聖母、健在 第3章4話 |
- 日時: 2022/02/19 15:17
- 名前: 双剣士
- 「ありえない! そんなことがあったらナギちゃんやマリアちゃんが気付かないはずがないし、私だって亡くなる前の紫子姉さまに
直接会っているのよ? 一度だけラスベガスに遊びに来たときにね、この私が見間違える訳ないわ」 この話を聞いた美琴が激高するのは予想の範囲内。姫神は慎重に言葉を継いだ。 「落ち着け、ミコにゃー。入れ替わったとは言ったが、まったくの別人と入れ替わる訳じゃない。神様が作った紫子そっくりの器を 現世に送り返して、庭城にいる紫子がそれをリモートコントロールしてたとしたらどうだ? それなら姿形も性格も同じ、 もう一人の紫子が戻ることになるから誰にも気づかれない」 「なんでそんな面倒なことをしなきゃならないのよ……」 「子供のときの約束を守るためさ。神様を庭城から助け出すつもりだったけど、何らかの事情で完全な形でのそれが出来なかったんだろう。 ならば自分が身代わりになるから自分の振りをしてここから出て、と神様に言ったんじゃないかな。どうせ神様には現世での肉体なんて 残ってないんだろうし」 「……そういえば最後に会ったとき姉さまは言ってたわね。神様との約束を守るには時間が足りなかったって……」 独り言を思わずつぶやいた美琴は慌てて口をふさぐ。生前の紫子から聞いていた庭城の話をここでするつもりはなかった、 現時点で信用しきれない姫神にはまだ聞かせるつもりはなかったのだ。動揺する美琴の盾になるように一条が割って入る。 「だけど姫神、だったらなんで3年なんだ? 神様に作らせた器なら、その気になれば不老不死だって可能だったろう。 紫子さまが今でも生きているのなら、なんで可愛い娘を残したまま3年後に死んだふりをしなきゃいけなかったんだ?」 「推測に推測を重ねることになるが、それが不完全な形で現世に来た神様の力の限界だったんじゃないかな。あるいは 神様の力を限界ギリギリまで搾り取るような出来事が3年後に起こったのかもしれない。例えば当時住んでたミコノス島で 娘が迷子になったうえに現地のマフィアに襲われそうになって、助けを呼ぶには時空を超えるほどの大きな力が必要だったとか」 姫神は冗談交じりに話したが、笑う者は一人もいなかった。
「そういうわけで、紫子は王族の庭城にいると僕は睨んでいる。たった一人で8年間もと思うかもしれないが、帝じいさんと 一緒に調べた古文書によれば庭城の中で力を使う分には寿命は減らない。代わりに出たくても出られなくなるらしいけどな。 きっと紫子は今でも、神様の目を通じてナギたちを見守っているんじゃないかな」 彼らしくもなくロマンティックな想像で話を締める姫神。いささか根拠薄弱・誇大妄想の気配はあったが、美琴と一条は それ以上反論しなかった。ここで議論を重ねたところで証拠が出てくるわけではないし、姫神の仮説を否定することは紫子の死を 認めるに等しい。どんなに確率が低くても構わない、紫子生存の可能性に賭けると昨夜二人は断言したのだから。 それに、ここまでの話は単なる前提に過ぎない。この作戦会議の主題は、紫子救出の方法を見つけることである。 「紫子を連れ戻すに際しての障害は3つある。1つ目は庭城までの道を開くこと、2つ目はキングミダスの妨害をかいくぐること。 この2つは曲がりなりにも過去に実績があるから、容易ではないが方法はあると思っている。問題は3つ目の……」 「紫子姉さま自身が帰りたがらないかもしれない、ってことよね。あの人は頑固なところがあるし、一人遊びも苦にしない タイプだったから」 美琴の割り込みに姫神は頷いた。成人後の紫子とほとんど顔を合わせていない彼としては、紫子の親友だった美琴の意見は 貴重である。この方面で知恵を借りるためにラスベガスに足を運んだといっても過言でない。しかしラスベガスの魔女は小さく 頭を振った。 「ナギちゃんを置き去りにしてまで神様との約束に殉じた姉さまを翻意させる方法か……ちょっと思いつかないわね、悪いけど」 「すぐに方法が見つかるとは思ってない。じっくり考えてみてくれないか?」 「考えてはみるけど、あの人の気持ちはイマイチ読み切れないところがあるのよ……結婚相手を決めた時もそうだったものね。 当時の姉さまの歳を追い越した今でも、あんなチャラい男を選んだ理由は分からないわ」 「…………」 紫子の結婚相手。姫神にとっては意識の片隅にすら置きたくない男である。自然と2人の口数が減り、重苦しい空気がスイート ルームを支配した……だがここで3人目の共謀者が別の視点からの意見を出してくる。 「だったら、不完全な神様に手を貸して完全復活してもらうというのはどうだ? そうすれば紫子さまが庭城に残る理由は なくなるんじゃないだろうか」
(続く)
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