竜狐の対決 第5章 |
- 日時: 2013/02/10 07:09
- 名前: 双剣士◆gm38TCsOzW.
- 白皇学院で持ちきりの噂と釈明会見映像を目にしたハヤテは、即座に時計台の上にある生徒会室へと向かった。
『私のアパートで暮らしてたことがヒナギクの黒歴史扱いだって? ふざけるな!』とブチ切れるナギの声に背中を押されながら。 「ヒナギクさん!」 「……ああ、久しぶりねハヤテ君。なんだか何ヶ月も会ってなかったような気がするわ……」 少し見ない間に、小綺麗だった生徒会室はすっかり雰囲気が変わっていた。未決済の書類は乱雑に積まれて半ば崩れており、大切にされていた ティーカップのセットも使われっぱなしのままテーブルに放置されていた。生徒会室のあちこちには様々な色彩のビラがくしゃくしゃに丸められて 放り投げられていた。もしここにお酒の瓶と臭いが加わっていたら桂先生の部屋と一緒だな、と綾崎ハヤテは不謹慎にも苦笑してしまった。 そしてその笑みを、生徒会室の主は別の意味に受け止める。 「驚いた? 哀れよね、笑っちゃうわよね。史上2人目の1年生生徒会長ってさんざん持ち上げられてた私が、今じゃこの有様よ… …他人の評価なんて残酷なものだわ」 こんな風に自嘲するヒナギクをハヤテは見たことがなかった。いつも自信に満ちあふれ、太陽のように輝いていた桂ヒナギクはもう居なかった。 ハヤテは表情を引き締めると、おずおずとここにきた用件を切りだした。 「会見の映像、見ましたよ。ヒナギクさんらしくないじゃないですか、あんな不自然な受け答えをして……あれじゃみんなに疑われて当然です。 なんであんな……」 「……だって!」 ヒナギクはテーブルに拳を打ち付けると、ようやく顔を上げてハヤテと視線を合わせた。 「悔しいじゃない、あんな風に言われるなんて……短い間だったけど、私、楽しかったのに。アリスちゃんやルカ、千桜や歩、そしてナギやハヤテ君… …いろんなことを一緒に出来て嬉しかったのに。それを不純とかふしだらとか決めつけられて、騒ぎが大きくなるから無かったことにしなさいって 先生たちにも言われて……情けなくって涙がでるわよ!」 アパートで暮らしたあの夏の思い出を否定されたくない。プライドの高いヒナギクにとってそれは、自分の評判が下がることなんかより遙かに大切なのだった。 「……すみません」 「どうして謝るの? 謝ったりしないでよ。あの夏を過ごしたことが生徒会長として不適格だって言うなら、私はそれでもいいって思ってるんだから… …ほんの少しの我慢よ。今はみんなに好き勝手言われてるけど、選挙が終わったらそれも無くなるわ」 桂ヒナギクは支持率が下がってることに落ち込んでいるのではなかった。地位に恋々とするより自分の生き方を貫く。学校中から非難され傷つくことが あっても、心の芯が揺らぐことは決してない。小さい頃から逆境に耐えつつも人生の正道を歩んできた彼女は、どこまで行っても桂ヒナギクなのだった。
……だが人生の裏街道ばかりを歩いてきた借金執事・綾崎ハヤテは、そんな彼女の覚悟を素直に受け止めることが出来ない。 「そんな、ヒナギクさんが全部を背負う必要なんてないですよ! 今回のことは僕が悪いんですから」 「ハヤテ君……」 自分と一緒に逆風に立ち向かおうって言ってくれるの? ヒナギクの胸の奥にしまった恋心に小さな灯りがともる。しかし鈍感さでは類を見ない少年は、 少女の期待を完全に裏切った。 「だってヒナギクさんに一緒に暮らして欲しいって頼んだの、僕なんですから! ヒナギクさんは絶対嫌だって言ったのに、顔を見る度ぶん殴るくらいに 僕のことを嫌ってるのに、僕とアーたんのために嫌々つきあってくれたんですから!」 「……えっ?」 あんまりな言い分に石化するヒナギクを尻目に、ハヤテは高らかに自分の勘違いを歌い上げる。 「アーたんの母親役を頼んだのは僕、ルカさんのサポートを頼んだのも僕です! ヒナギクさんに嫌われてるのを知ってて、迷惑のかけ通しなのも承知で、 いつもいつも無理難題を押しつけてきたのは僕なんです! それでヒナギクさんが会長になれないんだとしたら、それは全部僕のせいなんです!」 「…………」 「僕、これから新聞部に掛け合ってきます。ヒナギクさんは僕なんか好きじゃないんだって、出来の悪いクラスメートのために嫌々つきあわされただけ なんだって! そうすれば誤解もきっと解けますよ」 「ハ……ハヤテ君の、バカ―――ッ!!!」 異次元から現れた妖刀・白桜がうなりを上げ、乙女の怒りを浴びた鈍感執事を生徒会の壁へと弾き飛ばしたのは、その直後の出来事だった。
そして。そんな2人のやりとりを隠しカメラを通じて動画研のモニタで見ていた面々は、ハヤテが豪快に吹き飛ばされた瞬間『ですよねーっ!』と 一斉に声を上げていた。 「うん、この映像があればヒナへの誤解も解けるよな」 「良かったよぉ、ハヤ太くんがヒナちゃんのこと好きじゃなくて」 「まったくだ、私のヒナがあんなやつになびかなくて、本当に良かった」 三者三様の視点から安堵の声を漏らす生徒会三人衆。そしてその脇では、今回の秘密中継に参加した新聞部有志たちが部室に撤退すべく 一斉に立ち上がっていた。 「いや、この映像を見られて良かった! 投票日より前に会長の真意を聞けて安心しましたよ。明日はこれで号外を打ちます。 桂会長に黒い疑惑など無かった、彼女は頼まれて断れなかっただけの、正義を貫く純白の騎士だったってね!」
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