Re: 憧憬は遠く近く 第2章〜 紫色の風が |
- 日時: 2015/09/05 22:21
- 名前: どうふん
- ハヤテとヒナギクさんの仲はムラサキノヤカタ全体を巻き込むことになりました。
とは言え、住民にはそれぞれ思惑があるわけで・・・
【第三話 : オペレーション・パープル】
アリスは、ヒナギクがハヤテの部屋に向かったいきさつを話した。 その後起こったことは、マリアと歩の証言を組み合わせると、ヒナギクはハヤテに決定的な決別を告げられ、ハヤテが泣きながら屋敷を飛び出したということになるのだから、全く噛み合わない。
「それじゃ全くつじつまが合わないじゃないですか。どこかが間違っていますよ」 マリアの分析に、ナギは冷たく言い放った。 「それはハムスターの説明が下手すぎるんだろう。説明云々より勘違いしている可能性が圧倒的に高いがな」 「な、何を言っているのかな。少々事実誤認があったとしても、あのヒナさんのズタズタに傷ついた顔は紛れもなく本物なんだよ」
「それでは、もう一つお話しましょう。これは言いたくなかったのですが」改めて口を開いたのはアリスだった。 「これは当時の住人みんなでババ抜きをした時の話ですが、部屋に籠っているハヤテは部屋から出ない理由をこう言ったのです。『ヒナギクさんのことを考えると胸が苦し過ぎて・・・』」 周囲が凍り付く音がした。 「もう一つ、『僕はヒナギクさんに迷惑掛けっぱなしで嫌われてしまって』とも言っていましたね」
「これは・・・二重三重に誤解が重なっているようだな」呻くように千桜が言った。 「な、何が何だかさっぱりわからない・・かな」 「つまりだ、いきさつはわからんが、ヒナと綾崎君はお互いに相手から嫌われていると思っているんだ。皆も最近二人がよそよそしくなっているのは気付いているだろう」 「え、本当なのかな。全然気づかなかったけど」 「・・・まあいい。はっきり言えば綾崎君がヒナを避けていた。綾崎君はヒナに嫌われているとばかり思っていたから、気遣ったつもりなんだろう。しかし、ヒナにしてみれば綾崎君が自分を嫌って避けていると思い込んだ・・・」
「じゃ・・・あの『残酷』というのは何なのかな?」 「まあ、ヒナを残酷呼ばわりなんてことは綾崎君でなくともありえない。 それはおそらく・・・、『胸が苦しすぎて・・・』って言葉が全て物語っているんだろう。綾崎君はヒナと距離を置こうとしているのに、ヒナから家族デートを誘われて困ったんじゃないか。自分としては行きたくてしょうがないんだから。 それで自分の気持ちを抑えようとして苦しくてたまらず、口走ってしまった・・・といったところか」
材料が乏しいため推測が多くなるが、日頃から二人を間近で良く見ている千桜の推理には説得力があった。 「だとすると・・・、ヒナさんは信じ込んでいるけど・・・、それはハヤテ君の拒絶じゃなくて愛の告白・・・?」 「ハヤテに告白したつもりはないでしょう。でも娘の立場で二人を見ていて感じるものはあります。ヒナもハヤテも、お互い秘めていた想いが見当違いの方向に噴き出したと考えれば筋が通ります」
最後に補足したのはアリスだった。周囲は完全に引き込まれていた。 ただ一人を除いては。
「そんな・・・、そんなはずはない。あるはずない。ハヤテは私の恋人なんだ!」 ナギの叫び声がムラサキノヤカタ一杯に響き渡った。 それに応えたのは、マリアを除く全員の憐れみに似た視線だった。
「な・・・何だ、その目は?お、お前だって・・・、いいのか、ハムスター。ヒナギクにハヤテが惚れているなんて、それでいいのか?」 「残念だけど・・・、千桜さんの言う通りだとしたら・・・、いや言う通りだと思う。もう勝負は着いちゃったんだよ。 それに私は・・・あんなに苦しんでいるヒナさんをこれ以上見たくない」 「ルカ、お前だってそうだ。お前とはハヤテを賭けて同人誌勝負するはずじゃなかったのか?私に勝ったらハヤテと結婚するんだろ」 「いくら私でもハヤテ君の気持ちが固まっているんじゃ・・・。ヒナは恩師だし、ヒナが相手なら負けても仕方ないって思えるもん」
「お前ら・・・、お前らみんな・・・、どいつもこいつも・・・。根性なしめ。私は違うぞ」 ナギは食堂を飛び出し、部屋に駆けこんだ。 それを追おうとした千桜をマリアは呼び止め、自分が立ち上がった。 マリアはナギを追った。今、全てを話すしかない、その決意がマリアの顔に浮かんでいた。
千桜は周囲を見回して続けた。 「・・・ナギのフォローはあとでするとして・・・。とりあえずはマリアさんに任せよう。何、あいつは今こそ激情に駆られているが大丈夫だ。問題はヒナだ。正確にはヒナと綾崎君だ」 「そうだよ。ここは皆で協力して二人をくっつけよう」 「ハムスター、じゃなかった、歩。いいのか?」 「さっきも言ったよ。もうあんなに苦しんでるヒナさんもハヤテ君も見たくない。二人には幸せになってほしいんだから」 「私も力を貸すわよ。今の私があるのはハヤテ君とヒナのお蔭なんだから。水蓮寺ルカは恩知らずだ、なんてゴシップ記事を週刊誌に書かれたくないからね」 「ゆきがかりだ。私も協力しよう。執事があんな風では住民として困る」カユラも賛同した。
「こうなったら、この恋愛コーディネーター、AYUMUにまっかせなさい。名づけてムラサキノヤカタ大作戦!」歩が吼えた。 「まんまじゃないか。どうせならオペレーション・パープルの方がいいんじゃないか」 「結局、どこが違うんだよ・・・。お前らに任せる気にはなれんが・・・。とにかく全員で協力してやろうじゃないか」 「おおー」唱和した声にはやけっぱちのような響きも含まれてはいたが。
「あれ、そう言えばアリスは?」 いつ消えたのか、誰も気付いたものはいなかった。
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