憧憬は遠く近く 第三章 〜 恋人の肖像 |
- 日時: 2015/10/25 23:08
- 名前: どうふん
憧憬は遠く近く 第三章 スタートします。
簡単に今までの流れを振り返りますと、 【第一章】お互い、自分の気持ちを意識したハヤテとヒナギクさんですが、相手に嫌われていると誤解したまま、仲はこじれる一方となりました。
【第二章】そんな二人を見かねた周囲が二人の仲を取り持とうとするのですが、いざ告白の瞬間、ヒナギクさんは倒れてしまいます。
そして今、ヒナギクさんはハヤテや千桜たちに付き添われ、救急車では救急病院に運び込まれてきました。
【第一話:深淵に潜みしもの】
「ハヤ太君、ヒナは?ヒナは無事か?」 「一体何があった?」 「ヒナちゃん、どうしちゃったの?」 救急病院に駆けこんできたのは生徒会三人娘だった。 美希がいち早く情報を掴んで二人に知らせたらしい。政治家の娘はさすがに耳が早い。
1Fロビーの長椅子に腰掛けているハヤテは、のろのろと彼女たちに顔を向けたが、茫然自失しているハヤテの口からは言葉が出てこない。 「おい、どうした、ハヤ太君。まさか・・・ヒナは・・・」 「ヒナちゃん、死んじゃったの?」泉の顔が泣きそうに歪んだ。 「ちょっとちょっと・・・。縁起でもないことを」割って入ってきたのは千桜だった。歩とルカも後ろにいた。
「ヒナの体には別に異常はない。401号病室で、今は落ち着いて眠っているから安心しろ。念のため、看護体制に入って、雪路もヒナについている。両親は海外だが連絡はついた。明日には戻ってこれる」 「体には異常がないの?」 「うん。どうも精神的なものらしい。過去のトラウマや記憶が強烈にトラッシュバックすると、意識が飛んだりすることがあるそうだ」 「過去の記憶って・・・一体」 「・・・君たちも知っているだろう。ヒナが昔親に捨てられたことは。 それ以来、ヒナは自分の好きになった人は皆いなくなってしまうんじゃないか、という恐怖を拭い切れていないんだ。 さっき綾崎君に愛を告白しようとしたとき、それが蘇ったらしい。 その前兆はあったのだが・・・。まさかこれほどの重症だったとは気付かなかった。ヒナに申し訳ない」
「そんな馬鹿な」叫び声は予想外の方向から飛んできた。美希だった。 「ヒナはそんなに弱くない。ヒナは私のヒーローなんだ。 親に捨てられたって、姉までいなくなったわけじゃない。そんなもの克服しているさ。まして、その程度のことで恋愛まで臆病になって意識を喪うなんてことはない」 「その程度、って。いくらヒナさんでもちっちゃい子供の頃だよ」口を挟んだのは歩だった。 「それでも、ヒナはヒナだ。今のヒナは絶対にそんなことはない」 「いい加減にしなよ。ヒナさんは現に倒れているんだよ」歩も気が立っている。あわや、二人の間で、つかみ合いが始まろうとした。
「待て、歩。美希の言う通りかもしれない」 「え、千桜さん、どういうことなの・・・かな?」 「確かに、親がいなくなったことは、ヒナにとって大変なショックだったろう。だけど美希の言う通り、本当に一人になったわけじゃない。雪路もいたんだ。現にヒナはあまり立派とは言えない姉を愛し、尊敬している。 それに今の親からは本物の親かそれ以上の愛情を受けている。それを拒絶したなんてことはないはずだ。 それなのに、恋愛にだけ、ああも拒絶反応を示すというのは飛躍がありすぎないか」 「で、でも・・・、ヒナさんは現に・・・」 「だからだ。今までずっと疑ってもみなかったが、この一足飛びの間に、私たちの知らない何かがあるんだ」 「そ・・・それって一体・・・」口をはさんだのはルカだった。 「それは、私の憶測より、事実関係を知っている人に聞いた方が手っ取り早い」 千桜は走り出した。わけがわからないまま歩たちは後を追った。 「どこに行くんだ、千桜」 「ヒナの病室だ」 その場には、まだ茫然としているハヤテ一人が残された。
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「大丈夫、千桜さん」 「す・・・すまん」 ヒナギクの病室がある4階まで階段を一気に駆け上がった千桜は歩とルカに支えられて歩いていた。 「何やってるんだよ、千桜。私たちみたいにエレベーターを使えばいいものを」 「自分を全然わかっていないんだな。いくら勉強ができてもそれだけでは社会に出れないぞ」 「千桜ちゃん、もうちょっと体を鍛えないと」 三人娘のからかいといたわりに千桜は反論できない。荒い息を吐いていた。
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