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対象スレッド 件名: Re: タガタメニ・・・家族〜「憧憬」未来図
名前: どうふん
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Re: タガタメニ・・・家族〜「憧憬」未来図
日時: 2017/04/21 23:02
名前: どうふん


第三話:ブーケの行方


「邪魔するなアアアアアア!」
一年前、アリス転じてアテネは、伊澄を伴い、今まさに滅びようとするロイヤルガーデンに戻った。
ロイヤルガーデンはヒスイに占拠されていた。自らが滅びることも厭わず、ロイヤルガーデンに潜む神の力を求め、ヒスイはアテネと伊澄を相手に荒れ狂う。
敢然と立ち向かった二人だが、すでに力の一部を我が物としていたヒスイに歯が立たない。
(くっ・・・二人では無理か。ハヤテとヒナの力を借りないと。それとも・・・あの人がいれば・・・)だが、息次ぐ間もない猛攻に、退却する余裕すらない。

防壁として身を隠していた柱が崩れ落ちた。これまでか、と思ったアテネを庇うように飛び込んできたのがハヤテの兄、イクサだった。イクサはアテネの手元に転がっている神剣、黒椿を手にした。
「いつか来たことがある、ここに。やっと戻ってこれた。お前はあの時に」
「や・・・やっと思い出したの。遅いわよ」
「遅れた分の働きはするさ」イクサの渾身の力で振るわれた神剣は縦横無尽に暴れまわり、ヒスイから神の力を切り離し、ロイヤルガーデンから追放した。いや解放したというべきか。イクサにとっては、ヒスイもまた救うべき人間の一人に他ならなかった。

しかしさすがに力を使い果たし、倒れているイクサに、アテネは這い寄るように近づき、介抱しようとした。
イクサの閉じていた目が開いてアテネを見た。「胸元露出女・・・。確かアテネ・・・だったな。お前にだったら、俺の愛情を捧げてもいいかもしれない」
無礼というか場違いなセリフにあっけにとられたアテネだったが、ハヤテの兄たるこの男の真剣な眼差しに貫かれたような気がした。
それでもアテネは気を揮ってイクサを見据えた。「いきなり何を言ってるのかしら。親切心と義侠心は人の百倍あっても、愛情なんか一かけらも持たない人が」
「俺が愛するのは、他人のために生きられる人だ。お前は遊んで暮らすこともできるのに、命がけでこの変ちくりんな城に二度までも入り込んで正当な持ち主に返そうとした。財宝にも力にも目もくれず、何の代償も求めなかった。そんなお前なら好きになれそうな気がする」
褒められているのか馬鹿にされているのか、よくわからないが、一度ならず二度まで、いや三度か。絶体絶命の危地から救ってくれたこの男に、悪意は持てなかった。
「今、返事なんて・・・できないけど。取り合えず元の世界に戻りましょう。もうすぐロイヤルガーデンは消滅するわ」
「あ・・・ああ」と答えたものの、イクサに起きる力は残っておらず、アテネの支えが必要だった。駆け寄ってきた伊澄も手伝った。
「覚えている限り、初めてだ」
「え、何がですの」アテネも疲弊している。よろよろと歩きながら、ようやく聞き返した。
「人に助けられるのは」はあ・・・何を言ってるのかしら、この人は。
「・・・だったら、私に言うことがあるんじゃないの」
「愛してる」
「そ、そうじゃなくて。人に助けられたら『ありがとう』でしょ」
「俺の辞書に感謝とありがとうはない。無縁に生きてきたからな」
この人でも冗談をいうんだ・・・、アテネは思ったが突っ込むのは止めた。
実際のところ、冗談でもなさそうだったから。

「それに、命を助けるばかりでなく、生み出してもいいかもしれない」
「まあ確かに、あなたみたいな人が十人いればこの国は見違えますわね」こう言ったのは伊澄だが、本気で言っているのかはわからない。
「十人か・・・。それは一人に産ませるにはハードルが高いな」
「だったら側室を持てばいかがです。私でも構いませんよ」
「お前が良くても、妻が許さんだろう」
こんな会話を無表情のまま続ける二人に、アテネは口を挟むタイミングを見出せなかった。
(この人は私より、伊澄と相性が良いんじゃないかしら・・・。大体誰のことよ、妻って)


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チャペルでの式は恙なく終わり、ブーケトスの時間がやってきた。
「あら、歩。目の色があまり変わってないわね。てっきりハンターになりきってるかと思ったんだけど」
「もらうべき人、たくさんいるじゃない。ヒナさんに、愛歌さんに、ナギちゃんに・・・。私のところまでは回ってこないよ・・・」
「そんなことわからないでしょ。頑張って幸運を掴まなきゃ。女神のブーケだからご利益あると思うわよ」
「う、うん・・・」

ブーケが空中に舞った。
天に伸びた沢山の手をすり抜けたブーケは歩の胸元に飛び込んでいた。
「え、え?」
羨望に満ちた瞳に囲まれ、歩は呆気に取られていた。
「あ、あたしなんかで良いのかな。フィアンセどころか彼氏もいないのに・・・。ヒナさん、まさか私を憐れんで回してくれたとか」
「違うわよ。私も掴もうとしたんだけど手の中からすり抜けちゃったのよ」ヒナギクが首を傾げるようなそぶりを見せた。
「それってまさか・・・、ヒナさんから私が幸せを掴み取っちゃうなんてことは・・・」
ヒナギクは噴き出した。まさかそんなこと、あるわけないでしょ、と言いたげな瞳に、そりゃまあ・・・そうだよね、と歩は自分を納得させた。

「でもね。この中で真っ先に結婚するのは歩ということかもしれないわよ」
「あはは・・・。まさかね、まさか」


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結婚式の後のパーティは大盛況の中で終わり、ヒナギクはムラサキノヤカタに向かって歩いていた。途中までハヤテと一緒だったが、今日、ハヤテは三千院家の屋敷に戻る日だった。
「あのブーケを持ち帰れれば、ハヤテにアピールできたんだけどなあ・・・」それにしても、確かに掴んだ、と思ったのに、何で取り損ねたのかしら。
そんなことを考えつつ、ムラサキノヤカタが見えるところまで来た。

足が止まった。ムラサキノヤカタの門から少し離れて、二つの人影が街灯りに浮かび上がっていた。