聖母、健在 第1章4話 |
- 日時: 2022/02/06 00:36
- 名前: 双剣士
- 「……なるほど。おおむねハヤテ君の方の事情は理解しました」
「その……お嬢さまのことを知らないとか、嘘をついたことも謝りますから……どうか……この件についてはどうか見逃して ほしいというか……」 通報されることを恐れてペコペコと手を合わせる少年……綾崎ハヤテに対して、マリアはそれほど怒ってはいなかった。 誘拐未遂ではあっても彼が隠し事の出来ない性格なのはよく分かったし、自身の行動をもって汚名返上したといってもいい 状況である。そんなことより重大な問題が目の前にある。 「というか実は……ハヤテ君の『さらう』とかどうとかいうセリフをあの子がですね〜」 「おぉなんだ、もう起きていたのか」 「あ……」 ところが、ようやく本題に入りかけたマリアの言葉は、この事態をもっとも知られたくない人物によって中断を余儀なくされる。 「どうだ? 体の具合は?」 「うん、もう平気……ありがとう。でもさっきはゴメン。公園で……あんなこと……」 「ん……いやその……驚いたけど嫌ではなかったし……ただ私たちはお互いのことをよく知らないから……やっぱりすぐにってのは 良くないというか……」 「うん……そうだね」 再会した2人の間で交わされる、一見噛み合っているようで双方の思惑がすれ違ったままの会話。マリアだけの知る2人の 豪快な勘違いが、いま新たな局面に入ろうとしている。 「で……私もあれから考えたのだが……お前、住み込みの仕事を探していただろう?」 「え? うん……」 「だったらこの家で……私の執事をやらないか?」 好意と期待を込めた表情で誘拐未遂犯を見つめる小さな主人を、さすがにマリアは止めに入る。とはいえ少年から聞いた事情を ここで明かせないのが辛いところ。 「あの、お嬢さま……そういうのはよく事情を聞いてからの方が……」 「でも姫神の後任は必要だぞ。姫神の後任がいないから誘拐とかされるわけだし……」 「でもハヤテ君は……執事ってどんな仕事かもわからな――」 しかしそんなマリアの気持ちを知る由もない少年は、マリアの心遣いを一言の元に粉砕して見せた。 「やります!!」 《……あ〜〜》 「お任せくださいお嬢さま!! 何があろうとこの僕が命をかけて、あなたをお守りいたします!!」 「ば……ばか……マリアの前で照れるようなことを言うな……」 こうしてクリスマスイブに出会った謎の打たれ強さをもつ少年が、姫神の後任としてナギの傍に仕えることになった。待望の少年執事が、 気難しい女主人からの全面的賛同を受けて選ばれる。大いに喜んでいい場面のはずなのだが……マリアの脳裏に浮かぶのは今後の不安 ばかりであった。 《ど……どうしましょ……どうしましょ……この天然さんたちは、もう……》
そしてその後。すぐにも炸裂すると思っていた爆弾のような2人の関係は、意外なことに破綻する様子を一向に見せず……その間に 次から次へと繰り出される、借金取り、クラウス、タマ、介護ロボ・エイトに咲夜や伊澄たちによる数々の試練を綾崎ハヤテは乗り越えて いき、その度にナギからの信頼を摩天楼のように高々と積み重ねていくのだった。 そう、全ての事情を知るマリアでさえも、今更それを言い出すことができないほどに……。
(第1章終了)
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