【第6話】 鬼か人か 〜第一章 曙光のひとかけら |
- 日時: 2019/04/14 21:03
- 名前: どうふん
- 今、放映しているゲゲゲの鬼太郎の第二部(というのかは知りませんが)はどうもピンと来ないですね。ライバルのキャラが立ちすぎているというか・・・。まあ今後の展開を見たいと思います。
ところで言わずもがなではありますが、第二部に出てくる「鬼道衆」は本作のタイトルとは全く関係ありません。念のため。
第6話: 帰還兵の告白
マリアはナギの荷物を受け取るため一人新居に戻り、ハヤテとナギは鷺ノ宮家にまっすぐに向かった。 門まで出てきた伊澄の母親の第一声は「あら、お見舞いに来てくれたんですか」。 その意味はすぐにわかった。 伊澄の部屋に通されたれた二人が見たものは全身に包帯を巻いて寝ている伊澄だった。 「伊澄、一体どうしたのだ、その姿は」 「ちょっと不覚をとりました。戦に戻るのはもう少し先みたいです」顔だけ二人に向けた伊澄は淡々と語った。相変わらずの無表情には、動けない自分への歯がゆさがにじみ出ていた。
「しかし伊澄さんほどの人がこんなケガをするなんて・・・。一体相手は何者なんですか」伊澄は口を噤んだ。 「なあ、伊澄。私たちはお前の友達じゃないか。友達がこうして大怪我して、しかも戦いはまだ終わっていないみたいじゃないか。心配してるんだよ」ナギの精いっぱいの声も伊澄に伝わっているのかどうか。無表情は変わらないまま一言も発しなかった。
「ヒナギクさんも・・・一緒なんですか」ハヤテの声に伊澄の眉がピクリと動いた。 「一緒なわけありませんね。現に私は一人で寝ています」寝返りを打ってそっぽを向いた伊澄の背中は(知っているけど言えません)そう語っていた。 ハヤテは猛烈な焦燥を感じた。言えない理由はなんだろう。言うもはばかられるほど危険な状況にある、ということか。重苦しいものが胸の中で膨れ上がって圧し掛かってきた。 自制が利かずハヤテは伊澄の正面に回り、目の前まで顔を近づけた。 「伊澄さん、教えてください。一体何があったんです?ヒナギクさんは無事なんですか?」 止めようとしたナギだが、血相を変えたハヤテの表情に慄然とした。それはナギが初めて見るハヤテの恐ろしい顔だった。
だが、それを平然と見返す伊澄の眼差しはさらに強かった。 「それを教えたら、ハヤテ様はヒナギクさんを助けに行ってくれますか」意表を突かれて黙り込むハヤテを伊澄は見据えた。その目を直視できずハヤテは俯いた。 「それは・・・。僕が行けば助けることができるんですか」 伊澄は鼻を鳴らした。もう日和ったか・・・、そんな思いが表情に出ていた。 「そんなことわかりません。はっきり言えば二人とも死ぬ可能性が高いですね。いや、私を含めて三人ですか」本気で言っているのか、脅しにかかっているのか傍で見ているナギにも判断できなかった。 だが、明らかにハヤテはひるんでいた。怯えているようにも見えた。 「僕は・・・ここでナギさんを守らなきゃいけないですし・・・。何年も経ってやっと会えたのに・・・」 「それならそれで構いません。立派なことですし責めるつもりもありません。ですが、私たちの世界に足を踏み入れようとは二度と思わないで下さい」
ハヤテは項垂れたままとぼとぼと帰途を歩いていた。 ナギはそんなハヤテのすぐ後ろを歩いていた。行きは二人並んで手を繋いで歩いていたのに、今は背中を追いかけながら声を掛けることさえできない。それほどハヤテの表情は陰鬱だった。
「そうですか・・・」一部始終を聞いたマリアは苦しげに考え込んでいた。 ハヤテは新居に戻って以来、部屋に籠って出てこない。 「なあ、マリア・・・」ナギは先ほどから気になっていたことがあった。「さっきアパートで言ってたじゃないか。ヒナギクに『大変な迷惑』を掛けた、って何のことなんだ?」 「・・・何でもありません。忘れて下さい」マリアはなおも食い下がろうとするナギに顔を向けた。表情が変わっていた。花のような笑顔が逆に怖い。 「そういえば私が旅から帰ってきたとき、ナギは真っ先にヒナギクさんの名前を呼びましたよね。そっちを先に説明してもらえませんか」 口ごもったナギは後ずさりして退散した。
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