聖母、健在 第3章5話 |
- 日時: 2022/02/20 21:28
- 名前: 双剣士
- 神様の復活を助ける。一条執事の提案は口にするだけなら簡単だが、過去の権力者たちが試みた『神様の力を利用する』とは
比較にならない難事であろうことは想像に難くない。そんなことをやろうとするのは歴史に名を残せるほどの天才か、さもなければ 何も考えてない子供くらいだろう。ましてや勝算の見込める方法を見つけるとなると……再び思索の沼に沈んだ女主人に、一条は 耳元でささやいた。 「美琴さま、紫子さまと最後にお会いしたときの会話、ここで詳しく話してはいただけませんか」 「……っ!! 一条君、それは……」 「あのときの紫子さまが本物であれどうであれ、ご自分がもう長くないことを悟って、ナギさまと一緒に生前親しくしていた方々の もとを巡っていた所までは確かなようです。日本にいる初穂さまと伊澄さまに娘のナギさまを託された所までは親心として理解できます。 しかし美琴さまに対しては、なぜか紫子さま主演のドリーム小説としか思えない奇妙なおとぎ話を残していかれた……私は断片しか 伺っておりませんが、もしあれが庭城の神様の話だったとしたら、その意味が全く変わってきます」 「…………」 「紫子さまは自分には果たせなかった神様救出を、美琴さまに継いで欲しかったんじゃないでしょうか。あるいは継いでくれる誰かに、 美琴さまから伝えて欲しかったんじゃないでしょうか……おそらく今がそのときかと」 「……でも……」 視線を伏せた橘美琴は、そのまま視線を伏せるとしばらく沈黙し……迷った末にこうつぶやいた。 「姫神君、あなた昨夜、帝おじいさんとは切れたって言ってたわよね。証明できる?」 「これまでがこれまでだし、疑われるのも無理はないな。こっちとしては晒せる札はすべて晒した。あとはそっちで判断して欲しい」 「ごめんなさいね。この話を聞いたら強欲な人たちはきっと、紫子姉さまの願いとは反対のことをしようとするだろうから……今まで 誰にも話したことなかったのよ」 迷うそぶりを見せつつもこういう話をすること自体、美琴の心のカギが外れかかっている証に他ならない。ここで焦って 手を伸ばすほど姫神は愚かではなかった。 「いいさ。素面(しらふ)で話せないことは僕にだってある。しばらくこの街で遊んでるから、気が向いたらこの番号に連絡をくれ」 あっさりそう言って席を立った姫神は、一条に電話番号を伝えてスイートルームを後にした。ここで時間を空けることで 貴重な手掛かりを失う可能性も無くはない。だが開きかけた扉は彼女の傍にいる悪友がきっとこじ開けてくれるだろう、そう姫神は 確信していた。
そして翌日の夜。一条に呼び出された姫神は、会う前から酒の入っていた美琴から貴重な情報を聞き出すことに成功した。 絡まれながら聞き出した酔っ払いの言葉を要約すると以下のようになる。
・王族の庭城に住んでいる神様は、好きでそこにいるのではなく、大昔の悪い王様に閉じ込められている ・その王様は神様の力を奪い、城の棺に封印し、王玉を使ってそれを取り出せるようにした ・王様の死後、幾多の権力者が王玉を使って神様の力を利用しようとしてきた ・そのことを知った三千院紫子は、神様の力を神様に返そうとしたが、時間が無くて果たせなかった
王族の力の管理者一族だった姫神にとっては周知の部分も多かったが、彼の推測でしかなかった『紫子は神様を助け出そうと したが果たせなかった』を裏付ける証言が得られたことは大きい。だが続く美琴の言葉を聞いて彼は頭を抱えることになった。
・神様の力を神様に返す方法は、悪い王様の作った災いの元凶を取り除くこと。つまり庭城の破壊
「待ってくれ、じゃ庭城に残った紫子は、自分ごと庭城を壊してくれと言っていたのか? 本当にそれしか方法はないのか?」 「知らないわよ! 昨日あなたと話すまで、本物の紫子姉さまが庭城に残ってるなんて想像もしてなかったんですもの」
(第3章終了)
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