Re: 憧憬は遠く近く 第三章 〜 恋人の肖像 |
- 日時: 2015/11/10 20:30
- 名前: どうふん
- ハヤテがようやく知った真実(繰り返しますが、当方の勝手な想像です)。
ハヤテはそれに向き合うことができるのか。 自分では無理だとしたら、それを後押しできるのは、やはりこの人です。
第4話 女神 再び
千桜の説明にハヤテは言葉を失っていた。 「ヒナギクさんに・・・そんな過去が・・・」 「私たちも知らなかった。本人さえ忘れようとして忘れることができなかったということだ」 「それで・・・、どうすればいいんでしょう」 「決まってるじゃないか。君がヒナを救うんだよ」 「ぼ・・・僕がですか」苛立たしげに千桜が声を荒げた。 「君はそれでも男か。 いいか、綾崎君。ヒナはあれだけ必死になって、意識を喪うほど苦しんで君に気持ちを伝えようとした。その姿を見て何とも思わないのか。 ヒナのおかげで君は自分を縛る鎖から解放された。そうだろう。
そうじゃないのか! 借金持ちでも、執事でも、自分が女の子と付き合ってもいいんじゃないか、と思えただろう。 今度は君の番じゃないか。 君がヒナにしっかりと気持ちを伝えて、ヒナを一人にはしないことを誓うんだ。 ヒナもきっとわかってくれる。ヒナを恐怖から救ってやれる」 「それは・・・僕には荷が重すぎます。もともと僕はヒナギクさんと釣り合うような人間じゃないんです。強くも優しくもない。甲斐性もない・・・。
それに・・・そんな苦しみを・・・僕なんかよりずっと苦しんできた人を助けるなんて・・。
ましてヒナギクさんを未来も一人にしないなんて約束・・・無理ですよ」 歩が飛び込んできてハヤテを平手打ちを浴びせた。 「ハヤテ君は、そんな・・・、そんな情けない人だったの?自分の好きな子がこれだけ苦しんでいるのに、助けてあげられないの?」 歩は、ハヤテの襟首を掴み、壁に押し付けて泣いていた。
ハヤテは閉じた目に涙を溢れさせながら抵抗はしない。 しかし、その口は開かない。首は縦に動かない。
歩の肩に手が乗った。 「もうおやめなさい」その場にいるはずのない人の声がした。 「ハヤテ、しっかりしなさい。私が鍛えたハヤテはそんなだらしない男の子ではないはずですよ」 「あ・・・あーたん」目を開いたハヤテの目の前にいたのは、天王州アテネだった。 「あ、あーたん、どうして」 そこにいる多くはアテネを直接の接点はなくとも見たことがある。だが、そんなことと関係なく、周囲は状況が呑み込めず唖然として動かない。一人を除いて。
「アテネちゃん?」 「久しぶりですわね、マリアちゃん」 「久しぶり、というのも変ですけど」 「やっぱり気付いてたのね。積もる話はありますが、私には時間がありません。ここは用件を先に済ませましょう」
アテネはハヤテに向き直った。 「いいこと、ハヤテ。今何に悩んでいるかはわかります。 だけど、ヒナは今『助けて』って叫んでいるのよ。いつかのハヤテのように。 その声が聞こえないのですか。
今のハヤテは確かに甲斐性なしです。だけど強さと優しさなら、今のハヤテは持っているはずよ。それなのになぜヒナを助けようとしないの。
あなたは、かつて私を助けようとした時、どれほど巨大な敵にたった一人で向かっていきましたか。 何で、勇気をもう一度奮い起こすことができないのです。 ヒナを助けてあげられるのはハヤテしかいないのよ」 「でも、あーたん・・・。僕は・・・、僕は・・・」 「『僕は』、何です?『僕は今でもあーたんが好きだ』とでも?」
「あーたん・・・」 「違うわよね。今、ハヤテの一番大切な人は誰?一番大切なことは何?それだけを考えなさい」 「ヒナギクさん・・・。ヒナギクさんを救うこと・・・」 「ならば、それ以上、私が言うことはありません」
アテネは踵を返した。 「あ、待ってよ、あーたん。僕はまだ君に」(聞きたいことがあるんだ)その言葉は呑み込んだ。アテネの後ろ姿には追いかけることを許さない厳しさがあった。 その姿は廊下の角を曲がってすぐに見えなくなった。
**************************************************************:
「綾崎君、もう結論は出た。そういうことでいいのか」 「ハヤテ君、後はあなた次第ですわね」 「ハヤテ君、お願い。ヒナさんを」 「ハヤ太くん」
「はい・・・。行ってきます。ヒナギクさんの元へ」 「ちょ、ちょっと待って。ハヤテ君の気持ちはよくわかったわ。だけど、今ヒナは眠っていていつ目覚めるかもわからないの。もう夜遅いし、面会時間だって過ぎているじゃないの。ヒナの看護人は私しか認められていないのよ。ヒナの目が覚めれば呼ぶから、今は帰りなさい」 「部屋の中でなくてもいいですから。僕はヒナギクさんの傍にいます」 「病院の規約上それはダメなの。不審者扱いされちゃうわよ。目が覚めたって検査があるんだし、明日の面会時間にもう一度来てちょうだい」 やむなく、雪路を残して全員が家に戻ることにした。
「そうだ、あーたんを連れて帰らないと」 「ん、アリスならあのベンチに寝ているぞ」 「まったくいつも神出鬼没だねー、この子は」 「それにしても、さっきの理事長は一体・・・?マリアさん、理事長のことご存じなんですか?」 説明するのも大変そうなのでハヤテもマリアも黙っていた。
******************************************************************::
翌朝−。 マリアとハヤテは一緒にキッチンで朝食をこしらえていた。 「ハヤテ君、何をぼーっとしてるんです。スクランブルエッグが焦げますよ」慌てて、ハヤテはフライパンをレンジから下ろした。 「心配しなくても大丈夫ですよ、ヒナギクさんなら。あとはハヤテ君次第です」マリアはくすくす笑っている。ハヤテは顔を赤らめた。照れ隠しもあって、ハヤテは昨晩からの疑問を口にした。 「マリアさん、あーたんのこと、ご存じだったんですか?」 「まあ、まさかとは思いましたけど。私も不思議なことをいろいろ経験していますからね。別に驚きはしませんでしたわ」 「ではあーたん、というか天王州理事長のことも、前から?」 「そうでなくて、どうしてあなたのことを白皇に推薦できますか」 「は・・・、はあ・・・。恐れ入ります・・・。でも一体どこに接点が」 「ナギのメイドになる前、私は天王州家にいたんですよ」 「ええ?でも、確かマリアさんは・・・」
その時、ハヤテの携帯がなった。雪路からだった。 「ハヤテ君。ヒナがいないの。病院から消えちゃった。そっちに戻ってない?どこに行ったかわからないのよ」
※11/11 指摘頂きました誤記、修正しました。ご連絡ありがとうございました。 ※11/18 「レンジ」→「コンロ」との指摘を頂きましたが、ここは「レンジ」でいいかと思います。「コンロ」より「レンジ」の方が意味は広いので問題ないかと。ご連絡ありがとうございました。
|
|