Re: 憧憬は遠く近く 〜 不思議の姫のアリス |
- 日時: 2015/07/01 21:14
- 名前: どうふん
- ギリシャから帰ってきてからの、ハヤテのヒナギクさん限定の無神経な言動には首を傾げます。かつて、ヒナギクさんに嫌われていると思いこんで落ち込んでいたハヤテとは別人です。
これをどう解釈するか、愛歌さんに指摘してもらいました。 それを聞いたハヤテはどう受け止めるのか。 しかし残念ながら・・・
【第三話 : 時に気遣われ 時に頼られ】
ヒナギクは河川敷に腰掛けていた。 普段ハヤテから恋愛の対象として全く相手にされない(とヒナギクは思っている)ばかりか、今回は人前であんな冗談を言われ、顔から火が出る思いをした。 更にハヤテは、ヒナギクを加えてあのお姫様と三人で暮らす話を自分には断りもなく淡々と進めていた。照れる様子もなければ抵抗も感じていない様だった。 (やっぱりハヤテ君は私のことなんて全然女の子と意識してくれてないのかな・・・) このままでは自分の気持ちが冷めそうだった。いや、その方がいいのかな・・・なんてことまで考えていた。
「ヒナギクさん」駆けて来たのはハヤテだった。どんな顔をしていいのかわからず、ヒナギクはそっぽを向いた。 「何よ、一体。お姫様のために一緒に住めという話ならお断りよ」 「ヒナギクさん、いつも迷惑ばかり掛けているのに、今回、また変なことをお願いして申し訳ありません。 だけど誤解しないで下さい。お姫様のため、というのもありますけどそれだけじゃありません。僕は、僕自身がヒナギクさんに一緒に住んでほしいんです」 「バ、バカ、何を言ってるのよ。何でハヤテ君が私と一緒に住みたいのよ」 「僕は、ヒナギクさんと一緒に暮らせたら楽しいだろうなあ、と思ってます」ハヤテはヒナギクの手を握った。 この時初めて、ヒナギクはハヤテの方を見た。幾分心中のマグマが鎮まったような気がした。さっきとは違うものが心の中でざわついている。 「ハヤテ君は私と一緒にいると楽しいの?」自分では意識していないが、口調からは険が取れていた。
ハヤテはヒナギクの瞳から目を逸らさず、きっぱりと言った。 「もちろんです。僕は、ヒナギクさんは魅力的でカッコよくて本当に可愛い女の子だと思っています。 いつも怒られてばかりですけど、ヒナギクさんが笑ってくれると僕は本当に幸せな気持ちになれます」 ヒナギクの心臓が大きく跳ねた。 「だから、一緒に住んでもっともっと笑顔を僕に見せてくれませんか。僕もヒナギクさんが笑顔になれるよう一生懸命頑張ります」 「そ、そんな、いきなり・・・。私のことずっと女の子扱いしてもくれなかったのに・・・」 「はい。ヒナギクさんが、僕がヒナギクさんを女の子と見なしていないと誤解していると愛歌さんから・・・」
かくしてハヤテはヒナギクにまたも殴られて大地にキスすることになる。 (な・・・何がダメだったんだろう・・・?) そんなことを大真面目に悩んでいるハヤテだが、それでも一つ確信していることがあった。 (僕は、嘘はついていない。ヒナギクさんと一緒に暮らせれば楽しいだろうな・・・) しかし、どうしたら受けてもらえるのか、この鈍感執事の頭では全く思いつかない。
その場から走り去ったヒナギクは一人公園にいた。ハヤテの一挙一動に一喜一憂し、喜怒哀楽を振り回されている自分が情けなかった。 普段完璧超人とか才色兼備とか言われている自分が、ハヤテを前にすると、どうしてここまで無力でコミカルな存在になってしまうのか。 「何で私はハヤテ君なんか好きになってしまったのよ」 呟いたつもりが、意外に大きな声になっていた。
後ろから缶コーヒーが突き出されてきた。千桜がそこにいた。 「い、いつからそこにいたの」 「今来たばかりだ。ヒナ、一休みしないか」 「・・・今、休んでいたのよ」 「たまには肩の力を抜け、ヒナ。コーヒーを飲むから付き合ってくれ」
二人はベンチに腰掛けた。 「今持ち合わせがないからコーヒー代は明日まで待って」 「これは私のおごりだ。日頃ヒナにはお世話になっているからな」 「そんなわけにはいかないわよ」 「ヒナ、力を抜けというのはそういうところだ。こういう場合は、ありがたく飲んでもらった方が私は嬉しい」 「じゃあ・・・、ご馳走になるわ」 「ありがとう、ヒナ」 「何を言ってるのよ。御礼を言うのは私の方でしょ。ありがとう、千桜」 「はは、それもそうだな・・・」
ヒナギクの体に、コーヒーの甘さと苦さが沁みこんできた。何となく気分が落ち着いた。 その様子を見ながら、千桜もコーヒーのプルタブを引いた。 「なあ、ヒナ。お前はいつも周りのことばかり考えているが、周りだって、ヒナが思っている以上にヒナを気遣っているんだ。 たまには弱音も吐け。愚痴だって聞いてやる。 ヒナの周りにヒナの幸せを願わないヤツなんかいないってことくらい気付いてくれ」
(それは違う・・・)ヒナギクは思った。少なくとも自分の想い人にそんな意識があるとは思えない。ただ、千桜の思い遣りは涙が出そうになるくらい嬉しかった。 その後は二人とも黙ってゆっくりとコーヒーを飲み干した。
「じゃあな、ヒナ」千桜は立ち上がった。 「待って、千桜。私に何か話があるんじゃないの」 「私の話はもう済んだ。肩の力を抜け、と。あとはコーヒーを付き合ってもらった。私の用はそれだけだ」 「千桜・・・」 「ああ、もう一つあった。もしムラサキノヤカタに来てくれるなら歓迎するぞ」 そう言えば千桜は既にムラサキノヤカタの住人だった。 一人残されたヒナギクは、心のささくれ立った部分に温かいものを当てられたような気がして、ホッと一息をついた。
「いい友達をお持ちですわね」 アリスがいつの間にか足元にいた。不意を突かれたヒナギクは言葉が出ない。 「いろいろと思い悩むことがあるのはわかりました。ですが、ここは私に協力してくれませんか。勝手なことを言ってますが、私とて誰でもいいというわけではありません。あなたの力が必要なのです」 「だったら、もう少し私にわかるように説明してくれない?正直今は何が何だかさっぱりわからないわよ」 「残念ですができませんわ。私にもわからないのですから。それを明らかにするためにも、今、私は元の力を取り戻すことが必要なのです」 「やっぱり、あなたなのね、天王州さん」 「え?」 「あんな都合の良い設定を信じられるわけないでしょ。それに私は天王州さんとも友達だったんだから、あなたを始めて見た時には既視感があったのよ。 そして、今、力を取り戻すと言ったわね。それは天王州さんの能力でしょ」 アリスはいたずらがばれた子供のような顔をした。 「さすがね、ヒナギクさん。昔の記憶はほとんどないけど、あなたが天王州アテネの数少ない友人だったということは何となくわかるわ・・・。
改めてお願いいたします、ヒナギクさん。力を貸して下さい。今はあなたとハヤテだけが頼りです。事情はいつか説明できると思います」 こうした頼み方をされると、ヒナギクは断るのが苦手である。 結局、押し切られる形でヒナギクはムラサキノヤカタに入居することになった。
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