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対象スレッド 件名: 【第12話 桂ヒナギク2】
名前: ロッキー・ラックーン
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【第12話 桂ヒナギク2】
日時: 2023/03/03 00:43
名前: ロッキー・ラックーン

こんにちは、ロッキー・ラックーンです。
ヒナギクさんの34歳のお誕生日ですね。

なんとかかんとかやっつけでも仕上げたので投稿しちゃいます。

それでは、どーぞ!



------------------------



コーヒーは癒しなんだと思う。
ストレスの多い現代社会で、いっぱいのコーヒーがほんの少し人々の気持ちをやわらげる。

ここは喫茶どんぐり。
そんな癒しのコーヒースポット。


「ま、客はだーれも来ませんけどね…」

「……」



しあわせの花 Cuties 第12話【桂ヒナギク2 -真昼喫茶店でも有能- 】




土曜日の昼下がり、お客様はゼロ。
店内にいるのは店員の私と、お守りで連れてきたアリスだけ。

というのも、今日は大寒波が襲来して東京にも大雪が降る事態に。
そんな中でも同人誌のイベントがあるとかで、アパートの住人は私と付き添いのアリス以外はナギの手伝いに駆り出されて有明のあの大きな展示場に。
この大雪の中、本当にお疲れ様ね!

ちなみに喫茶どんぐりの営業自体はハヤテ、ナギ、歩、私、アリス(口を出すだけ)の"チームどんぐり"が接客やらメニュー開発やら集客のための宣伝やら色々と頑張っていて、いつもであれば、土曜日のこの時間はほぼ満席の状態になるというのは知っておいて欲しい…!
特にナギは「ラビッ●ハウスにもスティー●にも負けない店を作るぞ!」とやる気満々だったりするの。


「雪の降る寒い日に、あったかい喫茶店でダラダラしながら、ヒナのお給料から天引きされるお金でクリームソーダを飲む、こんなに幸せなことはありませんわ!」

「はいはい、それはよかったわねー。それにしても一人くらいはお客さん来て欲しいわね…」


の●太君のようなことをのたまいながら、アイスに乗ったさくらんぼを舌の上で転がすアリス。
幸せなのは結構だけど、このままでは開店休業。
アリスの子守りだけで私の人件費がかさんでしまって申し訳なく感じるわ…。


カランコロカラン


「いらっしゃいませー!!あ、あなたは橘くんの…」

「あなたはハヤテ様の彼女さんの…!」


10時の開店からはや3時間。ようやく、ようやく、本日1人目のお客様。
白皇学院を辞めた橘ワタル君のメイドさん、確か貴嶋サキさんだったわね…。


「こんな足元の悪い中、ようこそいらっしゃってくださいました。どうぞゆっくりしていってくださいね」

「ありがとうございます。すみません、ホットミルクを一杯もらえませんか?…はぁー」

「はい、ホットミルクですね」


そのお客さんは見るからに何か悩んでいて、ため息ばかりついていたの。
貴嶋さんは直接の知り合いという訳ではないけど、こんなにため息が多いと心配になってしまい、ついつい話しかけてしまう。


「何か…悩み事でもあるんですか?」

「え?」

「いえ…顔色がすぐれないようでしたので…」

「ああ、すみません。大した悩みじゃないのですが…同じ家に住む好きな人と、もう少しうまくいけばいいなぁって…」


同じ家に住む好きな人!?
ご主人である橘くんのことかしら?ご主人様との恋のお話?ステキね。


「なるほど、恋の悩みですね。全然大した悩みなんかじゃないですよ!」

「そうですかね…?」

「私もずーっと、同じアパートにいる好きな人とうまくいかなかったので、貴嶋さんの気持ちすごく分かります!」

「そうなんですか!」

「ホントにその通りですわね」

「外野はだまって!!」

「ばっちこーいですわ」

「その外野じゃなくて…」


私とアリスの漫才を見せても仕方ないので、貴嶋さんの方に向き直る。


「桂様はどうやってそんな状況を脱したんですか?」

「ぜひ『ヒナ』って呼んでください。私には恋のキューピッドがいて、逐一アドバイスをもらえてたので変なアプローチとかしないで済んだのだと思います」

「へぇ、そうなんですね!ヒナ…様にはすごい人がいるんですね」

「はい、そうなんです。それがこのアリスです」

「エッヘンですわ!」


しばらくアリスと一緒に暮らしていて学んだこと、それは私のカンはかなり鈍いということ。
たとえば、このシーンであれば私の直感では「フリルを増やして努力すればいいんじゃない?」と思っている。
九分九厘正しいと自分の中では思っているけど、その自分の直感でうまくいった試しは無い。悲しいことに。
なので自分の直感がポンと出てきても、一回アリスに確認をしてみるというプロセスを踏むようになったわ。


「というわけで、アリスから一言なにかある?」

「そうですわねー…あなたは、その方のことを大切に思ってますか?」

「ええ、もちろんです!」


え、フリルじゃないの!?
と思ったけど、やっぱり私のカンは変だったみたい。
話を遮らずに二人のやりとりを見守る。


「では、その大切に思っている気持ちを普段から口に出していますか?」

「うーん、あまり口には出していませんね」

「そう。ならまずは、普段から口に出すというのはいかがでしょうか?」

「え!?でも若に変に思われるんじゃ…」

「あなたのご主人様も、あなたのことを大切に思っていますわ。その手からこぼれ落ちてしまわぬように必死になってあなたを守ろうとしています。だからあなたもその気持ちに応えてあげたらもっとうまくいくと思いますわよ」


相変わらず、まるで本人から聞いてきたかのように話すわね。(←本人から聞いてますわ byアリスちゃん)
その自信満々な話し方に、みんな引き込まれていくのよね。


「なるほど…でもちょっと恥ずかしいですね」

「なら、練習していくのはどうでしょう?ここにお手本もいますし。ヒナ、いつものを…」

「え"!?ここでやるの!?」


アリスからの急なパスに戸惑う私。面識のあまり無い人相手でも容赦無いわね…。


「そうですわ、今更何を恥ずかしがってますの?ハイどうぞ!」

「ハヤテ、いつもありがとう…愛してる!」

「まあまあですわね、及第点ですわ」


常日頃から感謝を伝え合うようにとアリスから言われてる私たちは、毎日こんな言葉をかけ合っている。
すでに私の習慣にある言葉だけど、家族以外の人に聞かれるとなるとやはりかなり恥ずかしい…。


「『いつもの』ということは、ヒナ様は毎日ハヤテ様に『愛してる』と言葉をかけられているんですか?」

「え、ええ。そうです。ハヤテがいつもいつでも私のそばにいてくれるとは限らないので…」

「ステキですね…!私は、若がいつも自分のそばにいるのが当たり前だと思っていたかもしれません。ぜひ、私の特訓にお付き合いください!あと、私のことは『サキ』とお呼びください!」

「もちろんです、サキさん!」


というわけで、雪の降る街の静かな喫茶店が謎の特訓場となってしまったのだった…。


◆1時間後◆


「若、いつもありがとうございます…愛してます!」

「「おぉー!(ですわ)」」


サキさん表情がすごく柔らかくて明るくなった!特訓の成果ね!
こんなステキな人に思われているだなんて、橘くんも隅に置けないわね。


「なんか…自信がついてきました!」

「そうですか、良かったですね!ぜひ橘くんに言ってあげてくださいね」

「はい!お二人ともありがとうございました!」


カランコロンカラーン




「……」どーーーーーよ
「はいはい、素晴らしいお手本でしたわね」
「……」


あんまり私のキャラに合わないドヤ顔をキメてしまい、変な間ができてしまう。


「まあ、とにかくなんとかなりそうだからヨシね!」
「そうですわね」




カランコロンカラン


「そうしているうちに、またお客様が…」

「ヒナちゃん!」
「泉!?いらっしゃいませ…こんな雪の日にこんな所へどうしたの?」


本日2人目のお客様は泉、今日は美希も理沙も一緒じゃないみたい。
この雪の中を走ってきたのか、息があがっている。


「ヒナちゃんと二人きりでどうしても話したい事があって、今日みたいな日ならバイトもヒマかなーって思って…ハァハァ…」
「別にバイトの時に乗り込んで来なくても。いつでも大丈夫よ?」
「ううん、わざわざ時間を取るとなると緊張して無理だと思って…ハァハァ…」
「一体どうしたの?とりあえず、息も上がってるみたいだし水でも飲む?」
「ありがとー、いただきまーす!」


コップになみなみ注がれた水を一気に飲み干す泉。よほど喉が渇いていたみたい。
いつもの元気なイメージとは違った雰囲気。ひょっとして緊張してる?
二人きりでの話って…もしかしてハヤテのことかしら?


「それで、どうしても話したい事って?今ならお客さんもいないし」
「あ、でも…」


私の催促に対して口ごもる泉。どうやらアリスの事が気になっている様子。
本当に私と二人きりじゃないと話したくなさそうね。


「ヒナ、泉さんは二人きりで話したいのですわ。ここには私がいるのでそれができませんわね。というわけで、事務室の休憩スペースでテレビでも見てますわ」
「アリスちゃん、ありがとー!」
「いえいえ、ごゆっくりですわ」


どこで覚えたのやら、アリスの空気を読むスキルはさすが…。
事務室の扉がパタンと閉まったと同時に、緊張した面持ちの泉は意を決して口を開く。


「私もハヤ太くんのこと、好きなの!」
「え”!?」


急な告白に、面食らった私は何も言えなかった。


「でもヒナちゃんのことも大好き」
「うん…」
「でもハヤ太くんとヒナちゃんへの好きは違ってて、ハヤ太くんをヒナちゃんに取られたのは悔しいけど、二人はすっごくお似合いだとも思ってて…なんだかよくわからなくなっちゃって…」
「そうなの…」


泉の言うことは良くわかる…気がする。
私だって、ハヤテが他の女の子とくっついてしまったらなんて思えば良いかわからなくなると思う。
そんな中で、私にありのままの気持ちを言いに来る泉の勇気は本当にすごい…。


「ヒナちゃんは私のこと、どう思ってる?」
「もちろん、かけがえのない友達だと思ってるわ」
「ありがとー!それが聞けたら十分だよー」


セリフとともに泉は私のことを抱きしめてきた。
肩が震えている。顔は見えないのだけど、多分泣いているのだと思う。
改めて、私の今の幸せというのは当たり前なんかじゃないのだと痛感した。


「私も、ハヤ太くんに好きって言ってもいいかな?」


涙も落ち着いて、注文のロイヤルミルクティーを飲みながら泉が言ってきた。
これに関しては、私も思うところがある。


「もちろんいいわよ、ていうか私への許可なんて取る必要無いわよ」
「えっ、なんで!?」
「ハヤテは誰のものでもないから…誰がハヤテを好きになっても、私がとやかく言える筋合いは無いわ」


そう、ハヤテは誰のものでもない。
もちろん私のものにしたいという気持ちはあるけど、それが現実になるかどうかは別問題なの。


「えー?ハヤ太くんはヒナちゃんの恋人なのに?」
「確かにそうね。でもそれは私とハヤテの二人の間に交わされた約束に過ぎないわ。だから他の人には関係ないの。泉でも歩でも、誰だってハヤテを好きになれるし、その誰かがハヤテに告白しても私にはどうすることもできないわ。ハヤテはハヤテで、自分の幸せのために一番だと思う女の子を選ぶべきだとも思ってる。だから、ハヤテが私をダメだと思ってしまったらすぐに別れてしまうべきなの。そんなことにならないように、私はハヤテに相応しい女性であるために努力し続けてるわ」


私の持論に、泉は目を丸くする。
たしかに、少し前の私からは絶対に出てこないようなセリフ。
なにもかもアリスのトレーニングのたまもの…なのかもしれない。


「へぇー、ヒナちゃんなんか大人ー!」
「そんなこと全然無いわ。ハヤテが誰かに告白されたなんて聞いたら気が気じゃなくなっちゃうし、ハヤテのことになると自分が何してるのかわからなくなっちゃうし…。でも、ハヤテを好きだって気持ちは誰にも負けないわよ?ナギにも、歩にも、アリスにも、もちろん泉にもよ」


ハヤテを好きな気持ち。
比べることでも無いとは思うけど、これだけは誰にも負けないし、ハヤテはハヤテで私のことを一番に好きだと思っていることを私は知っている。
信じているのではなく知っている。「信じている」だとそうでない可能性があることを意味するから「知っている」なの。


「…ヒナちゃんには敵わないや。でも私もやれるだけやってみる」
「うん、頑張って!」
「じゃあ、今日はありがとう!またねー!」


カランコロカラーン


雪の中を全速力で走って去っていく泉。
転ばないか心配ね…。


「悩みが解決してあんなに喜ばなくてもいいのに…」
「ずっと抱えてた胸のつかえが取れたのですわ、それは喜びますわよ。それにしても、あなたたち二人して同じようなことを考えているのですわねー」
「そりゃあ、同じ人から毎日お説教されてるし」
「確かに、そうですわね」


また二人きりになってしまったどんぐり。雪は変わらずに降り続いている。
クリームソーダの後にパンケーキを食べて、お腹もいっぱいになったアリスがウトウトし始めると…


カランコロンカラン


「はぁー疲れたぁーー!寒かったー!」


今日はじめての団体客は、有明チームのナギ、マリアさん、千桜、歩、ハヤテの5人。
イベントは17時まででそこから撤収の流れで、19時からアパートで打ち上げだったはずだけど…。


「みんな、お疲れ様ー!まだ4時前よ?だいぶ早かったわね?」
「天気もこんなだし、準備した分は完売したから早仕舞いしてきたんだ」
「そうなの!すごいわね!」
「打ち上げはアパートでの夕食の時間だから、その前にどんぐりで反省会でもと思って…いいかな?」
「もちろんよ!ちょうどお客さん全然いなくてヒマしてたの!」


ナギの同人誌のほうもかなり順調に成果が上がってるみたいね。
打ち上げのご馳走の下拵えはアパートの台所で済ませてあるけど、どんぐりはどんぐりで彼女たちを労ってあげたいと思う。


「みんな、寒い中お疲れ様!あったかーいココア淹れてあるから飲んで飲んで」
「サンキュー!いやーあったまるぅー!さすがヒナギク。天才!」
「ほんと美味しいです。ヒナギクさんにだけ働かせて、申し訳ないですね」
「いえいえ、みなさんお疲れだと思いますので!」
「ヒナさん、おかわり!マシュマロマシマシでお願いします」
「西沢ほんとマシュマロ好きだよなー。といいつつ私もおかわり!」
「はいはい、すぐ持ってくるからねー」


それぞれが思い思いのくつろぎ方をしている。
癒しの空間をようやく作り出すことができたわ。


「ヒナ、僕も手伝いますよ」
「ハヤテも疲れてるんだから、みんなと一緒に休むの。いい?」
「え、でも…」
「私は雪のせいでずーっとヒマしてたから体力が有り余ってるの。はい、座って座って」
「ヒナがそこまで言うなら…」
「ハヤテ、そんなに働きたいのであれば私の相手をすれば良いのですわ。とりあえずたかいたかーいを」
「オッケー、アーたん」


アリスをあやしているハヤテを眺めながらコーヒーを淹れる私。
ああ、なんだかとても幸せ。
そうか。癒しのコーヒースポットは、お客様だけではなくて自分まで癒してくれる空間なのね。
今はまだアルバイトだけど、いつか私自身がみんなを癒す空間を作ることができたら、それはとても素敵なことなのだと思う。


こうして…今日も喫茶どんぐりのコーヒーは人々を癒やしていく。


「コーヒー、一杯も出てませんけどね」



【つづく】


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【あとがき】

44巻「深夜食堂→有能 真昼喫茶店→ポンコツ」のパロディでした。
原作では数少ないヒナギクとアリスちゃんが1話通して絡みがある回です。


完全にラブコメのコメ側に行ってしまっていたヒナギクを、ちゃんとラブ側に戻してあげたいという気持ちが働いて作ったものです。
口調はなるべく原作通りのセリフ回しにしたいと思ったため、たまに「?」って感じになってます。
ちなみに、ヒナギクがアリスちゃんを名前で呼ぶシーンってほとんど無いんですよね。
51巻になってアテネと話してる時に始めて「アリスちゃん」って言っていたのを見て、「ちゃん付けかーい!」って思った印象が激しかった覚えがあります。
51巻が2017年6月に1刷、このSS連載ではマリアさんの話が2017年…どんだけ進んでないんだこのSS。


■サキさん
原作では面識が無い感じで描かれてましたが、ハヤテの彼女という設定であればどこかしらで顔を合わせてるだろうし、
そもそも学校全校生徒のことを知っているヒナギクが知らないというのはちょっと不自然だなと思ったので知り合い設定。
ワタル君はアニメ4期にアリスちゃんからありがたいお説教があったので、それを拝借しました。


■泉
3人娘では美希だけがフィーチャーされましたが、まさかの泉も登場。
一応ちゃんと完結したいという思いがいまだにありますので、少しずつながら各キャラクターのスッキリさせたいことはやってもらってます。
美希の話にハヤテがしていた恋愛観と同じ感覚のヒナギク。いずれも範馬刃牙くんの恋愛観をパロってます。
理沙はさすがにピンで出ることは無いだろうなー…。


オチはなるべく原作に寄せて。
あえてオーダーでコーヒーが一杯も出なかったのを回収しています。




ところで作中の「どーーーーーよ」のドヤ顔ヒナギクはLINEのスタンプにもなってます。令和も数年経ってからスタンプが出るハヤテ、侮れません。
アリスちゃんスタンプも少しあるので必見です。


最後に、茶室で昨年末だかの忘年会チャットで話していた「目標」
最低目標が1話投稿、最高目標が完結させる。だったかと思いますが、なんとかかんとかやっつけですが最低目標はクリア。
自分が満足に完結させるためには何が必要なのか洗い出す必要もあり、そんな時間を取れていない現在。
まずは終わらせずに死なないように、健康管理からやっていこうと思います。


と言うわけで、ヒナギクさんの34歳のお誕生日記念でした。おめでとうございます。
伊藤静さんのライブ"Daisy"の2回目の開催を祈りつつ、またお会いできるように過ごしていきます。