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対象スレッド 件名: 憧憬は遠く近く 第四章 〜 本当の君と
名前: どうふん
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憧憬は遠く近く 第四章 〜 本当の君と
日時: 2015/12/26 09:40
名前: どうふん

本スレッド「憧憬は遠く近く 第四章」は本作の最終章となります。
第三章から、一年以上過ぎ、大学入試、卒業を前にしたところから始まります。
二人と、それと周囲に何か変化はあったでしょうか。
とにかく二人と(できる限り)周囲の大団円に向けて当方も最後の一仕事、ラストスパートを掛けたいと思います。



<第一話 卒業を前に>


「それは先生の仕事じゃないですか」
「あのセンパイ、苦手なのよ。いいじゃないの、細かいことは。私はあんたのお姉ちゃんなんだから」目眩がした。
一瞬の後、気を取り直した時には、あのダメな人、というかヒナギクさんのお姉さんははるか彼方に駆け去っていた。
ため息をついた僕は、お弁当を片手に持ったまま、向きを変え、手渡されたプリントを理事室に運びに行った。


「ヒナギクさん、お待たせして済みません」
昼休み、ヒナギクさんはいつもの桜の木の下に先に来ていた。お姉さんのせいで遅くなりました・・・とは言えなかった。また姉妹ゲンカの原因になるのは目に見えている。
「大丈夫よ。チャー坊とお話ししていたの」僕を優しく迎えてくれた瞳の下に、掌に乗った雀の姿があった。
いつの間にか彼女ができていたチャー坊は、二羽で一緒にヒナギクさんの掌の上でご飯粒をつつくほどに慣れている。
「今日はナギは来てないの?」
「ええ。前よりはだいぶ出席日数が増えましたけどね。朝に弱いのは相変わらずで」
「まあでも、今は一応の目標と締切を意識しているわけだから成長はしているわよ」

僕と会ったその日から、ヒナギクさんは二人で助けたこの雀の子をずっと見守って可愛がっていた、ということを知った。
改めて思う。チャー坊に向けた慈愛の籠った瞳も、お嬢様を気遣う優しさも、この人は本当に天女なんだ。そして・・・昔の恋人に対する想いも。


毎日昼休みに、僕はヒナギクさんと一緒に弁当を食べている。お嬢様が登校しているときは三人になる。
その結果、僕は周囲から羨望だけに留まらず、一部から殺意に似たものをいつも感じている。
まあ、それは仕方ない。僕が逆の立場でも多分そうなるだろう。
一度などクラスの黒板に僕とヒナギクさんのかなり趣味の悪い相合傘がでかでかと書かれ、激怒したヒナギクさんを宥めるのが大変だった。

しかし、周囲からは怪訝な顔をされるが、僕はヒナギクさんの恋人、というわけではない。
あの海の公園でヒナギクさんに「恋人でなくてもいい」「ヒナギクさんが気持ちを整理できるまで待ちます」と言って一年半が過ぎた。
今僕たちは三年生だ。それも卒業を1か月後に控えた卒業生だ。


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その間に、当然ながら色んなことがあった。

三年生になって、ヒナギクさんとは別のクラスになった。
僕はお嬢様の許可をもらって生徒会役員に立候補した。もちろん、目的は三年連続生徒会長となることが確実なヒナギクさんの側にいることだった。
「会長をハヤテの毒牙から守れ」という声が全校に溢れたらしい。
落選間違いなし、という状況だったが、選挙当日ヒナギクさんは、最終演説で全校生徒を前にして言い切った。
「私は今回会長に立候補する立場ですが、サポートしてくれる役員として綾崎ハヤテ君を推薦します。私に投票してくれるなら、綾崎君も生徒会入りさせて下さい」この一言が効いた。きわどく当選することができた。

立候補を見送り、選挙管理委員をやっていたオバカ三人組、いや花菱さんたちによると男子生徒の8割が僕の対立候補に投票したらしい。ちなみに、その場合、女子生徒は皆僕に投票してくれた計算になる。
どう解釈すべきかよくわからないが、ヒナギクさんが男子にも女子にも圧倒的な人気と人望を持っている、と考えるのが一番事実に近いのだろう。ただ、男子と女子では、その表現方法が正反対だったということだ。
ちなみにヒナギクさんは信任投票の結果、白皇学院史上初の満票で会長に選任された。

僕は、任期満了まで生徒会役員としてヒナギクさんの手伝いをした。一部交代したメンバーにも協力してもらい、大分ヒナギクさんの負担を減らすことができたと思う。会長秘書などと陰口を叩かれていたらしいが、本望だ。


さらに僕はヒナギクさんに、勉強を教えてもらっている。
「ヒナギクさんと同じ大学に行きたいんです」と無理やり頼み込んだのだ。
実を言うとマリアさんにも。
それは最難関の国立大学を目指す、ということだった。ヒナギクさんはまず大丈夫だが、僕は半々、というところだ。まあ、やっと半々まで来た、というべきか。
それだけでなく、紆余曲折を経てお嬢様とマリアさんは三千院家の屋敷に戻ったが、僕は週の半分をムラサキノヤカタに執事として泊まり込んでいる。
ヒナギクさんも残ってくれたのであーたんを交えた三人の親子関係も復活した。
そんなこんなでヒナギクさんと一緒にいる機会はそれほど減らなかった。というより、僕がヒナギクさんの傍に居座った。

それでも、まだ・・・。

ヒナギクさんから拒まれることはない。しかし、僕はヒナギクさんに指一本触れることはできないでいた。


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今日は2月14日、バレンタインデーでもある。
昨日、ヒナギクさんが、どう見ても本命のチョコを二つ作っていた事は気付いていた。
ヒナギクさんは、今朝早く、ランニングの代わりにその一つを持って出かけた。
昔の恋人の墓にお供えをしに行くことは分かっている。
その姿を見たくなくて、僕は朝の掃除をさぼった。
たまにはいいさ。
まあ、ヒナギクさんだって僕と顔を合わせたら気まずいだろう。
今もヒナギクさんはしばしばそのお墓に参って、掃除をし、花やお菓子を供えている。


昼食を食べ終わったヒナギクさんは、僕にチョコをくれた。嬉しかった。でも寂しかった。
ヒナギクさんがチョコに添えて、僕に伝えてくれたのは今回も感謝の言葉だったから。
今日も待ちわびた言葉を聞くことはできなかった。

ヒナギクさんが今でも僕を好きでいてくれている、とは思う。
ヒナギクさんは僕に笑顔を向けてくれる。
だが、時々感じる。ヒナギクさんの笑顔に申し訳なさそうな瞳が伴っている。
今でもヒナギクさんの心にはショウタ君が生き続けているんだ。
いや、ショウタ君の幻というべきだろうか。ヒナギクさんが思い出すこともできない過去の恋人。


「きっと大丈夫だよ。ヒナさんは今混乱しているだけで、ハヤテ君への気持ちは全然変わってないよ」
西沢さんはこう言い残してムラサキノヤカタを出て行った。

「中途半端に記憶が戻ったってのが一番やりにくいな・・・。全く・・・君も面倒くさかったが、ヒナも相当なもんだ」
千桜さんも見かねたらしく、呆れ顔で僕にぼやいた。


ヒナギクさんと一緒にいる。それは確かに僕にとっての至福の時間だ。
しかし一人になると気持ちが沈むことが増えた。

傍にいれるだけで満足・・・だったはずなのに。
ヒナギクさんの気持ちに整理がつくまで待つ、と約束したのに。

ヒナギクさんを抱きしめたい。
ヒナギクさんとキスしたい。
いつ頃からだろうか。感情というのか欲望というのか、決して上等とは思えないものが僕の周りで渦を巻くようになった。時々苦しくてたまらなくなる。
僕はやっぱり汚い奴なんだろうか。


1/ 9 ご指摘の点修正しました(白皇学園 ⇒ 白皇学院)。
    ありがとうございました。
2/27 ご指摘の点修正しました(最高学府 ⇒ 最難関の国立大学)。
    ありがとうございました。