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対象スレッド 件名: Re: タガタメニ・・・家族〜「憧憬」未来図
名前: どうふん
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Re: タガタメニ・・・家族〜「憧憬」未来図
日時: 2017/07/29 20:50
名前: どうふん


「憧憬未来図」今回が最終話となります。書き上げるまでおよそ4カ月、と言いたいところですが、本作第一章第一話から考えるとおよそ二年掛かりとなります。まあ、今度こそ完結かな。

ヒナギクさん、ハヤテ、その家族、そして仲間たちに幸あれ。
興味を持って目を通してくれた方々に心より御礼申し上げます。

                                      どうふん



最終話 : ジャパニーズ・ハニートラップ


その日、カルフォルニアにある〇〇ゴルフ場は世界中の注目を集めてていた。何せ米国のドロンパ大統領が、日本の首相ではなく外務大臣を自身がオーナーであるゴルフクラブに招き、貸し切りでプレーするのだ。
警戒も厳重で、FBIの総力を挙げた完全防備が敷かれ、殺到しているマスコミも近寄れなかった。この企画から警備まで、すべてドロンパ大統領の指示によるものだというのは公然の秘密であった。
約束の時間より一時間も早くゴルフ場にやってきたドロンパ大統領は、なかなか姿を見せない賓客をそわそわしながら待っていた。

「大統領、お待たせしました」
「おお。よくぞお越し下さった」時間通り現れた来賓を両手を広げて歓迎しようとしたドロンパ大統領だが、その腕を外務大臣三千院マリアはするりと潜り抜け、少し離れて丁寧に上品に一礼した。
ただ一人、付き添ってきた代議士花菱美希は吹き出しそうになるのを堪えていた。


ヒナギクの政界入りを目指して何度となく訪問を繰り返した美希であるが、受け入れてもらえないまま一年が過ぎた。
「これだけ頼んでもだめなのか、ヒナ」
「美希、あなたが代議士として世の中を何とかしたい、と真剣に考えているのは良くわかるわ。だけど申し訳ないけど、私には私のやることがあるの。それは政治家になって世の中を変えるようなことではなくても、大きな価値があると思うのよ」
肩を落とし、項垂れたまま動かない美希を、ヒナギクはしばらく見つめていた。
「私でなかったら、だめなの?」
美希は微かな希望を感じ、顔を上げた。
「そ、そりゃ・・・。ヒナ以外に誰がいるんだよ」
「そうかしら・・・」意味ありげな瞳が光っているのに美希は気付いた。「あなたの目的は、私を首相にすることではなく、世の中を正したい、ということでしょ。目的と手段を混同させてないかしら」
「そ、そんなこと言っても・・・」
「美希。あなたも一国の政治家なんでしょ。それなら次の方法を、それとも次の人材かしらね。そして自分自身の力で何をしなきゃいけないか。それを考えてみなさい。いつまでも私ばかりを頼っていては駄目」
そうだった。危機感を持ち、何か行動に移さなければ・・・。そう思ったまではいい。しかし、その先はただただヒナギクを首相にすればヒナギクが何とかしてくれる、としか考えていなかった。これでは結局ヒナギクに依存していた高校生の頃と何も変わらない・・・。
「そうだな・・・。ありがとう、ヒナ。やっぱりお前は・・・」最高のヒーローだよ、美希は最後の部分を呑み込んで立ち上がった。

外で待っていた秘書と運転手に伝えた。「先に帰ってくれ。しばらく一人で考え事をしたい」秘書は運転手の肩を抑え、頷いた。
美希は一人、駅前の喫茶店に入った。メニューをもってテーブルに案内しれたウェイトレスは明るいフリルのスカート姿だった。(まるでメイドだな・・・ちょっと地味な色だが)もちろんここはメイド喫茶ではない。
美希の脳裏に閃きが走った。
そうだ、もう一人いた。当時の仲間で、ヒナギクに劣らない経歴を持ち、やはり法曹関係で頭角を表している人物が。
判事:三千院マリアだった。


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「そうですわね。裁判官もそろそろ飽きてきましたし、卒業するにはいい頃かもしれませんわね」あっさりと答えられ、美希の方が唖然とした。
「あの・・・?本当にいいんですか」
「ええ。あなたがバックアップしてくれるんでしょ」
そして五年。マリアは日本の憲政史上最年少の外務大臣となり、今や諸外国では首相以上に日本の顔となっている。


その日のゴルフは3ラウンドに亘る長期戦となった。
始まる前はワニが舌なめずりするような顔でマリアを見下ろしていたドロンパ大統領が、コースを上がって来たときにはマリアの足元に跪き、靴の汚れを払おうとして止められたという記事が笑い、いや話題を呼んだ。 
この日から一週間後、米国から懸案事項について大幅譲歩の声明がなされることとなる。

その年、マリアは世論調査で「首相に相応しい人物」第一位となった。
傑出した美貌と超人的なスキルを誇り、優しくてちょっと天然で、しかしその気になれば策を巡らせ黒くもなれるメイドのマリアが一国の宰相となり、最後には国連事務総長として君臨するまでの物語・・・そんなサイドストーリーがあるかどうかは定かでない。
一方の美希も次回の内閣改造で閣僚入りが確実視されている。「親の七光り」「聖母の威を借りるタヌキ」と陰口は消えていないが、マリアをサポートしてアメリカとの交渉に活躍したことで、そうした声も次第に沈静化しつつある。


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「次は中国ですわね」
「あの連中はアメリカより手強いかもな」
「さあ、どうかしら。少なくとも私たちにハニートラップは通用しませんわよ」
専用車の後部座席に腰かけたマリアと美希は声を合わせて笑った。

目的地に着いた。懐かしい「どんぐり」は今も変わらずそこにある。
「本日『大反省会』につき貸切となっております」入り口の案内板にでかでかと書かれていた。
「たしか『同窓会』じゃなかったかしら」
「多分・・・ナギか歩あたりが、同窓会じゃ当たり前すぎて面白くない、とか言い出したんじゃないのか」中から聞こえてくる歓声や嬌声に目を輝かせ、戸を開けようとした美希の手をマリアは抑えた。賑やかな雰囲気をしばし外で味わうことにした。

マリアの耳にはナギの怒声とそれを宥めるハヤテの声が一段と大きく響いてくる。いや違う、あれは康太郎だ。
美希には泉と理沙のじゃれ合う声が。
ぺたぺたと会場を走り回る足音もする。子連れのメンバーもかなりいるようだ。慌てた声で子供を追いかけているのは歩だろうか。

いきなりギターの音と同時に一段と大きな声が響いた。「イエーイ。それでは皆さん。今年のレコード大賞最有力候補で紅白出場が確定している私のワンマンショーをお愉しみ下さーい!」

「・・・そんな話聞いてます?」
「初耳だ・・・。まあせめてルカが言うなら『盛りすぎ』程度にはなるが」
その時一段と澄み切った声が喧噪を切り裂いた。
「お姉ちゃん、いい加減にしなさーい!!」会場は一瞬にして静まり返った。
マリアはくっくっと喉を鳴らした。ほとんど反射的に美希までが直立不動の姿勢を取っていた。
照れ隠しのように両手を振る美希が、腕に力を込めて、一歩踏み出した。
「じゃ、そろそろ・・・」
「ええ。潮時ですわ」

扉の向こうには、タイムスリップしたかのような異世界が広がっていた。


「タガタメニ・・・家族」完