Re: 憧憬は遠く近く 第2章〜 紫色の風が |
- 日時: 2015/09/23 23:55
- 名前: どうふん
- ちょっと西沢さんに悪いことをしたかな、と思ってます。
前回投稿末尾のオチについてです。 まあ、マスターにしてみれば、いきなりローテーションを無視して職場放棄した西沢さんへ嫌味の一つも言ってみたくなったのではないでしょうか・・・ということで。
【第6話:開かれる扉】
同じ頃・・・ムラサキノヤカタ、ナギの部屋
「やっとわかったよ。どっかで見たようないけ好かないガキだと思っていたが・・・。ギリシャで私にカラの宝石箱を渡した女だな」 「ええ、そうみたいね。みたい、というのは私にはっきりと記憶がないからですけど。ちなみに小さくなった原因は私にもわかりませんので説明はできません」 「口の減らないガキだな・・・。で、お前もかつてハヤテを愛していたというわけか。 それで?お前が諦めようがどうしようがそれはお前の勝手だ。私は私だ。私は諦めるつもりなんか・・・お、おい、どうした」 ナギはアリスの目から涙が零れているのに気づいた。
次の瞬間。アリスはナギの胸に飛び込んでいた。 「ナギだけじゃない・・・。 私だって・・・、私だってハヤテが好きだった。ハヤテも私を愛してくれた。 私にとって絶望の中の希望だった。 だけど離れ離れになって十年経って・・・、やっと会えたのに・・・。ハヤテはもう違う人を愛していた。 私は・・・、私はハヤテだけをずっと好きだったのに」 「お・・・おい」 アリスは、今まで無理に押さえつけていたものが堰を切って噴き出したように泣きじゃくっていた。泣きながらナギにしがみついていた。 「ちっこいの・・・。お前・・・やっぱり・・・、お前の記憶は・・・」
ナギの頭の中では、アリスの言葉が終わりのないエコーのように響いている。 『ナギだけじゃない・・・』『私だって・・・』『絶望の中の・・・』『離れ離れになって・・・』 (コイツも・・・私と同じ涙を・・・? いや、違う。コイツはハヤテと愛し合って、離れ離れになって、そして小さくなって、元に戻ろうとして・・・) 途切れ途切れの言葉の合間に、アリスは一体どれほどの数奇な運命を辿って来たのか。 (私とは全然違う。ずっと運命に抗って生きてきたんだ・・・、コイツは。 十年も前から・・・こんな小さい頃から)
胸が締め付けられたナギもまた、アリスを抱き締めて泣いていた。 仲のいい姉妹のようにずっと抱き合っていた。
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翌日、千桜と歩は喫茶店でヒナギクと向き合っていた。
「そう言っても・・・。私はハヤテ君にずっと避けられてるし・・・。頑張っても私の気持ちにも全然気づいてくれないし・・・。 それとも気づいちゃったから私のこと避けるようになったのかな・・・。前はそんなことなかったのに」 「だからね、ヒナさん。その前提を疑ってみようよ。ハヤテ君はハヤテ君で、ヒナさんに嫌われているとばっかり思っているんだよ。いつかもそんなことがあったじゃないの」 「まあ、あの無神経男にも呆れるけど、ある意味仕方ない部分もあるじゃないか。 何と言っても、綾崎君は1億円を超える借金を抱えて、別の女の子の執事を務める立場だ。相手のことを思えば思うほど、恋に臆病になってしまうのも無理はない。 ヒナは綾崎君のそういう優しいところに魅かれたんじゃないのか」 「・・・それは・・・、そうだけど・・・」半信半疑のヒナギクは煮え切らない。ハヤテが全く意識していないところで、それだけの仕打ちを受けて来た。
「いいか、ヒナ。綾崎君はヒナのことが大好きだ。だけどヒナに嫌われてる、と思いこんでしまってる。ヒナから心配されても、優しくされてもヒナが天女だからだと、本気で考えてる。 それだけでなく、気後れと優しさに縛り付けられてヒナに想いを自分から伝えられないで苦しんでいるんだ。 なあ、ヒナ。おまえは完璧超人じゃないか。綾崎君を気遣ってやれよ。救けてやれよ。 ヒナ次第で、綾崎君を縛る鎖を引きちぎることができるんだ」 「そうだよ、ヒナさん。相手に告白されることばかりが勝ちじゃないでしょ。ハヤテ君を幸せにできるのは、ヒナさんしかいないんだから」 「歩・・・あなたたちの言っている通りだったとして・・・。あなたは本当にそれでいいの?」 「覚悟の上だよ。私はヒナさんとハヤテ君の幸せな笑顔を見たいんだから。 それに私だけじゃないよ。ルカも他のみんなも全部分かった上で協力してくれているんだから」 「歩・・・、千桜・・・。どうしてそこまで・・・」 「いつかも言ったろ、ヒナ。ヒナの幸せを願わないヤツなんかいないんだよ。 綾崎君だってその一人なんだ。まあ、彼の場合、根本が間違っているがな。 どれだけ自覚しているかは知らないが、お前はそれだけ周囲を助けて幸せにしているんだ」 「ありがとう・・・」ヒナギクの瞳から涙が溢れて止まらなくなった。
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その日の夜遅くハヤテ、ヒナギク、アリスを除くムラサキノヤカタの住民が食堂で話し込んでいた。
「ナギは相変わらずですか、マリアさん」 「う・・・ん、部屋からほとんど出てきませんし。食事も私が部屋まで運んでいます。もう少し時間がかかりそうですね。 それでもトゲトゲしさが抜けた感触はあります。アリスちゃんと何か話し込んでいたみたいですけど・・・」 千桜は腕を組んで考え込んだ。 「できれば、ナギも一緒になって二人を送り出してあげたかったけど・・・、まだ無理か」 「さすがに、あれだけショックを受けてまだ一日じゃあね・・・。私だってそうなるもん」 「きっと、大丈夫だよ。ナギちゃんはああ見えてホントは誰より優しい子なんだから」 「ええ、私もそう思います。今は反発していても最後はきっと・・・」 「じゃ、あとは舞台を整えるか。無敵センパイのことを考えると早い方がいいな。明日にでも」
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