Re: 憧憬は遠く近く 〜 不思議の姫のアリス |
- 日時: 2015/06/27 19:08
- 名前: どうふん
- ロッキー・ラックーンさんへ
早速の感想ありがとうございます。 今回の話は、言わば前作の仕切り直し、ということになるでしょうか。 正直、前作を完結させたときは、気が向いたら、番外編やアフターストーリーでも書いてみるか、程度のことしか考えておりませんでした。
それをなぜ今更、というところですが、これは数か月間練りに練った構想がまとまったから、ではもちろんありません。
つい先日、原作におけるキャラ設定に、ふと疑問が湧いたことがきっかけです。 その疑問を解消するための話を作ってみようか、というのが前作同様、行き当たりばったりの動機です。
前作を単純に練り直すつもりはありませんので、変化を付ける意味もあり、前作でほとんど出番がないアリス+1名をキーパーソンとして活躍してもらおうと思っています。 本格的な活躍は第三話からとなりますが。 ご期待に応えられるよう頑張ります。
【第二話:不思議の姫】
(はあ・・・。一体どうすれば) また、ため息をつくヒナギクは放課後の白皇学園を歩いていた。 もはや考えることは、どうすればハヤテとの仲を進展させられるか、ではなく、そもそも自分はハヤテを好きでいるべきなのか、きっぱりと諦めるべきなのではないか、というレベルまで落ちている。
まあ、無理からぬ話である。 実は昨晩もバイト先の喫茶店でハヤテと二人きりになった。夜でもあり、閉店していて客はいない。これはチャンスかも・・・、とヒナギクは思ったのだがハヤテの様子は明らかに迷惑そうだった。 それでも一緒にコーヒーを試飲し、ハヤテに間接キスをされて動揺したが、ハヤテは気付いた気配もなかった。 果ては、ハヤテにいきなり後ろから抱き付かれ、愛の告白らしきことを言われたれたものの、ジョークであることが判明した。 この時ハヤテはペットのタマ(虎)をかくまっており、ヒナギクにばれるわけにいかなかった。非情な仕打ちの一つ一つにはやむをえざる事情があったのだが、ヒナギクにはわからない。 それ以上に問題なのは、ハヤテはヒナギクをごまかすことばかり考えており、傷つけているという意識がかけらもないところにあった。 かくして結果はいつもどおりヒナギクがハヤテをぶん殴って終わった。 しかし、ハヤテの殴られた痛みより、そしてヒナギクの拳の痛みより、心の痛みの方がずっと重症ということであるということに、ハヤテは全く気付いていない。
もう一度ため息をついたヒナギクの腹が柔らかいものに触れた。 (え・・・) 目を下にやると、そこには小さな女の子がいた。 幼稚園児くらいのその子は金髪で、人形のように整った顔をしていた。既視感があった。 (なに、この子・・・?どこかで、見たような・・・)
生徒会三人娘や千桜がヒナギクの元に駆け寄って来たのはほとんど同時だった。 この金髪美少女に興味津々で話し掛けている。 「それが、良く分からないうちにここにいて・・・」 少女のセリフに泉はああ、わかった・・・と一人合点した。 「お嬢ちゃん、迷子なのね。ママはどこにいるかわかる?」 「ママ」少女が指した先は、ヒナギクだった。
当然ながら周囲の生徒たちも巻き込んで騒然となった。 必死になって否定するヒナギクを尻目に、通りがかったハヤテは、少女に向かい 「じゃあ、パパは誰かってことですよね。お嬢ちゃん、パパは?」と呑気な口調で話し掛けていた。 「パパ」少女は、今度はハヤテを指した。
騒然とした雰囲気は一気に混乱へと突入した。 ハヤテとヒナギクは赤くなった顔を見合わせていた。 実のところ、ヒナギクには困惑しつつも「満更でもない」感も漂っていたのだが、ハヤテは相変わらずの口調で 「そ、そんな・・・。いつの間に僕とヒナギクさんの間に子供が・・・」 ヒナギクの抗議する声も無視してさらに調子に乗って続けた。 「はっ!そう言えばあの時・・・」 頭から蒸気を噴き出しそうなヒナギクが、ハヤテの脳天目がけて白桜を振り下ろした。 「言っていい冗談と悪い冗談があるってこと、わかってる?ハヤテ君」 「す、スイマセン、ホント、スイマセン」 真剣白刃取りで受け止めたハヤテは謝りながら笑っていた。さすがに汗をかいていたが、何の切迫感もない。
「本当に違うの、ヒナちゃん?」恐る恐る尋ねたのは泉だった。 「私にこんな大きな子がいるわけないでしょ!」 「でもヒナ。もしかしたら、未来からタイムスリップしてきた二人の子ということもあり得るぞ」 「いや、そういう場合、この子はミニヒナかミニハヤテになるはずだ」 「たしかに頭の良さそうな子だから、どちらかと言えばヒナちゃんに近いけど・・・二人の子供というには・・・」 「どういう意味です、それ」 「だから私は子供を産んだことも、作るような行為をしたこともないわよー!」 かくして、ヒナギクはますます窮地に陥っていく。
結局その場は霞愛歌の登場で収まった。愛歌の説明によると、 @ その少女がアリスという、ある国の王女様で、修行のため日本に来ていること。 A その修行期間はアリスが父母と認めた人物の元で暮らさなければならないこと。 ハヤテが、ムラサキノヤカタにてアリスを受け入れることに積極的になったため、一気に話は進んだ。 後はヒナギクの同意だけ、というところだが、ヒナギクはいつの間にか姿を消していた。
「ハヤテ、私はヒナギクさんと一緒に住まなければいけないの。何としても合意を取り付けて来て」 アリスに言われて飛び出そうとしたハヤテだが、愛歌に呼び止められた。 「ハヤテ君は、よっぽどヒナのことが好きなのね」 「は、何のことです」 「違うの?」 「違います!」 「そんなに言い切っていいのかしら・・・?でもね、私の知る限りハヤテ君は、馬鹿で無神経で鈍感で、無意識に女の子を傷つけることはしょっちゅうだけど・・・」 「・・・ちょっとそれひどくないですか」 「ひどくないわよ。さっきのセリフなんか無神経と言わずして何なのよ。それでも、私の知るハヤテ君は、目の前にいる女の子を妊娠させたみたいなタチの悪い冗談を言うことはなかったわよ。 あの冗談を私に言える?千桜や泉でもいいけど」
ハヤテは沈黙した。そういえば何で僕はあんなことを口走ったんだろう。 「ヒナにしか言えないとしたら、ヒナがハヤテ君にとって特別な存在ってことね。まあ、『特別』にはいろんな意味があるし、他の理由も考えられるけど」 「何です、『他の理由』って」 「そうねえ、例えばハヤテ君はヒナのことをそもそも女の子と見ていないとか」 「そ、そんなことないですよ。あんなに魅力的で可愛いくて格好いい女の子はどこにもいないじゃないですか」
「(全くどこまで・・・)でもおそらくヒナはそう思っているわよ、ハヤテ君。ヒナに協力してもらいたいなら、その誤解を解かないと」 ハヤテはしばらく考え込んでいたが、とにかくヒナギクを探して走り出した。
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