Re: 鬼か人か 〜 第二章 HEROに涙はいらない |
- 日時: 2019/06/02 09:52
- 名前: どうふん
「ヒナギクさんを救わなきゃ・・・」 砂かけババアと一緒にゲゲゲの森に向かったハヤテはさっそく「妖怪大戦争」に巻き込まれます。 しかしハヤテの敵は西洋妖怪だけというわけではありません。 もっと恐るべき敵はあの・・・。
第二話:炎上する森
「砂かけババアさん。一体何が起こってるんです」顔に降りかかってくる火の粉を払いながらハヤテは叫んだ。 森のあちこちに首のない西洋の鎧騎士が倒れていた。それに混じって人間や動物に似た奇妙な姿も。(これが妖怪か・・・)ハヤテも何度か聞いたり、本で見たことのある妖怪の姿も混じっていた。しかしこのガラクタのような鎧騎士の群れは・・・? 「こいつらは西洋妖怪の兵隊じゃ。鬼太郎がいないところを狙ってやってきたのか」 「と、とにかく火を消さないと」 「それは後じゃ。とにかく奴らの狙いはアニエスじゃ」 「あにえす・・・?」それが宝物を指すのか人名であるのかハヤテには見当がつかない。確かめる余裕もない。獣道のような細い道を二人で森の奥へと駆けた。
森の開けた先に岩場が広がっていた。 そこに将軍のような鎧をまとった若い女−日本侵攻の指揮官を務める西洋魔女アデルが立っていた。 すぐ横に透明な立方体の箱が光を放っており、中にアデルより一回り小柄な少女が倒れている。 「もう遅い。アニエスも指環も回収した」西洋魔女は冷ややかに二人を一瞥した。 あの箱の中にいるのがアニエス・・・。見るからに魔女のコスプレのような衣装をまとう少女は意識を失っているのかピクリとも動かない。 あの中に閉じ込められているのか・・・。ハヤテは気付いた。
「みんな・・・」砂かけババアの唸るような声を聞いて辺りを見回すと、腕や首がもげ落ちて倒れている多数の騎士に混じって、手足のついた大きな壁、白い布、蓑を被った赤ん坊、それと一人の少女などが倒れていた。 (あれは・・・妖怪と・・・まさかヒナギクさん・・・じゃないか・・・) ハヤテにしてみれば状況が呑み込めないが、とにかくあの将軍魔女が敵で、結界に閉じ込められている少女を助けなければいけない、ということは見当がついた。 ハヤテは黒椿を抜いた。「砂かけババアさん。あいつを倒せばいいんですね」 「ま、待て」引き留める間もなく、ハヤテは駆けだしていた。 「くっ」砂かけババアは後ろから砂塵を撒き散らした。せめて目くらましになれば。 だが、魔女は体のすぐ前にバリアを張って黒椿も砂も全て撥ね返した。
「うう・・・」弾き飛ばされたハヤテは頭を振りながら立ち上がった。衝撃で体が痺れている。 だが、こんなことで負けられない。ヒナギクが今どこで戦っているのかは分からないが、とにかくこいつは自分が倒さないと。 ふと、思った。もしかしたらヒナギクはこの森のどこかで倒れているのではないか。まさか死んでいるということは・・・。いや、そんなはずはない。きっとどこかで生きている。何としてもこいつを倒してヒナギクを助け出す。 事実関係の把握はうまくできていないが、ハヤテの精神テンションはかつてミダス王に徒手空拳で立ち向かった当時まで高揚していた。
「貴様も人間か。人間ごときが剣を持ったぐらいで私に勝てると本気で思っているのか」 「ああ。ミダス王だって僕たちが倒したんだ」アデルの口がピクリと動いた。 「なら容赦はしない」アデルの突き出した掌が光を放ち、ハヤテは後ろに吹き飛ばされた。さほどダメージを感じなかったのは黒椿を構えた効果か。 再び立ち上がり身構えたものの、一体どうすれば魔法使いに有効な攻撃ができるのか。黒椿を撥ね返すバリアへの対抗策が思いつかない。 横手から砂嵐が吹き荒れて、アデルを包み込んだ。いつの間にか砂かけババアが回り込んでいた。不意を突かれたアデルが目を腕で庇いつつ顔を背けた。 今しかない、ハヤテは目を瞑って突っ込んだ。闇雲に黒椿を振り回そうとしたハヤテを叱咤する声が響いた。 「まだよ、ハヤテ君!」 (あ、あの声は・・・)間違いない。ヒナギクだった。
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