Re: 書きたいとこを書き殴るだけのss |
- 日時: 2023/03/04 19:49
- 名前: ネームレス
- 前回までの(存在しない)あらすじ!
俺、竜胆雅紀(リンドウマサキ)は記憶喪失の15歳。ある日、目が覚めたらすべての記憶を失い身に余る強大な力を暴走させかけて死にかけていた! 通りすがりのゴーストバスター、鷺ノ宮伊澄姉ちゃんのおかげで事なきを得たが、そこから先が大変だった。俺の持つ力は本来人の持たないはずの妖力と呼ばれるもので、それもかなり特殊なモノらしく、それを狙い日本中の妖怪たちが俺を狙いに来るらしい。 俺は記憶の手がかりを求め、伊澄姉ちゃんの家に転がり込み、国語辞典で見つけたカッコいい漢字をそのまま自分の名前として名乗ることにした。しばらく力の使い方を覚えながら、伊澄姉ちゃんの仕事を手伝いながらついに俺の過去を知っているかもしれない妖怪に出会えたんだ。そいつは竜王。俺の姿を見て懐かしい、と言い、伊澄姉ちゃんのことを八葉の後継と呼ぶ。俺の事を聞いたらそいつはとんでもないことを言い出した。 「戦いで我を楽しませて見せよ。できなければこの島国は沈むであろうな」 ふざけんな! お前の退屈しのぎでこの日本を沈ませてたまるかよ! 俺と伊澄姉ちゃんは日本を賭けた命がけの大勝負に出ることになった。しかし多くの妖怪の頂点に君臨する竜王は強く、とてもじゃないが歯が立たない。伊澄姉ちゃんは自らの命を代償とした大技を使おうと決意してしまった。 ......ふざけるな。そんなことをさせるわけにはいかねえ。そんな俺の思いを見透かしたように、桜色の髪をした女性が現れた。 「助けたいならこれを使いなさい!」 女性が投げてきたのは、昔に修理に出していた木刀正宗だった。持ち手の身体能力を限界にまで引き出す剣。否、その真の能力は持ち手の潜在能力の解放。俺は体の中から湧き出る力の解放と共に、どこか懐かしい記憶がよみがえる。目線は低く、見上げるように男性を、いや、子ども? 胸の奥から飛来する感情に戸惑いつつも、俺は渾身の一撃を放ち、俺は竜王に傷を入れた。竜王はそんな俺を楽しそうに見て、「もうすぐ目覚めるであろう。その時、キサマは自らの根源にたどり着く」奴はそう言い残して、人間には手出しできない次元の彼方へと飛び去ってしまった。あの野郎、最後まで遊び気分だったってことかよ。 謎の女性はいつの間にか消え去っていて、伊澄姉ちゃんは正体を知っているようだったけど、俺は何もわからないまま帰路につく。もうすぐ目覚める......その言葉に一抹の普段を覚えながら。しかし、疑問が晴れるのは意外と早かった。 ある日、俺と伊澄姉ちゃんはいつも通りにゴーストバスターの依頼に向かおうとすると、目の前の空間に亀裂が入った。そこから覗く、ひどく懐かしい目。そうだ、俺は全てを思い出した。俺は、こいつの...... 『ようやく目が覚めた。さあ、人間を滅ぼすとしよう』 伊澄姉ちゃんと出会って5年。俺は20歳になり、人生のクライマックスを迎えようとしていた。
最終回・次元の彼方で愛を叫ぶケモノ
その目。酷く鋭く吊り上がり、この世のすべてを憎むようなそんな目。その眼光に射抜かれると、俺は恐怖よりも懐かしさを覚えてしまった。 あまりにも唐突な出来事に俺は身動きがと取れずにいると、伊澄姉ちゃんが即座に動いていた。 「術式八葉」 周囲に大量に浮かぶ札が熱を帯び、燃え上がり、巨大な一つの劫火へと変わりゆく。 「加具土命(カグツチ)!」 普段であれば、人払いをしたうえで周囲への影響が大きければ結界などを貼る対策をして使う大規模術式。それを伊澄姉ちゃんはすぐに使った。それほどの状況であると、伊澄姉ちゃんの対応が示していた。 しかし、亀裂から覗く目はその余裕を崩さない。 『ほう、八葉の後継か。忌々しい血がまだ続いていたとはなぁ』 「っ!」 その声に亀裂が広がり、伊澄姉ちゃんは焦るようにして劫火を亀裂の中へとぶち込んだ。吸い込まれるように亀裂へと飲み込まれていった火球。倒したという手ごたえはない。 「......マサキ。ここで鷺ノ宮家に連絡を。そして人払いをお願いします。」 「ちょ、ちょっと待てよ。伊澄姉ちゃんはどうすんだ!」 「私は今から亀裂へ入り、あの存在を倒します」 伊澄姉ちゃんはそう言うと、亀裂が閉じぬように細工を始めた。 「俺も行く。あいつは、うまく言えねえけど、俺が相手しなきゃいけねえんだ」 「いけません」 「なんで!」 「......あなたはきっと、あの妖を倒せない」 俺はその言葉に、何も言えなかった。実力不足とか、覚悟が足りないとか、そういう話ではない。 俺の中にある違和感。いや、既視感。伊澄姉ちゃんはきっと、それに気づいてる。 「でも、それじゃあ、俺は何のために今まで......」 「......私は行きます。この亀裂が閉じぬよう、あなたは此処にいてください」 俺が止める間もなく、伊澄姉ちゃんは亀裂へと飛び込んでいった。 「...クソ、俺は......どうすれば」
『ハハハ! 温い、温いぞ八葉!』 「くっ」 その空間に上下は無く、左右もなく、境界が存在せず、すべてが曖昧なままで中途半端だ。常人であれば、その場にいるだけで存在そのものが空間に溶け、即座に消滅しかねない危険な場所。 伊澄は周囲に常に結界を展開し、自らの存在を保っている。しかし、目の前の存在はこの空間に存在してなお、当たり前のようにその存在を保っていた。それがどれだけでたらめな事か。 「その姿、文献で見たことがあります。【九尾の黒狐】昔、鷺ノ宮の先祖が追い詰め、終ぞ退治する事が叶わず、次元の狭間に封印する事しかできなかったと」 『封印、確かにそうだなぁ。消滅させることができず、ただ我を目のつかない所に追いやることしかできなかった。ただ一つ、訂正してやろう。キサマの先祖は確かに、我が喉元にその刃を突き付けた。死という刃をなぁ』 「......」 『ただ殺すことはできなかった。なぜかわかるか? わかっているだろう? そう、お前はすでに我をいつでも殺す事ができるのさ』 そう言って、九尾は黒い体毛に覆われた、“八本”の尾を見せびらかすように揺らした。 『だが殺せない。その甘さが命取りだ八葉ゥウ!!』 「っ!」 尾に妖力が集まるのを伊澄は肌で感じた。咄嗟に防御用の札をばら撒き、結界を何重にも展開していく。しかし__ 『紙ぺらを何枚重ねようと無駄だぁ!』 空間を埋め尽くす光。暴虐の嵐。災禍の渦。火が迫り、水が津波となって降り注ぎ、空間が大きく揺らぎ、雷鳴が轟き、暴風が吹き荒れ、不気味な空気が満ち、吹雪が吹き荒れ、小さくしかし凶悪な形相の虫が喰い殺さんと結界を覆う。 伊澄が展開した結界は瞬く間に破壊されていく。 『終わりだ八葉』 九尾は勝ちを確信する。だが、九尾は知らない。 鷺ノ宮伊澄は頭で考えるより、とりあえず強い技をぶっぱしてくる性格であることを。 「術式八葉・上巻」 『何』 声は背後。一瞬の移動に九尾の声からは驚きが漏れる。 「神代七代!!!」 対物理滅却術式。術式八葉の奥義が一つ。その威力は伊澄の研鑽によりもはやミダス王に放った時と比べて数倍の威力へと昇華させていた。 「これで!」 巨大な竜を思わせる破壊の一撃が九尾の黒狐へと直撃した。渾身の一撃。今現在伊澄が持ちうる最大火力。 これだダメならば__ 『驚いた』 声が響く。 伊澄は驚愕に目を見開いた。最大の一撃だった。そのはずだ。確実に命中したはずだった。 『なるほどなるほど。たしかにその身に宿る力は歴代でも最上位に位置するかもしれん。しかし、時代が悪かったな』 煙が晴れる。そこには、無傷の九尾がたたずんでいた。 『ただの力のぶつかり合いであれば、我を傷つけることはできぬだろうよ。なにせ、我自体が一つの巨大な力の塊だからなぁ』 ニタァ、と凶悪な笑みを浮かべる九尾。伊澄は動揺を隠せずにいた。 「な、んで」 『言ったであろう、時代が悪かったとな。その強すぎる力、存分に振るう機会などなかろうに。我が昔相対した八葉は力が弱くとも研ぎ澄まされていた。その術の切れ味はさながら名刀のようだった。だが、お前のそれはただの鈍ら。そんなもの、我には何一つ効ぬ。 だが驚いたぞ。先のは鷺ノ宮の秘術であった転移の術か? よもや我が背後を取るために使おうとは。合わせて上巻まで使うとはな。この二つを合わせれるのはなかなかいないであろうよ。__あともう少し、その術に研鑽がつみあがっていれば、“もしかしたら”があったのかもしれんのになぁ。さて、今ので持ちうる手札は全部か? 八葉よ』 九尾は機嫌よく話すが、伊澄にもはやそんな余裕はなかった。先ほどの一撃は正に全身全霊。さらには日に一度の秘術まで用いた完璧な不意打ちだった。それだけに、もはや伊澄に術を展開する余力はなかった。さらにまずいことに、この次元の狭間でその存在を保つための術ももはや切れかかっている。ゆっくりと、伊澄の髪先が白く染まっていく。 『これで終わりならば、ここで逝ね、八葉』 朦朧としていく意識の中、ついに最後の時が訪れる__ 「伊澄ぃいいいいいいいいい!!!」 ただ、その最後を認めない人がいた。
「よう■■■■。また飯を漁りに来たのか」 切り替わる。 「ああ、■■■■。なんてざまだよ。馬鹿野郎。もし生まれ変われるなら、次はもっとまともに死ねる生を願えよ」 切り替わる。 「お前、■■■■か? な、なんだよその姿は。お、お前、俺を忘れちまったのか?」 切り替わる。 「なんてむごい。あなたはここで我々が滅します。妖狐よ」 切り替わる。 「まさか、そんな奥の手を。我々ではあなたを倒せない。あなたを倒すのは、未来へと託すしかないでしょう。“九尾の黒狐”。今は眠りにつくがいい。いつかの未来、必ず終わりが訪れる」 切り替わ__
「私の名前は鷺ノ宮伊澄。あなたのお名前を教えてください」 「俺の、名前は」
「伊澄ぃいいいいいいいいい!!!」 頭が割れるように痛かった。 知らない顔知らない声知らない記憶。俺の記憶で俺のじゃない。こんなもの、みせつけられるだけで吐き気がする。 ただ、ひとつだけはっきりしている事がある。少なくとも、伊澄姉ちゃんと会ってからの記憶は、俺だけの記憶だってこと。 「何しやがってんだこのケモノ野郎!」 「マサキ!?」 『何!?』 木刀正宗を一閃、俺の全力を込めた一撃は九尾に僅かに傷をつけるにとどまった。そのまま伊澄の側へと駆けつける。 「大丈夫か!? 髪白くなってきてるじゃねえか、無茶してんじゃねえよ!」 「な、なんできたのですか!」 「何でもかんでもねえ! 俺は、俺の決着をつけにきたんだ! あと伊澄姉ちゃんが危ねえと思ったから」 『く、くふはハハハハハハハ! とんでもない馬鹿がいたものだな! 八葉がなぜお前を我から引きはがしたかも理解せずただ本能のままにかけつけてきたか! これはとんだ笑い話だ。そうだろう、八葉』 俺がこの場に来たことが、そんなに面白いのか九尾は心底楽しそうに嗤う。だが、勘違いだ。 「うるせえ! 俺がこの期に及んで何も理解しないでここに来たと思ってるのか? だとしたらお前の方がめだたい頭してるぜ“くろすけ”!」 ぴたりと、声がやむ。随分と感情が豊かな奴だ。ただ黙るだけで、周囲への圧が高まっていく。 『キサマ......』 「は、よく見りゃ九尾なのに尾が八本しかないじゃねえか。そんなんで九尾の黒狐たぁ笑わせる。__でもしょうがねえよなぁ? お前はあの時、死ぬのが怖くて切り離したんだから。絶対に誰にも手が届かないように、時空を超えた未来に自分の尾を飛ばしたんだ」 『なるほど。たしかにこの期に及んで何も理解していない、わけではなさそうだ』 九尾は妖力を尾に集中させていく。九尾の周囲に火が、水が、揺らぎが、雷が、風が、毒が、吹雪が、蟲が、妖力を糧とし現象として出現する。 『ならば、分かるであろう。キサマでは我には絶対に勝てぬという事がなぁ!」 九尾の咆哮と共に、死が形となって降り注ぐ。 「マサキ! 下がっ」 「大丈夫だ伊澄姉ちゃん」 そう、大丈夫だ。なぜなら今、俺は自らの出自を理解し、そして手の中には木刀正宗がある。 伊澄姉ちゃんを背に隠すように一歩、俺は前に出る。 「マサキ、あなたは札なしでここに......」 伊澄姉ちゃんの驚くような声が聞こえる。まあ、驚くだろうな。でも、“これが当たり前なんだ”。 木刀正宗に力を込めていく。体の内から、膨大な力が湧き出てくる。 「九尾、認識を改めろ」 一閃__ 『なん....だと...』 一振り。 それが、俺が九尾の攻撃を打ち消すのに要した行動のすべてだ。 「俺はお前に絶対に勝てない。そして、お前も俺に絶対に勝てない」 断言する。 今ここに至り、俺こそが、目の前の絶対強者に対する究極のカウンター。 「俺こそが、九尾、お前の九本目......いや、“一本目の尾”そのものだ。後付けの八本じゃない。お前が最初に願い、最初に手に入れたお前の根源。妖狐・黒狐の始まりの尾だ。根源を取っ払って、後付けの八本だけを持った抜け殻と、根源だけを手に入れた九尾の幼体。条件としては同等だろ?」 『......そうだな。たしかに、お前を殺すことは我にはできぬ。それは我の存在を全否定する行為だからだ。ならばどうする? わかっているだろう。そこまで理解しているなら。我が死ぬには、お前が死ぬしかないという事を』 俺がいる限り、九尾は死なず。俺は九尾を殺せず、九尾も俺を殺せない。ここに何も矛盾はない。 「ああ、わかっているとも。けれど、それでいいんだ。」 『何?』 「お前を殺すつもりはない。俺も死にたくないしな」 『ならばどうする。ここで我と永遠に殺し合うつもりか?』 「それもごめんだ。そして心配も無用だ、くろすけ」 『......その名で呼ぶな」 「いいや呼ぶね! よく聞けくろすけ! 俺は正義の味方にはなれねえ。けどなぁ! “この世界には正義の味方がいるんだよ”!」 俺は信じる。強く思う。きっとこの世界には、俺には想像もつかないよような方法で、悲劇をぶち壊しちまうような正義の味方がいるってことを! 『なっ』 「え」 くろすけと伊澄姉ちゃんが声を上げる。 この空間に、何もかもが曖昧な次元にはあるはずのない、光が差し込んできたからだ。 桜色の風が吹く。 「鷺ノ宮さん!」 「生徒会長さん!」 桂ヒナギク、参戦。 『なんだ、小娘......!?』 「はぁあああ!」 気声一閃。ヒナギクが裂帛の気合と共にいわくつきの木刀をくろすけへと振り下ろす。 『っ、人間風情がぁああ!』 即座に反撃を返しするも、そこにはもうヒナギクはいない。ヒナギクの体を纏うように白銀の光がヒナギクの意志に呼応し自在に空中を飛行する。 「あれは、まさか白桜。あんな使い方が」 伊澄ももはや何度目かもわからない驚きを上げる。粉々になった白桜がなぜか桂ヒナギク専用のアーティファクト的な何かに進化を遂げていた。なんだあのイレギュラー。 『グ、オオオオオオオ!』 もはやくろすけも余裕をなくし、全身から力を解放するように吠える。 それが致命的な隙となった。 『!?!?!?』 死角から巨大な何かが体へと巻き付ういていく。その姿はまさしく巨大な、蛇であった。 「マキナー! 頑張ったらハンバーガー食い放題やでー!」 『本当か!? うおー! 頑張る―!』 「咲夜まで!? マキナも」 本来、白桜をその身に埋めた上でアテネの制御の下で振るえる力が、なんかこう、いろいろあって力の代用品になるものがきっとあってそれを代わりに体に埋め込むことで咲夜が制御スイッチてきなのをもっていてきっとうまい事やってるそういう事にする。 「伊澄姉ちゃん」 「マサキ、なにを」 「今がチャンスだ。俺がこの戦いにけりを付ける。けど、多分今の俺じゃまだ、力をうまく扱えないんだ。だから、手伝ってほしい」 「......。本来であれば、私が片付けなければならない仕事でした。けれど、あなたを殺す事ですべての決着をつける......そんな終わり方にどうしても、納得できなかった」 伊澄の髪はすでに白く染まっている。 伊澄は理解している。今の自分に現状で何かできる力は残されていないことを。 それでも。 「私にできる事があれば手伝います。マサキ。あなたが望む決着をつけましょう」 「ああ。伊澄姉ちゃん。手を」 手をつなぐ。 思えば。あの時もそうだった。二人の始まりは、手をつなぐところから始まった。 そして、今も。 伊澄の髪に色が戻っていく。 「これは」 「これは俺の、いやあいつの力の応用。少しだけなら、力が回復する」 「......行きましょう。生徒会長さんもマキナも、あまり長時間この空間にいない方がいい」 「ああ、行こう!」 木刀正宗がマサキの力を引き出し、伊澄がその力に指向性を持たせる。 徐々に、マサキの力の本来の効力が出現する。 「みんな! 道を」 マサキの声にヒナギクとマキナが行動を開始する。咲夜が指示を出し、くろすけまでの道行きを作っていく。 「いくぜ!」 「いきます!」 『ガァアアアアアアアアアアア!!!』 八本の尾が大量の死を振りまく。しかし、ヒナギクが切り開きマキナがからめとる。死角は咲夜が潰していく。 「返すぜくろすけ! これがお前の一本目の力だぁあああ!!!」 伊澄によって指向性をもった力がくろすけを、九尾の黒狐の体を包んでいく。 『グギャァアアアア!!! 力が、力が消えていく、我が、こんな、場所で消えるのか......!?』 「いいや消えねえ。ここから始まるんだ。これがお前が望んだお前の根源、“生まれ変わり”の力だ!」
(もしも生まれ変わるなら、もう一度、あなたに逢えたらいいな)
『知らぬ! このような記憶、我は知らぬぞ!』 「忘れてるだけだ! 時代が悪かった! 人の悪意が、邪気が、お前を狂わせた! 生まれ変わってもう一度あの人間に会いたいっていう願いだけが能力として残っちまった! だからこの力だけが傷つける力を持たなかったんだ!」 『黙れ、黙れぇえええええ!』 「もう一度、ゼロから全てをやり直せ、くろすけ! もうお前の願いは叶わない、けれど! これ以上歪める必要もないんだ!」 マサキは自覚する。少しずつ、自分の中の存在が、かけていく事に。それでも、ここで止まるわけにはいかない。 「これで、終わりだぁあああああ!!!」 空間に光が満ち、同時にマサキは自分の存在がほどけていく事に気付いて......
「術式八葉」
そのキツネはとても賢いきつねだった。 どのくらい賢いかといえば、自分の可愛さを理解している節があるという事だ。 こういう仕草をすれば人間はエサをくれる。こういうことをすれば人間は自分を警戒しない。 わざと泥に突っ込んだり、罠にかかったり、そういう馬鹿っぽいとこを見せたり、けれど逆に自分が喰われないようにいつでも逃げ出せる距離を維持したり。時として迷子の人間を案内したり、なでさせてあげたり。 そのキツネは人里の近くで噂になる程度には有名だった。「変わり者の狐がいる」と。 「おめえいつも真っ黒だなぁ」 その人間も他の人間と同じだった。すくなくとも狐にとっては同じだった。 自分に哀れみにも近いような視線を向け、足元でごろんと腹を見せれば餌の一つも恵んでくれる。ただ、その人間が他の人間と違うとすれば、 「おめえ、狐なのにいっつも黒いからくろすけだな」 自分に名前をつけた、というところだろうか。 その後、自分がどういう最後を迎えたのか、生まれ変わった自分は人間と再会できたのか。 そのあたりの記憶は定かではない。 それがいい事なのかは、きっと、誰にも判断できない。
目を覚ます。 はて、ここはどこだろう。 私は誰。ここはどこ。 まあ。記憶がないのはさしたる問題ではない。そんなもの、これからいくらでも積み重ねていけばいいのだから。 それより気になるのは。 「伊澄! 俺と結婚してください!!!」 「!?!?!?」 なんかあっちのほうですごく面白い事が起きてそうな気がする事だ。 というかここ、次元の狭間じゃなかろうか。どうしてそんな事が分かるのかは知らないが、分かるんだからしょうがない。というかこのままここにいると我死ぬのでは? さてさて、こんなところで死ぬのはごめんだ。だから、どうも楽しそうなあの人間たちに、助けてもらうとしようか。大丈夫、知っている。自分はそれが得意だったからと根拠なく自信があるのだから。 精一杯の愛を込めて。
「こん!」
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ここまで読んだいただけた方に最大限の感謝を。
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