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対象スレッド 件名: Re: 憧憬は遠く近く 〜 不思議の姫のアリス
名前: どうふん
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Re: 憧憬は遠く近く 〜 不思議の姫のアリス
日時: 2015/08/02 20:41
名前: どうふん

直前のスレッドにも書きましたが、ここで小休止、といいますか
「憧憬は遠く近く〜不思議の姫のアリス」は以下第10話をもって完結とさせて頂きます。

もちろん、こんな中途半端な終わり方をするつもりはなく、「憧憬は遠く近く」第二部を近日中に開始する予定です。
あくまで、文章の構成、区切りの問題、とご理解下さい。

以下、最終話は、状況整理の意もありまして、ハヤテの独白です。



【第10話:憧憬は遥かに】


家庭に幻想なんて全く持っていなかった。


お嬢様やマリアさんに親がいなくても大して気にはならなかった。
幸せな家庭に恵まれているとばかり思っていたヒナギクさんさえ、本当の両親からは捨てられている、ということを知った。
家族なんて、親子なんてそんなものなんだろうと妙に納得していた。まあ、ウチの親はそもそも人間として最悪だったけど。


だけど、あーたんを挟んでヒナギクさんと川の字になって寝ていた時にぐらついた。
あーたんの頭を撫でるヒナギクさんはまるで、天女みたいだった。
あんなキレイなヒナギクさん、見たことがない。

それだけじゃない。ヒナギクさんから頭を撫でられる度に、あーたんが微笑んでた。
あーたんはとっくの昔に眠っていたのに。
気持ちか、愛情か、そういったものは気付かなくても本人には伝わるんだろうか?


愛情か・・・。
素敵なお母さんって、本当にいるんだ。

ヒナギクさんはきっとあんなお母さんになるんだろうな・・・。そして、子供はあーたんじゃなくてもヒナギクさんそっくりで。
それともヒナギクさんの恋人に似ているんだろうか。
誰なんだろう、その幸せなヤツは・・・。


十年前、僕にはあーたんしかいなかった。おそらくあーたんにも僕しかいなかった。
それなのに僕が馬鹿だったからヒドい別れをすることになった。
胸が張り裂けるような思いがして、それをずっと引きずっていた。

その後、誰からも愛されず、信じられることもなく、それも当たり前だと割り切っていた。ただ、心のどこかに希望をもっていた。あーたんを、あーたんとの再会を心の支えにできたから。

しかし現実はぼろきれになるまで働くだけだった。
自分の力ではどうしようもない状況で命を落とす寸前だった。

それがお嬢様に救われた。一生かけても返しきれない恩を受けた。
だから、約束した。一生お嬢様を守る、と。その後も、お嬢様は全財産を投げ出してまで僕を救ってくれた。
僕なんかを信じて頼ってくれている人がいるなら、その人を命がけで守る。それ以上の望みはなかった。


ただ、あーたんのことは時々夢に見た。その度に胸を締め付けられた。
そして、ギリシャで再会し、囚われていたあーたんを助け出すことができた。僕はあーたんにやっと謝ることができた。
僕を許してくれたあーたんは、別れの言葉と共に、お嬢様の元へ送り出してくれた。
今度はあんな辛い思いはしなかった。受け入れることができた。


そして今・・・、あーたんは子供の姿をして戻って来た。原因も目的もわからないけど、とにかくあーたんのために協力しなきゃ、と思った。
だけど、ヒナギクさんに無理強いして付き合わせてしまった。ヒナギクさんはあれだけ優しくて正義感の強い人だから承知してくれたけど、考えてみれば初めて見る子の親代わりになるなんて迷惑以外の何物でもないだろう。
最初、ヒナギクさんから断られたのも当たり前じゃないか。
そんなことにも僕は気付いていなかった。


ヒナギクさんにすれば・・・
こんなヤツと・・・夫婦みたいな立場になってるんだ。そしてそいつは勝手にその気になって馴れ馴れしくつきまとっているんだ。
嫌がられて当然だよ・・・。嫌われても仕方ないよ・・・。

結局僕は、いつだってヒナギクさんを困らせてばかりなんだ。
その挙句に僕はヒナギクさんを好きになってしまったわけか。これほどの迷惑もないだろう。
どこまで・・・、どこまで僕は情けない奴なんだ。最低だ。


それにしても、僕はいつヒナギクさんを好きになったんだろう。
あーたんを可愛がっているヒナギクさんを見た時だろうか。
いや、もっと前からだろうな・・・。愛歌さんの言っていたことが今ならわかる。
ギリシャでいろいろと助けてもらった時からかもしれない。
あの時はあーたんのことで頭が一杯で全然気づかなかったけど。
それとももっと前だろうか。



あーたん・・・。

君は怒るだろうね。こんな僕が女の子を好きになったと知ったら。
それとも心配するんだろうか。

強くもなれない。
好きな女の子を傷つけてばかりで、優しくもない。
1億5千万円の借金持ちで、ナギお嬢様に一生お仕えする身で、女の子を養う甲斐性なんてまるでない。

そんなヤツじゃないか、僕は。
君から教わったことを何一つできていない。
君の言う通り、今の僕に女の子と付き合う資格なんかないんだ。


でも、大丈夫だよ。これ以上ヒナギクさんを困らせたりはしないから。
この想いは僕の胸だけに留めておくから。
君への初恋と同じようにこの想い出を大切にし続けるから。


だから・・・心配しないで・・・。


 <憧憬は遠く近く 第一部 〜 不思議の姫のアリス・完>