聖母、健在 第1章3話 |
- 日時: 2022/02/03 19:49
- 名前: 双剣士
- 「そういえば、姫神の後任ってまだ決めてなかったな」
「ええ。それが何か?」 「こいつにしよう」 「は!?」 「礼をすると約束した。新しい仕事を見つけてくれと頼まれもした。だからこいつを……この三千院ナギの新しい執事にする」
クリスマスの夜にマリアが出会った少年は、ナギを乗せた誘拐犯の車に向かってものすごい勢いでママチャリを駆って後を追い始めた。 そして時速80km/hを越える車に追い付くと、血まみれになりながらナギを救出して、そのまま意識を失ってしまった。 彼が三千院家の恩人なのは確かだし非凡な才を持つことも間違いない。なので助け出されたナギが彼を執事として雇うと主張すること 自体には、驚きはすれど反対する理由はなかった。しかし続くナギの言葉を聞いて、マリアは思わず大声をあげてしまった。 「ま……命の恩人の頼みというのもあるが……なんと言うか、その……告白されたんだ、さっき公園で……とても情熱的に…… 『君をさらいたい』とかなんとか……」 「はぁ!?」
お屋敷に帰ってからも楽しそうに『運命の出会い』をナギは語り続ける。彼女のいうことが事実であれば、それは確かにクリスマスイブに ふさわしいラブロマンスと言えた……そう、事実であれば。 「確かにナギの命の恩人でいい人みたいだけど……あの時、ナギを知らないといったあの言葉は明らかに嘘なわけで……」 マリアは短い間ではあるがカーチェイスに飛び出す前の少年と会話しており、そのときナギの特徴を彼に話している。 寂しそうに顔を背けた彼と、ナギに告白したという彼がどうしても結び付かない。まして彼が『君をさらいたい』とナギに告げ、 目の前でナギが誘拐された途端に猛然と誘拐犯たちを追いかけたとなると……誘拐犯同士の仲間割れ、という可能性を マリアとしては考えざるを得ないのだった。もしこの洞察が当たっていれば、彼をお屋敷に雇い入れるなど論外である。 「やはり少し、問いただしてみないと……あ、でもその前に……」 とはいえ問いただそうにも肝心の相手は意識を無くして眠ってしまっている。まぁ一刻を争うことでもないでしょう、と一時保留する ことにしたマリアは、雪の街で冷えきった身体を暖めるため大浴場へと向かったのだった。
そして。浴槽に浸かっていたマリアは一糸まとわぬ姿で、彼と2度目の邂逅をする。これが商業誌であれば、間違いなく挿絵が入る場面である。 「ウフフ……ちょっと夢を見てもらっただけよぉ……」
……さて、記憶を永遠に封印したい暗黒の数分間を経て、マリアは少年の名前と彼の身に降りかかった事情を理解するに至った。 やがて目を覚ました少年に自己紹介をしたマリアは、気になっていた質問を彼に投げ掛ける。 「ところで、お嬢さまが来る前に少しお話したいことがあるのですが……その……先程のお嬢さまとの公園での一件について… …さらうとかどうとか言ったという……」 これに対する少年の反応は、半分はマリアの予想通り、半分は完全に想定外だった。まさかこんなにあっさりとボロを出すとは 思わなかったという意味で。 「スミマセン!! スミマセン!! 誘拐なんてもう2度と――!!」 「……え? 誘拐?」 「――!!」 「ええっと……少し話を聞かせてもらえますか?」 「は、はい……」
その後。30分以上も続く被告側の弁明を聞きながら、マリアは内心で溜め息をついていた。 《はぁ……紫子さんといい、あの子といい……未遂に終わった犯罪者を好きになっちゃうのは血筋なんですかねぇ……》
(続く)
|
|