これは「 」で見つけました。 |
- 日時: 2020/04/17 11:59
- 名前: ネームレス
- 「ふむ」
ある日の昼下がり。お嬢様がいつものように漫画を読んでいた。普段なら気にすることのない日常の一コマだが、なんだが普段漫画を読んでいる雰囲気とは少しだけ違う気がする。
「お嬢様。なにを読んでいるのですか?」
気になってつい声をかけてみると、よほど集中していたのか今気がついた、とでもいうように少し周囲を見回すように眺めてから僕の方を見る。 「ああ」、とこれまた普段のお嬢様らしくないどこか気落ちでもしてるかのような反応に、「なにか壮絶な内容の漫画でも読んだのではないか」と不安になってしまう。影響されやすいお嬢様は推しキャラが死んだらしばらく荒れるので、十分にあり得る可能性がある。
「ハヤテか。いや、少しショッキングな内容だったものでな。タイトルは__」
やはり、と自分の中の予想が確信に変わる。思考はすでに、お嬢様をどう元気付けるか、という方向にシフトしていく。スイーツか、それとも少し凝った料理でも。マリアさんとも相談して__
「【ハヤテのごとく!】だ」
〜これはAmaz●nで購入しました〜
「お嬢様!?」 「いやー、まさか王玉にこんな秘密があったとはな」 「いやほんとになに読んでるんですかお嬢様!?」
いったいそんなものどこで手に入れたんですか!?(※タイトル参照)
「なんかあれだな。最近流行してる原作ありきの世界に異世界転生主人公にでもなった気分だ。予言書もびっくりな正確性ではないか?」 「いやいやいや。世界観壊れますよ。というか一旦読むのやめましょうよ。知ったらなにか大変なことになる気がするんですが」 「それよりハヤテ」 「な、なんですか」
お嬢様がハイライトを失った双眼で僕を見据え、地獄から響いてきそうなほど低い声で、言う。
「ハヤテは私のこと好きではなかったのか?」
☆
(修羅場ですわ……)
私は屋敷内の掃除をしながら、ナギとハヤテくんの声が聞こえたので顔を出そうと部屋の中の様子を伺いました。しかし、そこで繰り広げられていたのは、まさに修羅場。 扉の隙間から見える、テーブルに積み重なっている漫画。タイトルは遠目から見る限りでは【ハヤテのごとく!】という漫画。表紙には私たちがそのまま漫画のキャラにでもなったかのようなキャラたち。会話の内容から察するになぜそんなものがあるのかはわかりませんが、私たちの日常を模したような内容なのでしょう。 そして、ナギの「好きではなかったのか?」というセリフ。私だけは知っている、いや知っていた秘密。ハヤテくんは親から押し付けられた借金を返すため、元々ナギを誘拐しようとしていた犯罪未遂者。ナギはその際に投げかけられた言葉を勘違い。愛の告白をされたと思い自分自身もハヤテくんに一目惚れ。逆にハヤテくんは犯罪未遂を起こした自分を雇ってくれるというナギの懐の深さに感銘を受け、行くあてもないためそのままナギの執事として雇われることに。 以来、綱渡りの関係性が育まれてきたわけでしたが……
(ついにバレてしまった)
私はすぐさま頭をフル回転させる。最初の頃ならともかく、長い付き合いになってしまったハヤテくんをそのまま見捨ててしまえるほど情のない人間ではない。
(ナギもすぐに放り出すことはしないと思いますが)
今すぐ介入すべきか、ナギにかけるべき言葉を考えてそして
「そんな……マリアさんが、僕の姉さんだったなんて」 「どういうことですかーーーー!?」
☆
「おお、マリアか」 「あ、姉さん」 「ハヤテくんは姉さんって呼ばないでください! なんですかさらっと衝撃の事実を受け入れないでください! さっきまでもうちょっとシリアスな空気があったじゃないですか!」 「いやまあハヤテと私の間に勘違いがあったのは事実だし、ショックもあったが……」
そう、勘違いに気づいた私はたしかにショックだった。怒りが、悲しみが、いろいろな複雑な感情が渦巻いたが、テーブルに積み上げられた漫画、それを読み思い出す思い出。それが私の暴走を堰き止めていた。
「積み上げてきた思い出は、決して嘘じゃないと気づけたから、かな」 (誰でしょうこの正統派お嬢様は)
マリア目線から見ると、窓から差し込む光がナギを神々しく照らし、絵画のような美しさを醸し出していた。なお、脇にあるのは週刊コミックの模様。
「そんな……イクサ兄さんが記憶をなくして海でライフセイバーをしていたなんて……」 「あとハヤテの両親の実態を見たらなんか怒りも湧いてこないというか、まあ結果的に落ち着くところに落ち着いたからよいではないか」 「どうしたんですかナギ。お嬢様みたいですよ?」 「私はお嬢様だぞ」
先程から失礼な言葉を投げかけられ、若干イラつきはするが先程からの衝撃の真実の連発で耐性ができたのか、心は割と落ち着いている。 というか、
「そんな……僕があの変態と起業?」 「おいハヤテ。いい加減戻ってこい」 「大丈夫ですお嬢様。あの変態を抹殺すればいいんですね?」 「ハヤテくん。今はそれどころじゃ」 「だけど姉さん」 「姉さんと呼ばないでください」
マリアはどうやら混乱しているようだが、それは私が数時間前に通った道である。 私はハヤテに耳打ちをし、ハヤテは意を決したように實行する。
「……お、」 「お?」 「お姉様!」 「そういうことじゃありません!!!」
この日、最大級の雷が落ちた。
☆
「全く、この本はすぐに処分します!」 「待て待て。もったいないだろう」 「そうですよマリア姉さん」 「ハヤテくんには後でOHANASHIがあります」
三人が集まり、いつものようにくだらない掛け合いを行いながら、穏やかな時間が過ぎていく。
「しかし、いいんですかナギ。ハヤテくんのことは」
一瞬の緊張。しかし、ナギはそれを軽く笑う
「言っただろう。積み上げてきたものは嘘じゃない。それに、この作品の私は暴露するタイミングは最悪だった。私はまあ、考える時間があった。過程が違えば結果も違う。だから、これでいいんだ」 「お嬢様……」
フッ、と穏やかな笑みをナギは浮かべる。それを見たマリアはナギの成長を心から喜び__
「それはそれとしてハヤテにはしばらくメイドとして働いてもらうがな」 「お嬢様!?」
訂正。根本的なところは全く変わっていなかった。
「どうしましょう。予備のメイド服はありませんし」 「姉さん!?」 「ネコミミとしっぽもつけましょうか♪」 「ね…マリアさん!?」
当然、この流れに乗らないマリアではない。もはやハヤテ一人では止められない流れに二人は乗り、ノリノリでハヤテのメイド化計画を話し合う。
「で、でもメイド服はないんですよね?」
最後の抵抗。
「フッ。ハヤテ。無ければ買えばいいのだ」
「Amaz●nでな!」
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