Re: (リレー小説)カップルがお酒を飲んでイチャイチャする話 |
- 日時: 2019/03/25 18:08
- 名前: 彗星
- こんにちは。彗星です。
なんとなく覗いてみたら面白そうな企画をやっていたのでなんとなく書いてみました。 SSを書くなんてものすごーく久しぶりで、なんだかうまく書けませんでしたが、楽しんでもらえると幸いです。
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「桂ちゃーん、この後、みんなで飲むけどどう? ちょっと遅いけど、新年会みたいな感じでさ」
プレミアムフライデー、と言うのだろう。年も明けてから一月が経つかという金曜日のことだ。アルバイト先の社員さんにそう誘われた。 彼の隣には口だけで「タダ酒、タダ酒だよ!」と伝えてくる同僚の姿がある。タダより美味い酒は無い、とかつて言い切ったのは誰だっただろうか。身内を思い出して少し懐かしい気持ちになりつつも私は首を振った。
「すみません、明日は朝早くから研究室に顔出さなきゃ行けなくて……」 「あちゃー、それはダメだね」
じゃあ、また暇なときにでも飲もうね。 そう言って残念そうな顔を浮かべる社員さんには少し申し訳ない気持ちになる。同僚に至ってはタダ酒なのに信じられない、と目と口を丸くしていた。なんとも憎めない人達である。 そんな彼らと駅で別れ、私は帰宅ラッシュで混み合う地下鉄に乗り込んだ。銀色の車体に紺と赤のライン。大学に進学してから乗り始めた路線だが、人で溢れるホームもぎゅうぎゅうに押し込まれた車内も、もうすっかり慣れたものになってしまった。 ――もう、二十二だもんなあ。 大学に入学して四年が経って、更に一年。あと一月で二十三になる。サークル活動にアルバイト、研究としていたら、気づけば高校を卒業して五年の月日が流れていたのだ。
「……っと、忘れてた」
スマートフォンで時刻を見ると、もう既に十九時を回っていた。この時間ならば、恐らく同居人も家に帰ってきてることだろう。 LINEでささっともうすぐ帰る旨を伝えると、すぐに可愛らしいスタンプが送られてきた。料理中のキャラクターが描かれているから、きっとご飯を作ってくれているのだろう。美味しい夕食を想像して、思わず喉を鳴らした。
「早く帰りたい……」
こういう日の電車ほど、なんだか遅く感じるのは気のせいだろうか。
☆
「ただいまー」
ようやく家に帰り着いて、扉を開ける。 すると、まずぱちぱちと弾ける油の音が耳に届いた。次いで、肉の揚がる香ばしい匂い。唾液が口に広がって、ぐぅ、とお腹が鳴った。 今夜は揚げ物だ。思わぬご馳走に胸が踊る。 逸る足を抑えて廊下を抜け、真っ先にキッチンへ向かった。トンカツ、チキンカツ、いや待てもしかしたら串カツか? 献立候補が次から次へと浮かんでは消えずにぐるぐる回り、さながら脳内メリーゴーランドとなって私の思考を染め上げていく。もうお腹はぺこぺこだ。 キッチンの戸を開ける。
「ねえ、今日の晩ごはんなに?!」 「からあげだよ、ヒナさん」
開口一番叫んだ私に、西沢歩はぐっと親指を立てそう答えたのだった。
☆
私の同居人、西沢歩はこう語る。 二十代女子なら、からあげをお腹いっぱい食べたくなるときがあるんじゃないかな、かな。
「とはいえ、これは揚げすぎなんじゃない……?」
揚げに揚げたり千五百グラム。私の目の前には文字通り山となった唐揚げが積み上がっていた。
「でも食欲が高校生男子のヒナさんがいるし……」 「誰が高校生男子の食欲よ、誰が。さすがに高校生男子の方が食べるわよ」 「いや、ヒナさん私の弟よりいっぱい食べてるんじゃないかな」
失礼な。さすがに私だって女の子なんだからそんなに食べないわよ。仮に食べたとしてもそれはすごくお腹が減ってたから。それか料理が美味しかったから。うん、多分そう。 そう言い訳して、私は改めてからあげに向き直った。いやはや、なんとも美味しそうなからあげだ。 二人でいただきますと手を合わせ、我先にと手を伸ばす。箸と衣が擦れてかさりと音が鳴った。 手元に引き寄せ、一気に口に放り込む。あまりの熱さに舌の上で転がしながら、薄くパリッとしたきつね色の衣を裂きぷりっとした肉を噛みしめた。一回二回と咀嚼するたびに肉汁がじわりと広がって、あっという間に口に中から消えてしまう。 すかさずもう一つ。今度はゆっくり、味わうように。下味で付けられた醤油のしょっぱさと、食欲をそそるガーリックの匂いが鼻を抜けた。 美味しい。本当に美味しいものを食べたときは無言だと言うけれど、まさにその通り。二人してあつあつのご飯とからあげを黙々と口に運ぶ。 ――あぁ、でも。
「ビール……」
からあげの塩気で喉が乾いたからだろう。そんな呟きが思わず漏れた。ホップの苦味と炭酸の刺激。麦酒独特の味と香りを思い出す。
「ふふふ、ビールなら冷やしてあるよ」 「うーん、でも、明日朝早いのよね。朝から研究室に行かなきゃいけないし……」
そんな私のつぶやきを耳ざとく拾い、得意げな顔を浮かべる歩。その言葉に私は少し口ごもった。 お酒は好きだ。少し陽気になれるし、ふわふわとした感覚も嫌いじゃない。飲み会だって、お酒が入ればなんだか本音で話せる気がして、むしろ好きなくらいだ。それでも、明日朝が早いからというのは関係なく、お酒を飲むことを躊躇う自分がいた。
「ふーん……?」
そんな私を歩は不思議そうに眺めながら、ぽいぽいっと口のなかにからあげを詰めていく。頬を膨らませもしゃもしゃと食べるその姿はまるでハムスターのようだ。それをごくりと飲み込んで、おもむろに立ち上がって台所へと向かう。 ――原因は分かっているのよね。 そんな歩を目で追いながら、私はそう呟いた。 なんとなく、お酒を飲めない理由。怖いのだ。酔っ払って、迷惑をかけてしまうのではないか。何か取り返しのつかないことをしてしまうのではないか。あの人達のように、理性で幾ら押さえつけたとしても、己に流れる血が全てを台無しにしてしまうのではないか……
「――シャンディガフです」
テーブルをグラスが打つ音と、歩の言葉で沈み込んだ意識がふっと浮き上がる。丸みを帯び縦に長いグラスに黄金色がなみなみと注がれていた。水底からは次から次へと気泡が浮きたち、それらが出ていかぬよう最上部では白い泡が蓋をしている。グラスの表面は水滴で濡れていて、程よく冷えていることがよく分かった。
「え……」 「これなら、酔わないと思うよ」
そう言って、歩はばちりと下手なウインクを寄越した。その姿に思わず笑みが漏れる。私の気持ちを知ってか知らずか、度数の低いカクテルを作ってくれた歩に心がほうっと温かい。
「ちょ、なに笑ってるのかな?!」 「ううん、なんでもない。じゃあ、貰うわね」
グラスを口元に持っていき、傾ける。 シャンディガフはビールとジンジャーエールで作られるカクテルだ。口に入れるとビール特有のホップの苦みではなく、爽やかな甘みが広がった。後を追うように、ジンジャーがピリッと舌を刺激する。 一口、二口と続けて飲み、からあげを食べる。そしてシャンディガフ。口の中の塩気や油と一緒に、さっきまで感じていた恐怖も流れ去っていくような感じがした。きっと、この恐怖はしばらく無くなりはしないのだろう。それでも、彼女のような人がいてくれたら。その日は、今日のように心置きなくお酒が楽しめるような、そんな気が、した。
「ほんと、おいしいわね。からあげも、お酒も」 「でしょー! いやー、料理上手になっちゃったんじゃないかな?!」
あぁ、なんと言えばいいのだろう。 美味しいからあげに、シャンディガフ。そして気の置けない友人。まさに……
「しふくぅぅぅぅぅぅ」
思わず、そんな言葉が漏れたのだった。
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と、いうわけでハムヒナです。 お酒、というテーマで考えたらこれしか出てきませんでした。 あとでよく見たらカップルがイチャイチャする話って書いてあったんですけど、カップルって二人組ってことですよね?(すっとぼけ)
それではー☆
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