憧憬は遠く近く 第1章〜 不思議の姫のアリス |
- 日時: 2015/06/22 23:29
- 名前: どうふん
- ご無沙汰しておりました。
始めまして、という方も。
当方、半年ほど前に「想いよ届け」と題して投稿させて頂いた「どうふん」と申します。 すっかり過去の存在となっておりますが、久しぶりの投稿を再開したいと思います。
設定としましては、「想いよ届け」とは全く別の世界です。 時間ももう少し遡ります。 ギリシャでアテネと再会し、別れたハヤテ達が日本に帰って来た頃です。 前作同様、主人公はハヤテとヒナギクさんですが、物語のキーパーソンは前作であまり出番がなかった人たち(複数)にお願いしたいと思っています。
当初構想としましては、二部構成で、各部10話くらいかな、と思っておりますが、全く当てにはなりませんのでお含みおき下さい。
【第一話: ため息の行方】
闇に囚われていた。
体が動かない。声も出ない。 周囲には異形のものが無数に徘徊している。 誰も自分を助けようとする者はいない。 桂ヒナギクは恐怖に呑み込まれそうになって震えていた。 (怖い・・・。怖いよ・・・。助けて・・・ハヤテ君)
その心の声に応えてくれたのか− 遥か遠くに見える扉が開き、光が差し込んできた。 扉から入ってきたのは紛れもなく綾崎ハヤテだった。聖剣・白桜を振りかざし、魔物を蹴散らしながら駆け寄ってくる。 (は、ハヤテくん・・・、私は・・・私はここよ)
「助けに来たよ!あーたん」 (え・・・)
ヒナギクは目を覚ました。 (またこんな夢を・・・) 仲間たちとのギリシャ旅行から帰って以来、ヒナギクは毎夜うなされる日々が続いていた。
ギリシャではいろんなことがあった。時間が経った今でも西沢歩や三人娘らは楽しかった思い出を常に話題にしている。 しかし、ヒナギクにとっては、幾つか楽しいことはあったものの、辛くて苦しいことの方がずっと多かった。
まず、飛行機、ヘリコプター、果ては丘の上の宮殿と、極度の高所恐怖症であるヒナギクにとって、平常心を保てない時間が多すぎた。 (みんなは何で平気なのかしら・・・。私は生まれた時から高いところが苦手だったのに・・・)ちょっと引っかかった。本当にそうかしら?幼いころ、東京タワーに上ってはしゃいでいたような記憶がかすかにある。
そこまで考えた時、ぞくっとするような悪寒が背筋に走った。これ以上考えてはいけない、思い出してはいけない、そんな気がした。 (ま、まあ仕方ないじゃない。怖いものは怖いのよ)
もう一つ、深刻なのはこちらの方だった。旅行中に想い人、綾崎ハヤテと一緒に過ごす時間もかなりあったのだが、一歩も前に進めないばかりか、ハヤテの無神経な言動に傷つけられてばかりだった。
こんな状態に耐えられなくなり、一世一代の勇を振るって告白しようとしたのだが、その直前、目の前のハヤテから天王州アテネを好きだと聞かされた。さらに再会したハヤテとアテネが感涙と共に固く抱き合うシーンまで目の当たりにした。
(ハヤテ君は天王州さんに『振られちゃいました』と言ってたけど・・・、確かに天王州さんはギリシャに残ったらしいけど・・・、そんなことがあるかしら。あの流れでどうなったら振られるのよ)
正直なところ、思い出すのも辛かった。
(いっそ、二人が結ばれてくれれば諦めがついたのに・・・。好きな人のために役に立てた、と思うこともできたのに・・・。 結局はピエロを演じただけか・・・。 私はどうすればいいんだろう。 諦めるな、ということなのかしら。でも、もう今さら・・・)
迷いは果てなかった。状況的には今がチャンスと言えるかもしれないが、当のハヤテには相手にされていない、という事態が続いているように思えてならない。
ヒナギクはため息をついてのろのろと起き上がった。 (まあ、気持ちを切り替えなきゃ。ハヤテ君のことばかり考えても仕方ないし) そこから先は、完璧超人と呼ばれるにふさわしい生活リズムを刻んでいた。 着替えて10KMのジョギングに始まり、授業は優等生、放課後は生徒会の仕事をするか剣道部へというのがヒナギクの日課だった。 しかし、心にはもやがかかり、ややもすると気が滅入る瞬間があった。
その日の放課後、ヒナギクは、春風千桜と一緒に生徒会の仕事をしていた。 「ヒナ。どうしたんだ。そんなため息をついて」 「あ、あら、そう?変ね、ため息は嫌いなのに。ま、まあ、そんなこともあるでしょ」 「最近はしょっちゅうだぞ、ヒナ。なあ、何があったんだ?私で良ければ相談に乗るぞ」 「な、何でもないわ。ギリシャ旅行のことを思い出していただけ」 嘘じゃないわよ、ヒナギクは心の中で言い訳していた。
「それは私は行っていないが・・・。だけど何か苦しいこと、辛いことがあったのはわかるぞ、ヒナ。いつまでも一人で抱え込んでないで・・・」 「ありがとう、千桜。心配させてごめんなさい。私は本当に大丈夫だから」 明らかにムキになっている。 こうなると、千桜の言うことなど耳を傾けるヒナギクではない。 今度は千桜がため息をつく番だった。
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