Re: タガタメニ・・・家族〜「憧憬」未来図 |
- 日時: 2017/06/13 21:58
- 名前: どうふん
- 「いい加減にしろ」
「何だこのわけのわからん展開は」 またいつかの如く、脳内に罵声が飛び交うようになりました。これも駄文を人目に晒す因果というものか・・・。
第十話:政治と法の微妙な関係
ヒナギクは、かつて美希が語っていたことを思い出していた。美希は父親の跡を継いで政治家になるばかりでなく、日本で初めての女性首相となるのが夢ではなかったか。 それを自分に代わって叶えてくれ、という美希が悄然として席を立ったのは、つい先ほどのことになる。
「ずいぶんと白熱していたようだが・・・。大丈夫か、ヒナ」二人分のコーヒーを淹れた千桜が入ってきた。 「あら。お客さんはもう帰ったの?」 「ああ。片はついた」余裕ありげにコーヒーを口に含んだ千桜だが、ヒナギクから説明を受けて噴き出した。 「あのぶっ飛んだ性格は変わっていないんだな・・・。だが、面白いじゃないか。弁護士出身の政治家なんて沢山いるんだし、お前ならできるんじゃないか」 「私一人で、そんなことできるわけないでしょ」 「一人、じゃないだろ。有力議員の娘、というより本人がバックアップする、と言ってるんだ。それに財界の有力者も友人だけでなく身内にもいる。私だって法律家として役に立てるかもしれないじゃないか」 「私はこの小さな事務所で困っている人を一人でも多く助けてあげられれば十分なの。それに・・・身の回りの人たちも大切にしたいんだから」
*******************************************************************
(まだあきらめちゃいない)帰りの車の中、美希は自分に言い聞かせた。(そもそも一回で承知してもらえるとは思っていなかったしな) ずっと憧れていた。恋していた、のかもしれない。桂ヒナギク、という幼馴染に。 政治家になる、できれば総理大臣に、というのは小さい頃から自分の夢、というより義務のように感じていた。有力政治家である父親から何度も言い聞かされた。それに不満を感じたことはない。
父親や秘書に背を押されて、というより全部お膳立てしてもらって選挙に出馬。 難しいことを聞かれれば「当選すれば考えます」と答えていた。当確が出た時にも「今から考えます」と言った時は秘書にちょっとたしなめられたが。
そして数か月。初めて気づいたことがある。 日本の政治や政治家がいかに惨憺たる状況であるか。今まで当然と思っていた日常がいかに危うい均衡の下に成り立っているのか。 (このままではイカン・・・)そう思ったのは彼女本来の純粋さによるものであろう。これが現実だ、と割り切って私利私欲に走る大半の○○チルドレンといった連中に比べれば、美希の方が遥かにマシな人間であったことは確かである。 美希は、この点については父さえも頼りにならないことに気付いた。やはり自分は頂点に立ってこれを打開できる人間ではない。むしろそれを支える存在でいたい。 そして支えたい人間といえば、やはりヒナギクしか思いつかない。生徒会役員の時は面倒を掛けるだけだったが、今はあの頃の自分とは違う。 (ヒナが首相、そして私は副総理。それとも官房長官・・・)そう思うと居ても立ってもいられなくなり、今日の訪問となった。
ただ案の定というか、自分の夢がヒナギクのそれとは懸け離れていた。 (あーあ、道は遠いな)自分が首相になるより難しいかもしれない。そう思うとため息が出た。 「お嬢様」助手席にいた年配の秘書が前を向いたまま口を開いた。長い間父親の秘書を務めていたその人は、美希の幼いころから可愛がってくれていた。美希の様子を見て、しばらく声を掛けるのを控えていたのだろう。普段は美希が嫌がろうとも「先生」と呼ぶのだが、時々昔の呼び方を使うことがある。 「無理をすることはないですよ。まだお嬢様の政治家としての人生は長いんです。十年、二十年経ったその時はどうなっているかわかりませんし」
お見通しだったのか。そもそも美希が学生の頃から情報通となったのは、この人の薫陶と力に拠るところが大きい。 (まあ、当分は無理みたいだな。気にすることはないさ。まだ先は長いんだ。その前に私自身が有力政治家にならないと)美希は車の中で大きく伸びをした。 「次の予定は何でしたっけ」秘書に声を掛けた。吹っ切れたような美希に振り向いた秘書は、優しい笑みを返し、手帳を開いた。
|
|