鬼か人か 〜 第二章 HEROに涙はいらない |
- 日時: 2019/05/29 23:01
- 名前: どうふん
さて、そろそろ第二章にとりかかろうと思います。ようやくヒナギクさんが活躍できる。 しかし、二年に亘る「妖怪大戦争」の過酷さはヒナギクさんを大きく変えていました。 いろいろな意味で。
鬼か人か 〜 第二章:HEROに涙はいらない
第一話 : 森に迫る危機
むき出しの原野に大小の岩が転がっている。 そこに吸血鬼カミーラがゲゲゲの鬼太郎と対峙していた。
「あはははは」背が隠れる程の大岩を背に、カミーラは哄笑した。 「そんなスピードじゃ私は捕まえられないわよ。日本妖怪の総大将がその程度かい。信じらんないね。ヴォルフガングもヴィクターもこんなやつに殺られたなんて」 西洋妖怪の中でも最強を誇る三人衆のうち二人、ヴォルフガング(狼男)とヴィクター(フランケンシュタイン)は鬼太郎たちに倒された。最後の一人となるカミーラはおよそ数百匹の吸血コウモリに自在に分裂・統合し、間合いに入らず鬼太郎の荒技を交わし続けていた。
鬼太郎は無言で指鉄砲の構えをとった。 「それは私には通用しない。さっき教えたと思うんだけどねえ。あんたには学習能力がないのかい」 「そんなものは持たないさ。僕には必要ないからね」自信ありげな口調に、嘲笑していたカミーラの眼が泳いだ。 「何を言ってるんだい、負け惜しみを」毒口を放ちつつ周囲に目を配ろうとするカミーラに鬼太郎は一言で応えた。 「誘ったのさ、その位置に」カミーラははっと後ろを振り向いた。しかし遅かった。 大岩の陰から一陣の風が吹いたのを感じるより先に、肩口のあたりで髪をなびかせた少女が真横を擦り抜け、カミーラは驚愕の顔をそのままに上下真っ二つになっていた。剣道でいう抜き胴だった。
鬼太郎の指がすかさず閃光を放つや、カミーラの上半身は粉々に砕け散っていた。 表情を緩めた鬼太郎が腕を下ろし、少女に声を掛けた。「さすがだな、ヒナギク」 鬼太郎の髪の中から、目玉おやじが顔を出してうんうんと頷いた。 「これで西洋妖怪三人衆は全員倒したわけじゃな」 それには答えず、少女−桂ヒナギクはしゃがみこんで地面に転がるカミーラの下半身を調べていたが、蘇る気配はないのを確かめると振り向いだ。 「鬼太郎、すぐ戻るわよ」怪訝な顔をする二人にヒナギクは厳しい顔を向けていた。「陽動作戦かもしれない」目玉おやじはすぐに悟った。 「そ、そうか。確かにカミーラは決して自分から攻撃してこなかった。今思えば時間稼ぎしていたのかもしれないのう」
「わかった。ゲゲゲの森へ戻ろう」鬼太郎も頷き、鬼太郎とヒナギクはカラスの群れに支えられた飛行船に乗ろうとした。しかし一羽のカラスが鬼太郎の元へ飛んでくるのが先だった。カラスは鬼太郎に向かい、わめくような勢いで啼き続けていた。 これを聞き取れるのは鬼太郎しかいないが、只事でないのはヒナギクたちにもわかった。固唾をのむ目玉おやじとヒナギクに鬼太郎が顔を向けた。普段の無表情が一変していた。 「ヒナギクの言った通りだ。奴らが総攻撃をかけてきた。ゲゲゲの森だ」
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