Re: 【改題】夢と絆のコンチェルト 〜憧憬は遠く近く |
- 日時: 2016/09/04 21:29
- 名前: どうふん
元々は「聖母の福音」というタイトルでスタートした本作ですが、本来以下の第5話で完結しているはずでした。 第2話を書いた後で、構想を大幅に変えて現在に至っております。 で、結論を申し上げますと、あと2〜3話程度追加でお付き合いいただければ幸いです。
第五話: 女神からの手紙
翌日の午後 − マリアは喫茶店に入った。 入口の辺りで中をゆっくりと見渡したが、待ち合わせの相手は見えなかった。 昨日と同じ奥のテーブルが空いていたのでそこに座った。注文を聞かれたマリアはアイスコーヒーを頼もうとして、思い直した。 (そろそろホットの方が美味しい季節ですわね)
マリアは運ばれてきたコーヒーに口をつけようとしたが、待ち人が入店してきたのを見て、コーヒーカップをソーサーに戻した。 「早かったわね、マリアちゃん」 「今来たところですよ」
昨日ナギをショッピングに誘ったが断られたマリアは、一人で町に出たものの、買い物などする気にならず、たまたま目に付いた喫茶店でアイスコーヒーを飲んでいた。そこで肩に誰かの手が乗せられた。 春からずっと行方の知れなかった天王州アテネがそこに立っていた。
アテネが注文した紅茶がテーブルに届いた。 「乾杯・・・というのも変ですけど」「ま、そんなところですわね」会心の苦笑をし合ったように二人がカップをそっと合わせた。 「あなたが言った通りになったわ、アテネちゃん」 「それは、私はハヤテの元カノにして元娘ですからね」だからハヤテの考えることぐらいは分かる、というのはアテネなりのプライドであったのか。 しかし、そればかりではないだろう。アテネも自分も本当の親の愛情を知らないという点は変わりない。しかしアテネ・・・当時のアリスにはまがいなりにも親がいて、心から可愛がってくれる仲間に囲まれていた。 自分に欠けていたのはそういうところだったのかもしれない。だからこそ、ナギやハヤテが家族として自分を大切に思ってくれていることに気付いていなかった。自分自身の気持ちにも。昨晩はああ言ったが、本当は屋敷を出るつもりだった。
「もう少しで、大切なものを失うところでした。アテネちゃんにはお礼を言わないと」 「そんな必要はありませんわよ。私がでしゃばらなくても、遅かれ早かれきっとあなたは自分の大切なものに気付いたはずですから」 (さあ・・・それはどうかしら)自分でもわからない。実のところあまり自信はない。 「でもこれから大変になるわね。あのぐうたらお嬢様に自活能力を仕込むのは」 「ま、いいじゃないですか。私はもともと家庭教師だったんだから。本業回帰ってことかしらね。それに今度はお姉さんですし、やりがいありますわ」
それにしても・・・とマリアは思う。昨日およそ半年ぶりに再会したばかりのこの人は、毎回毎回絶妙のタイミングで唐突に現れては、周囲を助けたり掻きまわしたりを繰り返す。その行動力と情報力はさすがのマリアの理解をも超えている。 そもそもロイヤルガーデンでいったい何があったのか。尋ねているのだが、答える気はなさそうだった。 しかしそれ以上に気になることがあった。 「ところで、ハヤテ君とヒナギクさんにはいつ会って上げるんです」 アテネは意味ありげに笑った。 「地上で最も偉大な女神は、あくまで妖艶にして神秘的な存在でなければならないの。だから再会の場面とタイミングはしっかりと見極めさせて頂くわ」テレもせず言い放つアテネに、マリアは苦笑した。しかし、アテネがその後に言ったことはマリアの胸に響いた。 「マリアちゃん、私はね、ハヤテが白皇に編入して来た時もずっとハヤテを遠くから見守っていたのよ。そして、今は・・・」言葉を濁したその後には、ハヤテはもう自分の手の届かないところにいる、そんな言葉が続いていたのだろう。
アテネの複雑な胸中を思えば、それ以上は言えなかった。 「でも、できるだけ早く二人には会ってあげてね。心配しているのよ。 私だっていつまで秘密を守れるかわからないから。ハヤテ君だけでなくヒナギクさんも私の大切な存在なんです」 それもそうですわね、とアテネはしばらく考え込んでいた。
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数日後−
ハヤテとヒナギクは大学からムラサキノヤカタに帰ってきた。門のところで、二人は繋いでいた手を緩め、ハヤテは郵便受けに向かった。 夕刊と一緒に一通の手紙が入っていた。何気なく手にしたハヤテの表情が一変した。ヒナギクの方に振り向いた目が大きく開いたまま瞬かない。 「ひ、ヒナ。あーたんからだ」 部屋に戻るのももどかしく、その場で封筒を破り、慌ただしく便箋を開いた。二人一緒に覗き込み、そして顔を見合わせた。
『ヒナ、ハヤテ、お元気そうで、そして仲良さそうで何よりです。 あなた達の友人として会える日が近づいてきたことをここでお伝えしておきます。 詳しい話はその時のお楽しみということで。 料理の腕は上がったかしら。お二人のハンバーグの食べ比べを楽しみにしています。 あなた方をパパ、ママと呼べないのはちょっと残念ですけど。 そのかわり私の妹分に会えるのを楽しみにしています。
地上で最も偉大な女神
P.S.おっと誤解しないでね。妹っていうのはナギのことよ。 』
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