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対象スレッド 件名: Re: 憧憬は遠く近く 第三章 〜 恋人の肖像
名前: どうふん
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Re: 憧憬は遠く近く 第三章 〜 恋人の肖像
日時: 2015/11/03 20:19
名前: どうふん


なぜヒナギクさんが恋愛に関してのみ、ああもヘタレになるんだろう。
そんな疑問が前からありました。
これには何か深い理由でもあるんだろうか、ということで考え付いたのが今回のお話しです。
どれだけ説得力を持ちうるかはわかりませんが、以下、ヒナギクさんの過去について、雪路の説明が完結します。

あ、本作第三章はこのまま続きます。



【第三話:悪夢の真相】


雪路は改めて周囲を見回し、もう一度ため息をついた。
「海に面した広い公園だったから、砂浜だけじゃなくて、岸壁、というかちょっとした崖のようなところもあったのよ。一応柵があって中には入れないようになっていたけど。
だけどショウタ君も小学生でやんちゃ盛りだったから・・・。ヒナは普段は真面目で慎重だったんだけどショウタ君の後ならどこでも付いて行ったし・・・。ヒナと二人で小さな隙間から柵の中に入りこんじゃったのよ。私も気付いて、急いで連れ戻そうとしたんだけど、距離があって間に合わなかったの。

そこまで言えばわかるわね・・・。

ショウタ君もヒナも一緒に海に落ちちゃったのよ。
悪いことに海の底は岩場になっていて・・・。
ショウタ君は岩で全身を強く打って重傷。

でもね、ヒナはかすり傷で済んだの。
というより・・・ショウタ君がヒナを守ってくれたのね。
ショウタ君は海から引っ張り上げられるまでヒナを抱きしめていたのよ。

ヒナは両親に連れられて毎日見舞いに行ったわ。
『きっと元気になってくれる。約束したもん』って言い張ってね。
だけど・・・ショウタ君は一生懸命に頑張ってくれたけど・・・。
とうとう・・・力尽きちゃったの。
『ヒナちゃん。ごめん』って、一言を残して・・・。

ヒナは、泣き叫んでは気を喪い、目を覚ましてはまた泣き出す有様で、しばらく入院していたの。


その時からよ・・・。
『私の好きになった人は、みんな、みんないなくなっちゃうんだ』って呟くようになったのは。
私がついているから大丈夫よ、っていくら言っても効果はなくて。
『お姉ちゃんもきっといなくなるもん』なんて言い出して。
両親がいなくなった直後だったから・・・なおさらそう思いこんでしまったのね。
そして家に戻ってきたとき、最近の記憶を喪っていたの。
ショウタ君のこともね、丸ごと抜け落ちちゃったのよ。

お医者さんは、いろいろ難しいことを言っていたけど、当時の私にはよくわからなかった。確か『抑圧による記憶喪失』、と言っていたわね。
はっきりわかったのは、その辛い記憶をしまいこまないと耐えられなかったから、ヒナは自分で記憶を引き出しにしまい込んでしまった。だから家族の皆様も思い出させるようなことはしないで下さい、ということね。

ショウタ君のご両親は、年上のショウタ君がヒナを危険な目に合わせた、といって謝っていたけど・・・。何と言ってもショウタ君は死んじゃって、ヒナは無事だったということもあって、お義父さん、お義母さんが凄く悩んで必死に謝っていいたわ。
そんな姿を見て、ヒナには自責の念もあったのね。
皮肉なことにそれがヒナと両親が打ち解けるきっかけになったんだけど。

私だって、両親にだって思い出すのも辛いこと。ヒナにとってどれだけの心の傷になったことか。
小学生になってからも、何かの拍子にいきなり震えだしたり汗びっしょりになったり、気を喪ったりしたこともあるの。

そうよ・・・今みたいにね・・・。
もう、そんなこともなくなって大丈夫と思っていたんだけど・・・

ついでに言うとね、ヒナが高所恐怖症になったのもその時からなのよ」
誰もが身動き一つせず、聞き入っていた。


「ヒナが・・・、そんな・・・」千桜は唇を噛みしめていた。
あのヒナがこれほどのトラウマを体に染み込ませるには、それだけの衝撃的な体験をしたことをなぜ想像できなかったのだろう・・・。
「ど・・・どうすればいいの・・・かな、千桜さん?」
歩は千桜の方を振り返ったが、千桜は答えない。苦し気な表情は変わらない。
三人娘やルカも顔を見合わせている。


「大丈夫ですわよ」聞き覚えのあるのどかな声がした。皆が声の方向に振り向くと、マリアを連れた(いや、実際は逆だろうが)アリスがいた。
「ヒナはそんなに弱い人ではありません。確かに小さい頃は耐えられなかったかも知れませんが、今のヒナは違います。私にとっての最愛のママなのですから」
「・・・お前、全然気づかなかったが、この話をいつから聞いていたんだ?」

「最初から聞いていましたわよ。細かいことにこだわることはことはありませんわ。肝心なのはヒナを救うことです。」
「まあ、それはそうだが・・・。何かいい考えがあるのか?」
「別に考えなんかありません。ハヤテに判明した事実を全部話すことです。それしかありません」
「そ・・・それはどういうことなのかな?」
「ハヤテを救えるのはヒナしかいない。ヒナを救えるのもハヤテしかいないんです。その役割を既にヒナは果たしているのです。今度はハヤテがヒナを救う番でしょう」

「さ・・・さっぱりわからないよ」
「いえ、アリスちゃんの言う通りですわ。あとはハヤテ君に任せましょう」
「マリアさんまでそう言うなら・・・。ハヤ太君なら、一階のロビーにいたはずだ。呼んでくる」
駆けだした美希の背中を見送って、アリスはポケットからそっと携帯電話に似たメーターを取り出した。
「貯金は全部使い果たしそうだけど、ここはハヤテに何としても火を点けないと」