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対象スレッド 件名: 聖母、健在 プロローグ1
名前: 双剣士
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聖母、健在 プロローグ1
日時: 2022/01/29 22:13
名前: 双剣士

プロローグ

 三千院家当主・三千院帝(さんぜんいん みかど)にとって、その日は痛恨の厄日であった。
 世界を手に入れることも可能といわれる古代の神の力、それを引き出す9個の王玉。25年前に一人娘の紫子が見つけた
それを手にして以来、帝はその力の解明に夢中になった。無論それは容易い道ではない。既に文献や専門家の話は調べ尽くした。
フリギア語の古代文献を解読するために優秀な子供たちを集めることもした。その1人が解読に成功し、父親の死を代償に
王族の庭城への道を一度開いたこともあったが、彼女自身も大きな代償を支払うことになった。二度と同じ過ちは犯せぬ。
三千院帝は戻ってきたその少女を物心両面で支えつつ、慎重に庭城の力の取り出し方の研究を重ねていたのだった。
 なのに……ああ、それなのに!
「宮村優子、2度目の結婚!(2004年)」
 衝撃の一報を耳にした帝は驚きのあまり、手にしていた王玉の1つを床に落とし、あろうことかそれを踏みつけて割って
しまったのだった。その事実に気づいたとき、彼の心に吹き荒れていた暴風は鮮血混じりのブリザードと化して寂寥感に浸る
帝の頭を地面へと叩きつけたのであった。

  * *

 そして。とぼとぼと地下の研究室から自室に戻ってきた帝の前に、その日3度目の衝撃が待っていた。
「やぁ爺さん、久しぶりだな」
「……!! お、おぬし……姫神、か?」
 孫娘ナギの専属執事、姫神葵(ひめがみ あおい)。ナギの住む別宅にいるはずの少年執事が帝の部屋で佇んでいた。
だがマリアと同じ16歳だったはずの姫神の姿と声は、30歳前後の青年のものへと様変わりしていた。彼の右手に備わった
特徴的なアレがなければ、帝にも誰だか分からなかったくらいに。
「そうさ。なぜか知らないが、今日急に年齢と昔の記憶を取り戻せてね。ナギたちを驚かせる前に、『共犯』のあんたに挨拶に来たわけさ」
「…………」
「あぁ大丈夫、記憶をなくしてた間のことはちゃんと覚えてるから。身寄りのない僕のことを引き取って育ててくれたことには
 感謝してる。でもこうなった以上、執事ごっこはもう終わりにしないと」
 快活にほほ笑む姫神とは対照的に、帝の背筋に寒気が走った。共犯……それは10年ほど前に帝とアテネと姫神の間で結んだ、
神の力を求める重罪人3人の関係。姫神が幼児化し、アテネが亡き父に代わり天王州家の当主として忙殺される日々に入ったことで
自然消滅したはずの罪人同盟。そのときの記憶を姫神は取り戻したと言っている……そういえば当時22歳だった彼が本来の年齢を
取り戻したとすれば、目の前の青年はちょうどそれくらいだと帝は気づいた。
「それで? 僕がいない間の進捗を聞かせてもらおうかな。ナギのところにいるとその辺の情報に疎くてね」
「……し、進捗とは何の話じゃ?」
「とぼけなさんなって。王族の力を引き出して、紫子(ゆかりこ)を復活させる件さ。それも亡くなる前の紫子じゃない、
 あの変な外人のコソ泥と結婚する前の紫子を、ね」
「…………」
「そのためなんだろ? ナギを三千院家の後継者に指名せず、今まで中途半端にしてきた理由はさ」
 帝がすでに諦めた計画を平然と口にする姫神は、まさしく10年前からやってきた亡霊であった。

(続く)