこにあったのはただの自販機で、幻想的な光のゲートはなくなっていた。


「………」


頬が濡れている









綾崎アカリは過去に行き、今さっき若い頃の自分の両親に別れを告げて、そして現代に戻ってきた。名残惜しかったのはもちろんだが、アカリが泣いている理由はもう一つあった

「こっちには、パパはいないんだったっけ………」

よく知らなかった自分の父親のことを、ハヤテのことを……アカリはずっと誤解していた。でも若い彼にあって、ハヤテが優しい人間だということを、母親であるヒナギクをちゃんと大切にしていることを、痛いほどに知ることができた。アカリ自身もずっと嫌悪していたはずのハヤテのことをすぐに好きになり、彼と一緒にいた短い時間はとても楽しいものだった。

「…………。家に帰らなきゃ……」

落ち込んでいる暇はなかった。母親に、ヒナギクに心配をかけたくはなかった。だからすぐに涙をぬぐい、暗い夜道が怖いのも忘れて歩き始めた。が……

「おかえり、アカリちゃん」

「え……」

公園の入り口には、岳が立っていた。


























「えっと……ママは……?」

「家にいるよ。オレが迎えに行くから、誕生日の準備でもしといてやれって言っといたんだが、嫌だったか?」

「い、嫌じゃないです!でも……えっと……その……髪、どうしたんですか?」

「………」

アカリはさっきまでまだ髪が短い時の岳と会っていたことになるのだから、すごく違和感があるのは確かだった。いい加減この質問をされるのがうっとおしくなってきた岳は自分の長い髪を一瞥したあと、ことの経緯をアカリに説明した。

「な、なるほど……。で、でもすごく似合ってますよ!!」

「はぁ……。ありがと」

似合ってるとアカリが思っていたのは本当だったが、彼女の焦って言い訳がましい口調に岳はそっけなく返事するほかなかった。

「そ、そういえばさ!!岳さん!!!」

「ん?」

「私を過去に送ったのって……もしかして岳さん?」

「いや。なんで?」

「えっと……ちょっとなんて言ったらいいのか分からないんだけど………」

アカリは言葉に詰まるのと同時に歩みも止めていた。彼女は少し考え込んだあと、やがて覚悟を決めたように岳のほうを向いた。

「私が過去に行く瞬間、真っ白な光に包まれたの。でね、その光の中に一瞬だけ人影……のようなものが、見えたから………」

「………」

「でも影っていうほど黒い色してたわけじゃなくて、ただの見間違いかもしれないんですけど……」

ふとアカリが岳の顔を覗き見ると、彼はどことなく深刻そうな顔をしていた。

「も、もしかして幽霊かな……!!」

「ん?いや、多分違うんじゃないか」

「で、でも……!!」

岳は思いっきり怯えているアカリの頭に手をおき、そのまま優しく撫でてあげた。さっきまで震えていたアカリも、安心したのかすっかり大人しくなった。

「詳しくは言えないけど、もしそこに誰かがいたのなら、それはきっとアカリちゃんのことを大切にしている誰かだ。だから安心していい」

「………」

「ほら、もう着いたぞ」

いつの間にか、二人の前には三千院家の大きな門が立ちはだかっていた。

「家まで付いていったほうがいいか?」

「いや、いい…です……。ありがとうございました」

門から綾崎家までの道のりには、ほぼアカリのためだけに外灯がいくつも設置されており、昼間のようまでとはいかないが随分と明るかった。それでも、彼女が進んで一人でこの光が照らす道を通ろうとすることはこれまで一度もなかった。

「そうか。じゃ、二人によろしく」

「え?ちょっと…岳さん?」

アカリが呼び止めたにも関わらず、岳はすでに夜の闇の中で見えなくなってしまっていた。

「二人って……パパはいないのに………」

そうつぶやいた瞬間、アカリに「もしかして…」という考えが浮かんだ。すぐさま家のほうを向き、彼女は一心不乱に走り出した。














「ただいまーー!!!」

乱暴に玄関のドアを開け、息が上がって肩が上下に動いているアカリに言葉は返したのはヒナギク一人だった。

「おかえりなさい。どうしたの?そんなに息を切らして…」

「え…いや、その………」

できるだけ表情に出ないにように努力した

(やっぱり、パパはいないんだよね………)

いつもと全く変わらない。ヒナギクはアカリが過去に行く前と同じように、普段通りアカリの帰りを迎えた。つまり…無理しているんだと、アカリは瞬時に思った。

「ま、いいわ。それより今日は誕生日でしょ。何か欲しいものとかない?」

「え、いや……」

本当に言いたい言葉は、胸の奥底に押しやった。それはヒナギクにとっても辛いことだから…それは手に入らないものだと分かっているから……

「ううん、いらないよ。私はママがいるだけで、それだけで…………っ!!」

ふいに、アカリは抱きしめられていた。母親の温もりに、アカリは胸にしまい込んだはずのものが溢れだす感覚を覚えた。

「泣くくらいなら、ちゃんと本当のことを言いなさい……」

「………。うん…………」

しかしヒナギクはアカリが口を開く前に彼女を放し、後ろ側に回るとまだ小さな娘の背中をポンと押した。キョトンとしているアカリに、ヒナギクは微笑みながら優しく声をかけた

「いってきなさい」

状況がいまいち呑み込めていないアカリの目が一番最初に映したのはリビングから漏れてくる光だった。一ヵ月ぶりに返ってきたからだろうか、それともゆっくりと歩いていたからだろうか、アカリには日常的に使っていた短いはずの廊下が、今はとても長いものに感じられた。





それは、アカリがリビングのドアを開けた時だった














「おかえり…」

すでにアカリの顔はくしゃくしゃだった。それでも……それでもアカリは涙を見せたくなくて、ゴシゴシと荒っぽく目を服の袖でこすった。

















そして、また顔をくしゃくしゃにしながら、アカリはハヤテに言葉を返した






「ぱぱぁ…!ただいまぁ………!!」










































  〜 After 〜 『 泣きたいくらい幸せになれるよ 』



































「おいしい?」

「うん!!!」

アカリはいま、ハヤテが作ったオムライスに文字通りかぶりついている。彼女の前に座っているハヤテには口まわりがケチャップで汚れている自分の娘がなんだか可愛く見えた。

「ていうかアカリ、本当にプレゼントいらないの?」

「う〜ん……。まぁ、欲しいものも特にないし……それに、私いますっごく幸せだし」

ヒナギクの質問に、アカリは正直に答えていた。今、家族全員がここに揃っていることは、まぎれもなく彼女にとっての幸せだった

「強いて言うなら、パパにちょっとだけチューを……」

「ダメよ」

「即答!?それはちょっとひどくなぁい!!」

アカリは冗談半分だったのだろうが、ヒナギクはいたってマジメに答えていた。もちろんというか、当然というか、ハヤテはすでに蚊帳の外だった。

「ひどくないわよ!あなた、こっちに戻ってくる前にもハヤテの頬にキスしてたでしょ!!私ちゃんと覚えてるんだから!!」

「ちぇ〜……」

いまのアカリの表情は、残念そうというよりもむしろ嬉しそうだった。ずっと無理して感情を押し込んでいたヒナギクを知っている彼女にとっては、母親の素の姿を久しぶり見れて嬉しかったのだ。

「まぁ、冗談はこれくらいにして……」

「アカリはともかく、ハヤテはあんな冗談言ったら許さないからね」

「え?あ、はい……!」

それは釘を刺したヒナギクと刺されたハヤテが、一息つくために同時に水を飲もうとした瞬間だった

「ぶっちゃけ言うと、妹とかほしいかな」

「「ブっ!!!!!!」」














「「「……………」」」


















すごく、微妙な空気になった。


しかしそれを作った本人がそうなった理由を知っているはずもなく、アカリは目の前でなんだか顔を赤らめている二人をただ困惑して見ているほかなかった。

「え、えっと……私、何か変なこと言った………かな?」

吹き出した状態で固まっていたハヤテは、コップに口をつけたまま、水がこぼれないように顔を横に振った。ヒナギクは大分持ち直してこそいたのだが、アカリの質問にはどこか明後日の方向を向いていた。

「あ、うん……。妹………妹ね。い、いもうと……………」

「い、いや……!!妹じゃなくても、べつに弟でも…………って、二人ともどうしてそんなに顔真っ赤にしてるの?」

「「…………」」

無邪気って恐ろしい。ハヤテとヒナギクがそう思った瞬間だった

「あ、もう食べ終わったんなら片付けてくるわね!!二人はゆっくりしてていいわよ!!!!」

「えっ!?ちょっ…!!ヒナ!!??」

ハヤテが手を伸ばすのも虚しく、ヒナギクは即座に食器をまとめて台所まで逃げていった。二人きりになってどうしていいか頭の中がぐるぐるしていたハヤテに、アカリの方から声をかけてきた。

「ねぇ、パパ。ちょっとケータイ貸してくれる?」

「え?あ、うん」

流れのままにスマホを渡したハヤテだったが、このタイミングでその行為がどんなものか瞬時には理解できなかった

「えっと……なにしてるの?」

「ん?いや……子どもってどうやってできるのかなぁ…………」

「ノーーーーーーーッ!!!!!!」

机を強くたたき、しりに火が付いた勢いで立ち上がったハヤテに、アカリはビクッと体を震わせた。彼女は両手で、ハヤテのスマホをしっかりと握りしめていた。

「アカリ……!!」

「はっ!はい!!」

「黙って……。ケータイを………。僕に……渡すんだ………!!」

「…………」

ハヤテはさながら政治家の演説のように、一語一句はっきりと、そして力強く娘に言い聞かせた。ハヤテ自身切羽詰まっていたこともあり、その言葉は怖いほどに説得力が増しており、アカリは今まで見たことのない父親の表情にただ震えながら頷くしかなかった。

「いいね……?」

「はい…………」

アカリはもう泣きそうになっていた










































「まったく、なに吹き込んだのよ?」

「だって……アカリにはまだ早いと思って………」

22時30分。アカリはすでにベッドにもぐり、静かに寝息を立てていた。豆電球で弱い光こそ点けているものの彼女が一人で寝付くのは珍しく、そのことからヒナギクはハヤテが相当怖がらせたのだろうと容易に想像できた。

「ま、いいわ。ちょっと早いけど私たちももう寝ましょ」

ヒナギクはそう言うと、寝ている娘を起こさないように彼女の右側からベッドに潜り込んだ。ハヤテも左からベッドに入り、久しぶりに……本当に久しぶりに、3人が同じベットに落ち着いた。

「ねぇ…ハヤテ………」

ヒナギクは手を伸ばしていた。ハヤテも手を伸ばし、二人はアカリを包むような形で手を繋いだ。

「ヒナ……ありがとう…」

「なによ…。急に………」

微笑んだハヤテにヒナギクは顔を赤らめたが、それを隠そうとはしなかった

「今回も、今までも……ヒナには救われてばかリだから………。だから、ありがとう……」

「………」

お互いの手を握る力が少しだけ強くなった。そんな……気がした

「ハヤテ……」

「ん?」

「またいつか喧嘩しちゃっても……きっと大丈夫だと思う」

ハヤテから見たヒナギクは、少し涙目だった。

「これからどんなことがあっても、この手は離さない……離せないと思う。だからね、どんどん引っ張って行っちゃうことになるだろうけど、ついてきてくれる?」

ハヤテはヒナギクの言葉に何も言わず、ただ嬉しそうに顔を縦に動かした。言葉じゃない足りないから、この気持ちが色褪せることはないと分かっているから、こうすることが一番だと思った。

「ありがと……」


ハヤテは握ったヒナギクの手が温かくて、少し泣いてしまいそうだった





「ヒナ……愛してる………」


「………うん。わたしも…愛してる………」










ヒナギクは繋いだ手がうれしくて、泣いてしまいそうなほど……幸せだった