【第4話】鬼か人か 〜第一章 曙光のひとかけら |
- 日時: 2019/04/04 21:47
- 名前: どうふん
第4話:永遠、ふたたび
「この星空の下で、君に伝えたいことがあるんだ」 「そうだな、夜は長い。ゆっくり話をしようじゃないか」 どちらからともなく結ばれた手は指を交互に絡めてのものだった。初めての恋人繋ぎだった。
ハヤテと別れて二年目のクリスマス。これはハヤテと出会って三年後のクリスマスでもあった。 もう何でも自分でできる。砂掛や鹿路に鍛えられたナギは料理や掃除も人並み以上の水準となった。 白皇学院は中退し、公立高校に転校したが、生活費はおろか学費さえ自力で稼ぎ、勉学に運動に励んでいる。 そこまで頑張ることが当たり前になった。そればかりでなく自分がどれだけの人に支えられているのかということにも気づいた。 (ちょっとしたヒナギクみたいなものだろ)あんなスーパースターではなくても、自力で全ての糧を稼ぐ、ということはさしものヒナギクさえしていなかった。 ようやくそこまで辿り着いたナギをハヤテは迎えに来た。ハヤテもまた堅気となってビジネスに励み、取り憑かれたような借金や貧乏に振り回されることはなくなった。
久し振りに顔を合わせて、言葉を交わしたナギの眼に涙はなかった。 心のどこかで信じていた。今でも見守ってくれている。きっと迎えに来てくれる、と。 寄り添って過ごす二人きりの時間はいつまでも続くように思えた。お互いこの二年間にあったことは語り尽くせず聞き飽きなかった。 だが、それも一段落して沈黙が訪れる時が来た。 ハヤテは隣が重くなったことに気付いた。もたれかかってくるナギの眼差しをハヤテはしっかりと受け止めた。 そして見つめ合うことしばらく。ハヤテの腕がナギの肩に回り、二人の顔が今まさに重なろうとした。
その空間はスマホの呼び出しに引き裂かれた。 「ナギ、いつになったら来るんだよ。パーティはとっくに始まってるぞ」かつてはアパートの仲間で、今も親友の春風千桜だった。だが、今度ばかりは腹立たしさが先に来た。何でマナーモード、いや、電源を切っておかなかったのか。 「全く無粋な奴だな。恨むぞ。いいところだったのに」 「何を言ってるんだよ。せっかく急いで教えてやろうと思ったのに。いつこっちに来れるんだ」 「ふん、明日の朝まで行かないつもりだったがな。そうもいかないみたいだから今から行くよ」 「おう、さっさと来い。お前が会いたくて仕方なかった人が来てるぞ」 え、会いたがっていた人・・・。ナギの全身に電流が走った。ハヤテはここにいる。と、すると・・・まさか、ヒナギク? 「ハヤテ、行くぞ」ナギは駆けだした。ハヤテもこの展開に多少の不満はあったのだが、とにかくナギを追って走り出した。 「お嬢様、じゃなかった、ナギさん。一体何があったんです?」 「ヒナギクだ。ヒナギクが帰ってきた」ナギの慌て方、というより喜び方は只事ではない ハヤテは困惑した。順当にいけば大学生になっているはずのヒナギクが「帰ってきた」とはどういうことなのか。 (留学でもしてたのかな) 二年前、自分に好意を伝えてくれたヒナギクの背中を見つめて泣いた、あの時の記憶が蘇った。あの時に抱いた得体のしれない感情も。 ヒナギクにまた会える。それは怖いような気まずさもあったが、それ以上に会いたい思いが強かった。
パーティ会場は「どんぐり」だった。賑やかな雰囲気が外まで伝わってくる。ゆかりちゃんハウスや白皇学院の仲間たちが今年も多数集まっているようだ。 息を弾ませて扉を開こうとしたナギだが、その直前に足を止めた。 「ハヤテ、お前はここで待ってろ」 怪訝な顔を浮かべたハヤテの鼻先に、ナギは人差し指を立てた。「いいか、ハヤテ。私は驚く立場だ。だが、それだけじゃつまらないだろ。第二弾のサプライズの主役はお前だ」 ああ、そういうことか。ナギとヒナギクの再会が一段落したその後に登場しろ、ということか。 (僕だって一刻も早くヒナギクさんに会いたいのに) だが、ナギの提案は確かに魅力的だった。パーティが盛り上がること間違いない。ヒナギクの驚いた顔も見たい。ここはナギの言うとおりにした。
よしっ、とドアに向き直ったナギは大きく息を吸い込んでドアを開け、一声叫んだ。 「ヒナギク!」 喧噪が止んで何とも形容しがたい奇妙な空気に包まれた。 会場にいた仲間たちが一斉にナギを見ている。その中心にいたのはヒナギクではなく、これまた行方知らずとなっていたマリアだった。
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