Re: 憧憬は遠く近く 第四章 〜 本当の君と |
- 日時: 2016/02/20 16:32
- 名前: どうふん
- そして時は過ぎ、という程でもないですが、皆、それぞれの進路も確定しました。
ハヤテは結局、ヒナギクさんと同じ大学に行くことができたでしょうか。 そして他には誰が・・・
【第10話:それぞれの未来図】
大学入試の結果発表が出揃った。 ムラサキノヤカタの関係者で最難関の国立東京帝都大学に合格したのはヒナギク、ナギ、千桜そしてハヤテだった。他の面々も、それぞれ行先は決まっていた。 そしてもう一人、これは誰も知らないことだったが、マリアも東京帝都大学を受験し、合格していた。 「な、何でマリアが・・・?」ナギは絶句していた。 「まあ、ナギのことが気になりますからね。それにハヤテ君も私がついていないと、どこでヒナギクさんと仲がこじれるか心配ですし」 「確かにマリアさんの学力をもってすれば合格なんか簡単でしょうけど・・・」ヒナギクとマリアに交互に家庭教師をやってもらっていたハヤテも、こんな結末は思いもよらなかった。 「それにね、私もそろそろ子離れしなきゃいけない時が来たのかとも思っているんですよ」 「マ、マリア・・・。もしかしてお前、好きな人でも・・・?」 「それは今から探します、大学で。ナギもハヤテ君も素敵なパートナーがいるんですから。私もそろそろ世間に出てみようかな、って」 「パ、パートナーって、私はいないぞ、そんなもの」 「あら、漫画を描くパートナーのことですよ。大学は違うけど同じ東京だし、これからも一緒に漫画家を目指すと約束したんですよね」 「ほ、ほんとにそれだけだからな」 「はいはい」
ヒナギクはちらり、とハヤテに目を遣った。 (マリアさんも子離れか・・・)それはナギの成長を意味するものだろう。 それはまたヒナギクの密やかな夢を後押ししてくれるかもしれない。
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入学式当日、キャンパス内の桜が満開となっていた。 講堂で型どおりの入学式が執り行われた。ハヤテたちは千桜を交え講堂の真ん中の辺りにいたが、新入生代表で誓いの言葉を述べるヒナギクは一人最前列だった。
入学式が終わり、後方席から順番に退場することになった。最前列のヒナギクが出るのは最後となる。 一足先に講堂を出たハヤテたちは異様な熱気が講堂を取り囲んでいることに気付いた。 入学式当日に一斉に開始される恒例の部・サークル活動の勧誘だったが、こんなことが始まるとは知らない大半の新入生は茫然としている。
「こ、これは凄いですね」あちこちで雰囲気に呑み込まれてサークルのテントやテーブルに連れ込まれる新入生が続出していた。 「ヒナギクさんを待って一緒に出ましょうか」 「ハヤテ君、それは無理ですわ。列がつかえます。一足先に抜けましょう」 ナギ、マリア、千桜には次々と勧誘の声が掛かってくる。部員からマネージャーまで、是非、話を聞いて、と言い寄ってくる。しつこくテントに連れ込もうとする連中もいた。 ハヤテはそれを振り払い振り払い、ようやく校門まで出てきた。 さすがにここまで来ると勧誘は少ない。
ハヤテはヒナギクのことが気になった。あれだけ目を引く女性が一人でいるのだ。目の色を変えてハイエナが押し寄せることは容易に想像がつく。 「さすがのハヤテもヒナギクのことになると見当違いになるのか」 「え、どういうことです」 「心配するな。ヒナギクはすぐに出てくる」 ナギの言葉通り、ほんの十数分後、ヒナギクは軽快なフットワークと流れるような体捌きに華麗な跳躍を加え、何事もなかったようにハヤテたちの前に立っていた。
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5人で大学の手前にある喫茶店に入った。 屋敷に帰る前に、大学の周りを少し眺めていきたい、とハヤテが言ったのである。 「ハヤテ君からそんなことを言い出すなんて珍しいですわね」 「そうでもないですよ。最近はだんだん図々しくなってきていますから」困ったような顔を作ったヒナギクの瞳はちょっと自慢気に輝いている。 「ヒナ・・・、お嬢様の前でそれはちょっと」 「今・・・なんて言ったのだ、ハヤテ」 「え、え、何か言いましたっけ?」とぼけてはいたものの顔が真っ赤になっていた。 「ほんとにわかりやすい奴だな。いつの間にそんな仲になったのだ」 ヒナギクも顔をちょっと赤らめていたが、満更でもなさそうだった。 実際ハヤテとヒナギクは、今、二人だけで会話するときは「ヒナ」「ハヤテ」と呼び合っていた。
「まあ、これから大学生活をどうするかはそれぞれ考えなければいけませんわね」 マリアが助け船を出した。 「決まっている。在学中に必ず特別な何かになるのだ」 「東宮君と一緒にですか」 「マリア、しつこいぞ」 「まあ、当分はバイト三昧かな。奨学金だけでは生活厳しいし」 「私は、在学中に司法試験の資格を取って将来は個人事務所を開くつもりよ。そのためには経営の勉強もしなきゃいけないわね」 「さすがはヒナ・・・ギクさんですね。僕はこれからお嬢様だけでなくヒナギクさんも精一杯フォロ−しますよ」 「あのな・・・ハヤテ。無理しないで言いやすい呼び方にしていいぞ。それに『ヒナ』も勉学だけでなく、彼氏との時間をしっかりとることだ。社会に出るとなかなか思うようにいかないぞ」 「あ・・・あはは・・・」 「ナギに説教されちゃったわね。でもありがとう。ご忠告はしっかりと肝に銘じておきます」 「う・・・、まあほどほどにな」 「それでマリアさんは・・・?」 「私も世間に出るのは久しぶりですから。まだ何も決めていませんが、今からじっくりと考えます。もちろんナギの側にいることには変わりありませんよ」 ナギの顔にホッとしたような空気が浮かんだ。
「しかし、ヒナギクの法律事務所か・・・。その時は住み込みで三千院家の顧問弁護士になってくれ」 「それも悪くはないわね。でも私としてはむしろ街中でちょっとしたトラブルに対応したり、泣き寝入りしている人たちの力になりたいの」ヒナギクの頭には、かつて理不尽な境遇にあったハヤテや自分の姿が浮かんでいた。幸いなことに、ハヤテにはアテネやナギが、自分や姉には今の両親がいた。だがそれが天文学的な確率であることもよくわかっていた。
「さすがですね、ヒナギクさんは。私はてっきり国際派弁護士を目指すのかと思いましたけど」 「それはヒナギクには無理だな。国際派ならまず飛行機に乗れないと」 「ナギ・・・。別に海外なんてね。船に乗っても行けるのよ」 「お前の言う海外とは八丈島と北海道のことか?」
しかし、ヒナギクには、ナギの前では、いやハヤテにも今はまだ言えないことがあった。 将来、個人事務所を開設した暁にはハヤテと二人で運営するのが夢だった。
そうなるとハヤテに三千院家の執事は辞めてもらわなければならない。 ナギがハヤテに依存している間は不可能だし、する気もない。 ただ、ナギが成長し、新しい恋と自立への道を進もうとしている今、ハヤテがナギにとって不可欠な存在でなくなる時はきっと来るのではないか。それもそう遠くない未来に。 それはマリアも、おそらくはハヤテも感じているはずだ。
その時になれば・・・
2/27 ご指摘の点、修正しました。ありがとうございました。 「最高学府=東京帝国大学」 ⇒ 「最難関の東京帝都大学」 「東京帝国大学」 ⇒ 「東京帝都大学} ※「東京帝都大学」は架空の大学です。
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