Re: 解をだせない‘想い’の方程式 |
- 日時: 2015/06/27 01:46
- 名前: タッキー
- どうも、タッキーです
今回はまぁ、ハヤテがどうなったかとか…その後とか…いろいろです。………。 そ、それでは! 更新!!
ハヤテが家を出てから2日。しかし、もともと彼が家にいた時間のほうが少ないためか綾崎家にこれといった変化はなく、娘のアカリにいたっては父親がいなくなったことに気づいてすらいなかった。 ただ、日常が変化したことに…いや、自分が日常を変えたことに気づいてるヒナギクだけは、この時間をとても息苦しいものに感じていた。
「ハヤテ…少しやつれてたな……」
彼女は後悔していた。反省もしていた。だからと言ってハヤテがひょっこり帰ってくるわけでもないし、そんな彼に戻ってきてくれと電話をかけることも、ヒナギクは罪悪感からできずに悶々としていた。 ハヤテが出ていった日の夜も、その次の何の変哲のない一日も、そして…まだぐっすりと眠っている娘のために朝食を作っている今も、ずっと…
第3話 『 ちょっと出かけてきます 』
ポーン…
来客を知らせるチャイムが鳴った。だけど今は朝の6時で、他人の家を訪ねるには早すぎる時間だ。私はIHの電源を切って、玄関のインターホンと連動しているモニターで来客の顔を確認した。天皇州さんとナギだった。面子に驚きはしたけれど、すぐに玄関のドアを開けた。
「朝早くに悪いが、別に挨拶しにきたわけじゃない。今、時間は大丈夫だよな?」
ナギは暗い顔をしていて、どこか悲しそうで…そして、どこか怒っているようにも見えた。その横の天皇州さんは私から顔を背けて何も話さなかったけど、申し訳そうな表情をしていた。
「そ、そりゃこんな時間だし余裕はあるけど…話って?」
「ハヤテが死んだ」
………は?
「正確には行方不明だ。だが…」
「ちょっ、ちょっと待って!!」
いきなりだった。いきなりすぎた。ハヤテが……死んだ?
「嘘…でしょ?」
「本当だ。昨日…」
「嘘って言いなさいよ!!!」
思わず叫んでいて、自分でも驚くくらいに取り乱していた。一瞬の沈黙が流れた後、ナギは続きを話し出した。
「昨日の4時頃、ハヤテの乗った客船が事故で沈没して、その船にハヤテが取り残された…。何時間も捜索を続けさせたんだが、見つからなかった」
「………」
言葉が出なかった。正直、ナギが話したことを受け止めきれていなかった。だってハヤテが死ぬはずないじゃない。あのハヤテが……
「ヒナ…」
気が付くと天皇州さんが心配そうに私の顔を覗いていた。
「その…ハヤテは別に浮気してたわけじゃないの。私が勝手にハヤテを買い物に連れ出して…」
「分かってる…」
そう、分かってた。誤解だってことぐらい、ハヤテが浮気なんてしてないことくらい…気づいてた。
「分かってるから…。お願い、今は一人にさせて……」
「ヒナ!」
天皇州さんが呼び止めたのは私が振り向くより一瞬だけ早かった。彼女はゆっくりと近づくと、やはり申し訳なさそうな顔で私の手に小さな箱を握らせた。桜色のリボンに包まれた、白い長方形の箱だった。
「先日、ハヤテがあなたのために選んだものよ。私が選んだものは返されてしまったから、それをハヤテが私にプレゼントしてると勘違いしたのよね。本当に…ごめんなさい」
天皇州さんはそれ以上何も言わず、深く頭を下げるとそのまま去っていった。どう言葉をかけていいのか分からなかったから、正直彼女の行動はありがたかった。気づくとナギもいなくなっていて、私は一人で玄関に立っていた。
箱を開いてみる。やはりというかなんというか…ネックレスだった。チェーンじゃなくて紐だったところとか、その先についていたのが文字を刻んだ小さなプレートだったところとかが、飾らない彼らしいと思った。
With you
「嘘つき……」
-ちょっと…出かけてくる…-
「嘘つき…!!」
頬を冷たいモノがつたう。それがネックレスに落ちたときにはじめて自分が泣いていることに気づいた。
「う、あぁぁ…」
信じられなかった。もう彼がいないことも、もうハヤテに会えないことも…全部、信じたくなかった。ハヤテとの最後があんな酷い形になってしまうことが…何より嫌だった。
「あぁぁ…っ!!」
だけど多分、私がこうして悲しむことは筋違いなことなのだろう。彼にあんな言葉を吐きかけた私には涙を流す資格なんてきっと無い。なのにぬぐう雫の量はどんどん多くなって、終いには両手で顔を押さえられずには…泣き叫ばずには、いられなくなってしまった…。
「ああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああ!!!!!!!」
安心していた。ハヤテと結婚して、そしてアカリという娘ができて…ハヤテはもう私から離れていかないって勝手に思い込んでた。
-結婚だってしてるんだから…-
ハヤテがこの言葉を口にしたとき、私は彼が結婚していることを…アカリがいることを私をつなぐ鎖のように考えるんだと思って悲しくなった。でも本当にそう思ってたのは私の方で、ハヤテがいる現実に甘え、自分勝手な思い込みで何も悪くないハヤテを傷つけてしまった。最低だ…。 私はハヤテに、どうやって償いをしたらいいのだろう…?これからアカリと、どんな顔をして一緒に過ごせばいいのだろう…?ハヤテのことを追いかけていた頃を、私はどうやって思い出したらいいのだろう…?
答えなんて出ないまま…なに一つ分からないまま…私はただ泣くことしかできなかった。
「ママ…?」
涙も枯れ果て、これ以上泣くこともできなくなったころ、後ろから聞こえた声にはっとして振り向くとアカリが心配そうな顔でこっちを見ていた。
「ママ…泣いてるの?」
今すぐあの子を抱きしめないといけない。抱きしめて、大丈夫だよって言わないといけない。そうしないといけないのに、泣き疲れていた私はとっさに立つことができなかった。それどころかアカリのほうから近づいてきて、こんな私に抱きついてきてくれる始末だ。こんなんじゃ…いや、もう既に私は母親失格だ…。
「ママ…泣かないで……」
私の頬に触れたアカリの手は温かくて、私はその小さな手を優しく握りしめずにはいられなかった。
「うん…。ありがとう……ありがとう、アカリ……」
アカリの腰に回していた片腕に少しだけ力を入れると、彼女はギュっと私のことを抱きしめ返した。その仕草が嬉しくて、愛おしくて…また、瞳が潤んできてしまった。だけど涙が出るギリギリのとこで押さえつけ、アカリを少しだけ引き離してから私は彼女の目をじっと見据えた。ハヤテと同じ、優しい青色の瞳だった。
「ねぇ、アカリ…」
「ん…?なぁに?」
「パパ…しばらく帰ってこないけど、大丈夫?」
泣いてくれた方がどれだけ楽だっただろうか…。責め立てられたほうがどれだけ後悔せずに済んだだろうか…。なのにアカリは少しキョトンと首を傾げた後、私の意に反してニコリと笑ってみせた。
「…うん。私はママがいてくれれば、それだけで幸せだよ」
「………」
ハヤテがいたら…そして、アカリの台詞にハヤテの存在が含まれていたら…どんなに嬉しかっただろう。 アカリが私のことを気遣って笑顔を作ったことも、アカリの言葉が私を想ってくれていたからだということも分かっていたのに…どうしても、悲しい気分にしかなれなかった。
「ねぇ、アカリ…」
「ん?」
「……ごめんね」
あれから4年が経った。 アカリと二人だけの生活全てが悲しいことだったわけじゃないけれど、未だ私の罪の意識は消えていない。ハヤテとの思い出も、当然忘れられるわけなかった。 今は三千院家のメイド…といってもハヤテの仕事をナギに頼んで引き継がせてもらって、それで収入を得ている。初めてハヤテの仕事場に入った時、戸棚に整理されていた膨大な書類の量が印象的だった。ナギの遺産の件だけに絞ってもとても4年で片付けられる量じゃなかったのを見て、ハヤテが私たちのためにどれだけ身を粉にしていたのか痛感させられた。
「…ま……ママっ!!」
「…!あ、アカリ?どうしたの?」
どうやら私はボーっとしていたらしい。なかなか反応をしなかった私にアカリは少し頬を膨らませていた。だけどすぐにその表情は緩んで、いつものニコニコした愛娘になった。
「いや、友達と遊びに行ってくるから…」
「そ、そうなんだ。分かったわ。いってらっしゃい」
アカリは嬉しそうに笑うと玄関のほうに駆けていった。
「じゃあママ、ちょっと出かけてきます!!」
「……っ!!」
その言葉を聞くたびに私の身体は一瞬だけ固まる。それをアカリに悟られないように…アカリにだけは気づかれないように…私は少しだけ声を大きくして、胸のネックレスをギュッと握りしめて…彼女に呼びかける。
「ちゃんと、夕飯までには帰ってくるのよ」
「は〜い!」
私の声にアカリが返事をしてくれる。今は、それが嬉しかった…。
「できるだけ…早く、帰ってきてね……」
どうも これは「兄と娘と恋人と」の話にもなるんですが、未来(この話では現代)でハヤテがいなかった理由…伝わったでしょうか? 取り敢えずこれからは、この話の最後でやったさらに4年後の時間軸でやっていきます。これも前作の話なんですがアカリちゃんが過去に飛んで行ってしまう時代です。彼女のいない間にいろいろあるんですが、それは次からということで
それと、急ですがタイトルを「解をだせない‘想い'の方程式」から「解のでない方程式」に変更させていただきました。なんか「想い」はいらないかなぁと思ったり、ほかにもいろいろあるので。急な話で本当にすいません。次回からもよろしくお願いします
それでは
|
|