Re: タガタメニ・・・家族〜「憧憬」未来図 |
- 日時: 2017/07/18 21:14
- 名前: どうふん
第十五話は突っ込みどころがかなりあったと思います。
あの話の大事な部分は、プロポーズを何とか乗り切った二人が結婚し、家庭と独立した事務所で何とかやっている、というだけなのですが、いろいろと盛り込んでしまいました。 まあ、千桜さんは私の分身みたいなもので・・・。 ルカまで登場させたのは少々調子に乗りすぎたかな。
そして残り(おそらく)三話。ハヤテとヒナギクさんの家庭に場面を移します。
第十六話:桂家の家族
「あら、お帰り。二人とも寝ているよ」 (いや、寝てるのは三人でしょ)ハヤテはそんなツッコミを堪えた。ヒナギクとハヤテがコンサートから帰ってきた時、二人にとっての義理の、そして唯一の母が孫娘の横で気持ちよさそうに寝息を立てていた。 「起こしちゃったわね。布団を敷くからもう寝たら」ヒナギクの前で手を振りながら義母は起き上がった。 「あなたたちとも偶にはゆっくり話がしたいからね」
「二人はいい子にしてた?」 「んー、いい子だよ二人とも。可愛くて可愛くて」ヒナギクはもちろんのこと、ハヤテにとってもかけがえのない母の目がハートマークと化しているかに見えた。「あたしとしてはね、もっと流行りの、読めないような、えっと、あれ・・・、ギリギリガールじゃなくて・・・」 「ああ、キラキラネームのことですか」 「あ、そうよ、それ。そんな名前がいいな・・・なんて考えたこともあったんだけど。今思えばいい名前よね」 「娘の名前は私が考えたんだからね、お義母さん」
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「ねえハヤテ、生まれてくる子供の名前のことなんだけど」第一子が生まれる予定日まで二か月を切っていた。「うーん、男の子か女の子かわからないとね」開いた新聞から目を離すことなくハヤテは答えた。生まれてくる子供の性別は聞いておらず、実際のところ、まだハヤテは何も考えていない。 ヒナギクはちょっと不満そうな顔をした。常に子供の存在を体内に意識せざるを得ない母親としては、男の子か女の子か、名前はどうしようか、どんな子に育てようか、その他もろもろが常に頭を占めている。 「だったらね、名付け親を決めておかない?」ヒナギクの提案は、女の子だったらヒナギクが、男の子だったらハヤテが名前を付けるというものだった。 「ああ、いいね」気軽に答えたハヤテが、後悔するまでそれほど時間はかからなかった。
翌日、さっそくヒナギクは産婦人科の診察を受け、胎児の電波写真を持ち帰った。黒い背景の中、次第に目や鼻と思われる個所がはっきりとしつつある。 生まれてくるのは女の子だということだった。 「う・・・ん。確かにオチンチンはなさそうだね」 「約束だからね」ヒナギクはさっそく張り切って名前を考えているが、「こんなのはどうかしら」と目を輝かせて言ってくる名前は、はっきり言って子供が気の毒になるような代物ばかりだった。 (忘れてた・・・ヒナのネーミングセンスを)
「だったらどうすればいいのよ」控えめに、ただし断固として反対を繰り返すハヤテに、ヒナギクの眦が次第に吊り上がってきていた。 ハヤテは弱っていた。こちらから提案をしても意地になったヒナギクが受け入れるとは思えない。「決めるのは私でしょ」と言われればハヤテに反対する術はない。どうすればヒナギクが決める、という前提の下、思う方向に導くことができるだろうか。そうだ、何かヒントを上げれば・・・。 「そ・・・そうだね。ヒナギクにあやかって花の名前なんかどうだろう。母親みたいに素敵な女性になるように」 そのアイディアは悪くない、とヒナギクは思ったらしい。しばらく考え込んでいたが、やがて目を妖しく光らせた。 「じゃ、これなんかどうかしら」ヒナギクは手元の本を取り、挟んでいた栞を取り出した。 「え、これは・・・」ヒナギクが愛用しているハヤテ手作りの栞には押し花が貼られている。しかし、その花は雛菊・・・daisyだった。
「で、でもさ・・・。親と子が同じ名前っていうのは・・・」うろたえるハヤテを前に、ヒナギクは満足げに悪戯っぽく笑っていた。 「あら。そんなこと、言ってないわよ」 「まさか、デイジーとか、英語の名前にする気?」 「何言ってるの、これよ、これ」ヒナギクはハヤテの目の前で栞を振っている。まごついているハヤテを前に、ヒナギクは楽しくて仕方ないように笑っていた。
「栞・・・シオリっていうのはどうかしら」 「・・・そういうことか。いいね、すごく」 「栞ってね、本に挟むんだから道標(みちしるべ)って意味もあるのよ」 「なるほど・・・。僕たちの子は、人の道標になれるような人になってほしいってことだね」 ヒナみたいにね、ハヤテの一転して弾んだ声にヒナギクから誇らしげな笑顔が零れる。 「それだけじゃないわよ。この子は私たちの道標でもあるんだから。この子には一杯の愛情を注いで、誰よりも幸せになってもらうの」 ハヤテが手を伸ばし、ヒナギクのまん丸になった腹を撫でた。手触りを堪能しながら、中の子に話しかけた。 「シオリちゃん、ママがね、さっそく素敵なプレゼントをくれたよ。うん、いい名だ」 ヒナギクの腹がびくんびくんと動いた。 「僕の言うこと、わかってくれたのかな」 「ええ、そうかもね」擽ったそうに顔を緩めていたヒナギクが席を立って台所に向かった。 「あ、お茶なら僕が淹れるよ」 「大丈夫よ。パパは座ってて」 (パパかあ・・・)何とも言えず安らいだ気持ちになって、ハヤテはもう一度超音波の写真を手に取った。その下に病院の領収書があった。 (あれ?)領収書の日付は昨日のものだった。
最終的に、桂家の第一子の名前は、「栞莉(シオリ)」と決まった。フルネームが「桂栞」ではちょっと短すぎるし、日本人っぽくない、と二人で考えたためである。
そして、二年後に授かった男の子の名前はハヤテが付けた。 「拓実(タクミ)」ハヤテの過去や人生観から導き出されたものであることは間違いなかった。
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