Re: 2人の明日はどっちだ!? (リレー小説、二話完結) |
- 日時: 2016/04/10 06:52
- 名前: 瑞穂→ネームレス
- 【第1章・夢と現実の間で】
「はぁ……この書類の山どうにかならないかしら……」 生徒会長であるヒナギクが二年生に進級した五月のある日、放課後の生徒会室でひとり溜息をつき愚痴をこぼしながら 書類に判を押していた。生徒会メンバーは他にも数えただけで5人いるが、みんながみんな用事でヒナギクに押しつけて いなくなってしまうのだ。 彼女は桂ヒナギクという白皇学院の生徒会長であり容姿端麗、成績優秀、公明正大な人柄から学院の内外を問わず人気者。 しかし異性に対しての好意は異常に鈍感である。因みにこのSSでは原作と違い素直である。 副会長の愛歌は病弱で、書記の千桜はアルバイトなので少々目を瞑る事ができるが後の3人娘は遊びという名のサボリなので 手に負えない。 その一方でヒナギクの傍には仕事だけでなく私生活全般においてサポート、バックアップしてくれる執事の少年がいるので 彼女にとっては大変ありがたい。 「ハヤテ君お願い助けてよ!」 仏様のように穏やかな少年に救いを求めるヒナギクの叫びは生徒会室に虚しく響き渡り、それに呼応して座席の机も震え 生徒会室の灯りも点滅するのであった……。
室内の灯りを直し生徒会活動に戻った直後、ヒナギクは紅茶を飲んで落ち着くことにした。平常心が失われたままだと 仕事にもそして体にも支障を来すためである。そうするうちにエレベーターの上がってくる音が聞こえてきた。 「誰かしら……ひょっとしてハヤテ君!?」 期待に胸を踊らせたドアの先にいたのは―― 「やっほーヒナちゃん、報告書を届けにきたよ!」 「あら泉ご苦労様、遅かったわね」内心落ち込むヒナギクを尻目にそこにいたのは彼女と同じクラスの委員長、 瀬川泉であった。 「うん、ハヤ太君が手伝ってくれたから早く終わったの」 「それにしては時間がかかり過ぎよ、もう予定より40分も遅れているのよ」時計は既に18時10分になっている。 「ごめんヒナちゃん、何を書けばいいのか分からなくて20分前にハヤ太君に手伝ってもらったの……」 先程から名前が出ているハヤ太君とは「執事の少年」「仏様のように穏やかな少年」「ハヤテ君」のことを指し 本名を綾崎ハヤテという。ヒナギクとはクラスメイトでもあり、素直で温厚であり誰に対しても優しい天然ジゴロな 人柄からか女の子からの人気は高い。因みに手先も器用なので女顔の如く料理、洗濯、掃除、裁縫といった家事全般も 得意とする。 予定時間より前に提出してよね、とひとり毒づくヒナギクであった。その後生徒会活動を終わらせて帰宅したのは 19時を大きく過ぎていた……。
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ゆかりちゃんハウス――ヒナギクの現在の住居である。 執事であるハヤテとメイドを務めているマリアに、住人達は家事全般を2人にお願いしている。 「ただいま」 「おかえりなさい、ヒナギクさん」 自室に戻り安堵の溜息を漏らすと着替えを済ませてダイニングに向かった。 「マリアさん、今夜の夕食はなんですか?」 「今夜はジャガイモとタマネギ、それに果物が安かったのでカレーライスとフルーツサラダですよ」 ゆかりちゃんハウスの住人達はハヤテやマリアを毎日食べている。勿論2人の作る料理を食べるという意味の 換喩だ。 「わぁ……!! 今夜は豪勢ですね♪」目を見開き感動するヒナギクであった。今夜は昼間の嫌なことを忘れる ことができそうだと安堵するくらいに。
夕食を食べ入浴を済ませて自室で団欒していると――ノックの音がした。 「はい?」「ハヤテです」「待ってて、すぐ開けるから」 ドアの向こうには青髪の執事がいた。先にも述べたようにハヤテは家事全般だけでなく私たちが困っている時に 自分の身を顧みず、私たちに尽くしてくれるとても心優しい少年なので忙しい身には大変ありがたい。ヒナギクも 家事は得意であり遂行しているが毎日こなしているハヤテやマリアにはそういう意味では敵わない。言い過ぎかも しれないがヒナギクが蛍とすれば彼らは月。 「こんな遅くにどうしたの、ハヤテ君」 「ええ……ちょっと考えすぎかもしれませんが、最近ヒナギクさん疲れていませんか?」 「そ……そうかしら?」 ふとヒナギクの顔を見るといつもと違う様子が感じられる。誰がどう見ても過労であることを示している。 「そうですよ。毎日の生徒会活動で動き回っていますし、肉体的にも精神的にも見た目以上の負荷がかかっている でしょうから、ゆっくり休んで体調を整えた方がいいですよ」 そう言われてみてヒナギクは確かに最近全然休んでいないと気がついた。 「……それもそうね。ちょうど明日は休みだしバイトもないからゆっくり休もうかしら」 「その方が無難ですよ」ハヤテが頷くと部屋を後にしようとした。 「えっ……ちょっと待ってよ、ハヤテ君それだけ? もっと話があるんじゃないの?」 「他にないこともないのですが、今夜はヒナギクさんをゆっくり休ませてあげたいですから。勉強で困っている ところも特にありませんし」 「……そう。分かったわ、それじゃあまた今度ゆっくりと時間のあるときにゆっくり話しましょう。おやすみなさいハヤテ君」 「はい、おやすみなさいヒナギクさん」 ハヤテへ密かに好意を抱くヒナギクにとってはもっと長く話をしたかった。学院でもハヤテとよく会話を交わしているが 放課後の生徒会室でしか実質的には2人きりになれない。 一方でゆかりちゃんハウスでは、ハヤテとの2人きりでの会話は他の住人達に比べると圧倒的に多く、ハヤテの 主である三千院ナギをも凌ぐほどなのでこのチャンスをものにしたいのだ。
しかし背に腹は代えられない。心身ともに健康があってこそ毎日の活動ができるというものであり、ハヤテへの好意を 二の次としてヒナギクはまず心身を休めることにした。 時刻は既に翌日の0時。消灯して布団に入った直後、ハヤテが屋根裏部屋へ向かう階段を上る音が聞こえて夜は 更けていった。 「ハヤテ君……私は困った時にすぐ駆けつけてくれる、優しくて面倒見のいいあなたが好きよ……」
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「あら? ハヤテ君一体どうしたのかしら」 とある公園の近くを通りかかったところ、桃色髪の少女は想い人の姿を見て笑顔を浮かべた。 しかしそれも束の間、少女は衝撃的な光景を目の当たりにすることになる。なぜなら自分の想い人が可愛らしい 顔立ちをした少女と甘々な展開を繰り広げていたからだ。 その可愛らしい顔立ちをした少女は西沢歩といってハヤテの前の高校の同級生であり、3人にとってはお互いに かけがえのない親友である。またヒナギクにとってはハヤテを巡る恋のライバルでもあるのだ。そしてまさに2人が マウストゥーマウスでキスを交わそうとするところであったので、ヒナギクにとってはあまりにもショックが大きかったのだ。 「ハヤテ君、好きです! こんな特技もお金持ちでもない普通の女の子だけど付き合ってくれるかな!?」 「いいですよ。僕こそ1億5千万円の借金を抱えた執事ですけどこんな僕で良ければ喜んで。これからもよろしく お願いしますね、西沢さん……いや、歩」 「ありがとう、ハヤテ君!」 そしてどちらからともなく最高の笑顔を浮かべて抱き合って二つの唇が重なり、あたりは幸せオーラに包まれた。 ……ある一点を除いては。 「ハヤテ君! 歩!」 2人がふと横を向くと、そこには熱いものを零す女の子がいた。しかしそれ以前に幸せな雰囲気を壊すのも 如何なものか。デリカシーに欠ける行動は慎むべきだと思うが。 「ヒナギクさん!」「ヒナさん!」『どうしたんですか』 2人は突然の親友の登場に意外な表情を浮かべていたが呼ばれた方の少女はそんなことにはお構いなしに 続ける。 「どうしたんですかじゃないわよ! これは一体どういうこと!?」 激昂した彼女に2人は当たり前のように、 「見て分からないんですか? 私達お互いに好きなんです。これまでは友達だったんですけど、今日からは恋人 として付き合うんですよ。ね、ハヤテ君?」 「ええ、今日から僕と歩は恋人同士なんです。それじゃあこれからもよろしくね、歩」 「うん」 そしてラブラブ満載の2人が放った台詞はヒナギクにとってはまさに痛恨の一撃となるのであった。 「ねえ、本当のことを言ってよ、これが夢だって!」 もう目の前の出来事全てが信じられない彼女にとって最後の懇願だが、それも虚しく砕かれることとなった。 「いいえ、夢ではありませんよ。ヒナギクさんも頑張って新しい恋を探してください」 そう言ってハヤテは歩を抱きしめて口づけを交わした。 「いやあー!! お願いハヤテ君戻ってきてー!!」 原作ではとても考えられないような非情なハヤテの一言でヒナギクの初恋は終わったのであった……
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「はっ!」 顔から大粒の液体を流した少女は漸く我に返った。これまでに見た光景は全て夢であったということに気付いたのだ。 「ゆ……夢……やっぱり夢だったのね……」 安堵の溜息をつきつつもヒナギクは、今後ハヤテと上手くやっていけそうなのか不安に駆られた。親友のままで 終わるのか、それとも願い叶って恋人同士になれるのか。 「それにしてもなんて夢見たのよ……。まだ3時20分か……もう少し寝よう。今日は貴重な休みだし、ハヤテ君も 休めって勧めてくれたから」 悪夢で神経が高ぶっていたものの、早く目が覚めた事や疲労の蓄積、それについての助言もあったのでヒナギクは 休むことにした。寝られるかどうかは別にして――
翌朝―― 「おはよう」「おはようございます、ヒナギクさん」「おはようヒナ。今朝は珍しいな、寝坊なんて」 お互いに挨拶を交わしていると、想い人である執事とその主の姿が見えない。 「かなり疲れていたからね。それよりハヤテ君とナギは?」 「綾崎君は西沢の家へ行くって出掛けたし、ナギはまだ寝てるぞ」 「もう8時なのにまだ寝てるの? 相変わらずね」 「まあいつものことだ。それからヒナ、綾崎君が『ヒナギクさんは疲れているから皆さん、ゆっくりと休ませて あげてください』と言ってたぞ。私が言えることではないが確かに最近生徒会活動を1人でこなしているから ゆっくり休んだらどうだ?」 男言葉で話しているこの少女は春風千桜。ハヤテやヒナギク達のクラスメイトであり生徒会の書記でもある。 眼鏡っ子でクールな顔立ちとは裏腹に、誰に対しても分け隔てなく優しいアニメオタクだ。一方のナギとは前述のように ハヤテやマリアの主であり、本名を三千院ナギという。三千院家の跡取り娘でヒナギクや千桜に引けを取らない 頭脳の持ち主で、13歳であるにもかかわらずハヤテ達と同学年に飛び級している。だが怠惰で引きこもりなのが 玉に瑕であり、千桜と同様にアニメや漫画にうるさい。 「そうね。皆が勧めてくれるし実際に疲れているからそうさせてもらうわ。それからハヤテ君は歩のところに行ったと いう事だけど、何かあったのかしら?」 「分かりませんけど、なんだか楽しそうでしたよ」 「楽しそう? どういうことかしら……」 マリアの返答に訝しげなヒナギクであったが千桜曰く、 「さあな。帰ってきてから聞いたらどうだ?」 ということだったので肯定の返事をしてその場は終わり、朝食を済ませてハヤテの事を考えながらベッドに横になった。
しかし夕方になってもハヤテは帰宅しなかったのでスマートフォンで連絡を取ったところ「すみません、現在 調理中で手が離せないんです。すみません」という返事が返ってきた。受話器を通して少女の呼び声がしたので ハヤテは断った上で「帰ってからお話しします」という返事の後、二言三言話して電話は切れた。 ヒナギクはちょっとだけ訝しげに通話を終えたが、ハヤテがこれまで嘘をついた事は一度もなかったし約束は 全て守り遂行してきたので青髪の執事の言葉を信じて帰りを待つことにした。 こうしてみると普段の行いというか信用は大事で何物にも代え難く重いようだ。お金や命よりも。だから信用を 失っては人には頼れない、頼ってもらえないので何もできない。
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「ただいま戻りましたー」 陽がとっぷりと暮れたゆかりちゃんハウスにハヤテが帰ってきた。 『おかえりなさい』 住人達は皆女神のごとき笑顔で迎えてくれたようでまだ夕食を食べていなかった。いつも住人達に尽くしてくれる ハヤテをずっと待っていたのだ。温かく微笑ましい人間関係である。 そして夕食を終え皆がお風呂に入っている最中、ヒナギクは自室にハヤテを招き2人きりになっていた。勿論 昼間に歩の家で何をしていたのかを聞く為だ。昨夜あのような悪夢を見たので目に焼き付いて頭から離れないのだ。 2人が向かい合って座ると、ヒナギクは徐に話を切り出した。 「ハヤテ君、正直に答えてほしいの。今日歩の家で何をしていたの?」 正夢ではあってほしくないと内心の焦りを隠しながら詰問するヒナギクに返ってきたのは意外な言葉であった。 「そういえば理由を話していませんでしたね。実は西沢さんの家族全員が留守で西沢さん1人だったので僕が家事全般を 手伝いに行ってたんですよ」 「え……それだけ?」 思わず呆気に取られたヒナギクにハヤテは続ける。 「はい、西沢さんも家事はできますけど、やっぱり1人では寂しいので手伝いに来てほしいと前もって僕達に連絡が あったので行ってきたんですよ。ヒナギクさんは疲れが溜まっていたので行けなくなりましたから、他意はありません」 「じゃあ、楽しそうに出掛けたっていうのは……」 「ああ、それは友達である西沢さんの家に行けるのが楽しみだったんですよ」 「ちょっと待ってよ、じゃあハヤテ君は歩に告白されなかったの?」 今度はハヤテが呆気に取られた。 「い……いきなり何を言い出すんですか。西沢さんに告白されていませんし僕も告白していませんよ」 それを聞いた少女は体の力が抜けたようで前のめりに倒れてしまった。 「ちょ……ヒナギクさん! しっかりしてください!」 慌ててハヤテが彼女を揺り起こすと、ヒナギクは涙を零しながら安堵の笑みを浮かべていた。無理もない、 愛しの彼をライバルに奪われたと思い込んでいたから。 「よ……よかった……」 泣いていた少女を落ち着かせると、今度はハヤテの心に住み着いた怨霊を払うことにした。 「でもどうして突然告白の話を持ち出してきたんですか?」 目の前の彼が全て話してくれたので、彼女も全てを打ち明けることにした。昨夜見た夢の事、その中でハヤテと歩が 恋人同士になってショックを受けた事、それにより正夢だと思い込み自分が不安定な精神状態であった事、 またハヤテの帰りが遅いので心配した事、そして…… 「私、ハヤテ君の事が好きなの!! 今年の誕生日にハヤテ君と生徒会室のテラスから一緒に夜景を見た時に 気がついたのよ! こんな私だけど……付き合ってくれないかしら!?」 愛しい人に抱いていた好意を。
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いかがでしたでしょうか。SS書きとしてはまだまだ駆け出しもいいところですので上手く書けずにすみません(ペコリ)。 こんな拙作でしたがお付き合いくださりどうもありがとうございました。 今後どんな展開になるのか私も楽しみです。 後半はネームレスさん、よろしくお願いします。 書き方については一人称、三人称どちらでも結構です。
それでは皆さん、後半をお楽しみに。そして失礼します。 瑞穂でした。
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