Re: タガタメニ・・・家族〜「憧憬」未来図 |
- 日時: 2017/06/18 19:47
- 名前: どうふん
第十一話:ウェディング・サイド・ストーリー
着替えを済ませてリビングに戻ってきたハヤテは、相変わらずしがみついてくるシオリを抱えていた。(いつものこととは言え・・・)歩は苦笑した。 「ハヤテ君、食事はできてるからね。シオリちゃんもパパと一緒に食べるってずっと待ってたんだよ」 「ありがとうございます、西沢さん」 「もう。またそれだ。西沢さんじゃないんだよ」 「あはは・・・、そうですね。すいません、歩さん。癖になっちゃって」 「大体、ハヤテ君は私のご主人様なんだから、敬語なんて使うことないんだよ」 「そりゃそうです。だけどその発言、紛らわしいですよ」 二人は声を合わせて笑った。シオリは何がおかしいのかわからず不思議そうにしている。 「それにね」歩はシオリに目を遣った。「毎日それじゃ奥様が妬くよ」 「よくお分かりで。シオリときたらママより僕の方に抱き着いてくるんだから無理もないけど」 (それだけじゃないでしょ) この相変わらずの天然ジゴロは、『奥様』が、愛娘からベタ惚れされているハヤテに対して焼餅を妬いていると思っているらしい。
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「じゃ、今日はこんなところでいいかな」 「そうですね。いつもありがとうございます」 「何言ってんのかな。私はお給料をもらっているんだから、こっちの方が『毎度あり』なんだよ。それに・・・将来の予行演習でもあるんだからね」この時ハヤテは初めて気づいた。旧姓西沢、今は足橋歩のお腹にはまだ小さい、しかしはっきりとした膨らみが見えた。 「えへへ・・・。時間が掛かっちゃったけど、やっとあたしもお母さんだね」
ナギが漫画家である足橋剛治のアシスタントになり、漫画の修業をしていた時、歩も今までの行きがかりで、事務所に行ってはナギを応援し、足橋とも親しく話していた。 あのブーケを受け取った日から一週間も経たないうちに、足橋からいきなりのプロポーズを受けた。 「え、え。私たちそもそも付き合ってもいないのに」狼狽える歩を足橋は掻き口説いた。 「だから今から結婚を前提に付き合ってくれ。僕のお嫁さんになる人は歩しかいないんだ」 「え、えええ?でも売れっ子漫画家が私なんかで本当にいいのかな?」
結果的に、ブーケ占いのとおり、真っ先に結婚したのは歩だった。しかし子宝には恵まれないまま今に至っていた。 それがようやく・・・。 「いつかきっと・・・信じていて良かった。不妊治療までして苦しかったけど、この7年間に間違ったことなんてなかったよ」少し涙ぐんだ歩の笑顔は、最高の魅惑に満ちていた。それは、この天然ジゴロをしてちょっと胸をときめかせるほどの。
ハヤテはシオリを抱えたまま、玄関口まで歩を見送った。 門の外から振り返った歩の目の端に、門の表札が目に入った。「桂」と一文字。 (「綾崎」じゃないんだよね・・・)それがハヤテの希望ということは聞いている。 (まあ、ハヤテ君は親といろいろあったんだろうな・・・)詳しい事情を知らない歩にも見当がつく。
ハヤテとしては自分の苗字や肉親に愛着を持ちようがなかった。 唯一の例外である兄も、天王州家に婿入りする形となり「綾崎」ではなくなったことから、自分も、結婚にあたり「桂」姓になることを望んだ。 ハヤテの親の醜悪さを身をもって知ったヒナギクも、「ハヤテさえ良ければ」と同意した。 それは、ハヤテとヒナギクにとって、刑務所にいる二人への縁切りの宣告だった。
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