Re: タガタメニ・・・家族〜「憧憬」未来図 |
- 日時: 2017/06/02 22:06
- 名前: どうふん
本作の後半、スタートします。 ヒナギクさんがハヤテの両親を警察に突き出し、ハヤテの元を去ってから何があったのか。その辺の説明は後になります。 そして時は過ぎ、ハヤテもヒナギクさんも、そして仲間たちもそれぞれの人生を歩んでいます。 まずは、アテネの結婚式に出席してエピソードを作ったあの人の話から始めたいと思います。
第八話:マイ・スイートホーム
アテネとイクサの結婚式から、そしてヒナギクの両親騒動から七年が過ぎようとしていた。
三千院家の屋敷から歩いて10分程度。少し離れた住宅街に、こじんまりした二階建ての家がある。古い物件にリフォームを加えたもので、決して豪華なものではない。取り立て特徴もない普通の家である。
夕陽が沈み、あちこちのキッチンでは晩御飯の準備に忙しかった。 その家も例外ではなかったが、時を同じくして、リビングに置かれたベビーベッドの上で、1歳になったばかりの赤ん坊が泣き続けていた。 「はいはい。今行くからねー。ちょっと待っててー」台所から駆け出してきたのは、今や若奥さんとなっている旧姓 西沢歩だった。ブーケトスの占いどおり、アテネに続いたのは歩だった。
よいしょっ、と赤ん坊を抱き上げ、温めたミルクを口に含ませようとした時、ふと疑問が浮かんだ。(ちょっと熱くないかな・・・?)つい、哺乳瓶の先を咥えてみたところで、自分の愚行に気付いた。 (私が舐めちゃったら消毒した意味がないじゃないの)
「ねえ、ねえ、どうしたのお」さっきからベビーベッドを覗き込んでは赤ん坊をあやそうとしていたのは、三歳になるこの家の長女、シオリだった。 「ご、ごめん。失敗しちゃった。もう少しタクミを見てて」あたふたと台所に戻る歩を見送って、シオリは小さなため息と共に、二、三度頭を振った。およそ三歳児らしからぬ振る舞いをみるに、こうした失敗はいつものことなのだろう。
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歩はやれやれと、一息ついた。歩の腕の中では、赤ん坊が夢中でミルクを吸っている。 しかし、ゆっくりする時間はない。シオリもまた、お腹すいた、と言いたげに人差し指を咥えながら歩をじっと見ていた。 「ご、ごめんね。すぐ準備するから。もうほとんどできてるんだ」シオリの物欲しそうな視線は変わらない。「そ、それにね、もうすぐパパが帰ってくるから」 「ほんと?」シオリの目が輝いた。 嘘ではない。先ほどメールが入っていた。職場は家からそれほど離れていないので、そろそろ帰ってきても良いころだ。 「じゃ、待ってる。パパといっしょにゴハンたべるんだ」さっきまで萎れていたシオリは別人のように元気になり、飛び跳ねていた。 ふう、助かった・・・、と歩は改めて息をついた。
玄関の鍵が開く音がした。「パパだー」シオリは玄関に向かって駆け出した。「パパ、お帰りなさーい」シオリはいつもこうだった。帰ってきた父親を真っ先に出迎えて抱き着く、というより飛びつき、しがみついて離れない。それが原因で、しばしば母親を不機嫌にさせている。
「ただいま」左手にビジネスバッグ、右手にシオリを抱っこして、父親がリビングに入ってきた。 歩はミルクを飲み終わったタクミの背中を叩いたりさすったりして、げっぷをさせるのに悪戦苦闘していたが、それでも幾分引きつった笑顔を父親に向けた。 「お帰り、ハヤテ君」
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